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債務整理の受任通知後に債務者から受けた弁済の効力(最判2小平成24年10月19日)  ( 裁判例watching   ) 2012/11/24

平成23(受)462 否認権行使請求事件  
平成24年10月19日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121019112528.pdf

○ 借金の取立ての規制に関係するに重要判例です。
○ 債務者の代理人弁護士から債務整理の受任通知が送付された後,破産の決定が出るまでの間に債務者が債権者に対して借金の弁済をしていた場合に,管財人がその弁済受領行為を否認して,債権者から弁済金額の返還を受けることができるかに関する問題です。
○ 最高裁(2小)平成24年10月19日は,債務者の代理人弁護士が債務整理の受任通知を送付した行為は,破産法162条1項1号イ及び同3項にいう「支払の停止」に当たると判示しました。
○ 破産法162条は,債権者の債務者からの弁済受領行為を管財人が否認することができる場合を規定しています。同条1項1号は,管財人は,債務者が支払不能になった後に行われた弁済受領行為については,債権者が,債務者が支払不能であったこと又は支払の停止があったことを知っていた場合には,否認できると規定しています。この「支払不能」については,同条3項が,支払停止があった後は,支払不能であったと推定する旨の規定をおいています(但し,その支払停止後1年以内に破産の申し立てがあった場合に限るとされています。)。
○ 最高裁は,債務者の代理人弁護士による債務整理の受任通知が,上記の「支払の停止」にあたるとしたのです。
 従って,上記の問題に関して言えば,
 債務者の代理人弁護士から債務整理の受任通知が送付された後は,破産の決定が出るまでの間に,債権者が,債務者か,借金の弁済を受けていたとしても,受任通知後1年以内に破産が申し立てられれば,その後に選任された破産管財人から,上記の弁済受領行為を否認されれば,破産財団に対して,上記期間中の弁済受領金を支払わなければならなくなるという関係に立つということになります。

 とても重要な判例であり,以下に掲示します。

 


平成23年(受)第462号 否認権行使請求事件
平成24年10月19日 第二小法廷判決

主 文
 原判決を破棄する。
 被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は,被上告人の負担とする。

理 由
 上告人の上告受理申立て理由(第4を除く。)について
 

1 本件は,破産者が破産手続開始の申立て前にした債務の弁済につき,破産管財人である上告人が,破産法162条1項1号の規定により否認権を行使して,当該弁済を受けた債権者である被上告人に対し,弁済金相当額等の支払を求める事案である。争点は,破産者の代理人である弁護士が被上告人を含む債権者一般に対して債務整理開始通知を送付した行為が,破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるか否かである。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 東京都の職員であるAは,平成21年1月18日,弁護士法人B法律事務所に対し,債務整理を委任し,同法律事務所の弁護士ら(以下「本件弁護士ら」という。)は,その頃,Aの代理人として,Aに対して金銭を貸し付けていた被上告人を含む債権者一般に対し,債務整理開始通知(以下「本件通知」という。)を送付した。
 本件通知には,債権者一般に宛てて,「当職らは,この度,後記債務者から依頼を受け,同人の債務整理の任に当たることになりました。」,「今後,債務者や家族,保証人への連絡や取立行為は中止願います。」などと記載され,Aが債務者として表示されていた。もっとも,本件通知には,Aの債務に関する具体的な内容や債務整理の方針は記載されておらず,本件弁護士らがAの自己破産の申立てにつき受任した旨も記載されていなかった。

(2) Aは,平成21年2月15日から同年7月15日までの間,被上告人に対し,合計17万円の債務を弁済した。

(3) Aは,平成21年8月5日,破産手続開始の決定を受けた。

3 原審は,本件通知を送付した行為は破産法162条1項1号イ又は3項にいう「支払の停止」には当たらないと判断して,上告人の請求を棄却した。
4 しかしながら,原審の上記3の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」とは,債務者が,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて,その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解される(最高裁昭和59年(オ)第467号同60年2月14日第一小法廷判決・裁判集民事144号109頁参照)。
 これを本件についてみると,本件通知には,債務者であるAが,自らの債務の支払の猶予又は減免等についての事務である債務整理を,法律事務の専門家である弁護士らに委任した旨の記載がされており,また,Aの代理人である当該弁護士らが,債権者一般に宛てて債務者等への連絡及び取立て行為の中止を求めるなどAの債務につき統一的かつ公平な弁済を図ろうとしている旨をうかがわせる記載がされていたというのである。そして,Aが単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないという本件の事情を考慮すると,上記各記載のある本件通知には,Aが自己破産を予定している旨が明示されていなくても,Aが支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないことが,少なくとも黙示的に外部に表示されているとみるのが相当である。
 そうすると,Aの代理人である本件弁護士らが債権者一般に対して本件通知を送付した行為は,破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるというべきである。

5 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記事実関係及び上記4に説示したところによれば,上告人の請求には理由があり,これを認容した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦の補足意見がある。

 裁判官須藤正彦の補足意見は,次のとおりである。
 私は法廷意見に賛同するものであるが,判旨の射程に関連して以下のとおり私見を付加しておきたい。
 法廷意見は,消費者金融業者等に対して多額の債務を負担している個人や極めて小規模な企業についてはよく当てはまると思われる。このような場合,通常は,専ら清算を前提とし,後に破産手続が開始されることが相当程度に予想されることからもそのようにいえよう。
 これに対して,一定規模以上の企業,特に,多額の債務を負い経営難に陥ったが,有用な経営資源があるなどの理由により,再建計画が策定され窮境の解消が図られるような債務整理の場合において,金融機関等に「一時停止」の通知等がされたりするときは,「支払の停止」の肯定には慎重さが要求されよう。このようなときは,合理的で実現可能性が高く,金融機関等との間で合意に達する蓋然性が高い再建計画が策定,提示されて,これに基づく弁済が予定され,したがって,一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないとはいえないことも少なくないからである。たやすく「支払の停止」が認められると,運転資金等の追加融資をした後に随時弁済を受けたことが否定されるおそれがあることになり,追加融資も差し控えられ,結局再建の途が閉ざされることにもなりかねない。反面,再建計画が,合理性あるいは実現可能性が到底認められないような場合には,むしろ,倒産必至であることを表示したものといえ,後日の否認や相殺禁止による公平な処理という見地からしても,一般的かつ継続的に債務の支払をすることができない旨を表示したものとみる余地もあるのではないかと思われる。
 このように,一定規模以上の企業の私的整理のような場合の「支払の停止」については,一概に決め難い事情がある。このことは,既に自明のこととも思われるが,事柄の重要性に鑑み,念のため指摘しておく次第である。
(裁判長裁判官 須藤正彦 裁判官 竹内行夫 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信)