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検察官の取調時の言動を違法として慰謝料が認容された事例(京都地判平21.9.29)  ( 刑事弁護・刑事裁判   ) 2010/06/10
京都地裁平成21年9月29日判決(控訴)

被疑者として逮捕勾留中の少年を取り調べた検察官の言動の中に,少年の尊厳や品位を傷つける言動,虚偽自白を誘発しかねない言動,及び少年と弁護人との間の信頼関係をみだりに破壊しようとする言動があり,違法であるとして,少年及び弁護人の国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求が一部認容された事例
 



姫路の弁護士有志で30年前から1ヶ月に一度開催されている判例研究会。判例時報掲載の判例を交替で報告します。折しも,昨日,私が報告担当でした。判例時報2062号に,素晴らしい刑事裁判例を「発見」しました。刑事実務に携わる実務家,研究者には既に周知の判決かも知れませんが,なかなかに読み応えのある判旨でした。
 判決は,結論として,次に紹介する事案の概要1の①②の行為について国賠法上の違法性を認め,被疑者及び弁護人に対する慰謝料の支払いを命じました。
以下に2回に分けてそのエッセンスを掲載します。



第2 事案の概要
1 本件は,
被疑者として逮捕勾留された原告A(当時19歳)が,
 ① 検察官が原告Aに対し,威嚇,侮辱及び脅迫を伴う取調べをしたこと,
 ② 検察官が取調べの場において原告Aに対し,原告Aと弁護人との信頼関係を破壊する言動をしたこと,
 ③ 検察官が,原告Aについて,客観的には嫌疑がないのに,報復を目的として重い罪名で家裁送致したこと
が違法である等として,
  原告Aの弁護人であった原告Bが,
検察官の上記②③の各行為は弁護人の弁護権を侵害する行為であって違法であるとして,
それぞれ被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,各損害(原告Aについては,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円,原告Bについては,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円)及びこれらに対する最後の不法行為の日(家裁送致日)である平成19年10月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
 なお,以下の文中の日付は,特に断らない限り,平成19年である。

第3 当裁判所の判断
 1 10月9日取調べにおけるC検事の言動は,国家賠償法1条1項の適用上,違法か
  (1) 証拠(略)によると,10月9日取調べにおいて,原告Aが,(中略)供述したのに対し,C検事は,「そんなん嘘や。誰がお前らのことを信じる。」と大声で言い,脚を組んで椅子に深々と腰掛けていた体勢から,上側の脚で机の天板の裏側を蹴り上げ,「ドン」という大きな音を立てたこと,更に,C検事は,原告Aに対し,「Mだけか,まともなのは。」「お前もNもくずや,腐っている。」「誰がお前らのことなんて信じるんや。」「お前らが何て言おうと,強盗致傷で持っていく。」「とことんやったるからな。」等と言い,挙げ句に,「お前としゃべっていても話にならんから帰れ。」と言って,取調べを打ち切ったこと,以上の事実が認められる。なお,上記の「M」とはFのことであり,「N」とはGのことと解される。
  (2) これに対し,被告は,上記事実を否定し,証拠(略中には,被告の主張に沿う部分がある。しかしながら,次の事情に照らすと,上記証拠中の(1)の認定に抵触する部分は採用できず,他に,(1)の認定を左右するに足る証拠はない。
   ア 証拠(略)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
    (ア) 日本司法支援センター(法テラス)からの依頼で原告Aの被疑者国選弁護人に就任した原告Bは,10月1日に原告Aと接見し,原告Aが,①E,F及びGと共謀していない,②Eが万引きをすることは知らなかった,③殴る,蹴るという暴行はしていないと主張していることを知り,原告Aに対し,「覚えがないのなら覚えがないときちんと言うように。」とアドバイスした上,原告Aが少年であって,不安な様子であったことから,弁護人として,原告Aに対する取調べ状況を把握する必要があると考え,同月4日には,原告Aに対し,「被疑者ノート」と題する冊子を差し入れ(甲4,以下「本件被疑者ノート」という。),取調べがあったその日のうちにこれに書き込むよう指示した。
    (イ) 「被疑者ノート」は,取調べに対する牽制,弁護人による取調べ状況の理解,被疑者の自覚と励まし,公判における証拠としての利用等を目的として京都弁護士会刑事委員会が作成したもので,一日毎に,スケジュール(取調べ開始時間,終了時間を含む),取調官の名前,取調べ状況,供述した内容,調書作成の有無,調書の内容,取調べにおいて気になったこと等の記載欄がもうけられていた。
    (ウ) 原告Aは,同月4日から,本件被疑者ノートへの記入を始めた。同月4日以降,原告Aの取調べが行われたのは,同月4日,同月9日,同月11日,同月12日,同月15日及び同月17日であったが,原告Aは,取調べが行われたすべての日の取調べ状況等を被疑者ノートに記入した。本件被疑者ノートには,取調べの状況のみならず,取調べの感想,自分の精神状態,親に対する想い等が書かれている。
    (エ) 本件被疑者ノートの同月9日の頁には,(1)の認定事実と同旨の内容が記載されている。
    (オ) 原告Bは,同月10日に原告Aと接見し,原告Aから,(1)の認定事実と同旨の事実の報告を受け,ひどい取調べであると感じ,その日のうちに本件通知書を発送した。本件通知書には,(1)の認定事実と同旨の事実が記載されている。また,原告Bが,原告Aと接見しながら記入した「接見ノート」(甲21,以下「本件接見ノート」という。)には,原告Aから報告を受けた内容として,(1)の認定事実と同旨の内容が記載されている。
    (カ) C検事は,同月5日にFを,同月9日に原告Aを取り調べる前にGを取り調べていた。上記取調べの際,Fは,Eを助けるために自ら本件店員を殴打したことを認めていたが,Gは,Eが万引きしたことは知らず,本件店舗の店員を殴ったことは認めるが,よく思い出せないと供述していた。
   イ 上記アの(ア)ないし(オ)の事実によると,本件被疑者ノートの同月9日の頁の記載内容は,原告Aが当日に記入したものと認めるべきである。また,上記ア(カ)の事実によれば,C検事は,同月9日において,Fの供述態度には好感を持っていたが,原告A及びGの供述態度には好感を持っていなかったと推認できるから,(1)の認定事実のうち,FやGに言及した部分は,当時の捜査の進展状況と符合するということができる。そして,上記アの(ア)ないし(ウ)の事実によれば,原告Aが,敢えてこれに嘘の記載をする動機があることを裏付ける特段の事情が認められたり,取調べ過程が録画されていて被疑者ノートの記載が事実と異なることが証明されたりすれば格別,そうでない限り,本件被疑者ノートの記載内容の信用性を高く評価すべきところ,上記特段の事情を認めるに足る証拠はない。
   ウ よって,(1)の事実は,優に認定することができる。
  (3) C検事の言動は,職務上の法的義務に違反するか
   ア 我が国の刑事訴訟法は,検察官,司法警察職員等が被疑者を取り調べることを認めている(刑事訴訟法198条1項)。取調べは,単なる弁解録取ではなく,真実の発見を目標として行われるものであると解される(犯罪捜査規範166条参照)から,取調官が,虚偽の供述をしていると思われる被疑者に対して真実を述べるように説得することは許されると解される。
 しかしながら,捜査手続といえども,個人の尊厳を基本原理とする日本国憲法の保障下にある刑事手続の一環であること,刑事訴訟法が事案の真相を明らかにするについて,公共の福祉の維持と基本的人権の保障を全うすることを基本原則としていること(同法1条),我が国が批准している市民的及び政治的権利に関する国際条約7条が,何人も品位を傷つける取扱いを受けないことを定めていること,警察官が犯罪の捜査を行うに当たって守るべき心構え,捜査の方法,手続その他の捜査に関し必要な事項を定めることを目的として定められた犯罪捜査規範(昭和32年7月11日国家公安委員会規則第2号)167条2項は,取調べに当たっては,冷静を保ち,感情に走ることなく,被疑者の利益となるべき事情をも明らかにするよう務めなければならない旨,同条3項は,取調べに当たっては,言動に注意し,相手方の年齢,性別,境遇,性格等に応じ,その者にふさわしい取扱いをする等,その心情を理解して行わなければならない旨それぞれ定めているところ,これらの準則の趣旨は,検察官が行う取調べにおいても参照されるべきであると解されること等に鑑みると,取調官が取調べの場で被疑者に対し,その尊厳や品位を傷つける言動をすることは許されず,取調官には,取調べをするに当たって,被疑者の尊厳や品位を傷つける言動をしない職務上の法的義務があるというべきである。
  次に,国家が無辜の民を罰することがあってはならず,そのために,取調官たる者は,虚偽の自白を誘発する危険のある取調べを巌に慎むべきものである。また,取調官が取調べにおいて,被疑者の人権を侵すことがあってはならない。刑事訴訟法は,虚偽の自白を排除し,被疑者の人権を擁護するために,任意性に疑いのある自白の証拠能力を否定する厳格な自白法則を採用している(刑事訴訟法319条)。そうすると,供述の任意性に疑念を抱かれるような取調べ方法を採用してはならないのは,取調官としての職務上の法的義務というべきである。なお,犯罪捜査規範は,その趣旨を,「取調べを行うに当たっては,強制,拷問,脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。」と定めているところである(168条1項)。
  ところで,10月9日取調べがなされた当時,原告Aは少年であったところ,少年は,成人に比べて,社会経験が乏しく,傷つきやすく,自己を防御する能力も低いのが一般であると考えられる。犯罪捜査規範も,少年事件捜査については,「少年の健全な育成を期する精神をもってこれに当た」るべきこと(203条),「少年の特性にかんがみ」「取調べの言動に注意する等温情と理解をもって当たり,その心情を傷つけないないように務めなければならない」こと(204条)を定めている。これらに鑑みると,少年を被疑者として取り調べるに当たっては,取調官は,上記の,被疑者の尊厳や品位を傷つける言動をしない,供述の任意性に疑念を抱かれるような取調べ方法を採用しないという職務上の各法的義務を,成人被疑者を取り調べる場合以上に厳格に守るべきものである。
   イ 以上の観点に立って,C検事の言動について検討する。
    (ア) 「お前もNもくずや,腐っている。」との発言について
      被疑者に対する取調べの場において,取調官が被疑者に対してした,「くず」「腐っている」との発言は,特段の事情のない限り,その尊厳や品位を傷つける発言であるというべきである。一般に,他人に対して発した言葉の評価は,その言葉だけを捉えるのではなく,その言葉が含まれる文脈やその言葉が発せられた状況の中で考察されるべきであるが,上記発言は,C検事が原告Aに対して,原告A自身が本件店舗の店員に対して殴る蹴るという暴行を振るったことや,万引きについてのEとの共謀の事実について自白を迫り,原告Aがこれを認めないで対峙している緊迫した状況の中で発せられたものであることを考えると,文脈や状況の中で考察しても,上記特段の事情があるとはいえないし,他に,上記特段の事情があることを認めるに足る証拠はない。
    (イ) 机の天板の裏側を蹴り上げた行為及び「誰がお前らのことなんて信じるんや。」「強盗致傷で持っていく。」「とことんやったるからな。」との発言について
      C検事が机の天板の裏側を蹴り上げた行為は,大きな音を出し,あるいはC検事自身の苛立ちを原告Aに示すことによって原告Aを威嚇する目的によってなされたものとしか解することができず,原告Aに恐怖感を与え,これによって虚偽の自白を誘発しかねないものである。また,C検事の「誰がお前らのことなんて信じるんや。」「強盗致傷で持っていく。」「とことんやったるからな。」との発言は,原告Aをして,C検事に対してどのような弁解をしても,C検事の見込みに反する限り,これを全く聞き入れて貰えないとの絶望感を与え,投げやりな気持から,あるいは,C検事に迎合しようとする動機から,虚偽の自白を誘発しかねない発言である。そうすると,C検事のこれらの言動は,供述の任意性に疑念を抱かれるような取調べ方法であるとの評価を免れない。
    (ウ) 以上によれば,C検事の10月9日取調べにおける原告Aに対する言動は,取調検事として取調べの対象である被疑者に対して負担する職務上の法的義務に違反し,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を免れないというべきである。

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