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保険料不払いの場合に催告なく生命保険契約が失効するとの約款の有効性  ( 消費者問題   ) 2013/01/15
最判2小平成24年3月16日民集66巻5号2216号
判例タイムズ1370-115,判例時報2149-135
【判示事項】
保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに生命保険契約が失効する旨を定める約款の条項の,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性
【要旨】
 生命保険契約に適用される約款中の保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定める条項は,

 ① これが,保険料が払込期限内に払い込まれず,かつ,その後1か月の猶予期間の間にも保険料支払債務の不履行が解消されない場合に,初めて保険契約が失効する旨を明確に定めるものであり,

② 上記約款に,払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額を超えないときは,自動的に保険会社が保険契約者に保険料相当額を貸し付けて保険契約を有効に存続させる旨の条項が置かれており,

③ 保険会社が,保険契約の締結当時,上記債務の不履行があった場合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う実務上の運用を確実にしているときは,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に当たらない。
 


【多数意見】Ⅰ 
 本件失効条項は,上記のように,保険料の払込みがされない場合に,その回数にかかわらず,履行の催告(民法541条)なしに保険契約が失効する旨を定めるものであるから,この点において,任意規定の適用による場合に比し,消費者である保険契約者の権利を制限するものであるというべきである。

 そこで,本件失効条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たるか否かについて検討する。

ア 民法541条の定める履行の催告は,債務者に,債務不履行があったことを気付かせ,契約が解除される前に履行の機会を与える機能を有するものである。
 本件各保険契約のように,保険事故が発生した場合に保険給付が受けられる契約にあっては,保険料の不払によって反対給付が停止されるようなこともないため,保険契約者が保険料支払債務の不履行があったことに気付かない事態が生ずる可能性が高く,このことを考慮すれば,上記のような機能を有する履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定める本件失効条項によって保険契約者が受ける不利益は,決して小さなものとはいえない

イ しかしながら,
 前記事実関係によれば,
 本件各保険契約においては,保険料は払込期月内に払い込むべきものとされ,
 それが遅滞しても直ちに保険契約が失効するものではなく,
 この債務不履行の状態が一定期間内に解消されない場合に初めて失効する旨が明確に定められている上,
 上記一定期間は,
 民法541条により求められる催告期間よりも長い1か月とされているのである。

 加えて,払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額を超えないときは,自動的に上告人が保険契約者に保険料相当額を貸し付けて保険契約を有効に存続させる旨の本件自動貸付条項が定められていて,長期間にわたり保険料が払い込まれてきた保険契約が1回の保険料の不払により簡単に失効しないようにされているなど,
 保険契約者が保険料の不払をした場合にも,その権利保護を図るために一定の配慮がされているものといえる。

ウ さらに,上告人は,本件失効条項は,保険料支払債務の不履行があった場合には契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う実務上の運用を前提とするものである旨を主張するところ,
 仮に,上告人において,
 本件各保険契約の締結当時,
 保険料支払債務の不履行があった場合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う態勢を整え,

 そのような実務上の運用が確実にされていたとすれば
 通常,保険契約者は保険料支払債務の不履行があったことに気付くことができると考えられる。
 
多数の保険契約者を対象とするという保険契約の特質をも踏まえると
 本件約款において,
 保険契約者が保険料の不払をした場合にも,その権利保護を図るために一定の配慮をした上記イのような定めが置かれていることに加え,
 上告人において上記のような運用を確実にした上で本件約款を適用していることが認められるのであれば,
 本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらないものと解される。
  …
以上の見地から更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

【反対意見】 (裁判官須藤正彦)
(結論)
    本件約款は消費者契約法10条後段に該当する。

 1 消費者たる保険契約者は,保険料の不払(残高不足)がある場合に,民法541条が適用されその催告による注意喚起があれば,そのことを知らないでいるときはそれに気付くなどして,催告期間中に保険料を納付して保険契約上の債務不履行状態を解消し,保険契約の失効という事態を回避できる。保険契約者にとって,保険契約が失効することは致命的なことであるから,同条により履行の催告を受けることのできる地位は,基本的かつ重大な利益である。されば,多数意見も,本件失効条項自体については,任意規定の適用による場合に比し,消費者である保険契約者の権利を制限するものであるというべきである(消費者契約法10条前段該当)とするところである。
  しかるところ,更に多数意見は,本件約款上に民法541条で求められる催告期間よりも長い猶予期間を定める条項及び自動貸付条項(以下,この二つの条項を併せて「本件配慮条項」という。)が定められていることに加えて,保険料払込みの督促の実務上の運用を確実にした上で本件約款を適用していることが認められるのであれば,本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものには当たらない(消費者契約法10条後段該当否定)とする。私は,この点については同調できない。
 2 まず,本件配慮条項の方であるが,次のとおり,そのうちのいずれもが催告の代償措置には値しないものというべきである。
  (1) 第1に,本件失効条項における1か月の猶予期間の点についていえば,我々の生活実感からすればそれは瞬く間に過ぎてしまう期間ともいえないでないし,医療保険契約や生命保険契約が失効することは保険契約者にとって死活問題ともいえることとの対比においては,保険会社は一種の継続的契約関係である保険契約関係における当事者間の信義誠実の原則としてみだりに契約関係が失効することのないよう努力すべきであり,信頼関係を破壊させる特段の事情が生じているわけではないのにわずか1か月の遅滞(2回の不払)程度でそれを失効させてしまうのは相当でないという見方も成り立ち得る。民法541条で求められる催告期間より長い1か月としたということが,債務者(保険契約者)の権利の制限(不利益)にどれだけ配慮しているのか甚だ疑わしいところである。
  のみならず,上記に述べたところからも明らかなとおり,催告期間とは,債務者(保険契約者)からみれば,債務不履行状態を解消する機会として与えられた期間であるから,その前提として,債務者(保険契約者)が債務不履行に陥っていることを知って初めて意味あることである。したがって,その起算点は,債務者(保険契約者)が債務不履行に陥っていることを知った日となるべきものである。しかして,多数意見の述べるとおり,保険契約者は保険料支払債務の不履行があったことに気付かない事態が生ずる可能性が高いのであって,その場合,払込みの督促通知がそれより後れて(一定期間経過するのが通常であろう。)債務者に到達するときは,その到達した日が債務不履行に陥っていることを知った日であるから,その日がいわば起算点となって期間が進行するというべきである。単純に,民法541条により求められる催告期間と本件の失効の猶予期間の1か月とを比較するのは正しくなく,弁済期限たる払込期月末日から督促通知の到達日までの期間が1か月という期間から差し引かれた上で比較されなければならないというべきである。例えば,本件の場合,原審の確定した事実によれば,平成19年1月の払込期月の末日の後,同年2月14日に督促通知を送付したことが認められるところ,通常,同様の時期に上記通知がされるとすれば,保険契約者が債務不履行を知るであろう同月中頃から同月末日までの約2週間程度が債務不履行解消可能期間となるにすぎないから,実質的にみれば本件の失効の猶予期間は,民法541条により求められる催告期間よりもさして長いわけではなく,この面からしても配慮の意味は乏しいといわねばならない。
 (2) 第2に,本件自動貸付条項も,解約返戻金が応分に発生していなければ保険契約者には貸付けがされるわけではないから意味があるものとも思えない。
 例えば,本件の場合においても,原審の確定した事実によれば,本件医療保険契約では解約返戻金そのものが発生しないものであり,本件生命保険契約でも契約締結後の年数経過の不足のためそれが発生していなかったというのであるから,本件自動貸付条項をもって保険契約者の権利の制限(不利益)を緩和する事由として考慮することは困難といわねばならない。
  結局,本件配慮条項が消費者たる保険契約者の権利の制限(不利益)を緩和する程度は相当に低く,そうすると,消費者の利益を一方的に害するものには当たらないとする結論を導く根拠として実質的に意味があり得るのは,払込みの督促の実務の確実な運用ということに殆ど尽きるといってもよいように思われる。
 3(1)
 そこで,この払込みの督促の実務について検討するに,もとより,約款の条項の消費者契約法10条該当性の判断においては,約款外の実務の運用も考慮されるべきであって,なるほど,払込みの督促通知によって,保険契約者は債務不履行に陥っていることを気付かされ得る。殊に,例えば,督促通知がされるだけでなく,残高不足で振替が行われなかった場合に備えてコンビニエンス・ストアからの保険料振込の用紙をも保険契約者に送付し,それだけでなく,保険会社担当者から,保険料の連続未収の場合には保険契約が失効する旨の説明・教示もしかるべく行うというのであれば,それ自体としては,一層そのようにいえよう。そして,そのような運用が確実に行われるのであれば,保険契約者は着実に債務不履行について注意を喚起されるだろう。
 だが,その督促通知をすることも,その運用が確実であることも,あくまで事実上のものにしか過ぎない。
 払込みの督促をすべきことが約款上に規定されているわけでもないから,法的義務とはならず,法的保護の埒外にある。
 そもそも,督促通知の実務上の運用が確実にされているということがどのようにして確かめられるのか疑問であるが,そのことは別にしても,「確実」といわれる実務の中で,万一,保険会社が現実に督促通知を行わなかったとしても,保険契約者は,保険会社を相手としてなすすべもない。
 また,払込みの督促の実務上の運用は法的に何ら担保されてなく,これを廃止するのに何らの障碍もない。
 つまり,保険会社がコストカット(経費節減)を実施することが求められる場合,人件費等を少なからず要するとみられるそれは,経済合理性に基づいて高い優先順位でコストカットの対象となり得,容易にそれを廃止するか,そうでないとしても極めて形骸化したものにし得るといえる。
  そうすると,実務上払込みの督促を行っていることにより,民法541条を適用しないことによる保険契約者の権利の制限(不利益)がカバーされるものとまではいい難い。
 (2)
 本件失効条項は,保険契約における保険料は少額であること,そのような保険料の支払義務が不履行の場合に催告を行うことにはコストがかかり,また,その最終的解決方法として強制履行や損害賠償という方法は非現実的であること,保険制度は多数人との保険契約の締結を前提とするのであるから,迅速に多数の保険契約関係を処理する必要性があることなどに由来するものであろう。
 払込みの督促の旨を本件約款上に規定すれば,それが法的義務になるわけであるが,そうしないのも同様の理由によるものであろう。効率よく保険契約関係が解消処理されることは,結果的には,保険契約者が保険料支払義務から早期に解放されるという点で,また,保険契約者集団全体の保険の原資の確保に資し,民法541条に基づく催告を要求することに基づく保険会社のコストの増大による保険契約者全体の負担の増加を防止できることになるという点で,保険契約者側にも利点もあるという側面もあるが,上記に照らせば,本件失効条項や払込みの督促の運用は,結局のところ,私企業たる保険会社が迅速かつ低コストといった経済合理性を追求することによるものであろう。
  だが,保険約款の消費者契約法10条該当性を論ずる局面では,ひとり企業にとっての経済合理性等から考えられるべきではなく,たとえコスト減が制限され,それが全体の契約者等の負担にはね返るような事態になるとしても,個々の消費者としての保険契約者の目線や立場でも議論が進められるべきであろう。
 そもそも,その少額多数というのも保険会社側の論理であって,当該保険契約者の立場からすれば「少額」でもないし,「多数」でもないだろう。
 保険給付金額は,甚だ多額である。
 保険契約者は,保険会社にとっては無数の保険契約者のうちの1人にしか過ぎないが,当該保険契約者にとって保険会社はそうではない。
 保険契約が失効した場合に当該保険契約者に与える影響は致命的なもので,特に,保険契約者は,将来の健康状態の悪化による万一の事態における生活保障を得るためにこの生命保険という金融商品を取得することが多いと思われ,それが失効して保険給付が受けられなくなると,その頃に健康状態が変化しているときは新たな生命保険契約の締結が至難ということになりかねず,かくては,保険契約者の生活保障に深刻な打撃を与えるということにもなり得るのである。
  しかも,肝腎なことは,保険契約者がこの本件失効条項の存在,内容を必ずしも十分に理解していないであろう事情に加えて,事業者たる保険会社と消費者たる保険契約者間の情報力・交渉力において圧倒的な格差があることよりすると,払込みの督促の実務が事実上されなくなった場合に,保険契約者には,契約の対等な当事者としてそれを復活させる交渉も期待できないし,また,そのための手立ても十分には持ち合わせていないということである。払込みの督促通知の廃止又は形骸化が生じた場合に,保険契約者が,改めて裁判所に本件失効条項の無効の主張を持ち込むことも実際上は期待し難い。
  そうすると,払込みの督促の実務の運用が確実にされているとしても,それが事実上のものにとどまる限りは,やはり,事業者たる保険会社が消費者の正当な利益に配慮せず,迅速かつ低コストの事務処理という自己の利益を専ら優先させて消費者たる保険契約者の基本的かつ重大な利益を損なっているものとみるよりほかないのである。
 4(1)
 以上要するに,本件配慮条項があることに加えて実務の運用で督促通知が確実に行われている事実が認められるとしても,それらをもってしては,消費者たる保険契約者には,民法541条の催告を受けて不履行状態を解消することができるのと同等の地位が法的に担保されていないままであるといえる。結局,本件約款の下においては,事業者たる保険会社が消費者たる保険契約者の正当な利益に配慮せず,自己の利益を専ら優先させて消費者の利益を害する結果をもたらすものといわざるを得ない。したがって,本件失効条項は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たり,消費者契約法10条前段に加えて同条後段にも該当して無効というべきである。
  (2) 
 さすれば,本訴訟を契機に,保険会社において,契約の解除のために通常行われているような催告が至難ということであるとしても,少なくとも,督促通知を行うべきことを約款上に明記するなどこれを法的に義務付けるようにすべきである。その場合,督促通知の内容,体裁は,例えば,猶予期間を経過すれば失効する(「失効することがある」ではなく)旨を他の字より太文字で,かつ,その箇所に太い赤下線を施すなど,保険契約者の注意を喚起するに十分な記載をするような方向での取組を進めることを期待したい。外国の立法例では,催告ないしは書留郵便による督促を法的に義務付けているものもあるようであり,そのことよりすれば,上記のようなことは,保険会社に対して難きを強いるものとは到底思えないところである。


(ひとこと)
須藤裁判官は弁護士出身の裁判官です。
少数意見に説得力があるのは,判文を読めば自ずとあきらかでしょう;)

消費者契約法10条に関する最高裁の現在の多数意見は,消費者契約法10条を著しく形骸化させるものであり,はっきり言って間違っています。