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保証協会と銀行との保証契約に要素の錯誤がないとされた事例(最判平成28年12月19日)  ( 裁判例watching   ) 2017/06/29

最判(1小)平成28年12月19日判タ1434号52頁

(概括)

 民法95条の錯誤について,動機は相手方に表示されているのにその動機が契約の内容となったと認めるのは妥当ではないから内容になったとは解釈しないとした裁判例です。ターゲットとなる法律行為は,保証協会と銀行との保証契約。保証協会は,中小企業の金融の円滑を図る目的で存立していることがキーポイントです。中小業者への円滑な金融の実施という保証協会の銀行に対する関係での社会的制度的立ち位置に照らしこの事由では錯誤による一律の保証責任からの開放は認めないが,銀行の調査義務違反を個別的に主張立証することで保証債務の全部又は一部の免責を得ることができるとしています。

 「あとでそういう事情が分かるかも知れないリスクはあるが,あとでそのリスクが現実化するかもしれないとしても,そのリスクが現実化していない契約の時点では,保証協会は制度上保証しないというわけにはいかないという立ち位置ではなかったのか。そうではない,それは呑み込まないというのであれば,約定書にきっちりと書き込んでおけばいかがか。」というものですが,興味深いですね。


【事案】

 主債務者から信用保証の委託を受けて銀行と保証契約を締結し,主債務者の借入金債務を上告人に代位弁済した保証協会が,主債務者は一定の業種に属する事業を行う中小企業者の実体を有する者でなく,保証協会は,このような場合には保証契約を締結しないにもかかわらず,そのことを知らずに同契約を締結したものであるから,同契約は要素の錯誤により無効であると主張して,銀行に対し,不当利得返還請求権に基づき,代位弁済金の返還を求めた事案。
【事実関係等】
(1)銀行と保証協会は,昭和38年9月,約定書と題する書面により信用保証に関する基本契約(「本件基本契約」)を締結。本件基本契約には,銀行が「保証契約に違反したとき」は,保証協会は銀行に対する保証債務の全部又は一部の責めを免れるものとする旨が定められていたが(「本件免責条項」),保証契約締結後に主債務者が中小企業者の実体を有しないことが判明した場合等の取扱いについての定めは置かれていなかった。
(2)銀行は,小売業(「本件事業」)を営んでいた「本件会社」から数度の融資の申込みを受け,いずれも保証協会と保証契約を締結して,本件会社に貸し付けた。
(3)銀行は,平成20年8月,「本件貸付け」を適当と認め,保証協会に対し,信用保証を依頼。信用保証については,セーフティネット保証制度(「本件制度」)が利用されることとなった。
 本件制度は,全国的に業況の悪化している一定の業種に属する事業を行う中小企業者に対し,通常の信用保証とは別枠で信用保証を行う制度であり,上記の中小企業者に該当することについては,市町村長等の認定を受けるものとされている。本件会社は,平成20年12月16日,市長から本件事業を行う者として上記認定を受けた。

(4)本件会社は,平成20年12月26日,別会社に対し,本件事業を譲渡した。しかし,銀行及び保証協会は,そのことを,後記(5)の保証契約の締結及び後記(6)の本件貸付けの時点で知らなかった。
(5)保証協会は,平成20年12月29日,銀行との間で,本件制度を利用して,「本件保証契約」を締結した。本件保証契約においても,契約締結後に主債務者が中小企業者の実体を有しないことが判明した場合等の取扱いについての定めは置かれていなかった。
(6)銀行は,平成21年1月9日,本件会社に対し,本件貸付けを行った。
(7)本件会社は,平成21年6月,銀行を含む債権者に対し,破産手続開始の申立ての準備を始めた旨を通知し,その翌月以降,銀行に対する約定に従った弁済をしなかった。
(8)保証協会は,平成22年3月,銀行の請求により,本件保証契約に基づく保証債務の履行として,銀行に対し,代位弁済した。

【原審】
 次のように述べて,保証協会の請求を,認容。
 本件会社が本件事業を行う中小企業者であることは,保証協会が本件制度を利用した保証契約を締結するための重要な要素であるところ,本件保証契約の締結及び本件貸付けの時点では,本件会社は事業譲渡によって本件事業を行う中小企業者としての実体を失っていたにもかかわらず,保証協会は,本件会社が本件事業を行う中小企業者であると誤信して本件保証契約を締結したと認められるから,保証協会の本件保証契約の意思表示には要素の錯誤がある。

【最高裁の判断】

 原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおり。
(1)保証協会は,中小企業者等に対する金融の円滑化を図ることを目的とし(信用保証協会法1条),中小企業者等が金融機関に対して負担する債務の保証等を業務としている(同法20条1項)。したがって,信用保証協会が保証契約を締結し,金融機関が融資を実行した後に,主債務者が信用保証の対象となるべき中小企業者でないことが判明した場合には,信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして,動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である(最高裁平成26年(受)第1351号同28年1月12日第三小法廷判決・民集70巻1号1頁等参照)。
(2)本件についてこれをみると,本件保証契約の締結前に,本件会社が事業譲渡によって本件制度の対象となる中小企業者の実体を有しないこととなっていたことが判明していた場合には,これが締結されることはなかったと考えられる。しかし,金融機関が相当と認められる調査をしても,主債務者が中小企業者の実体を有しないことが事後的に判明する場合が生じ得ることは避けられないところ,このような場合に信用保証契約を一律に無効とすれば,金融機関は,中小企業者への融資を躊躇し,信用力が必ずしも十分でない中小企業者等の信用力を補完してその金融の円滑化を図るという信用保証協会の目的に反する事態を生じかねない。そして,上告人は融資を,被上告人は信用保証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから,主債務者が中小企業者の実体を有しないことが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき,その場合に被上告人が保証債務を履行しないこととするのであれば,その旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であったにもかかわらず,本件基本契約及び本件保証契約等にその場合の取扱いについての定めは置かれていない。これらのことからすれば,主債務者が中小企業者の実体を有するということについては,この点に誤認があったことが事後的に判明した場合に本件保証契約の効力を否定することまでを上告人及び被上告人の双方が前提としていたとはいえないというべきである。このことは,主債務者が本件制度の対象となる事業を行う者でないことが事後的に判明した場合においても異ならない。
 もっとも,金融機関は,信用保証に関する基本契約に基づき,個々の保証契約を締結して融資を実行するのに先立ち,主債務者が中小企業者の実体を有する者であることについて,相当と認められる調査をすべき義務を負うというべきであり,上告人がこのような義務に違反し,その結果,中小企業者の実体を有しない者を主債務者とする融資について保証契約が締結された場合には,被上告人は,そのことを主張立証し,本件免責条項にいう金融機関が「保証契約に違反したとき」に当たるとして,保証債務の全部又は一部の責めを免れることができると解するのが相当である(前掲最高裁平成28年1月12日第三小法廷判決参照)。
 以上によれば,本件会社が中小企業者の実体を有することという被上告人の動機は,それが表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,本件保証契約の内容となっていたとは認められず,被上告人の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。
 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がないから,上記破棄部分に関する第1審判決中上告人敗訴部分を取り消した上,上記取消部分に関する被上告人の請求を棄却し,かつ,上記破棄部分に関する被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷直人 裁判官 櫻井龍子 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之)


 

☆ 最高裁判所第3小法廷平成28年1月12日判決金商1483号10頁,金法2035号6頁

【事例】

 保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において,保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないとされた事例です。

(事案の概要)

 保証協会と保証契約を締結していた金融機関が,保証協会に対し,同契約に基づき,保証債務の履行を求める事案。金融機関が融資した主債務者は暴力団員であり,保証協会は,このような場合には保証契約を締結しないのに,そのことを知らずに同契約を締結したものであるから,同契約は要素の錯誤により無効であるなどと主張して争いました。
  原審は,「この保証契約が締結された当時,主債務者が反社会的勢力でないことは,本件保証契約の当然の前提となっていて,仮にそれが動機であるとしても黙示に表示されていたといえるから,法律行為の内容になっていた。しかし,実際には,主債務者は上記当時から反社会的勢力であったから,保証協会の本件保証契約の意思表示には要素の錯誤がある。」と判断しました。

 これに対し,最高裁は,原審のこの判断は是認できないとして,その理由を,次のように述べました。

(最高裁の判断)
 (1) 保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し,金融機関において融資を実行したが,その後,主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には,信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして,動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である(最高裁昭和35年(オ)第507号同37年12月25日第三小法廷判決・裁判集民事63号953頁,最高裁昭和63年(オ)第385号平成元年9月14日第一小法廷判決・裁判集民事157号555頁参照)。
(2) 本件についてこれをみると,前記事実関係によれば,金融機関及び保証協会は,本件保証契約の締結当時,本件指針等により,反社会的勢力との関係を遮断すべき社会的責任を負っており,本件保証契約の締結前に主債務者が暴力団員であることが判明していた場合には,これが締結されることはなかったと考えられる。しかし,保証契約は,主債務者がその債務を履行しない場合に保証人が保証債務を履行することを内容とするものであり,主債務者が誰であるかは同契約の内容である保証債務の一要素となるものであるが,主債務者が反社会的勢力でないことはその主債務者に関する事情の一つであって,これが当然に同契約の内容となっているということはできない。そして,銀行は融資を,保証協会は信用保証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから,主債務者が反社会的勢力であることが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき,また,その場合に被上告人が保証債務を履行しないこととするのであれば,その旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であった。それにもかかわらず,本件基本契約及び本件保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないことからすると,主債務者が反社会的勢力でないということについては,この点に誤認があったことが事後的に判明した場合に本件保証契約の効力を否定することまでを上告人及び被上告人の双方が前提としていたとはいえない。また,保証契約が締結され融資が実行された後に初めて主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には,既に上記主債務者が融資金を取得している以上,上記社会的責任の見地から,債権者と保証人において,できる限り上記融資金相当額の回収に努めて反社会的勢力との関係の解消を図るべきであるとはいえても,両者間の保証契約について,主債務者が反社会的勢力でないということがその契約の前提又は内容になっているとして当然にその効力が否定されるべきものとはいえない。
  そうすると,Aが反社会的勢力でないことという保証協会の動機は,それが明示又は黙示に表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,これが本件保証契約の内容となっていたとは認められず,被上告人の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。
  5 以上によれば,被上告人の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤があるとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,保証協会の保証債務の免責の抗弁等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。