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検察官の取調時の言動を違法として慰謝料が認容された事例(京都地判平21.9.29)(その2)  ( 刑事弁護・刑事裁判   ) 2010/06/10
引き続き,京都地裁平成21年9月29日判決のエッセンスを紹介します。今度は,被疑者と弁護人との信頼関係を毀損させるような言動に対する部分です。



 2 10月17日取調べにおけるD検事の原告Aに対する発言は,国家賠償法1条1項の適用上,違法か
  (1) 証拠(略)によると,次の事実が認められる。
   ア 10月17日取調べにおいて,D検事が原告Aに対し,被害者Iに対して殴打,足蹴りをしたのではないかと尋ねたのに対し,原告Aは,これを否定した。そこで,D検事は,原告Aに対し,「このままいったら重い罪になるぞ。」「鑑別所に送られ,逆送にされて,刑事裁判になって,判決が7回目くらいになるぞ。それを望んでるのか。」「成人式にも出られないぞ。」と言い,「自分が覚えなくても,やったかもしれないって言ったら丸く終わるやん。」と自白を勧めた。更に,原告Bについて,「君の弁護人は弁護士になって何年目か知ってるか。少年の君になめられるのが嫌やから言ってないけれど,あの弁護士は1年経ってないぞ。刑事のこと全然分かってない。あんな弁護士がついて君もかわいそうやな。」「あんな人のことをよく信じるね。君は本当にかわいそうだよ。」と言った。取調中に,原告Bが原告Aとの接見を求めている旨の連絡が入り,原告Aが原告Bとしゃべりたいと言うと,D検事は,原告Aに対し,「弁護士と話すなら,私はもう帰る。私を信じるのか,弁護士を信じるのか。」と言って,取調べを終了した。
   イ その直後,原告Bが待つ五条警察署の接見室に原告Aが入室したが,原告Bは,原告Aの様子がいつもと違って訝しげであると感じた。原告Bが「どうしたん。」と尋ねたところ,原告Aは,原告Bに対し,直前の10月17日取調べでD検事から言われたアの内容を伝えた。原告Bは,強い屈辱を感じたが,まず原告Aの信頼を取り戻さなければならないと考え,原告Aに対し,確かに自分は弁護士になって1年しか経っていないけど,弁護士である以上全力を尽くす等と話すとともに,自分が原告Aのために頑張って弁護活動をしていることを理解してもらうため,原告Aの両親に作成してもらい,原告Aに里心がつくことを避ける目的から原告Aが家裁送致になってから見せようと考えていた嘆願書をその場で原告Aに示した。
   ウ 原告Aは,10月17日取調べにおけるD検事の発言を聞いて,原告Bに対する不安感を抱いたが,原告Bとの接見で,原告Bが自分のために弁護活動をしてくれていることを知り,原告Bを信じようと思った。
  (2) これに対し,被告は,上記(1)アの事実を否定し,証拠〔略〕中には,原告Aに対し,(1)アの発言をしていないとの部分がある。しかしながら,次の事情に照らすと,上記各証拠中の(1)アの認定に抵触する部分は採用できず,他に,(1)アの認定を左右するに足る証拠はない。
   ア 証拠(甲4,7ないし9,20,原告B本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
    (ア) 本件被疑者ノートの10月17日の頁には,(1)アの認定事実と同旨の内容が記載されている。
    (イ) 原告Bは,10月17日取調べの直後に原告Aと接見し,原告Aから,(1)アの認定事実と同旨の事実の報告を受けた。原告Bが,原告Aと接見しながら記入した本件接見ノートには,原告Aから報告を受けた内容として,(1)の認定事実と同旨の内容が記載されている。
    (ウ) 当夜,原告Bは,京都弁護士会の刑事弁護委員会のメーリングリストに,「検事が被疑者に『あの弁護士は何年目か知ってるか。少年の君になめられるのが嫌やから年数言ってないけど,実は1年しかやってないんやで。あの弁護士は刑事のこと全然分かってない。あんな先生がついて,君も運が悪いな。あんなひとのことをよく信じるね。ほんと君はかわいそうだよ。』と言ったとのことです。検察修習の成績そんなに悪かったのかな・・・,もっと刑事のこと勉強します。」との内容のメールを発信した。
    (エ) 翌10月18日,原告Bは,(1)アの認定事実と同旨の事実を記載した本件抗議書を発送した。
    (オ) 原告Bは,10月17日の接見までの間に原告Aに対し,自分の弁護士としての経験年数を話したことがなかった。
   イ 上記アの事実及び1(2)アの事実によると,本件被疑者ノートの10月17日の頁の記載内容は,原告Aが当日に記入したものと認めるべきである。そして,上記アの(イ)ないし(エ)の事実によれば,原告Aが,敢えてこれに嘘の記載をする動機があることを裏付ける特段の事情が認められたり,取調べ過程が録画されていて被疑者ノートの記載が事実と異なることが証明されたりすれば格別,そうでない限り本件被疑者ノートの記載内容の信用性を高く評価すべきところ,上記特段の事情を認めるに足る証拠はない。
   ウ 他方,乙24(D検事の陳述書)及び証人Dの供述の信用性を高く評価することができない。その理由は,次のとおりである。
    (ア) 証人Dは,10月17日取調べで原告Aに対し,原告Bの弁護士としての経験年数を述べたことはなく,そもそも,原告Bが司法研修所の何期生であるかも知らなかった旨供述する(第6回口頭弁論における証人調書9頁,第7回口頭弁論における証人調書9頁)が,原告Aが原告Bの弁護士としての経験年数をD検事又は原告B本人から教えられる以外の方法で知りうるとは考えがたいこと,原告Bが10月17日までの接見において原告Aに対し,これを教えたとも考えがたいことに照らすと,D検事から教えられた旨の原告Aの供述の信用性は高いといわざるを得ず,翻って,証人Dの上記供述部分は採用できない。
    (イ) 証人Dの供述中には,本件ビデオテープには,原告Aが被害者Iを殴打している部分が写っていたのに,原告Aがその点について不合理な否認を続けていたとの趣旨の部分がある(第6回口頭弁論における証人調書3頁)が,次の事実によれば,本件ビデオテープに上記殴打場面が写っていたとの部分は信用できず,このことは,証人Dの供述全体の信用性の評価に影響を与えざるを得ない。
     a 本件ビデオテープに原告Aが被害者Iを殴打した場面が写っていたのであれば,本件ビデオテープは,原告Aにその点について自白を求めるについて決定的証拠である。しかるに,証拠(証人C,同D)によれば,C検事もD検事も,原告Aの取調中に本件ビデオテープを再生して,原告Aに上記場面を示したことがないことが認められる。
     b 証拠(乙8)によると,司法警察員が本件ビデオテープのうち重要な場面をデジタルカメラで撮影した本件ビデオ写真報告書には,上記殴打場面の写真が存在しないことが認められる。仮に,司法警察員が上記殴打場面の重要性が理解できず,上記殴打場面を撮影しなかったとしても,これは,その後の原告Aの否認を覆す決定的証拠であるから,D検事としては,司法警察員に対し,上記殴打場面を撮影して捜査報告書として残すことを指示するのが通常と思われるが,証拠(証人D)によれば,D検事は,その指示をしなかったことが認められる。
     c 証拠(証人D)によれば,本件ビデオテープは,F及びGの傷害事件の証拠として刑事裁判所に提出されたが,原告Aの家裁送致の記録には添付されなかったこと,F及びGの刑事事件が終局した後,本件ビデオテープは廃棄され,現存していないことが認められる。本件ビデオテープを刑事裁判の証拠とする必要があったとしても,被害者Iに対する殴打の事実を否認する原告Aの弁解を覆す決定的証拠である本件ビデオテープについて,せめてダビングテープを作成して家裁送致記録の一部としなかった理由は明らかでなく,不合理であるといわざるを得ない。
     d 証拠(乙121)によると,10月12日ころ,原告Aは,本件ビデオテープの映像を見せられたこと,同日付の司法警察員に対する供述調書には,その点について,本件ビデオテープの映像を見せてもらったが,「私が見た限りではビデオの中で私が店員を殴った場面はありませんでした。」と記載されていることが認められる。この記載内容から,原告Aが店員を殴った場面がないとの原告Aの主張を取調警察官が否定できなかったことが窺われる。
  (3) D検事の発言は,職務上の法的義務に違反するか
   ア 憲法34条前段は,「何人も,理由を直ちに告げられ,且つ,直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ,抑留又は拘禁されない。」と弁護人依頼権を定めている。この権利は,身体の拘束を受けている被疑者が,拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり,人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。したがって,右規定は,単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく,被疑者に対し,弁護人を選任した上で,弁護人に相談し,その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである(最高裁平成11年3月24日大法廷判決・民集第53巻3号514頁参照)
   イ 被疑者・被告人には,憲法及び刑事訴訟法によって,自己を防御するために様々な権利が与えられている。とはいっても,被疑者・被告人と捜査機関では圧倒的な力の差がある。被疑者・被告人が法律の専門家である弁護士の援助を受ける機会を持つことが実質的に保障されて,被疑者・被告人の防御権は始めて実効的なものになり,憲法31条の適正手続の保障が全うされる条件が整うということができる。
   ウ 弁護人に選任された弁護士は,被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ,その権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に務めなければならない(日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」46条)。弁護人が被疑者・被告人のために行う弁護活動は,被疑者・被告人の憲法上の権利である弁護人依頼権を保障するために行われるのであるから,正当な弁護活動を行う利益は,法的保護に値し,これを「弁護権」と呼ぶかどうかは別として,この利益を侵害された弁護人は,裁判所に対し,不法行為法上の救済を求めることができるというべきである。
   エ 弁護人は,被疑者・被告人の弁護人依頼権を実質的に保障するために誠実に努力すべき責務を負っているのであるが,これを実現するためには,被疑者・被告人との間で信頼関係を築き,これを維持することが不可欠である。信頼関係がなければ,被疑者・被告人は弁護人に対し,弁護人が適切な助言をするために必須の情報である本当の事実や自分の本音を話すことがないし,弁護人が適切な助言をしても,これに耳を傾ける気持になれないからである。そして,被疑者・被告人が弁護人から援助を受ける機会を持つことが実質的に保障されることが,憲法31条の保障下の刑事手続きを全うするための条件なのであるから,警察官,検察官,裁判官その他刑事司法に携わる者は,弁護人が被疑者・被告人と信頼関係を築くことをみだりに妨害してはならず,築かれた信頼関係をみだりに毀損,破壊してはならない職務上の法的義務があるというべきであって,このような妨害,毀損,破壊行為は,被疑者・被告人の弁護人依頼権を侵害して違法であるばかりでなく,弁護人が弁護活動を行う利益を侵害して違法であるというべきである。
   オ ところで,被疑者の取調べの際の検察官等の取調官の発言は,その性質上,被疑者の弁護人に対する信頼感に対して,一定の影響を与え得ることは避けられない。したがって,取調官の発言が被疑者と弁護人との信頼関係を「みだりに」毀損,破壊する行為であるか否かは,その発言をした動機,目的,取調べにおける局面,被疑者の属性(年齢,前科等)等を総合勘案して判断されるべきである。
   カ これを10月17日取調べについてみる。
    (ア) (1)で認定した10月17日取調べにおけるD検事の発言(以下「本件D検事発言」という。)は,原告Aに対し,原告Bの弁護士としての経験が浅いことを教えることにより,原告Aに対し,原告Bの能力に対する不安を与えるものであって,原告Aと原告Bとの信頼関係を毀損,破壊しようとする行為であることは明らかである。
    (イ) そして,弁論の全趣旨によれば,10月17日取調べが原告Aに対してなされた最後の取調べであることが認められるところ,本件D検事発言の全体をみると,D検事は,原告Aに対して最終処分をするに当たり,原告Aが被疑事実の一部について否認を続けているのは原告Bの影響があるものと考え,原告Aの原告Bに対する信頼を毀損し,併せて,このままの状況では,身体拘束が長くなる結果,成人式にも出席できなくなるとの不安を与え,経験の浅い弁護士よりも検察官の勧めに従って否認している部分について自白をすれば,身柄拘束の長期化を回避できることを暗に告げ,原告Aに対し,自白を迫ったもの推認することができる。そうすると,D検事が,原告Aと原告Bの信頼関係を毀損する行為に及んだ動機,目的に全く正当性を見出すことができず,これに,原告Aが少年であって,捜査機関に身柄を拘束されるのは初めての経験であったから,五条警察署留置施設で不安な日々を送っていたと推認され,原告Aが自らを適切に防御するためには,成人や累犯者の場合以上に,弁護人の適切な援助の果たす役割が肝要であることを考え合わせると,本件D検事発言は,被疑者と弁護人との信頼関係を「みだりに」毀損しようとしたといわざるを得ない。
   キ 以上によれば,本件D検事発言は,取調官として取調べの対象である被疑者及びその弁護人に対して負担する職務上の法的義務に違反するものであって,国家賠償法1条1項の適用上,違法であるというべきである。