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堀越事件平成22年3月29日判決の勉強会を開催  ( 裁判例watching   憲法 ) 2010/05/12
 2010年5月10日,弁護士会姫路支部弁護士有志で,堀越事件平成22年3月29日判決の勉強会(判例研究会)を行いました。
 勉強会の母体は,姫路獨協大学法科大学院のティーチングアシスタント(TA)のメンバー。
 
 TAとして公法を担当する,小川弁護士(菅尾LO),石塚弁護士(総合LO)が,レポーターを務め,充実した内容の濃い勉強会となりました。
 以下,両先生の了解を得て,当日のレジュメと表を掲載します。
※ 平成22年5月13日,東京高裁は,世田谷国公法事件で,堀越事件と正反対の結論を出しました。
  両事件は最高裁に上告されています。
  最高裁では,結論がでることになります。
  公務員にも,言論の自由はあります。又,公務員だからこそ,その経験を踏まえ,社会的な貢献ができる面があります。その人権は,誰にも奪うことはできませんし,その人的資源を無駄にする余裕はこの国にはないはずです。



東京高裁・堀越事件判決 勉強会レジュメ
 
平成22年5月10日
担当者  弁護士小川政希   弁護士石塚順平
 
 
<堀越事件について>
 
第1 高裁判決の内容

1 事案の概要

  2004年(平成18年),東京目黒の社会保険事務所に勤務していた堀越明男さんが,休日に,職場と関係ない自宅周辺の民家やマンションのポストに日本共産党のビラ(「新聞赤旗」号外)を配布したことが国家公務員の政治活動を禁止している国家公務員法・人事院規則に違反するとして逮捕・起訴された事件。

2 参照法令

(国家公務員法)
第百二条(政治的行為の制限)
1 職員は,政党又は政治的目的のために,寄付金その他の利益を求め,若しくは受領し,又は何らの方法を以てするを問わず,これらの行為に関与し,あるいは選挙権の行使を除く外,人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
第百十条 次の各号のいずれかに該当する者は,三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
十九 第百二条第一項に規定する政治的行為の制限に違反した者
 
(人事院規則14-7) 
(政治的目的の定義)
 5 法及び規則中政治的目的とは,次に掲げるものをいう。政治的目的をもってなされる行為であっても,第六項に定める政治的行為に含まれない限り,法第百二条第一項の規定に違反するものではない。
 三 特定の政党その他の政治的団体を支持し又はこれに反対すること
(政治的行為の定義)
 6 法第百二条第一項の規定する政治的行為とは,次に掲げるものをいう。
 七 政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し,編集し,配布し又はこれらの行為を援助すること。
 十三 政治的目的を有する署名又は無署名の文書,図画,音盤又は形象を発行し,回覧に供し,掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読しもしくは聴取させ,あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。
 
3 本件の争点

(1)第1審での弁護人の主張

 ① 本件罰則規定を含む本法及び本規則による規制が,国家公務員の政治的行為を包括的かつ一律に禁止している上,違反行為に対して刑罰をもって臨んでいる点で,憲法21条1項及び31条に違反する
 ② 本法110条1項19号及び102条1項が,処罰の対象とする政治的行為という構成要件の定めを人事院規則に包括的に委任していることが白紙委任に該当する点で,憲法31条,41条及び73条6号に違反する(省略)
 ③ 少なくとも被告人の本件配布行為について本件罰則規定を適用することは憲法21条1項に違反する
 
 ※7名もの憲法,国際法等の学者が証言。15件の意見書。処罰に批判的な趣旨のもの。
 
(2)第1審判決
  ・猿払事件判決に従い,法令合憲,適用合憲
  →被告人に対し,罰金10万円,2年間執行猶予の判決言い渡し
 
※猿払事件上告審
 【事案】
   北海道猿払村の郵便局員が,1967年(昭和42年)の衆議院総選挙で,社会党候補者の選挙用ポスターを公営掲示場に張ったこと等が,国公法102条1項,人事院規則14の7に違反するとして起訴された事件。1審,2審は,適用上違憲あるいは合憲限定解釈の手法を用いて無罪としたが,最高裁は1974年(昭和49年)11月6日,逆転有罪を言い渡した。
 【判断枠組み】
「公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは,それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り,憲法の許容するところであるといわなければならない。」とし,その判断には①禁止の目的,②この目的と禁止される政治的行為との関連性,③政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡,の3点から検討(いわゆる合理的関連性の基準)。
 「たとえその禁止が,公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別することなく,あるいは行政の中立的運営を直接,具体的に損なう行為のみに限定されていないとしても,右の合理的関連性が失われるものではない」として②の合理的関連性を認めた。
 
4 裁判所の判断
(1)①(法令違憲の主張)について
  ●猿払事件判決のいわゆる「合理的関連性の基準」は,実質的基準として機能し得るため,この基準に従って判断(要旨4p(3))
   すなわち,①禁止の目的,②この目的と禁止される政治的行為との関連性及び③政治的行為を禁止することにより得られる利益と失われる利益との均衡
    ↓
  ●その「合理的関連性」の基準によって判断するに際しては,国民の法意識を重視(要旨5p(4))
    ↓
  ●国民の法意識は,猿払事件判決当時と現在では,大きく変容(要旨5p~6p)
   ※表現の自由の重要性に関する認識※社会情勢の変化※公務員に対する国民の認識
    ↓
  ●①の目的の正当性については,十分認められる(猿払事件判決と同様)
  ●②の関連性の判断につき,猿払事件判決には様々な疑問がある旨指摘
   すなわち,猿払事件判決は,関連性を肯定した上,「公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別することなく,あるいは行政の中立的運営を直接,具体的に損なう行為のみに限定されていないとしても」合理的関連性が失われないとした。しかし,国民の法意識が変化した現在,一公務員が政治的活動に出たとき,国民が直ちにそのすべてのケースを,行政の中立的運営に対する信頼を失わしめるものとして受け止めるかどうかについては疑問がある。(要旨6p)
   ・国民は,冷静に,当該公務員の地位,職務権限を見る。(要旨6-7p)
   ・勤務時間外の認識も変わった(要旨7p)
    →勤務時間外であれば,原則,職務と無関係との評価につながる
   ・地方自治の重要性が言われる現代において,地方公務員に対する制限と整合がとれない(地方公務員法36条は制限を緩やかにし,罰則規定はない)
  →国家公務員に対する制限が広範に過ぎるとの疑問
    ↓
もっとも,配布行為が,大きな職務権限を有する者によって行われた場合,地位・職務権限にかかわらず集団的組織的に行われた場合は,国民の信頼確保の視点から規制の必要がある(要旨8p)
 ↓
過度に広範なものもあるし,規制目的が懸念する自体が具現化してしまうものもある。そのうち,過度に広範なものは,具体的な法適用の場面で適正な対応可能。
したがって,罰則規定は,憲法21条1項に違反しない。
(2)③(適用違憲の主張)について
  ●前提として,本件罰則規定が,国の行政の中立的運営及びそれに対する国民の信頼の確保を保護法益とする抽象的危険犯であり,表現の自由を制約するものであるため,ある程度の危険が想定されることが必要。
    ↓
  ●あてはめ
   ・職務内容,職務権限  裁量の余地なし
   ・休日
   ・自宅周辺
   ・公務員であることを明らかにせず,無言で
   ・郵便受けに配布しただけ
  →行政の中立的運営及びそれに対する国民の信頼という保護法益が損なわれる抽象的危険性を肯定することは常識的に見て困難。
  ●上記配布行為に対し,本件罰則規定を適用することは,国家公務員の政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度を超えた制約を加え,これを処罰の対象とするもの
   憲法21条1項,31条に違反し,無罪。
  ●付言
    ・諸外国に比べ過度に広範
    ・地方公務員法との整合性
  →本規則による政治的行為の禁止は,法体系全体から見て,様々な矛盾
  →「公務員の政治的行為について,刑事罰の対象とすることの当否,その範囲等を含め,再検討され,整理されるべき時代が到来しているように思う」
 
 5 本判決の意義

 この種の事件については,1審で無罪判決が出ても,2審で有罪とされるのがこれまでの例であったが,今回はその逆であり,しかもこのような行為にまで罰則を適用するのは「違憲」であると明確に判示した点に,画期的な意義がある。

 また,本判決では,法令は合憲であるが,本件に適用する限りにおいて違憲であるとの判断をしている(いわゆる「適用違憲」)。
  先例となっている猿払事件最高裁判決では,適用違憲審査をした第一審及び第二審を「ひっきょう法令の違憲をいうに等しい」ものとして批判し,処罰違憲としての適用違憲審査を否定していた。

堀越事件高裁判決のように,かかるケースにおいて適用違憲審査が認められるようになれば,憲法の適用範囲が広がるものと期待できる。
 
 
第2 世界の公務員制度
 1 イギリス,フランス,ドイツ等では,公務員を上級職,中級職,及び下級職に分け,下に行くほど自由とし,管理職でない者は,自己の職務遂行に支障をきたさない限り,政治活動上の制約を受けない。ノルウェイ,スウェーデン等の北欧諸国には殆ど規制がない。
 2 アメリカのハッチ法は,以前,幹部職員による悪質な政治活動と一般職員による単純な政治活動を峻別し,後者は,これを制限するものの,犯罪とはせず行政の処分に委ねていた。つまり,実際上最も深刻な人権侵害がなされる可能性のある警察捜査権行使はできないようにしていた。
さらに,1993年には,クリントン大統領の提唱でハッチ法の大改正が行われ,一般公務員は,勤務時間外,官庁外,普段着でなら,どんな政治活動をしても構わなくなった。
 
第3 適用違憲での違憲審査について
 
 
 ちなみに,平成21年度の公法ゼミでも取り上げたが,ゼミ生で法令違憲と適用違憲の違憲判断を混同している人が多かった。
   なお,配付資料は,処分違憲に関するものであるが,本件のような処罰違憲についても妥当するものと考える。
 
   本判決では,適用違憲を判断する前提として,本件罰則規定が,国政の中立的運営及びそれに対する国民の信頼の確保を保護法益とする抽象的危険犯であるとし,抽象的危険すら存在しない本件において,本件罰則規定を適用することは,国家公務員の政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度を超えた制約を超え,違憲である,と判断した。
   「合理的関連性の基準」にそのままあてはめて違憲としたものではない。
 
第4 今後
・5月13日 世田谷国公法弾圧事件の判決言渡し
   ※世田谷国公法弾圧事件
休日に職場から離れた集合住宅に「しんぶん赤旗」号外を配った厚生労働省職員(当時)の宇治橋眞一氏が逮捕され、国家公務員法違反罪に問われた事件。一審の東京地裁(2008年9月)は有罪判決を出し、東京高裁で控訴審係属中。
 
 
 
 

 

猿払事件

堀越事件

登場人物 ①郵便局勤務の郵政事務官
②猿払地区労働組合協議会事務局長
地方出先機関の社会保険事務所勤務の厚生労働事務官
年金審査官(年金相談に対し,コンピュータからのデータに基づき回答を行う)
公訴事実

[1] 被告人は鬼志別郵便局に勤務する郵政事務官で、猿払地区労働組合協議会事務局長を勤めていたものであるが、昭和42年1月8日告示の第31回衆議院議員選挙に際し、右地区労協での決定に従い日本社会党を支持する目的をもつて、[1] 被告人は鬼志別郵便局に勤務する郵政事務官で、猿払地区労働組合協議会事務局長を勤めていたものであるが、昭和42年1月8日告示の第31回衆議院議員選挙に際し、右地区労協での決定に従い日本社会党を支持する目的をもつて、

[2]第一、昭和42年1月8日午後00時30分頃政治的目的を有する同党公認候補者芳賀貢の選挙用ポスター6枚を宗谷郡猿払村字鬼志別市街に設置された6箇所の公営掲示場に掲示し、

[3]第二、一、同月7日午前9時頃同村鬼志別郵便局内において、前記芳賀貢の選挙用ポスター約80枚を同村字浅茅野居住の牧野邦昭に対し、その掲示を依頼して郵送配布し、

[4] 二、同日午前9時頃同郵便局において、政治的目的を有する同党公認候補安井吉典、同芳賀貢の選挙用ポスター各8枚を同村字知来別居住の自取競に対し、その掲示を依頼して郵送配布し、

[5] 三、同月8日頃同郵便局において、前記芳賀貢の選挙用ポスター8枚を同村字小石地区の集配担当者山川健二に対し、その掲示を依頼して配布し、

[6] 四、同月9日頃同村鬼志別北海道電力株式会社鬼志別電業所事務室において、前記安井吉典の選挙用ポスター約80枚を立野政男に対し、その分配掲示方を依頼して配布した。

被告人は,平成15年11月9日に施行された第43回衆議院総選挙に際し,日本共産党を支持する目的で,

①同年10月19日,東京都中央区月島1丁目所在の13箇所の他人の店舗や居宅等に,

②同区晴海1丁目所在のマンション内の56箇所の居室に,

③同年11月3日,同所所在のマンション3棟内の57箇所の居室に,

それぞれ同党の機関誌党を配布した。

判決の構成
第2 当裁判所の見解

1 政治的行為の禁止の合憲性

(1)21条について,15条2項,行政の中立的運用 
(2)規範(合理的関連性の基準)・国公法についてのあてはめ
    ①目的→行政の中立的運用と国民の信頼の確保→正当
    ②関連性→公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無,行政の中立的運用を直接具体的に損なう行為に限定されていないとしても正当(※)
     ③利益の均衡→付随的な制約にすぎず,OK     
  (3)本件政治的行為についてのあてはめ
  (4)1審・2審判決批判(※について)
  (5)1審・2審判決批判(本件行為の弊害が小さいことについて)
 2 罰則の合憲性
  (1)刑罰について,立法経緯について
  (2)罰則の法定について
  (3)1審・2審判決批判(弊害が軽微であるから適用違憲であるとすることはできない)
  (4)1審・2審判決批判(LRAの基準→罰則までは不要であるから違憲との判断について)
  (5)1審・2審判決批判(適用違憲について)

第2 当裁判所の判断
  1 概要
  2 21条1項,31条違反について
  (1)21条1項の保障対象になること,15条2項,行政の中立的運営
   (2)猿払事件判決について(合理的関連性の基準)
   (3) (2)の基準に対する学説上の批判および反論
    (4) (2)の判断に際して(国民の法意識の変容)
  (5)あてはめ① (目的について)→正当
  (6)関連性について (猿払批判)
  (7)関連性について (猿払擁護)
  (8)あてはめ② (関連性について)→全て違憲とすることはできない
 3 31条,41条,73条6号違反について
 4 適用違憲
  (1)本件罰則規定の解釈について
  (2)寺西事件について
  (3)あてはめ
  (4)結論 (適用違憲で無罪)
 5 なお書き