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醜状障害等級の男女間格差を憲法14条1項違反とした裁判例(京都地判平成22年5月27日)  ( 裁判例watching   憲法 ) 2011/01/18
京都地判平成22年5月27日判例タイムズ2093号72頁

一票の格差問題を除くと,久々の憲法14条(平等原則)違反に関する裁判例です。
【判旨】
労災保険の後遺障害別等級表のうち,「外貌の著しい醜状障害」(=顔の表面に著しくアザなどが残る障害)の等級について男女間で大きな差が設けられていることは合理的理由なく性別による差別的取扱をするものとして,憲法14条1項に違反する。

<コメント>
 労災の後遺障害別等級表では,「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」は,第7級(労働能力喪失率56%)とされるのに対し「男子の外貌に著しい醜状を残すもの」は,第12級(労働能力喪失率14%)となっている。
 裁判所は,外ぼうの著しい醜状障害についてだけ性別によって大きな差が設けられていることの不合理さは著しいというほかなく,この大きな差をいささかでの合理的に説明できる根拠は見あたらないとして,違憲判断を下している。

詳しくは,次に引用する判文を見てみてください。



 (1) 本件における憲法判断の対象等
    前記第2の1(4)エのように,障害等級表は,外ぼうの著しい醜状障害については女性を第7級,男性を第12級と,外ぼうの醜状障害については女性を第12級,男性を第14級としており,男女に等級の差を設けている。もっとも,労働省労働基準局長通達である認定基準(乙3)によって,男性のほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度のものについては,第7級の12を準用することとされており,これは,同じ省内での判断として,厚生労働省令における障害等級表の定めを補完し,障害等級表と一体となって,その内容に従った運用をもたらすものといえるから,上記の認定基準によって,上記の程度の外ぼうの醜状障害についての障害補償給付に関しては,男女の差はないといえる。
    したがって,本件では,厚生労働大臣が,障害等級表において,ほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度に達しない外ぼうの醜状障害について,男女に差を設け,差別的取扱いをしていること(以下,「本件差別的取扱い」という。)が,憲法判断の対象となる。

  (2) 本件における合憲性の判断基準等
   ア 憲法14条1項
     憲法14条1項は,法の下の平等を定めた規定であり,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解される(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁判所昭和48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。
   イ 障害等級表の策定に関する裁量と憲法14条1項
     法は,障害補償給付について,厚生労働省令で定める障害等級に応じて支給する旨を規定しているから(法15条1項),障害等級表の策定については厚生労働省令の定め(規則の定め)にゆだねられており,厚生労働大臣には,障害等級表の策定についての裁量権が与えられているが,上記アの憲法14条1項の趣旨に照らせば,そのような裁量権を考慮してもなお当該差別的取扱いに合理的根拠が認められなかったり,合理的な程度を超えた差別的取扱いがされているなど,当該差別的取扱いが裁量判断の限界を超えている場合には,合理的理由のない差別として,同項に違反するものと解される。
   ウ 障害補償給付についての裁量権の範囲
     次に,厚生労働大臣の裁量の範囲に関し,法による障害補償給付の性質について検討する。
     そもそも,労働者災害補償は,安全配慮義務違反を根拠に使用者に損害賠償を求める場合と異なり,使用者の帰責事由を要せず,被災労働者の過失にかかわらず,また,個別の損害の立証を要せず,定型的,定率的な損害のてん補がされるという性質を有する。もとより,被災労働者は,安全配慮義務違反の要件を立証して使用者に民事上の請求をすることも可能である。
     このような性質から考えると,被災者にどの程度の損失をてん補するかは,その時々の労働環境や労働市場等の動向などの経済的・社会的条件,国の財政事情等の不確定要素を総合考量した上での専門的技術的考察及びそれに基づいた政策的判断を要するという面がある。とりわけ,障害等級表の策定については,解剖学的,生理学的観点から労働能力の喪失の程度を分類し,格付けを行う必要があり,複雑多様な高度の専門的技術的考察が必要であるといえる。そうすると障害補償給付を受ける権利への制約に関する厚生労働大臣の裁量は,表現行為や経済活動などの人権への制約場面に比し,比較的広範であると解される
   エ 判断基準と立証責任
     以上によれば,本件においては,障害等級表の策定に関する厚生労働大臣の比較的広範な裁量権の存在を前提に,本件差別的取扱いについて,その策定理由に合理的根拠があり,かつ,その差別が策定理由との関連で著しく不合理なものではなく,厚生労働大臣に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる場合には合憲であるということができる。
     他方,行政処分の取消訴訟において,処分の適法性を立証する責任は,基本的に,処分をした行政庁の側にあると解され,本件では,被告が本件処分の適法性を立証しなければならないところ,本件処分が本件差別的取扱いを内容とする障害等級表の定めに基づいてされていることは明らかであるから,本件処分の適法性の前提として,本件差別的取扱いが憲法に違反しないことが必要であり,したがって,被告は,本件差別的取扱いの合憲性について立証しなければならないものと解される。
     よって,以下(3)では,この立証責任の配分に従い,基本的には,本件差別的取扱いの合憲性に関する被告の主張の当否を検討していくこととする。
オ まとめ
     以上のとおり,国勢調査の結果は,外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感,障害を負った本人が受ける精神的苦痛,これらによる就労機会の制約,ひいてはそれに基づく損失てん補の必要性について,男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異につき,顕著ではないものの根拠になり得るといえるものである。また,外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念があるといえなくはない。そうすると,本件差別的取扱いについて,その策定理由に根拠がないとはいえない。
     しかし,本件差別的取扱いの程度は,男女の性別によって著しい外ぼうの醜状障害について5級の差があり,給付については,女性であれば1年につき給付基礎日額の131日分の障害補償年金が支給されるのに対し,男性では給付基礎日額の156日分の障害補償一時金しか支給されないという差がある。これに関連して,障害等級表では,年齢,職種,利き腕,知識,経験等の職業能力的条件について,障害の程度を決定する要素となっていないところ(認定基準。乙3),性別というものが上記の職業能力的条件と質的に大きく異なるものとはいい難く,現に,外ぼうの点以外では,両側の睾丸を失ったもの(第7級の13)以外には性別による差が定められていない。そうすると,著しい外ぼうの醜状障害についてだけ,男女の性別によって上記のように大きな差が設けられていることの不合理さは著しいものというほかない。また,そもそも統計的数値に基づく就労実態の差異のみで男女の差別的取扱いの合理性を十分に説明しきれるか自体根拠が弱いところであるうえ,前記社会通念の根拠も必ずしも明確ではないものである。その他,本件全証拠や弁論の全趣旨を省みても,上記の大きな差をいささかでも合理的に説明できる根拠は見当たらず,結局,本件差別的取扱いの程度については,上記策定理由との関連で著しく不合理なものであるといわざるを得ない。
  (4) 小括
    以上によれば,本件では,本件差別的取扱いの合憲性,すなわち,差別的取扱いの程度の合理性,厚生労働大臣の裁量権行使の合理性は,立証されていないから,前記(2)ウのように裁量権の範囲が比較的広範であることを前提としても,なお,障害等級表の本件差別的取扱いを定める部分は,合理的理由なく性別による差別的取扱いをするものとして,憲法14条1項に違反するものと判断せざるを得ない。
    そして,本件処分は,上記の憲法14条1項に違反する障害等級表の部分を前提に,これに従ってされたものである以上,原告の主張する条約違反の点(前記第2の2(1)(原告の主張)エ)を検討するまでもなく,本件処分は原則として違法であるといわざるを得ない。
 2 争点(2)について
  (1) 前記1のように,本件差別的取扱いは憲法14条1項に違反しているとしても,男女に差が設けられていること自体が直ちに違憲であるともいえないし,男女を同一の等級とするにせよ,異なった等級とするにせよ,外ぼうの醜状という障害の性質上,現在の障害等級表で定められている他の障害との比較から,第7級と第12級のいずれかが基準となるとも,その中間に基準を設定すべきであるとも,本件の証拠から直ちに判断することは困難である。
  (2) このように,「従前,女性について手厚くされていた補償は,女性の社会進出等によって,もはや合理性を失ったのであるから,男性と同等とすべき(引き下げるべき)である」との被告が主張するような結論が単純に導けない以上,違憲である障害等級表に基づいて原告に適用された障害等級(第12級)は,違法であると判断せざるを得ず,本件処分も,前記1の原則どおり違法であるといわざるを得ない。