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離婚後300日以内に生まれた子を前夫の子としてよいか(民法722条・岡山地判平22.1.14)  ( 裁判例watching   家族・親族 ) 2010/06/27
見出しの件に関する最近の裁判例を紹介します。

「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」とする民法772条の規定は,憲法の「法の下の平等」に反するとして争った事案で,民法722条の規定には合理性があり,無戸籍とならないために設けられた法的手続があり,原告の女児も家裁の審判で再婚した夫の子と認められて戸籍を得ているので,今回の市の出生届の不受理扱いが原告に大きな不利益をもたらしたとはいえないから,違憲ではないとした事例です。


岡山地裁 平成22年 1月14日 判決 平成21年(ワ)第147号
損害賠償請求事件
・要旨
(1) 憲法14条違反について
ア 民法772条1項は,妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定すると定めているところ,原告は,離婚後も夫婦が共に生活している場合があり,懐胎時期が離婚の前であるか否かによって,前夫の子として出生届をすることの要否を決することには合理的な理由がないと主張する。
 しかし,一般に,婚姻中に妻が懐胎した子の父は,夫である可能性が高いことから,当該出生子について,夫の子であるとの推定規定を設けることには合理性が認められる。他方,婚姻関係を解消した後に懐胎した子については,一般に,前夫の子である可能性が高いとはいえないから,父に関する推定規定を設けないことが不合理とは考えられない。原告が指摘するとおり,離婚後も元夫婦が共に生活する場合があるが,そのような場合が一般的とはいえず,民法772条1項の合理性を否定するに足りるものではないから,原告の上記主張は採用できない。

イ 原告は,Aが原告を懐胎した時期がAとBの婚姻解消の日より前であったことについて,原告には何ら責任がなく,このことにより区別されることは不合理であると主張する。
 確かに,原告には,懐胎の時期について何ら責任がない。しかし,民法772条1項には,上記のとおり,合理性があり,懐胎時期と婚姻解消日の前後関係によって嫡出推定の有無が左右されることが,不合理な差別ということはできず,憲法14条に違反するものではない。

ウ 原告は,AとBの婚姻関係は離婚成立日以前から既に破綻しており,原告にはBとの間で民法772条1項による推定が働かないから,原告について,離婚成立日を基準としてCを父とする出生届を受理するか否かを区別することに合理的な理由はなく,本件不受理処分等は憲法14条に違反すると主張する。
(ア) 民法772条1項は,上記のとおり,一般に,婚姻中に妻が懐胎した子の父は夫である可能性が高いことに基礎を置くものであるから,婚姻中であっても,夫婦が事実上の離婚をして別居し,まったく交渉を絶って,夫婦の実態が失われていた時期に出生した子については,嫡出の推定を受けないものと解される(最高裁判所昭和44年5月29日第二小法廷判決参照)。
 そこで,戸籍事務管掌者である被告市の市長が,原告が上記のような嫡出の推定を受けない子であるとして,本件届出を受理すべきであったかについて判断する。

(イ) 出生届の提出を受けた戸籍事務管掌者は,受理・不受理を決するに際し,当該出生子が嫡出子であるか否か等の審査を行う。その審査方法は,出生届の受理事務を含む戸籍事務が,多数の届出人や申請者を相手とする事務であって,集団的・統一的・画一的に処理する必要があるため,当該届出の添付書類及び市区町村役場に備え付けられている戸籍簿・除籍簿に基づく審査を行うことで足り,これを超える審査を行うべき職務上の義務を負わないものと解される。そして,出生届につき嫡出推定が排除されるか否かの審査は,懐胎時における婚姻関係の実情や,当該出生子の懐胎時期の前後における夫婦の性交渉の有無という第三者が本来うかがい知ることが容易でない事柄に関する審査であり,戸籍事務管掌者による判断も困難であるから,別居等により嫡出推定が排除されるとの判断は,当該届出の添付書類等の記載内容自体から,懐胎時期において,夫婦が別居してまったく交渉を絶っていた事実など,妻の懐胎が夫によるものではない事実が明白に認められる場合に行われるべきものと解される。
(ウ) 本件届出については,戸籍事務管掌者である被告市の市長は,備え付けられている戸籍簿等のほか,本件添付資料から,原告がBの嫡出子であるとの推定が排除されるか否かを審査すべきであった。
 そこで,本件添付資料(甲9)が,その記載内容自体から,嫡出推定を排除すべきことを明らかに示す資料であったかについて検討する。
(中略)
 以上のような記載内容からすると,本件添付資料は,原告がBの嫡出子であるとの推定を排除すべきことを明らかに示す資料であったとは認めがたい。
(中略)
(オ) したがって,本件届出は,戸籍事務管掌者が職務上の義務を尽くして審査しても不受理と判断されるべきものであり,職務上の義務違反があるとはいえず,また,その審査方法の合理性を肯定することができるから,憲法14条に違反するとはいえない。
エ なお,原告は,無戸籍となることには不利益が大きいと主張する。
 確かに,出生届が受理されず,戸籍に記載されない子には,法的,社会的に種々の不利益が発生することが認められ,出生した子が無戸籍になることは極力避けなければならない。しかし,そのための方法としては,親子関係不存在確認や認知等の法的手続が設けられているのであり,本件では,原告は,家庭裁判所において,原告がCの子であることを認知する旨の合意に相当する審判を受け,これに基づき,平成21年2月27日,AとCの嫡出子であるとする出生届が受理され,Cの戸籍に長女として記載された。本件不受理処分が,無戸籍による大きな不利益を原告にもたらしたとはいえない。
(2) 民法772条1項違反について
ア 原告は,本件添付資料から,①AとBが長期間別居していたこと,②夫婦関係が形骸化していたことが明らかであり,戸籍事務管掌者は原告がBとの間で嫡出推定を受けないものと扱うべきであった旨主張する。
 しかし,上記のとおり,本件添付資料は,その記載内容に照らすと,原告がBの嫡出子であるとの推定を排除すべきことが明らかな資料であったとはいえないのであり,原告の上記主張は,採用することができない。
イ 原告は,本件通達による取扱いとの均衡からしても,本件では民法772条1項の推定が覆ると判断されるべきであった旨主張する。
 証拠(乙1)によれば,本件通達は,法務省民事局長が,法務局長及び地方法務局長に宛てて発出した平成19年5月7日付け通達であり,その要点は,①婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子の出生届が,医師の作成した「懐胎時期に関する証明書」を添付して提出された場合,市区町村長は,子の懐胎時期が婚姻の解消又は取消し後であるかどうかを審査し,②市区町村長は,婚姻の解消又は取消し後に懐胎したと認める場合には,民法772条の推定が及ばないものとして,婚姻の解消又は取消し時の夫を父としない出生届を受理するというものであることが認められる。
 民法772条1項は,一般に婚姻中に妻が懐胎した子の父は夫である可能性が高いことに基礎を置くものであり,同条2項は,懐胎から分娩までの通常要する日数に基礎を置いて婚姻中に懐胎したとの推定を行うものと解されるところ,後者に関して,早産など妊娠期間が通常より短くなる出産があることは公知の事実である。そこで,本件通達は,確実で明確な資料である医師作成の「懐胎時期に関する証明書」によって,懐胎時期が婚姻解消等の後であると認められる場合には,同条2項の推定が覆るとした上,同条1項が定める「妻が婚姻中に懐胎した子」との要件に該当しないことから,その適用がないことを示したものと理解することができる。
 一方,本件においては,上記のとおり,原告の懐胎時期は,AとBの婚姻中であって,同条1項が定める「妻が婚姻中に懐胎した子」との要件に明らかに該当するのであり,本件通達による取扱いとの均衡から同条1項の推定を覆すべきとはいえない。
ウ 原告は,本件届出を不受理とすると,配偶者からの暴力の被害者であるAは,調停手続等で,再び加害者であるBと関わりを持つことを余儀なくされるのであるから,被告らは,民法772条の解釈につき,配偶者からの暴力の被害者であるAを保護するためにも,原告については,Bの子であるとの推定は及ばないとする解釈をとるべきであったと主張する。
 原告の上記主張の法律構成は必ずしも明確でないが,本件届出を受理するか否かは,これが民法,戸籍法等の関係法規に照らして適法な届出であるか否かの判断に係るものである。被告らが,本件届出を受理するか否かを審査する過程において,AがBから暴力を受けていたとの事実を斟酌すべき職務上の義務を負っていたとは認められない。
  原告の上記主張は,採用することができない。
エ したがって,本件不受理処分等が民法772条1項の解釈及び適用を誤ったものであるとはいえない。
(3) 児童の権利に関する条約7条違反について
  戸籍法は,出生した子が戸籍に記載される制度を設けている。そして,児童の権利に関する条約7条は,民法,戸籍法等の関係法規が定める要件に適合しない出生届についてまで,これを受理すべき義務を定めたものとは解されない。
  本件届出は,父の欄にCの氏名が記載され,父母との続き柄の欄に嫡出子である旨の記載がされたものであるところ,本件添付資料からは,原告がBの嫡出子であるとの推定を排除すべきことが明らかでなく,適法な届出とはいえなかった。そうすると,本件不受理処分等が,上記条約7条に違反するとはいえない。
(4) したがって,本件届出は適法な届出とはいえず,本件不受理処分等に違法性は認められない。
 2 結論
   よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
    岡山地方裁判所第2民事部
      裁判長裁判官  古賀輝郎
         裁判官  細野高広
         裁判官  芝 明子