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●要旨

主文(抜粋)

2 原告と被告との間において,原告が被告の設置する□□大学に定年に達する専任教員として引き続き勤務する地位を有することを確認する。
3 被告は,原告に対し,平成27年4月1日から本判決の確定まで,毎月末日限り,月額45万8100円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

事実及び理由 (抜粋)

 第2 事案の概要
  本件は,平成19年4月1日に被告の設置する□□大学(以下「本件大学」という。)の専任教員として雇用されたところ,平成26年度中に満65歳となり,本件大学の就業規則所定の定年を迎えた原告が,(中略)定年を満70歳とする労使慣行が存在する,あるいは被告が原告との間で再雇用契約を締結しないことは権限濫用に当たると主張して,被告に対し,特別専任教員としての再雇用契約に基づく法的地位の確認を求めるとともに,再雇用契約に基づく賃金の支払を求める事案である。

1(略)

2 争点
  本件における主な争点は,①(略),②本件大学において,定年を満70歳とする労使慣行(以下「本件労使慣行」という。)が存在するか,③被告が原告との間で再雇用契約を締結しないことは権限濫用に当たるか,④(略)であ(略)る。
  【原告の主張】
  (1) (略)
  (2) 本件大学には定年を満70歳とする労使慣行(本件労使慣行)が存在する
本件大学総合政策学部では,平成12年の開設以来,平成25年に至るまで,一人の例外もなく,実質70歳定年制が反復継続されて定着し,確定的な労使慣行として存在した。そして,この確定的慣行は,被告と被告に雇用されている専任教員との間の雇用契約の基本的な内容になっていた。実際に,本件大学の専任教員は,定年である満65歳を迎えても,教員の病気や死亡等の事由による退職でない限りは,継続して満70歳に達するまで特別専任教員として勤務していた。
  これに対し,被告は,労使慣行が成立したといえるには,最低でも30年ないし50年以上の年月の経過が必要であると主張するが,ここでは事実たる慣習(民法92条)が問題になっているわけではないので,被告の主張は理由がない。
  (3) 被告が原告との間で再雇用契約を締結しないことは権限濫用に当たる
被告は,「専任教員の定年に関する特別規程」の5条に「勤務を委嘱することができる」との規定があることから,全ての特任専任教員の採否は理事長の自由裁量であり,採用する,しないは理事長の自由であると主張する。
  しかし,そもそも,「できる」という権限規定があるからといって,直ちに自由裁量が認められるわけではない。しかも,65歳以前に専任教員として雇用された者の雇用延長については,前記規程とは別に「定年に達する専任教員の勤務内規」という規程があり,その2条では採否に関する学部長の審査権など権限行使の手続が明確に定められていて,これは,65歳より前に採用された専任教員の雇用延長に関する特別規定として一般規定に優先し,雇用者側の恣意的評価に基づいて採否が決せられないようにする手続的保障としての意義を有するものである。加えて,前述のとおり,本件雇用契約においては本件合意が,また,本件大学総合政策学部では本件労使慣行の内容たる慣例が存在し,本件労使慣行は本件雇用契約の内容を補充するものであるにとどまらず,65歳時の雇用延長の可否を判断する際に考慮されるべき重大な事項である。しかるに,被告が,雇用延長の可否の判断は理事長の自由裁量である旨をいうのは,この判断が恣意的に行われたことを自認するものであり,後になって,雇用延長を認めるのは例外的な場合であるとして基準らしきものに言及しているが,その内容は客観的なものではなく,これも恣意的判断を糊塗するための見せかけに過ぎない。この点,被告は,「学生による評価」や「人間性」等も評価の対象になるとするが,これらは教員の業績を審査するための適切な考慮要素とはならない。そもそも,「学生による評価」は,教員自身が自己の授業の改善に用いるという了解があったはずであるし,原告の「人間性」につき,総合政策学部のH学部長がおらず,原告と面識のない理事が多数を占める理事会で,公正な評価をなし得るとは思われない。なお,付言すると,雇用延長に当たっての審査権は学部長に付与されているが,これも自由裁量を与えたものではなく,教学の観点から,雇用延長の適否を決める基準は自ずと存在するところ,この学部長の審査を経てもなお雇用延長を認め難いと理事会が判断し,理事長が雇用延長を認めない場合がないとは言い切れないにしても,それは,要するに解雇(懲戒解雇又は整理解雇)に相当する事由がある場合であり,それらの場合には相応の手続をとる必要があるものと解される。
  以上によれば,原告について雇用延長を否定したG理事長の判断は,裁量権の逸脱ないし濫用であり,被告が原告との間で再雇用契約を締結しないことは,権限濫用に当たる。
  (4)(略)
  【被告の主張】
  (1) (略)
  (2) 本件大学には定年を満70歳とする労使慣行(本件労使慣行)は存在しない

 次の間接事実からすれば,原告が主張する本件労使慣行の存在は認められない。
  ア 「慣行」が存在するといえるほどの年数が経過していない
本件大学は,平成12年4月に短期大学を改組して4年制の大学として開学したものであり,平成27年3月の時点では開学時から15年を経過したに過ぎない。しかも,そのうち4年間は,文部科学省の設置基準により,種々の届出事項が原則として変更できないことになっており,教員についても同様に扱われていたため,原則として教員の入替はできないこととされていた。この4年間を差し引いて考えれば,平成27年3月の時点ではわずか11年しか経過していないこととなる。
  一般に,「慣行」が出来上がったといえるためには,最低でも30年ないし50年以上の年月の経過が必要とされるものと思われるが,本件大学ではわずか11年,開学時からカウントしても15年しか経過していないのであるから,時間的,年数的な観点からみて「慣行」が出来上がったなどとは到底評価できない。
  イ 「慣行」が存在するといえるほどの退職教員数がない
各年度の退職者の年齢等に関する「総合政策学部退職教員詳細一覧(退職年度・退職時年齢順)」によれば,平成12年4月の開学時から平成27年3月末日までの総合政策学部教員のうち,65歳以上で退職した教員の総数は,途中死亡により退職した1名を除けば23名であるが,この23名のうち,65歳未満で採用され,70歳以上の年齢で退職した教員は7名(30.4%)に過ぎない。
  一方で,65歳以上で退職した教員のうち,65歳以上で採用された教員は15名(65.2%)であるが,採用した時点で65歳以上になっていた教員は,定年制度の適用はないし,何ら問題がない限り70歳まで雇用することが極めて自然であるから,本件における慣行の前例としてカウントするのは妥当でない。採用した時点で65歳以上になっていたこれらの教員は,他に若年の適当な教員が見つからないとか,その分野で比較的著名であるといった理由がある場合に,最初から65歳の定年退職年齢を超えていることを承知で,雇用期間1年の特別専任教員として採用したものである。
  このように,70歳以上の年齢時に退職した教員のうち,過半数である65%の者が65歳以上の年齢時に採用された教員である。
  因みに,東京地裁平成14年12月25日判決では,過去20年間にわたり65歳以上70歳未満までの定年延長を希望した73名の教員全員が定年を延長されていたという事実関係を基に,満70歳までの定年延長の労使慣行を認定しているが,少なくともこの程度の年数や教員数がなければ「慣行」とは言えないと思われる。
  ウ 70歳までの継続雇用を約束する旨の文言が記載されているような文書を交付した事実がない
このように重要な身分事項については,書面によって約束され,交付されることが通例であると考えられるところ,また,本件大学には前述の就業規則があることから,就業規則の内容に反する取り決めがなされる場合には,何らかの書面が交付されるであろうと思われるところ,そのような書面が交付された事実はない。
  エ 70歳までの継続雇用を約束した労働協約はなく,労働組合との団体交渉で協議された例もなく,労働組合側から就業規則の改定を要求されたこともない
一般に「労使慣行」の成立が認定されるためには,数十年以上の期間にわたって一定の慣行が積み重ねられたという実績が必要であるとともに,労使間においてその慣行のきっかけとして関係協議が行われることが多いところ,被告と労働組合との間ではそのような交渉などはこれまでされていない。
  オ 本件大学が定年退職後の再雇用契約に関して規範意識をもって作業を行った事実はない
「規範意識をもって」というためには,過去における合意または慣行その他の動機によって,「そのようにするべきだ」または「それに従わなければならない」という認識の下に行ってきたことを要すると思われるが,本件大学にはそのような意識はなかった。平成12年度から平成26年にかけて,本件大学が定年退職後に再雇用契約を締結することが多かったのは事実であるが,これは,当該教員が残ってもらいたい教員であったとか,当該教員の担当講座の後任者が容易に見つからないといった個別の事情があったから再雇用契約を締結したに過ぎない。
  (3) 原告の権限濫用の主張はその前提を欠いている
原告は,被告が原告との間で再雇用契約を締結しないことが権限濫用に当たると主張するが,この主張は,結局,定年を満70歳とする合意(本件合意)か定年を満70歳とする労使慣行(本件労使慣行)が存在することを前提にして初めて成立し得る主張である。
  ところが,前述のとおり,定年を満70歳とする合意(本件合意)は存在せず,定年を満70歳とする労使慣行(本件労使慣行)も存在しないから,原告の主張は理由がない。
  なお,本件大学では,ここ数年来,65歳定年制とか,それ以降の有期雇用契約の更新という問題が大学経営上の重要な問題として議論されてきた。そして,平成25年10月3日の大学改革プロジェクト会議において,G理事長兼学長は,本件大学を取り巻く経営環境の悪化(本件大学への志願者数,入学者数の減少,総合政策学部における平成24年度の定員割れ,週刊誌上の全国大学ランキングで本件大学が560校中最下位に位置づけられたこと等)を受け,従前議論してきた学生から見た魅力ある学科への再編策との関係で,65歳までの教員の雇用の優先確保,65歳定年制の厳格運用,教員の質の向上と若返り等を内容とする基本方針を提案した。また,この席上において,数年前から経営上層部で議論してきた65歳定年制の厳格運用について,今後は本件就業規則の規定を最大限尊重していこうということを再確認した。総合政策学部については,その後,入学者数が平成25年度には辛うじて持ち直したものの,平成26年度には再び定員割れを起こしており,翌平成27年度からは,同学部教授会とも協議の上,総合政策学科の定員を80名削減している。このように,学生の定員が減少するということは,それによる収入の減少に対応して経費の抑制をせざるを得ないことに繋がるのであり,そのためには,固定経費として経費部門で大きな比重を占めている人件費の抑制に手を付けざるを得ないことになる。その場合,定年までの雇用は当然維持しなければならないのに対し,定年後の雇用については,前述のとおり,本件就業規則により弾力的な運用に委ねられていることから,経営側としては,当然ながら定年の規定を厳格に運用していく必要がある。
  その上で,再雇用に関する審査の流れは次のとおりである。内部審査としては,まず,当該教員の所属する学部の教授会において,当該教員を再雇用することの可否を,主に教育指導面,組織運営面等の4項目について協議する。教員同士の間では,互いの研究実績,授業態度,学生からの評価等まで把握,理解できず,教授会,委員会など顔を合わせる場における互いの言動程度しか情報を持ち合わせないことから,教授会での協議の結論は,ほとんど全ての教員について再雇用を可とするのが一般である。この協議の結果は,当該学部の学部長名で学長宛ての上申書として提出される。上申書が理事会に提出される時点では,学科長,学部長及び学長の意見も付されており,理事会においては,この上申書の内容や,当該教員の過去の本件大学への貢献度,教授会,委員会等における活動実績,研究や論文発表における業績,学生からの評価,人間性等を資料として,当該教員を再雇用することの可否を審議する。この理事会では,理事の総意によって当該教員を再雇用するか否かを決定し,意見が分かれた場合には多数決によって決定する。なお,この理事会の議長は,本件大学寄附行為18条7項にしたがって理事長が務め,最後に理事長が,理事の総意を尊重しつつ理事長としての意見も述べ,決議をすることになっている。このようにして理事会で議決された人事事項は,翌日以降,議決どおりに執行されることになり,各教員に対しては,理事長からの執行指示に基づき,教務部門の責任者である学長が学長名義で通知する実務となっている。
  (4)(略)

第3 当裁判所の判断
  1 (略)

  2 本件労使慣行に関する原告の主張について
(1) 原告は,本件大学総合政策学部では,平成12年の開設以来,平成25年に至るまで,一人の例外もなく,実質70歳定年制が反復継続されて定着し,確定的な労使慣行(本件労使慣行)として存在しており,本件労使慣行は,被告と被告に雇用されている専任教員との間の雇用契約の基本的な内容になっていたと主張する。この点,労使慣行については,①当該労使慣行が長期間にわたって反復継続し,②当該労使慣行に対して労使双方が明示的に異議をとどめず,③当該労使慣行が労使双方,特に使用者側で当該労働条件について決定権又は裁量権を有する者に規範として認識されていることを要すると解されているところ,原告は,基本的には同様の理解を前提として,本件ではこれらの要件が満たされており,被告には実質70歳定年制を内容とする労使慣行が存在する旨を主張しているものと解される。
  そこで,検討するに,ある労使慣行が前記要件を満たし,法的効力を認められるか否かは,当該慣行が形成されてきた経緯を踏まえ,その内容,合理性,就業規則等との関係,反復継続性の程度,定着の度合い,労使双方の意識など諸般の事情を総合的に考慮して検討すべきものであり,特に就業規則と矛盾抵触する内容の労使慣行が法的効力を認められるには,その慣行が相当長期間,相当多数回にわたって広く反復継続され,かつ,当該慣行についての使用者の規範意識が明確であることを要するものと解するのが相当である(大阪高等裁判所平成5年6月25日判決・労働判例679号32頁参照)。
  これを本件についてみると,原告の主張する本件労使慣行は,明らかに本件就業規則と矛盾抵触する内容になっている。
  ところで,本件大学は,平成12年4月に短期大学を改組して4年制大学として開学し,その際,総合政策学部を新設している(前提事実(1))が,このような新設大学の新設学部が教員を集めるには困難が伴い,そのため,既に新設大学の定年に達している者であっても,他に候補者を見出し難ければ,定年後再雇用といった形式で採用する場合の多いことは容易に推測されるところ,「総合政策学部退職教員詳細一覧(退職年度・退職時年齢順)」(乙17)及び弁論の全趣旨によれば,本件大学総合政策学部でも当初はそのような教員の多かったことが認められる。こういった教員の場合には,採用の時点で既に定年を超えているので,定年後に再雇用された者がどのような処遇を受けるかという点との関係はともかく,定年前の年齢で採用された者が定年後に再雇用されるか否かという点とは関係がなく,この意味で,採用時に既に65歳の定年に達していた教員は,原告の主張する本件労使慣行とは無関係である。そこで,採用時には65歳に達しておらず,その後,65歳に達した教員についてみると,平成12年4月から平成27年3月までの総合政策学部の教員のうち,65歳未満で採用され,65歳で退職した者はおらず,全員が65歳を超えてから退職しているものの,その人数は全体でも7名にとどまっており,70歳を超えて退職した者は6名で,その前に自己都合退職した者が1名いる(乙17)。この間15年間が経過しているものの,一般に開学後4年間の所謂「完成年度」までの間は文部科学省の設置基準により原則として教員の入替はできないと解されること(乙8の1・2,弁論の全趣旨)からすると,労使慣行が形成されたと評価できるか検討すべき期間は11年間にとどまるといえるところ,65歳未満で採用された者が65歳に達しても退職しない事例がみられるようになったのは,開学後4年間を除くと,平成21年度以降のことである上,平成19年度には本件大学総合政策学部にライフマネジメント学科が設置されたこと(甲27)から,同学科の「完成年度」までの4年間を考慮するとすれば,労使慣行が形成されたと評価できるか検討すべき期間は更に短くなり,この期間中に65歳に達しても退職しなかった事例は更に少なくなる。さらに,こういった事例が被告にどのように認識されているかをみると,これらが本件就業規則を排斥する規範に基づくものとして明確に認識されていたと認めるに足る的確な証拠は見当たらず,むしろ,本件就業規則が緩やかに運用される結果として認識されていた様子がうかがわれる(弁論の全趣旨)。
  とすれば,原告の主張する本件労使慣行については,法的効力を認めるまでには至らないというべきであって,ほかに原告の主張を認めるに足る証拠はない。関係者の前掲陳述書(甲14,16,17,19,20)もこの認定,判断を直ちに左右するものではない。
  (2) したがって,本件大学に定年を満70歳とする労使慣行(本件労使慣行)が存在する旨の原告の主張は理由がない。
  3 権限濫用に関する原告の主張について
(1) 原告は,被告が再雇用契約を締結しないことは権限濫用に当たる旨主張するのに対し,被告は,原告の主張は,定年を満70歳とする合意(本件合意)か定年を満70歳とする労使慣行(本件労使慣行)が存在することを前提にするところ,本件合意,本件労使慣行とも存在しないから,原告の主張は理由がない旨指摘し,主張するが,原告の主張は被告の指摘し,主張するような内容にとどまるものではなく,本件合意又は本件労使慣行の存在やその法的効力が認められないとしても,被告において原告を再雇用しないことが権限濫用に当たる場合があり得るので,以下検討する。
  (2) 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,前提事実記載の事実経過を含め,以下の事実が認められ,後述のように解される。
 (略)

   (3) 検討
  ア 以上によれば,本件大学総合政策学部においては,労使慣行として法的効力が認められるまでには至らないとはいえ,70歳まで雇用が継続されるという一定の方向性をもった慣例が存在し,70歳まで雇用が継続されるかという点では死亡退職と自己都合退職という例外があるものの,65歳の定年で雇用が終了とならずに,希望した者の雇用は継続されるという点では例外はなかったところ,これらの雇用継続に際して実質的な協議や審査が行われていたとは認められず,この点では,本件大学総合政策学部の教員らが再雇用による雇用継続に期待することには合理性が認められる。
  これに対し,被告は,再雇用をした事例は,当該教員が残ってもらいたい教員であったとか,当該教員の担当講座の後任者が容易に見つからないといった個別の事情があったから再雇用契約を締結した旨を主張するが,本件証拠上,特にそのような点を教授会において協議し,あるいは理事会において審議したとは認められないことは前述のとおりである。また,この点に関して,G理事長から原告に対する回答書には,再雇用が例外的な扱いであり,大半の専任教員は再雇用を認められていない旨の記載があるが,そのような事実を裏付ける証拠はない。
  イ しかして,本件大学では,平成25年度の数年前から議論があり,平成25年度には,G理事長から,本件就業規則を尊重し65歳定年制を厳格に運用するという方向性が打ち出された経緯があり,同年度からは,定年後再雇用する場合の契約書について書式等を変更しているものの,こういった議論の方向性や契約書の内容をみても,抽象的に業績,能力,態度等を考慮するとしているに過ぎず,具体的な基準等が検討,作成されていたとは認められない。しかも,具体的な基準等が検討,作成されていないためか,F学長,H学部長及びG理事長が再雇用の基準に当たるものとして述べるところは,「有用」「有益」,それらの上位に当たると思われる「極めて有用」「極めて優れた能力がある」,さらには「余人をもって代えがたい」と,いわば3段階に分かれ,一貫しているとは評し難い上,実際に原告について再雇用をしない旨を理事会で審議し,あるいは,その前に上申書を作成するに当たって,F学長,H学部長及びG理事長が,それぞれどのような理由で原告が「有用な人材…とは思料されない」,「余人をもって代えがたい人物とは思わない」,「極めて有用な人材であるとは評価できない」などと判断したのかも明らかではない(なお,原告が「再雇用願さえ満足に作成することができない」とされたことについては,前述のとおり,具体的な理由の存在が推認されるところ,たとえG理事長のやり方に不満があるにしても,この書面で,これほどの表現を用いて表明すべきものとは思われず,前記のような評価を受けるのも止むを得ない面があるといえるが,これはあくまで付随的な事情として扱われている。)。最終的には,原告の質問に対し,G理事長が,再雇用はしないのが大半で,再雇用をするのは例外であって,例外として扱わないという結論に至った場合には,特別な根拠・理由など示す必要もない旨を回答していることからすれば,むしろ,基準も,具体的な事情の検討も基本的に必要がないと考えられていた様子がうかがわれる。
  要するに,本件大学では,大学を取り巻く経営環境の厳しさが強調され,教員の若返りが必要であるという方針ないし理念が先行し,では教員の若返りをどのようにして実現するのが相当か,従前の定年後再雇用の在り方との関係をどのように整理,調整すべきか,具体的な手続や基準をどのように整備していくのかという観点に立った検討がなされないまま,平成26年度に至って,定年後再雇用の手続を厳格に運用するという抽象的方針の下,従前の定年後再雇用の在り方とは全く異なる形で,しかも,当該教員が本件大学にとってどれほど必要な人材なのか,あるいは必要でない人材なのか,取り立てて具体的な検討はせずに,65歳の定年に達した教員らについて一律に定年後再雇用をしない旨決定したものと推認することができ,本件証拠上,これと別異に解すべき根拠は見出し難い。
  ウ たしかに,本件就業規則(「専任教員の定年に関する特別規程」5条)は,「理事会が必要と認めたときは,定年に達した専任教員に,満70才を限度として勤務を委嘱することができる」と定めており(甲6の1),ここでは一定の裁量が認められているものと解されるし,大学の経営環境を踏まえた対策を講じること自体を不当とすべきものではないが,この裁量は全くの自由裁量であるとは解されず,この裁量権は実際の定年後再雇用の在り方と整合的に行使されるべきであるし,その行使の仕方は各教員との関係において公平であるべきであって,そのためには,客観性ある基準に基づき,かつ,具体的な事情を十分に斟酌した上で定年後再雇用の可否が判断されることが求められるところ,実際に,平成26年度に満65歳の定年を迎える専任教員たる原告について定年後再雇用の可否を検討するに当たって,理事会で審議された内容は,従前の定年後再雇用の在り方とは全く異なっており,しかも,客観性ある基準に基づくものでも,具体的な事情を十分に斟酌したものでもないといわざるを得ない。
  これに対し,被告は,あくまで本件就業規則における定年後再雇用の手続を厳格に運用したに過ぎない旨を主張しているが,従前の経緯を無視して運用の在り方を理事会において思うままに変更する自由や,客観性ある基準もなく,具体的な事情も十分に斟酌せずに,抽象的な必要,不必要といった感覚に基づき定年後再雇用の可否を決する自由までが本件就業規則において認められているとは解し難く,被告の主張は容易に採用することができない。
  エ そうすると,従前の定年後再雇用の在り方等に照らし,原告が再雇用による雇用継続に期待することには合理性が認められる一方で,平成26年度に満65歳の定年を迎える原告について定年後再雇用の可否を検討するに当たって,理事会で審議された内容は,従前の定年後再雇用の在り方とは全く異なっており,しかも,客観性ある基準に基づくものでも,具体的な事情を十分に斟酌したものでもなく,合理性,社会的相当性が認められないから,理事会が原告について再雇用を否定し,被告において原告との間で再雇用契約を締結しないことは権限濫用に当たり,違法無効というべきであって,解雇であれば解雇権濫用に該当し解雇無効とされる事実関係の下で再雇用契約を締結しなかったときに相当するものとして,原告と被告との間の法律関係は,平成27年4月1日付けで再雇用契約が締結されたのと同様になるものと解するのが妥当である。
  そして,本件就業規則(「特別専任教員勤務規程」3条)では,原告と被告との間の再雇用契約は一年毎に更新されることが予定されている(甲8)ところ,平成28年4月1日以降の再雇用の継続に関して,被告は特段の主張をしていない。
  (4) したがって,権限濫用に関する原告の主張は理由があり,本件地位確認請求は理由があるものとして,これを認容すべきである。
  4(略)
  5 結論
  よって,原告の本件訴えのうち,(略)原告の本件請求は以上の限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余はこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第11部
  裁判官 湯川克彦