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(1)はじめに

 割販法上の不実告知取消権は,要件が細かく法定されているとはいえ,何をクレジット契約の動機の重要事項と捉えるかの解釈は裁判所に委ねられているので,クレジットの名義貸しを,クレジット会社と顧客との関係で,顧客保護の埒外と決めつける裁判所にあたれば,取消できるような不実告知には当たらないという解釈も一応可能ではあります。
 しかし,そもそも,特定の商取引を規制する業法・経済法の中に,取引の売手と買手を規制する民事ルールの特則が置かれたという場合,そこには,適正かつ妥当な交換秩序を与えようとする民事法の観点に照らしても,当該取引については,その特別なルールによって処理されるべきであるという価値判断が,立法者によってなされているということです。そこには,特則を置くことで守ろうとする法益があり,特則が置かれた趣旨・目的があります。この特則の適用を,個々の裁判官の従前からの特定の通念に従って制限しようという場合(*1)には,当該特則が置かれた趣旨・目的を慎重に斟酌し,特則を置くことで守ろうとした法益を不用意に侵害することがないようにしなければなりません。(*2)
 本件で問題となるのは,やはり,割販法取消権の立法趣旨です。


(*1) 狭義の名義貸しクレジット事件については,割販法の抗弁対抗規定に基づく抗弁対抗ができるかに関しては,同規定の立法趣旨を重視し,販売店の積極的な作出・顧客への詐欺的言動があり顧客の対応が消極的な場合にこれを肯定する

  • 長崎地裁平成1年6月30日判例時報1325号128頁

があったものの,その後,

  • 東京地判平成5年11月26日判タ871号247頁,
  • 東京地判平成6年1月31日判タ851号257頁

が,狭義の名義貸しクレジット契約における顧客が抗弁対抗するのを認めない立場を出した後,割販法の抗弁対抗規定の趣旨・目的及びその背景にある立法事実を斟酌して抗弁対抗の許否に関する信義則による例外を判断しようとする流れが一時立ち消えになっていました。

 これには,平成1年長崎地判と平成5年,6年東京地判の間にでた最判平成2年2月20日民集159号151頁の読み取り方に対する誤解(否むしろ誤った『忖度』)があったと思います。

 平成2年最判は,割販法の抗弁対抗規定の適用がある事案について何も述べておらず,むしろ抗弁対抗規定の適用がなく民法準則によって処理すべき事案についても抗弁事由の発生について認識し又は認識できる事情があった場合には抗弁対抗が可能だと述べたとても積極的な意義がある判決ですが,そこをシグナルとして読み違えたような下級審裁判例の動き方がありました。

 わが国でこの流れを変えるには,平成11年から平成18年頃にかけての動き,すなわち

  • 消費者契約法の制定前後から始まる政府の消費者政策現代化の流れと,
  • ダンシング・モニター商法事件(抗弁対抗規定に関する裁判例としては,大阪高判平成16年4月16日消費者法ニュース60号137頁(上告・確定),広島高裁岡山支判平成18年1月31日判タ1216号162頁〈確定)があります。)を中心とする「悪質商法を助長するクレジット」を告発する集団訴訟等の社会的な動き

が必要でした。

 この流れの元で,特商法5類型に係る個別クレジット契約に不実告知取消権を導入する平成20年割販法改正があったのです。

 しかしその後も,名義貸しクレジットの規律の問題は残っていました。平成5年,6年東京地判を出したような,「個々の裁判官の特定の通念」は,民事特別法の立法趣旨との関係で,整理されないまま一部に温存されていたわけです。

(*2) 従来「業法」「経済法」と呼ばれてきた金融商品取引法,商品先物取引法,割賦販売法,特定商取引法等の取引関係法令に関する2000年以降の法の現代化の進展に伴い,市場の担い手の果たすべき注意や負うべき責任は,そこに誘引される者の負うべき注意や負うべき責任とは質的に相当程度異なるものであること,担い手がその市場でなす営業の自由を含む私権の内容や行使の方法は,公益的かつ市場内在的な観点から特別な制限に服するべきことが広く認識されるようになっています。

 これは民法解釈における債権の制約根拠の問題としては,民法1条1項ないし2項の適用問題として位置付くものです。