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Ⅱ 解説

<相談回答へのアウトライン>

① まず時系列事実関係を整理しましょう。

平成21年12月15日

販売店A-Y 絵画売買契約 売買代金84万円
           クレジット会社X-Y クレジット契約

クレジット支払総額120万円(手数料36万円)

平成21年12月22日 クレジット会社X→販売店A 売買代金立替払
平成22年1月ころ  販売店A,Yに商品を渡そうとするもY拒否。 (納品確認書には署名)
平成22年4月  Y,クレジット割賦金の支払を拒絶(6万円は既払)

② 次に販売店Aとクレジット会社Xの行為の問題点を整理してみましょう。

販売店の行為の問題点 【契約勧誘時】

キャッチセールスであること

ビルの一室に連れ込んだこと

断っているのに強引に勧誘を続けて根負けさせたこと

クーリングオフの記載のない売買契約書を用いたこと

クレジット契約書収入欄に販売店側のリードで虚偽の事実を記入させたこと

クレジット契約の毎月の支払額や支払回数,手数料などクレジット契約の具体的な内容についての説明をしなかったこと

同上 【その後】 絵画を引き渡していないのに,納品確認書に署名捺印させていること
クレジット会社の行為の問題点   絵画の納品確認書で納品を確認する前に立替払を実行しているようであること

 

【相談回答に向けた考え方】
1.はじめに
  相談の事例は,消費者が,キャッチセールスで一室に連れ込まれて困惑型の不当な勧誘を受け,高額の商品をクレジットで購入させられたという事案です。平成20年以前によくあった事案です。よく似た事例に,東京簡裁判平成15年5月14日平成14年(ハ)第85680号立替金請求事件(最高裁HP)があります。
2.質問1について                                                       
  相談者Yは販売店Aに対し,絵画の売買に関し,どのような主張ができるでしょうか。

  相談者Yと販売店Aとの間には,平成21年12月15日に,代金を84万円とする絵画の売買契約(民法555条)が成立しています。

  そこで,この売買契約に関し,YがAに対してなし得る主張を考えることになります。

(1)特商法上のクーリング・オフ(同法9条)

 まず,本件はキャッチセールスでビルの展示会場に連れ込まれているため,特定商取引法,具体的には,訪問販売の規定による消費者保護のための民事ルールが活用できないかが問題となります。そして,販売店Aが作成した売買契約書にはクーリング・オフに関する事項の記載がなかったというのですから,クーリングオフの可否を検討するべきことになります。
ア.この点「訪問販売」(特商法2条1項)該当性について見ますと,まず,販売店Aは「販売業者」,相談者Yは購入者ですから,当事者要件は満たします。契約場所の要件のうち法2条1項の適用に関しては,本件のビルの一室にある絵画の展示場が「営業所等以外の場所」かどうかはさておき,販売店Aの担当者は街頭という「営業所以外の場所」でYに声をかけて「呼び止め」,本件の会場に同行させているので,Aは同条項2号の「特定顧客」に該当します(いわゆる「キャッチセールス」の要件に該当するわけです。)。そこで,本件の取引は同条項の「訪問販売」に該当します。
イ.訪問販売にはクーリング・オフ解除の民事規定があり(特商法9条),申込者等は法定交付書面を受領した日から8日を経過するまで,無条件で契約(申込)を解除(撤回)できます。本件では,クーリング・オフ解除に関する事項の記載を欠いた売買契約書を作成したに過ぎないのですから,特商法5条1項本文所定の前条4号の事項を明らかにする書面を受け取ったとはいえないので,未だ,8日間のクーリング・オフ期間が開始していません。
ウ.そこで,相談者Yは販売店Aとの契約を,クーリング・オフ解除して,契約の無効を主張することができます。

(2)訪問販売取消権

 クーリング・オフの主張ができない場合について,特商法9条の2は,訪問販売契約の取消権を定めるのでこの規定を活用できないかを検討しましょう。
 同条は,販売業者等が法6条1項違反の不実告知や同条2項違反の故意の事実不告知を行った時に購入者等に誤認取消権を付与する規定です(消費者契約法4条1項1号,2項の特則)。
 本件では,絵画の売買契約に関しては,その契約の締結に当たり,困惑させる行為はあるものの,商品の品質や対価や引渡時期等,法6条1項や2項の違反に該当する行為は見あたりません。

 そこで,訪問販売契約取消権の活用は困難だと考えられます。

(3)消費者契約取消権(退去妨害)

   次に,消費者契約法の取消権(法4条)の活用が考えられます。
ア.この点,販売店Aは株式会社ですので「事業者」にあたり(法2条2項),相談者Yは個人であり,また本件は事業として又は事業のために契約の当事者になる場合ではないので「消費者」(同条1項)にあたります。この売買契約は,消費者契約法の適用のある消費者契約にあたる訳です。

イ.本件では,相談者Yは,販売店Aの担当者に連れて行かれた展示会場で,Yは「絵画の趣味はない旨繰り返し話し」,絵画の購入を勧める担当者に「再度断った」りしたのに,執拗に勧誘され,「記入しなければ帰してもらえないような気がしたため」,契約を締結したものだということですから,退去妨害に関し困惑による取消権を認める法4条3項2号の適用の可否が問題となります。
 具体的には,本件の事実関係で「退去する旨の意思を示した」といえるか,「消費者を退去させない」行為があったといえるかが問題となります。
ウ この点,法が不退去や退去妨害によって困惑したことに伴う消費者取消権を規定した趣旨は,不退去や退去妨害といった事業者から消費者への不適切な強い働きかけを回避させる点にあります。法は,そのような行為に影響されて自らの欲求の実現に適合しない契約を締結した場合には,民法の強迫(同法96条1項)が成立しない場合でも,合意の瑕疵は重大で決定的であるとして,契約を取り消すことができることとしたものです(逐条解説消費者契約法[補訂版]内閣府国民生活局等編91頁参照)。
 こうした趣旨を受け,「退去する旨の意思を示した」とは,基本的には,「帰ります」というように直接退去する旨の意思を表示した場合をいいますが,「要らない」「結構です」「お断りします」と言ったという場合のように,その契約を締結しない旨を消費者が明確に告知するなどの方法によって間接的に退去意思を示した場合にも,消費者の要保護性において直接表示した場合と変わらず,また相手方事業者にも退去する旨の意思が明確に伝わることから,社会通念上「退去する旨の意思を示した」ということが可能であると解されます(前掲書96頁)。
 また,同様の観点から,「消費者を退去させない」行為とは,物理的方法であるか心理的方法であるかを問わず,消費者の一定の場所からの脱出を不可能若しくは著しく困難にする行為をいい,拘束時間の長短は問わないものと解されます(前掲書96頁)。
エ これを本件に当てはめますと,相談者Yは,連れて行かれた展示会場で販売店Aの担当者に対し「絵画の趣味はない旨繰り返し話し」,勧誘を「再度断った」というのですから,間接的に「退去する旨の意思を示した」ものといえ,これに対して,販売店Aの担当者が相談者Yの言動を無視するように繰り返し契約書の記入を求めたりした行為は,心理的方法により,相談者Yをその場所から出ることが著しく困難にした行為といえるため,「消費者を退去させない」行為に当たるものといえます。
オ これによって,相談者Yは「記入しなければ帰してもらえないような気」がするなど困惑して,契約書に署名・捺印をしたものですので,相談者Yは販売店Aに対し,法4条3項2号によって本件売買契約の取消を主張することができます。

(4)不法行為に基づく損害賠償(民法709条)

  民法上の主張としては,本件における販売店A担当者の勧誘行為が,上述の退去妨害に見られるとおり訪問販売に係る売買契約の締結について迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘をしていること(特商法7条,施行規則7条1号),クレジット契約書の収入欄に虚偽の記入をさせるという行為は,訪問販売に係る売買契約締結に際しその契約に係る書面に虚偽の記載をさせることを禁じる規則(特商法7条,施行規則7条4号)違反に準じる違法があることを理由に,不法行為に基づく損害賠償(民法709条)の請求をすることが考えられます。

(5)心理留保(民法93条但書)

 民法上の主張としては,意思表示の瑕疵に関して,民法93条但書の適用によってYを救済できないか,検討の余地があります。
 この点,本件では,相談者Yが真意としては絵画を購入する意思がないこと,しかしその意思は売買契約書には表れていないこと,そのことを知りつつ相談者Yは(本件では「記入しなければ帰してもらえないような気」がして)売買契約書に表示をしていることに照らせば,本件Yの意思表示は,93条本文の心裡留保による意思表示であると解することは可能です。そこで,そのような真意をAが知り又は知り得たときは意思表示の無効を主張できます(民法93条但書)。
 本件では販売店Aは何度も相談者Yに絵画の購入を断られたのに,粘って契約に持ち込んだわけですから,相談者Yが真意としては購入する意思がないことを認識していたか,すくなくとも注意を払って認識する義務があったものといえます。

 そこで,民法93条但書による本件売買契約無効の主張も構成としては考えられます。

3.質問2について
    相談者Yはクレジット会社Xに対し,既払金の返還を請求できるか。        │
 (1)割販法上のクーリングオフ(同法35条の3の10)

 本件では,クレジット契約の締結日は,平成21年12月15日であり,2008年改正割賦販売法の民事ルール施行後の事案ですので,このルールの適用が問題となります。

 この点,相談者Yは販売店Aからキャッチセールス型の訪問販売を受けて,クレジットで絵画を購入しています。そこで,割販法上のクーリングオフ権(割販法35条の3の10)を行使してクレジット契約をクーリングオフ解除することが考えられます。
 ここでは,消極要件としての法定交付書面が交付されているかどうかが問題になりますが,相談の事例からは明らかではありません。売買契約書と同様クレジット契約書にもクーリングオフの記載がないということであれば,法定交付書面の交付があったとはいえず,クーリングオフ権を行使することができます。
 そこで,この場合には,相談者Yはクレジット会社Xに対し,既払金6万円の返還を請求できることになります。

(2)割販法上の誤認取消権(同法35条の3の13)

 本件では,相談者Yは販売店Aからキャッチセールス型の訪問販売を受けて,クレジットで絵画を購入しています。そこで,販売店Aが商品購入の勧誘に際し不実告知等を行った場合には,クレジット契約自体の誤認取消をなすことができます(割販法35条の3の13)。
 しかしながら,本件では,質問1の回答のうち,訪問販売契約の誤認取消権の箇所でも検討したとおり,絵画の売買契約に関しては,その契約の締結に当たり,困惑させる行為はあるものの,商品の品質や対価や引渡時期等について誤認させる行為は見あたらないので,割販法上の誤認取消権の適用はできません。

(3)困惑型消費者取消とクレジット会社に対する既払金返還請求権

ア.相談者Yは,クレジット会社Xに対して未払金の支払を拒絶しうるとしても(割賦販売法30条の3の19第1項),既に口座の自動引き落としによって支払ってしまった6万円の既払金の返金をXに求められないでしょうか。
 この点,YはXに対し,消費者契約法4条3項2号の取消権を主張できる立場にあること,同法5条は,事業者と消費者との消費者契約の締結について媒介の委託を受けた第三者が消費者に対して同法4条3項に規定する行為をした場合,その消費者契約を取り消せる旨規定することから,同法5条の規定により,本件クレジット契約を取り消すことができるかが問題となります。

イ.本件のような割販法2条3項2号のいわゆる個品割賦購入あっせん契約においては,クレジット会社は,提携販売店に対し,クレジット契約書の書式を渡し,その販売店でクレジットを利用することが適当と思われる顧客がいる場合には,その顧客の契約意思や関連する顧客の申告情報を提供させてクレジット会社に申告してもらい,審査によって与信が可能という場合には与信を行うというシステムとなっています。そこで,このような場合,クレジット会社と消費者との間のクレジット契約の締結について媒介することを委託しているといえます。

 そこで,販売店は消費者契約法5条の第三者であるといえます。

 本件では質問1の回答箇所で述べた事情によれば,販売店Aは相談者Yに対し退去妨害を行って困惑させ本件売買契約のみならず本件クレジット契約も締結させたといえるので,相談者Yは同法5条,4条3項2号により,本件クレジット契約を取り消せます。
 従って,相談者Yはクレジット会社Xに対し,既払金6万円の返還を請求できることとなります。