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3.平成20年改正割賦販売法との関係

(1)

  • しかしながら,このような最高裁の判断の当否については,国会が,平成20年改正割賦販売法で,個品割賦購入あっせんの割賦要件を撤廃し,適用範囲を抜本的に広げた個別信用購入あっせん(以下「個別クレジット」)の取引について,一定の場合に購入者に個別クレジット契約の誤認取消権等を付与し,販売業者に不適正勧誘行為があった場合の個別クレジット業者に対する既払金返還請求に大きく道を開いたことなど,平成20年改正法が基礎とした民法的な考え方との関係が問題とならざるを得ません。
  • 平成20年改正法は,訪問販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供・業務提供誘引販売取引(特定商取引5類型)にかかる個別クレジット契約について,販売業者による不実告知等を原因とする取消権を付与しています(割賦販売法35条の3の13~35条の3の16)。
  • これは創設規定であるとはいえ,民事ルールであり,このような立法を行うためには,民法的な基礎が必要です。この点についての立法者の考え方を見てみる必要があります。

(2)

  • この点,平成20年6月10日開催された参議院の経済産業委員会において,橘高政府参考人は次のように述べています。
  • 「なぜこのような規定が法制上可能であるかという背景には,個別クレジット業者と販売業者との関係が非常に特別あるいは特殊であるというところも併せて今回の制度設計に当たって大いに関係した部分でございます。すなわち,個別クレジット業者は販売業者にクレジット契約の締結の勧誘等の行為を丸投げといいましょうか,行わせております。したがいまして,個別クレジット業者のクレジット契約につきまして,販売業者はクレジット業者に代わってといいましょうか,クレジット業者のために活動しているという関係になるという意味で極めて密接な取引関係にあるわけでございます。このため,販売業者自身の不実告知などの悪質な勧誘行為を調査する機会を当然有している,一緒になってビジネスをしているような関係でございますものですから,販売業者が不適切,不適法な行為を行っていれば容易にその事実が分かる,若しくは知るところとなるという風に考えられるわけでございます。したがいまして,販売業者が自ら悪質な勧誘行為やあるいは過量販売を行っている場合にはクレジット事業者はそういうことを知りながらみすみすこれを助長していたものであるというところに着眼をいたしまして,個別クレジット業者に既払金の返還という非常に強いペナルティを掛けるという形でございます。」

(3)

  • また,経済産業省の法制審議室で平成20年改正法の法制化に取り組んだ小山綾子弁護士は,その著書「改正割賦販売法の実務」(経済法令研究会)の中でこの点に関し次のように述べています。
  • 「個別クレジット契約は,販売業者によって販売契約とともに勧誘が行われているという特性を有しているところ,上記の特定商取引5類型の取引においては,販売業者が販売契約に関する重要事項の不実告知や不告知を行うなどの不当な勧誘行為が行われがちであり,その際一体的に勧誘されている個別クレジットについてもこうした不当な勧誘行為が行われてしまうという実態があるからだといわれています。」(同書172頁)
  • 「販売業者が不当な勧誘行為をしたことを要件としているのは,個別クレジットでは,販売業者が販売契約と個別クレジット契約を一体的に勧誘する取引構造にあり,不当な勧誘行為を行うのは販売業者だからです。このような取引構造における販売業者は,…消費者契約法5条における媒介者に該当するということができ,媒介者の媒介行為により契約締結という利益を得る個別クレジット業者は,媒介者が契約締結の勧誘を行った際の不実の告知等の行為についての責任も,善意・悪意を問わず負担すべきであると考えられます。」(同書174頁)

(4)

  • 小山綾子氏は,個別クレジットにおける販売業者の勧誘一体の取引構造と消費者契約法5条の媒介者の法理を接合させて個別クレジット業者の無過失責任を民事的に基礎づけている訳ですが,こうした民法的理解が,立法者の民法的理解と一致する理解でもあります。
  • この点については,平成20年改正法の立法審議が行われた産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会の報告書(平成19年12月10日)で読み取ることができます。
  • すなわち,上記報告書は,「既払金の返還ルール」の項目の中で,「なお,販売業者等が不退去・退去妨害により購入者を困惑させ,与信契約を締結したときは,消費者契約法第5条及び第4条により,購入者は与信契約を取り消しうるものと考えられる。」と明示しています。立法者は,個別クレジットの取引においては,販売業者は個別クレジット業者の消費者契約法5条に規定する媒介者であると解釈しています。これにより個別クレジット業者は販売業者の行為について,同法4条に規定する範囲で無過失責任を負うのです。これを民事的な基礎とし,販売業者による勧誘一体の取引構造であるという個別クレジットに関する実態認識をもとに,販売業者の販売契約に関する不実の告知等があった場合には,例えクレジット契約に関する不実の告知等がなかった場合でも,クレジット契約の取消を認めてもよいと立法者は考えたのだといえます(不実告知の主体と対象と取消の帰結と根拠法条との関係については,詳しくは,前掲の小山綾子著書の176,177頁を参照下さい。)。

(5)

  • このようにして,平成20年改正法の立法者が基礎とした民法的な理解を見てくると,最高裁が本判決で下した民法解釈とは,かなり開きがあることが分かります。
  • 本判決の事案を仮に平成20年改正法にあてはめると,本判決の事案は,訪問販売にかかる個別クレジット契約の事案であり,併せて10万円程度の貴金属を販売代金合計157万5000円で売りつけている事案であることから,商品の価値(性能若しくは品質)について不実の告知があったといえる可能性は濃厚で,その場合には,個別クレジット契約は取り消すことができます(法35条の3の13第1項3号)。本事案の場合,売買契約は,公序良俗違反により無効とされていますので,これにより,既払金の返還を請求できることになります(同条4項)。
  • もちろん,立法者は,取消権を規定した改正法35条の3の13第1項は,購入者保護のための政策的な規定であり,措置規定であると解しているわけで,新法が施行された後に同種事案が発生すれば,新法の個別クレジット契約の取消権の行使により,既払金の返還が実現するとしても,新法施行前である本件事案について,販売契約が公序良俗違反で無効であるからといって,これと連動して個品割賦購入あっせんにかかるクレジット契約が失効すると解釈できるかは,全く別問題です。むしろ,こんな風な解釈を取る裁判例が原審判決以前にはなかったことが,新法が制定される一つの背景になっているともいえます。
  • しかし,ここで問題としなければならないのは,平成20年改正の立法者が,個別クレジット業者は,販売業者に,クレジット契約の締結の勧誘を販売業者の販売契約の勧誘と一体的に行わせていること,販売業者は,クレジット業者に代わり,クレジット業者のために活動しているという意味で極めて密接な取引関係にあること,このため,販売業者自身の不実告知などの悪質勧誘行為を調査する機会を当然有し,そのような不適切な行為があれば,容易にその事実が分かるはずであると認識している事実です。そして,このような考え方を基礎に,媒介受託者の行為について媒介委託者に無過失責任を負わせた消費者契約法5条は,販売業者と個別クレジット業者との関係に適用があると認識している事実です。
  • この認識は,国民の代表者である国会における立法提案者の熟度の高い認識だといってよいでしょう。これを受けて国会が法律を制定したのです。
  • もし,最高裁が,この平成20年改正の立法者と同じ認識に立って,そこの認識は一致させて,本事案に向かうべきものとした場合,本判決と同じ結論になるでしょうか。私には,そうは思えません。
  • 本判決が述べる,「(公序良俗違反・無効の判断がなされている)売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情」というのは,平成20年改正の立法者と同じ認識に立つ限りは,個別クレジット契約関係の場合には,例外的に,ではなく,むしろ原則的に存在しているというべきでしょう。改正法は,取消権の措置範囲を,政策的に,特定商取引5類型にかかる個別クレジット契約に限定していますが,個別クレジットにおける「勧誘一体」「消費者契約法5条適用」の考え方の射程範囲は,論理的には,特定商取引5類型に限定されないのです。
  • ですので,最高裁としては,この個別クレジットにおける「勧誘一体」「消費者契約法5条適用」の考え方を推し進めて,もっとゆるやかに,連動失効を認めても,良かったはずです。例えば,「個別クレジット業者において販売業者の取引の公序良俗違反評価を基礎付ける事情を知り又は知りうべき場合」には,連動失効を認めてもよかったはずです。
  • 本判決が,こういう方向をとらず,消極的な判断を採用した背景には,「民主的基盤がなく,国民的議論のプロセスを経ない最高裁として,どこまで広がるか分からないスパンの広い民事効に道を開く判決を出すことを恐れている」ことがあるという印象を受けます。
  • 確かに,過去に個別クレジットを利用した悪質販売は沢山横行していますし,こうした悪質販売の中には,公序良俗違反で無効だと評価しうるものも沢山うずもれているでしょう。こうした悪質販売に係る個別クレジットも連動失効して,既払金の返還ができるとなれば,過去10年にさかのぼった,過払金返還請求訴訟類似の訴訟を誘発する危険性があり,そうなれば,最高裁がその処理をしきれるか,政財界からの批判に耐えられるかといった問題がでてくる可能性もあるかもしれません。こうした点に対する現実的な考慮があったのかなあ,という印象を持つのです。
  • しかし,このような配慮があったかどうかはさておき,平成20年までに行政と国会で大議論をして法改正がなされているわけですから,これを受け,本判決で,補足意見がだされてもよかったはずだけれどと思います。
  • 立法者の個別クレジット関係への認識と民事的理解は,正鵠を得た理解であると思われる(国民的基礎があると思われる)ので,最高裁が,平成20年改正法が基礎とした「勧誘一体」の認識等と乖離のある判示をするというのであれば,せめて,改正法立法者の立場を害する趣旨ではないことへの慎重な補足説明はあってしかるべきではなかったかと思うのです。国会論議との関係で古さが浮き立つような判決では困るように思います。