所有者不明土地の解消に向けた不動産登記法等の改正について

目次

 2021年(令和3年)4月21日,不動産登記法改正法(令和3年法律第24号)及び相続土地国庫帰属法(令和3年法律第25号)が成立し,同月28日に公布されました。これらの法律は,いわゆる「所有者不明土地問題」を解決するために,所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の面から,民事的な法律制度を,基本から見直す内容となっています。
 きわめて重要な改正を含みます。
 以下,概要を紹介します。

  •  この概要作成に当たり,
    • 法務省のホームページhttps://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html記載の「概要」「法律」「新旧対照条文」のほか,
    • 「家庭の法と裁判」33巻120頁「所有者不明土地の改正に向けた民事基本法制の見直しの概要」
    • 法務省のスライド資料(作成日令和4年2月14日/作成者法務省大臣官房参事官大谷太/「令和3年民法・不動産登記法改正,相続土地国庫帰属法のポイント」)を参照しました。
  •  2023年4月、法務省は、「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」をWEBで公表しました。

1 土地・建物の相続登記の申請が義務化されました。

(1)概要

 改正不動産登記法(以下,「1」では,単に「改正法」といいます。)は,これまで任意とされていた土地・建物の相続登記や住所変更登記等の申請を義務付けました。
 また,申請義務の実効性を確保するための環境整備策を導入しました。
 この法律の施行日は2024年(令和6年)4月1日です。001394980.pdf (moj.go.jp)

(2)相続登記未了問題への対応
 ア 相続登記申請の義務化

 国交省の調査*では,登記だけで所有者の所在が判明しなかった土地の割合は,約22.2%にのぼっているとのことです(筆数ベース)。その原因を見ると,登記名義人が死亡して相続が発生しても,登記上は登記名義人のままになっているという点が全体の約3分の2(約65.5%)を占めました(相続登記未了問題)。また,登記名義人の住所が変更されていても,登記に反映されていないという点が,約3分の1(約33.6%)を占めました(住所変更登記未了問題)。同様の問題は,もちろん,土地だけでなく建物でも生じています。
 *「所有者不明土地法について」国交省令和元年10月 
 *法務省令和3年4月「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」
 そこで,改正法は,
 相続により不動産の所有権を取得した相続人に対し,
 ① 自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,
 ② 当該所有権を取得したことを知ったから
       3年以内
に相続登記の申請をすることを義務付け義務違反に対しては,過料(10万円以下)の制裁を科しました
(改正法76条の2第1項,164条1項)。
 加えて,相続登記の申請義務の実効性を確保するための環境整備策として,次に述べる「相続人申告登記」「所有不動産記録証明制度」を新設するなどしています。

  1.  ここで注意が必要なことは,改正法では,
     ⅰ)遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により所有権を取得した者や,
     ⅱ)法定相続分での相続登記がされた後に遺産分割があった場合に,その遺産分割によって,法定相続分を超えて所有権を取得した者に対しても,
    所有権の移転の登記の申請を義務づけていることです(改正法76条の2第1項後段・2項)。
     この関係で,改正法では,あわせて,
     遺贈(相続人に対する遺贈に限る)による所有権の移転の登記は,登記権利者が単独で申請することができる
    旨の規定が新設されました(改正法63条3項)。
  2.  経過措置に関する規程ですが,
     まず,この登記申請義務付け規定は,改正法の施行日前に相続の開始等があった場合にも適用されます
     ただし,少なくとも施行日(2024年4月1日)から3年間の猶予期間を置くものとされています(改正法付則5条6項)。 
イ 相続人申告登記制度

 改正不動産登記法では,上記アの相続登記の申請義務化に伴い,相続人が申請義務を容易に果たすことができるようにする観点から,「相続人申告登記」という新たな登記制度が設けられました(改正法76条の3)。
 この相続人申告登記は,
   ① 所有権の登記名義人について相続が開始した旨と,
   ② 自らがその相続人である旨を
前記アの期間内(①自己のために相続の開始があったことを知り,かつ, ②当該不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記官に対して申し出ることで,相続登記の申請義務を履行したものとみなすものです(改正法76条の3第1項・2項)。 
 登記官は,所要の審査の上,申出をした相続人の氏名及び住所等を職権で登記に付記します(同条3項)。

  • この申出は,相続人が複数存在する場合であっても,特定の相続人が単独で「自分が相続人である」という点の申出を行うものです(その相続人が,自分の分に加え,他の相続人を代理して,相続人申告登記の申出をすることも可能です(「家庭の法と裁判」33号127頁注5参照)。

 相続人申告登記の申出の手続等の詳細については,今後,法務省令で定めることになっています(改正法76条の3第6項)。登記費用も未定です(2022年8月3日現在)。

 ※ 法務省ウェブサイト「相続人申告登記について」(2024年3月28日)が公表されました。
   このページには、相続人申告登記の制度の概要申出の手続などが掲載されています。

 ただし,相続人申告登記は,相続の発生や法定相続人とみられる者を公示するもので,法定相続人への権利移転を公示するものではありません。
 そこで,その申出に当たっての添付書面としては,申出をする相続人自身が被相続人(所有権の登記名義人)の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本を提出することで足ります。
 通常の相続登記の申請の場合のように,他の相続人の存否を確認するために被相続人の出生から死亡に至るまでの戸除籍謄本を提出することまでは必要がないものとすることが想定されています。

ウ 所有不動産記録証明制度

 これまでの登記制度では,全国の不動産から,「特定の者が所有権の登記名義人となっているもの」を網羅的に抽出し,その結果を公開する仕組みは,存在しませんでした。
 その結果,所有権の登記名義人が死亡した場合に,その所有不動産としてどのようなものがあるかについて相続人が把握しきれず,見逃された土地について相続登記がされないまま放置されてしまう事態が少なからず生じていました。
 そこで,改正法では,登記官が,特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し,証明する「所有不動産記録証明制度」を新設することを明らかにしました(改正法119条の2)。

第119条の2 
 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。
2 相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。
3 前二項の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。

 なお,個人だけでなく,法人でも,自らが所有権の登記名義人であれば,上記制度に基づく証明書の交付請求ができます。

 (3)その他の改正

 改正法では,

  1. 死亡した所有権の登記名義人についての符号の表示の制度(登記官が表示する)の創設(改正法76条の4),
  2. 住所変更登記等未了への対応(住所等の変更登記の申請の義務化(変更日から2年以内-改正法76条の5),他の公的機関との情報連携,及び,職権による住所等の変更登記の仕組みの新設(改正法76条の6))のほか,
  3. 形骸化した登記の抹消手続の簡略化(改正法69条の2,70条の2),
  4. 所有権の登記名義人の国内連絡先の登記の新設(改正法73条の2第1項2号),
  5. 登記所保有情報についての規律の見直し

がなされています。

2 相続土地の国への帰属を申請できる制度が新設されました。

(1)概要

 相続をきっかけに,望まない土地を取得した所有者に負担感があり,望まず取得した土地を手放したいと考える者がいて,これが,所有者不明土地を発生させる原因となり,土地の管理不全化を招いていると指摘されています。そこで,「相続土地国庫帰属法」が制定されました。
 この法律では,相続等により取得した土地のうち,一定の要件を充たすものに限定して,相続人等が国庫帰属の承認申請を行い,法務大臣がその絞り込まれた要件の存在を確認の上で承認すれば,土地所有権が国庫に帰属するという制度を設けました(法律の正式名称は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」というものです。)。
 ただし制度の詳細については,今後制定されることとなる政省令に委ねられています。
 この法律の施行日は,2023年(令和5年)4月27日です。https://www.moj.go.jp/content/001360807.pdf

(2)申請主体の要件

 承認申請をすることができるのは,相続又は遺贈によって所有権の全部又は一部を取得した相続人です(2条1項)。
 ただ,土地が共有である場合は,共有者の一人が相続等により持分を取得した相続人であれば,その他の共有者も承認申請をすることができます(同条2項後段)。
 土地が共有である場合は,共有者全員が共同して承認申請をする必要があります(同項前段)。
 法人は,申請主体になることはできません。

(3)対象土地の要件①(申請要件)

 次の5つの類型の土地については,承認申請ができません(2条3項各号 却下要件とも呼ばれます。)
 類型的に,通常の管理・処分を行うに当たり,過分の費用労力を要するものを,申請却下とする趣旨です。

 ① 建物の存する土地
 ② 担保権若しくは使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
 ③ 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
  (管理に当たって他者との調整が必要となると想定される土地を除外する趣旨)
 ④ 土壌汚染対策法2条1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
   *外観・地歴から汚染が疑われる土地
 ⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否,帰属若しくは範囲について争いがある土地

(4)対象土地の要件②(承認要件) - 法務大臣による審査と承認・不承認

 法務大臣は,
 申請地が   

 ① 崖(勾配高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち,
   その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの,


 ② 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物,車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地,
   *山林で樹木の伐採が求められるというわけではない。通常の管理処分を阻害する樹木のことである。

 ③ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物(埋設物)が地下に存する土地
   *外観・地歴から埋設物が疑われる土地

 ④ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない
   土地として政令で定めるもののほか,


 ⑤ 通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

のいずれにも該当しないと認めるときは,
その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならないこととされています(5条1項)。
 法務大臣は,承認をするか否かを判断するに際し,その職員に立入調査を含む事実の調査をさせることができ,関係機関等に対して資料の提供等を求めることができます(6条,7条)。

(5)負担金の納付・国庫帰属の時期

 法務大臣による承認があったときは,承認申請者は,国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭(以下「負担金」という。)を納付しなければならないとされています(10条1項)。
  法務省のスライド資料では,粗放的な管理で足りる原野で約20万円,市街地の宅地(200㎡)で約80万円が想定されています。
    承認申請者が負担金を納付したとき,その納付の時に,承認地の所有権が,国庫に帰属します(11条1項)。
 

3.相続開始から10年経過すると,原則として,法定相続分又は指定相続分で遺産が分割されます。

(1)10年経過後の遺産分割に対する措置
◎ 遺産分割に関する本来の原則=具体的相続分による分割

 相続人が数人ある場合,遺産分割前の遺産(相続財産)は,相続人の共有(「遺産共有」と呼ばれます。)に属し,相続人は,遺産に属する土地等の財産の共有持分を有します(民法898条)。この共有関係の解消は,民法906条以下の遺産分割の方法により,法定相続分又は指定相続分を基礎としつつ,相続人が被相続人から受けた生前贈与等の特別受益の額(民法903条,904条)や,被相続人に対して行った介護等の貢献を考慮して定められる相続人の寄与分(民法904条の2)を加味して算出される具体的相続分に応じて実施されます。

■ 新制度の考え方-10年経過後は,原則として法定相続分又は指定相続分で分割。

 ○ 遺産共有の状態にある土地等の財産の利用を促進し,適切な管理を図りたい。
 ○ そのためには,早期に,かつ,円滑に遺産分割を実施して,遺産共有関係をできるだけ解消することが重要だ。
 ○ しかし,現行法には,具体的相続分による遺産分割を求めることができる期間に特段の制限はない(具体的相続分による遺産分割に時的限界がない)。
 ・ そのため,遺産分割をしないまま相続開始から長期間が経過しても,相続人は,特段の不利益を負うことはない。
 ・ 相続開始後長期間を経て相続人が具体的相続分による分割を求める場合には,
   生前贈与や寄与分に関する証拠が散逸し,関係者の記憶も薄れ,
   具体的相続分により遺産分割を実施することが困難になるといった事態が生ずる。
 ◎ そこで,改正法では,相続開始時から10年を経過した遺産分割は,
   その10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたときを除き,
   具体的相続分ではなく法定相続分又は指定相続分により行うこととしています(改正後民法904条の3)。
 その趣旨は
   ①具体的相続分による分割を求める相続人に,早期の遺産分割請求を促す。
   ②期間経過後においては,具体的相続分の算定を不要として,円滑な分割を可能とする。
 との点にあります。

  なお,家庭裁判所を通さずに当事者間で遺産分割協議をするときは,10年を経過していても,特別受益や寄与分を考慮して,遺産分割することは可能です。
  

■ 新制度適用の例外

 相続開始の時から始まる10年の期間について,その期間の満了前6か月以内の間に,
 遺産分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合には,
 その相続人が,その事由が消滅した時から6か月を経過する前に家庭裁判所に遺産分割の請求をしたときは,
 具体的相続分による分割を求めることができることになっています(改正後民法904条の3第2号)。

■ 相続開始から10年経過後の遺産分割調停・審判は,相手方の同意なしに取下げできないとの制度の新設

 なお,併せて,遺産分割手続に関する規律について,遺産分割の審判・調停の申立ての取下げは,相続開始時から10年を経過した後は,相手方の同意を得なければ,その効力を生じないとするとともに(改正後家事事件手続法199条2項,273条2項),遺産分割の禁止の規律について,その期間の終期は相続開始時から10年を超えることができないとするなどの整備(改正後民法908条)をしています。

■ 新制度の施行期日

 この新制度は,2023年(令和5年)4月1日から施行されます。https://www.moj.go.jp/content/001360807.pdf
 この規定は,施行日前に相続が開始した遺産の分割にも適用されます(付則3条)。
 ただし,5年の経過規定(適用をしばらく猶予する規定)がおかれています。
 そこで,相続開始日から10年が経過していても,施行日から5年間が経っていない間に遺産分割の請求をしたときは,特別受益や寄与分の主張をすることができますし,
 申し立てた遺産分割調停・審判も,この期間中は,相手方の同意なしに取下げができます。

 

(2)遺産共有と他の共有が併存している場合の分割方法の特則

 改正法は,遺産共有の状態にある共有持分とそれ以外の共有持分とが併存している場合,相続開始の時から10年を経過しているときには,相続人に異議申出の権利を留保した上で,地方裁判所等における共有物分割の手続において一元的に共有関係を解消することができる仕組みを創設しました(改正後民法258条の2第2項・3項)。

(3)長期間経過後の不明相続人の持分の取得・譲渡

 不動産を共同相続し,遺産共有している相続人の中に,不特定又は所在不明の相続人(以下「不明相続人」という。)がいる場合には,不動産の共有関係を解消することが困難になります。
 改正法では,「共有制度の見直し」の箇所で,共有者の一部が不特定又は所在不明である場合(以下,その共有者を「不明共有者」といいます。)の不動産の共有関係を円滑に解消する観点から,地方裁判所の非訟事件手続により,不明共有者の不動産の持分を他の共有者が取得・譲渡することを可能としています(改正後民法262条の2,262条の3,改正後非訟事件手続法87条,88条)。
 その上で,相続開始の時から10年を経過していることを要件として,不明相続人の遺産共有持分についても,不明共有者の持分の取得・譲渡の仕組みを利用することを可能としています(改正後民法262条の2第3項,262条の3第2項)。

(4)相続財産の保存に必要な処分を命ずる相続財産管理制度の見直し

 現行法は,相続の段階ごとに,相続財産管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずる相続財産管理制度を設けています(相続人による管理について民法918条2項・3項,限定承認者による管理について926条2項,相続人が数人ある場合の管理について936条3項,相続放棄者による管理について940条2項,いずれも現行法。)。
 ただ,遺産分割前に複数の相続人が遺産を共有しているケースについては,規定がありません。
 また,相続人があることが明らかでないケースについては,相続財産管理人を選任して,相続財産の清算をする仕組みはありますが(現行民法952条以下),相続財産の保存だけを目的とする管理制度は用意されていません。
 改正法では,「家庭裁判所は,いつでも相続財産管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分をすることができる」という包括的な規定(改正後民法897条の2)を設けることにより,保存に必要な処分をすることができなかったケースでもこれを可能とするとともに,相続の段階が異なるものとなった場合にも相続財産の保存に必要な処分を継続的に実施することを可能としています。
 改正法施行後は,相続財産管理人には,保存型の相続財産管理人と,清算型の相続財産管理人(「相続財産清算人」という名称に変わりました。後述「(7)」を参照ください。)とがある,という制度になることになります。
 また相続放棄者の相続財産管理義務についても改正されました。現行法は,相続の放棄をした者全てに,相続財産に対して「自己の財産におけるのと同一の注意をもった管理継続義務を課していますが,改正法は,相続放棄時に相続財産を現に占有している者のみに対し打て,自己の財産におけるのと同一の財産保存義務を課すものとなりました(改正法940条1項)。

(5)相続財産と共有に関する規定

 遺産共有にも民法249条以下の共有に関する規定が基本的に適用されますが,改正法は,相続財産について共有に関する規定を適用するときは,法定相続分又は指定相続分により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とすることを明確化し,共有に関する規定を適用する際のルールを明確にしています(改正後民法898条2項)。

(6)相続の放棄をした者による管理

 現行法には,相続の放棄をした者の相続財産の管理継続義務についての規定がありますが(現行民法940条1項),管理継続義務を負う要件や義務の内容が必ずしも明らかでなく,実際の適用場面で疑問が生じ,時には相続の放棄をした者が過剰な負担を強いられているといった指摘がありました。
 基本的に,相続の放棄をした者に相続財産の管理について責任を負わせるのは本来相当ではないともいえますが,他方,実際に相続財産を現に占有し,その財産を管理すべき立場にあったのであれば,相続人や相続財産の清算人に財産を引き継ぐまでは,引き続き,最低限の役割は果たすべきであるともいえます。そこで,改正法では,相続の放棄をした者は,その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは,相続人等に対して当該財産を引き渡すまでの間,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産を保存しなければならないことを明記し,その義務の発生要件や義務の内容などを明らかにしました(改正後民法940条)。

(7)相続人が明らかでない場合の清算手続の見直し

 現行法は,相続人が明らかでない場合の清算手続を終えるには,
① 相続財産管理人の選任公告後2か月が経過した後に,
② 相続債権者らに対する請求申出の公告を行い,そこで定められた期間(2か月以上)が経過し,さらに,
③ 相続人の捜索の公告を行い,そこで定められた期間(6か月以上)が経過すること
を求めています(現行民法952条,957条2項,958条)。
 これによれば,選任公告から清算手続の終了までに最低でも10か月を要することになります。
 改正法では,これを合理化して,相続財産管理人の選任公告(上記①の手続)と,6か月以上の期間を定める相続人の捜索公告(上記③の手続)を1つの公告で行うことにし,相続人の捜索の期間中に,相続債権者らに対する請求申出の公告(上記②の手続)を行うことにより,その期間内に請求申出の期間が満了することを可能としました。
 その結果,選任公告から清算手続の終了までに最低限必要な期間は,6か月に短縮されました(改正後民法952条2項,957条等)。
 なお,改正法では,相続財産の保存のために:選任される相続財産管理人(前記(4))参照)との区別を明らかにするため,清算手続を行う者の名称を,「相続財産の管理人」から「相続財産の清算人」に変更しています(改正後民法952条等)。

4 その他の民法等の改正

 このほか,改正法では,所有者不明土地・管理制度等の創設等の財産管理制度の見直しや,隣地等の円滑・適正な使用のための相隣関係規定の整備,共有物の利用促進や,共有関係の解消促進の観点からの共有制度の見直しがされています。

「所有者不明土地関係法について」を参照。

 このうち,家庭裁判所の実務に関連するものとして,改正法は,
 不在者財産管理人が管理すべき財産が金銭のみとなった場合には,
  その全部を供託して不在者の財産管理に関する処分の取消しの審判を受けることにより管理業務を終了させることを可能とする
制度見直しを行っています(改正後家事事件手続法146条の2,147条)。

5 施行期日等

  相続土地国庫帰属法及び改正法のうち民法,非訟事件手続法等の改正に関する部分については,
 2023年(令和5年)4月27日に施行することとされています。
  また,改正法のうち不動産登記法の改正に関する部分については,段階的に順次施行することとされています。
  具体的には,
 ① 相続登記の申請の義務化や相続人申告登記に関する規定については,令和6年(2024年)4月1日,
 ② 所有不動産記録証明制度,その他,ほかの公的機関とのシステム連携を前提にした施策に関する規定については,
   公布の日から5年以内に施行することとされており,
 ③ それ以外は公布の日から2年以内に施行することとされています。
 https://www.moj.go.jp/content/001360807.pdf

  このほか,改正法については,その施行に伴う経過措置や関係法律の規定の整備等がされています。
  このうち,経過措置に関しては,例えば,
 相続登記の申請義務に係る規定については,
 その施行日前に相続の開始等があった場合にも適用することとされており,注意が必要です。
 ただし,上述の通り,少なくとも施行日(2024年4月1日)から3年間の猶予期間を置くこととされています。
 また,10年経過後の遺産分割に関する措置については,
 その施行日前に相続が開始した遺産の分割にも適用することとされており,注意が必要です。
 その上で,相続人に不測の損害が生ずることがないよう,少なくとも施行日から5年間は,具体的相続分による遺産分割を求めることができることとして,猶予期間を設けてます。