暮らしの法律相談

 いろいろな暮らしの法律相談についてお話ししましょう。

成年後見制度に関する法律相談

 成年後見制度に関する、よくある法律相談について、お話しします。

成年後見人について

専門職の成年後見人が選任された場合、その報酬はどの程度でしょうか。

「成年後見人が,通常の後見事務を行った場合の報酬のめやすとなる額は,月額1万円~2万円です。
 ただし,管理財産額(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)が高額な場合には,財産管理事務が複雑,困難になる場合が多いので,
  管理財産額が1000万円を超え5000万円以下の場合には 基本報酬額を月額3万円~4万円,
  管理財産額が5000万円を超える場合には         基本報酬額を月額5万円程度
とします。」(裁判所ホームページ・鹿児島家庭裁判所(平成29年1月)ブリーフ

 

成年後見監督人について

成年後見監督人はどのような場合に選任されるのですか。

裁判所は、次のような場合に、法定成年後見監督人を選任します(これらに限られるものではありません)。

  1. 被後見人の財産が多く、かつ管理が困難な場合(継続監督型)
  2. 親族後見人が、被後見人の財産と自己の財産を混同したり、流用することが不安視される場合(継続監督型)
  3. 親族後見人の事務処理能力が不安視される場合(継続教育・継続支援型)
  4. 被後見人の不動産を売却する必要があるときや、被後見人が生命保険の保険金や遺言による財産取得など多額の財産を取得することが予定される場合(課題解決型)
  5. 既に発生している遺産相続に際し、被後見人と親族後見利害相反が予想される場合(課題解決型)
成年後見監督人が選任れた場合、その報酬はどの程度でしょうか。

 「成年後見監督人が,通常の後見監督事務を行った場合の報酬(基本報酬)の めやすとなる 額は,
  管理財産額が5000万円以下の場合には    月額 5000 円 ~2万円,
  管理財産額が5000万円を超える場合には   月額2万5000円程度
とします。」(裁判所ホームページ・鹿児島家庭裁判所(平成29年1月)ブリーフ

 専門職が務める法定成年後見人の報酬よりは少ない金額(その半額程度)です。

 

賃貸住宅の退去時における原状回復

 賃貸トラブルの典型である原状回復請求権について,整理しました。

賃貸住宅の退去時における原状回復について

 賃貸住宅・賃貸マンションの退去時には,賃貸人(管理会社)と賃借人との間で生じるトラブルには,いくつかの類型的なものがあります。
 敷金・保証金の返還,原状回復,管理業務をめぐるもの等がこれにあたります。
 この点については,
【裁判例】として,次のものをまず踏まえておく必要があります。
 最判平成17年12月16日(通常損耗負担特約の有効性)
 京都地判平成20年4月30日(定額補修分担金特約と消費者契約法10条問題)
 最判平成23年3月24日(敷引き特約と消費者契約法10条問題)
 最判平成23年7月15日(更新料と消費者契約法10条問題)
 その上で
【主務省の指針】として
 国土交通省の出している
 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)-平成23年8月
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html
を参酌しながら,相談対応にあたるのが当面適切であると考えられます。

自治会所有の入会地売却後の代金について住民は分割請求ができるか。

 -自治会の性質にまつわる問題です。

【相談】

 一定の地域に居住する住民世帯で構成するいわゆる自治会・町内会が,入会地となる山などを所有していた場合に,その入会地を売却して得た代金について,住民は分割を請求できるでしょうか。

【回答】

ご質問の点については,
最高裁昭和32年11月14日決定民集11巻12号1943頁が基本判例であり,さらに
最高裁平成15年4月11日判決判例時報1823号55頁が参考になります。

1.最高裁昭和32年11月14日決定〔判旨〕
  • 原審の確定したところによれば、本件債務者組合が法人格なき組合であり、昭和二五年七月二三日当時及びその前後にわたり、その実体がいわゆる権利能力なき社団であつたことは、当事者間に争がない。思うに、権利能力なき社団の財産は、実質的には社団を構成する総社員の所謂総有に属するものであるから、総社員の同意をもつて、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り、現社員及び元社員は、当然には、右財産に関し、共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解するのが相当である。

 自治会・町内会は,認定地縁団体として法人格を取得しているか又は権利能力なき社団ということになります。法人格を取得している場合には,その財産は法人たる自治会・町内会のものであり,その定款・規約の定めによることなしに,当然には住民がその財産の分割を請求することはできません。法人格を取得しておらず,権利能力なき社団であるという場合には,上記判例の通り,自治会・町内会の財産は,その構成員の総有に属するものと解されるので,特別の定めがなされない限り,その財産の分割を請求することはできないものと解されます。

2.最高裁平成15年4月11日判決〔判旨〕
  • 入会権者らの総有に属する入会地を売却するに当たり入会権者らが入会権の放棄をした場合であっても、入会権者らが入会地の管理運営等のための管理会を結成し、その規約において入会地の処分等を管理会の事業とし、入会地の売却が管理会の決議に基づいて行われ、売却後も入会権者らの有する他の入会地が残存し、管理会も存続しているなど判示の事実関係の下においては、入会地の売却代金債権は、入会権者らに総有的に帰属する。

 この判決は,自治会・町内会所有の入会地が総有に属することを前提とした上で,構成員による入会権の行使(入会地の利用)が形骸化している場合はどうか。また,入会地が売却され,現金に形を変えた場合にはどう考えればよいかについて判断を示したものです。判決は,その財産が自治会・町内会によって所有・管理されている場合には,なお総有に帰属すると述べました。

3.ご質問へのご回答

 ご質問の点については,当該自治会・町内会によって売却代金が定款・規約に基づき管理されているという実態があるのであれば,なお当該自治会・町内会の構成員の総有に帰属するというべきであり,この場合には個々の住民による分割請求は定款・規約の定めに基づかない限りできないということになるというのがご回答となります。

マンション管理組合からのご相談-組合員は管理組合の会計資料や原資料の閲覧を請求できるか。

 近時,重要な高裁判決がでました。大阪高裁平成28年12月9日判決・判例時報2336号33頁です。このお話をします。

【相談】

 私は,長年,マンションの管理組合の理事長をしております。
 マンションは昭和50年新築の12階建てで,マンションの専有部分の戸数は300戸あります。

 管理組合では,近時,マンション共用部分や共用施設の維持管理のために行う細々とした修繕工事を毎年のように行っているのですが,この度,マンションの1室の所有者である組合員の1人から,修繕工事代金の決め方や工事業者の選定の仕方に疑問があるとして,組合員名簿,過去5年分の総会及び理事会の議事録,会計帳簿,什器備品台帳,会計帳簿の工事関係見積書等裏付け資料の閲覧と写真撮影の請求がありました。

 組合の管理規約には,組合員の請求があった時は,①会計帳簿,②什器備品台帳,③組合員名簿を閲覧させなければならない旨の規定があります。

 以上を前提に,次の点をご相談したいと思います。

  1. 組合員名簿の閲覧に応じる必要はありますか。組合員の個人情報を守るという観点から開示を拒否できませんか。
  2. 会計帳簿,什器備品代町のほか,規約には載っていない工事関係見積書等の会計帳簿裏付け資料の閲覧に応じる必要がありますか。
  3. 総会及び理事会の議事録の閲覧には応じる必要がありますか。
  4. 閲覧のほか,これらの書類の写真撮影に応じる必要がありますか。

【回答】

 大阪高裁平成28年12月9日判決は,1~3のいずれについても,閲覧に応じる必要があり,4についても写真撮影に応じる必要があると判断しました。
 大阪高裁の判断の主な部分は,次の通りです。


第1 本件管理組合の社団性について
  1. 本件管理組合は,いわゆる権利能力なき社団としての実質を有し,構成員である区分所有者とは独立した社会的存在として活動する団体であるということができる。
  2. 本件管理組合が社団である以上,個々の組合員との関係で本件管理組合保管文書を閲覧謄写に供する義務を負う場合,その義務の履行主体は本件管理組合自身である。
第2 委任に関する民法の規定の類推適用の可否について
  •  本件管理組合と組合員との間には,管理組合を敷地及び共用部分の管理に関する受任者とし,組合員をその委任者とする準委任契約が締結された場合と類似の法律関係,すなわち,民法の委任に関する規定を類推適用すべき実質があるということができる。
  • そこで,本件管理組合保管文書の閲覧謄写の根拠となり得る民法645条の規定を,本件管理組合と本件組合員との間に類推適用することが,マンション管理を巡る法律関係に妥当するのかどうかについて検討する。

    ・民法645条 受任者は,委任者の請求があるときは,いつでも委任事務の処理の状況を報告し,委任が終了した後は,遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

1.適正化推進法の規定及びマンション管理適正化指針
  • 適正化推進法(「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」)は,現代社会の住環境を考える上でマンションの重要性が増大していることから立法され,平成13年8月1日から施行された。
  • 適正化推進法3条所定のマンション管理適正化指針は,管理組合と個々の区分所有者との間の法律関係を直接的に規律するものではないものの,両者間の法律関係のあり方を検討する上で当然に考慮しなければならないものであり,その実効性を損なうような法令の解釈適用は避ける必要がある。
  • マンション管理適正化指針は,「管理組合は,マンションの区分所有者等の意見が十分に反映されるよう…適正な運営を行うことが重要である」とし(指針一の1),区分所有者も「管理組合の一員として…管理組合の運営に関心を持ち,積極的に参加する等,その役割を適切に果たすよう努める必要がある」とし(指針一の2),さらに「管理組合の運営は,情報の開示,運営の透明化等,開かれた民主的なものとする必要がある」とし(指針二の1),「管理組合の管理者等は,必要な帳票類を作成してこれを保管するとともに,マンションの区分所有者等の請求があった時は,これを速やかに開示することにより,経理の透明性を確保する必要がある」とする(指針二の4)。
  • マンション管理適正化指針二の4にいう「帳票類」とは帳簿と伝票類を意味する会計用語であり,本件の裏付資料は,ここでいう「帳票類」の中に含まれる。
  • 管理組合の区分所有者に対する情報開示義務に関し,法令の解釈適用をするに当たっては,このように,適正化推進法が施行されて長年が経過し,上記のような内容のマンション管理適正化指針が公表されているという経過を踏まえて行うべきである。
2.一般社団法の規定
  • 次に,社団の内部関係に対しては,社団法人に関する法律の規定が類推適用されるというのが法律学の通説であるところ,平成20年12月1日に施行された一般法人法一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)は,社員が法人に対し,社員名簿(32条2項),理事会議事録(97条2項),計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(129条3項)の閲覧又は謄写(あるいは写しの交付)を求める権利を有する旨を規定し,さらに,総議決権の10分の1以上を有する社員が法人に対し,会計帳簿又はこれに関する資料(121条1項)の閲覧又は謄写を求める権利を有する旨を規定している(なお,一般法人法32条3項,121条2項は,社員共同の利益や法人の利益を保護する観点から,一定の場合には閲覧謄写を拒絶できる旨をも規定している。)。
  • 上記の「会計帳簿又はこれに関する資料」(会社法433条にも同一の用語が用いられている。)のうち「会計帳簿」とは日記帳,仕訳帳,総勘定元帳,各種補助簿を意味し,「これに関する資料」とは,伝票,受取証,契約書,信書等の原資料を意味する。本件の裏付資料は,ここでいう「これに関する資料」に含まれる。
  • 一般法人法が上記のとおりの情報開示を保障しているのに,社団である管理組合にあっては同様の保障が及ばないと考える合理的な根拠は見出し難い。
3.民法645条の類推適用
  • 上記(1)ないし(3)のとおり,管理組合と組合員との間の法律関係が準委任の実質を有することに加え,マンション管理適正化指針が管理組合の運営の透明化を求めていること,一般法人法が法人の社員に対する広範な情報開示義務を定めていることを視野に入れるならば,管理組合と組合員との間の法律関係には,これを排除すべき特段の理由のない限り,民法645条の規定が類推適用されると解するのが相当である。
  • したがって,管理組合は,個々の組合員からの求めがあれば,その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として,業務時間内において,その保管する総会議事録,理事会議事録,会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を,その保管場所又は適切な場所において,閲覧に供する義務を負う。
4.閲覧時の写真撮影について
  • 次に,民法645条の報告義務の履行として,謄写又は写しの交付をどの範囲で認めることができるかについて問題となるところであるが,少なくとも,閲覧対象文書を閲覧するに当たり,閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず,管理組合は,上記報告義務の履行として,写真撮影を許容する義務を負うと解される。
5.濫用的な閲覧請求に対する例外措置について
  • 一般法人法32条3項は、社団法人が社員に対する情報開示を拒絶できる場合を定めており(会社法433条2項にも同様の規定がある。)、この規定は、本件規約又は民法645条に基づく閲覧謄写請求権の行使についても考慮すべき内容である。したがって、組合員の閲覧請求が一般法人法32条3項所定のような不適切なものと認められる場合には、被控訴人は情報開示を拒絶できるものと解するのが相当である。
  • 一般法人法32条3項

 社団法人は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う社員(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該一般社団法人の業務の遂行を妨げ、又は社員の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が社員名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
四 請求者が、過去二年以内において、社員名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

6.コメント

 以上の次第ですので,上記5の例外的事由に列挙されている事由や,その他これに比肩するような濫用的事由があるという場合には情報開示請求は拒否できますが,原則としては,開示は拒否できないということで対処頂くべきことになろうかと思います。

ビジネスの法律相談

 企業,法人のお客様に関するよくある法律相談に関して紹介します。

取引先の破産と債権の貸し倒れ処理の時期

 取引先が破産した場合の自社の債権貸倒れ損失計上の時期について述べます。

(解説)

 取引先が破産をした場合に,その取引先に対する債権の貸し倒れ処理の時期が問題となります。

 この点は,国税不服審判所平成20年6月26日裁決が参考となります。


〇 国税不服審判所平成20年6月26日裁決
【概括】
  •  請求人が有する売掛債権は、その債権が消滅した事業年度の貸倒損失となるとした事例(平17.10.1~平18.9.30の事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分/棄却)
【要旨】
  • 請求人は、破産法人の破産について疑念を持ち、最後配当がされた後も売掛債権の回収を図ろうとし、最終的に当事業年度において回収不能と判断したことから、当事業年度の貸倒損失である旨主張する。
  • しかしながら、破産法人に係る破産手続はすべて適法に行われ、破産手続の終結決定があった日に法人格が消滅したものと認められることから、請求人が有する破産法人に対する売掛債権は当該終結決定の日に消滅したと認められる。
  • そうすると、本件売掛債権は、当該終結決定の日を含む事業年度における貸倒損失であり、当事業年度の貸倒損失とすることはできない。
(コメント)

 上記の裁決の考え方に拠れば,取引先の破産手続について,破産の終結決定のあった時が取引先を債務者とする債権の貸し倒れ損失の発生した時となります。

 そこで,税法上の貸し倒れ損失の計上は,取引先の破産終結決定のあった日を含む事業年度に行うべきこととなります。

介護事業所におけるカスタマーハラスメント対策

 介護事業所では、介護職員となる人材の確保は、大変重要な課題となっています。
 介護職員が安心して働くことができるようにするための重要な方策の一つに、カスタマーハラスメントに対する対策があります。

 厚生労働省では、令和3年になり、介護サービス事業者の適切なハラスメント対策を強化する観点から、ハラスメント対策として必要な措置を講ずることを義務づけましたが、あわせて、上記のカスタマーハラスメントについて、その防止のための方針の明確化等の必要な措置を講じることを推奨し、介護現場におけるハラスメント対策マニュアル[PDF形式:4,506KB]を公表しました。
 各事業所においては、上記マニュアルも参考として、しかるべき研修を実施するなどした後、指針を確立し、対策をとることが肝要かと思われます。以下、厚生労働省のウエブサイトのURLを添付します。



 上記3に関し、厚生労働省は、カスタマーハラスメントに対して契約解除を行うためには「正当な理由」(運営基準)が必要であるとし、結果の重大性、再発可能性、解除以外の被害防止方法の有無・可否、契約解除による利用者の不利益の程度等を考慮する必要があると述べています。

 この点に関する関連裁判例として、東京地裁平成27年8月6日判決D1-Law.com(29013291)があります。そこで、裁判所は次のように判示しています。

  •  原告X1は、本来用意しておく食材を用意していないことが少なからずあり、また、食器も洗っていないことがあったなど、被告のサービスの提供に協力的ではなかった上、被告のヘルパー等に対して、一方的に契約外のサービスの提供を要求し、被告のヘルパー等がこれを断ると怒鳴りつけることが度々あり、あるいはサービス責任者を恫喝して被告にその交代を要求するなど原告X1の対応に問題があったため、被告のヘルパー、サービス責任者及び被告が、原告X1への対応に苦慮し、被告は、解約も視野に入れて関係機関と協議していたところ、そのような状況の下で、原告X1は、さらに、被告のサービス責任者であるFに対し、Fの服やかばんの中にも残るほどの量の塩を投げつける暴力行為に及んだものである。
  •  原告X1がFに塩を投げつけた行為は、Fに対する有形力の行使であり、暴行と言わざるを得ないところ、原告X1がそのような行為に及んだ一因としては上記認定のとおり、平成24年6月12日の昼に被告のヘルパーが訪問せず、同月17日の朝にヘルパーが入ることに遅れたことがあり、これらについては関係者の連絡が不十分であった可能性はあるものの(甲16・7頁)、仮にそうであったとしても、冷静に説明を受けた上で対応すべき問題であり、原告X1のFに対する上記暴力行為が正当化されるものとは到底いえない。原告X1は、本来用意しておく食材を用意していないことが少なからずあり、また、食器も洗っていないことがあったなど、被告のサービスの提供に協力的ではなかった上、被告のヘルパー等に対して、一方的に契約外のサービスの提供を要求し、被告のヘルパー等がこれを断ると怒鳴りつけることが度々あり、あるいはサービス責任者を恫喝して被告にその交代を要求するなど原告X1の対応に問題があったため、被告のヘルパー、サービス責任者及び被告が、原告X1への対応に苦慮し、被告は、解約も視野に入れて関係機関と協議していたところ、そのような状況の下で、原告X1は、さらに、被告のサービス責任者であるFに対し、Fの服やかばんの中にも残るほどの量の塩を投げつける暴力行為に及んだものである。原告X1がFに塩を投げつけた行為は、Fに対する有形力の行使であり、暴行と言わざるを得ないところ、原告X1がそのような行為に及んだ一因としては上記認定のとおり、平成24年6月12日の昼に被告のヘルパーが訪問せず、同月17日の朝にヘルパーが入ることに遅れたことがあり、これらについては関係者の連絡が不十分であった可能性はあるものの(甲16・7頁)、仮にそうであったとしても、冷静に説明を受けた上で対応すべき問題であり、原告X1のFに対する上記暴力行為が正当化されるものとは到底いえない。

 以上のとおり、もともと原告X1には、介護サービスを受ける家族として、サービスへの協力や対応に問題があって被告やそのヘルパー等が対応に苦慮し、その信頼関係が失われつつあったところ、さらに原告X1がFに対して上記の暴力行為に及んだものであり、このような経過に照らせば、被告が本件契約によるサービスの提供を継続することは困難であり、本件契約を継続し難いほどの背信事由があったものとして、本件契約に解除事由があるとした被告の判断は相当であったものと認められる。

  •  なお、本件契約は、介護サービスを提供するものであるが、その内容は、週6日、1日1時間の、食事の用意(調理)及びトイレの誘導等に限定されるサービスであり、Bないし原告X1が望めば、直ちに代替の支援を受けることも可能であったところ(証人J、被告代表者)、被告は、関係機関とも協議の上で連携しながら本件解除に及んでいること、
  •  被告は、本件解除前に、ケアマネージャーのKに対し、被告に替わる事業所への引き継ぎを要請したが、Kが既にケアマネージャーの交代を原告X1に打診し、原告X1が強く反発していたため、事業所の引き継ぎを行うことができなかったこと、
  •  原告X1は、本件解除の通知を受けた後、代替のサービスの提供について打診を受けた際も、そのサービスを受ければ被告の主張を認めたことになるとか、裁判で不利になるなどという理由で、他の事業者からBに対する代替のサービスを受けることを優先することなく、通所介護サービスの利用回数を増やし、原告X1が早く帰宅するなどして対応したことからすれば(甲20、原告X1本人、弁論の全趣旨)、Bが直ちに代替のサービスを受ける切迫した必要性が高かったものともいえないこと

などを総合すると、本件解除が無催告であり又は予告期間がないことによって、その効力を制限しなければならないような事情があったとはいえない。