刑事手続の流れについてご説明します。

 刑事手続の流れ
 逮捕勾留など刑事手続の流れについてご説明します。

逮捕および検察官送致

刑事手続の流れ

 被疑者を逮捕した場合,警察は逮捕から48時間以内に被疑者の身柄や事件の関係書類,証拠等を検察庁に送らなければなりません(刑事訴訟法203条1項)。
 その間に被疑者に対する取り調べが行われますが,調書に関しては,実務の実情としては弁解録取書と身上調書が作成される程度となります。

 事件の送致を受けた検察官は,それから24時間以内に,被疑者に弁解の機会を与え,これ以上の身体拘束は必要がないと判断するときは直ちに被疑者を釈放し,被疑者が逃亡するおそれがあるなど身柄を拘束しておく必要があると判断した場合には,裁判所に対し勾留請求を行います(刑事訴訟法205条1項)。

勾留

 勾留請求がされると,裁判官が被疑者に対し質問を行い,被疑者の弁解を聞いたうえで勾留するかどうかを決めます(刑事訴訟法207条1項本文,61条,「起訴前の勾留・被疑者の勾留」と呼ばれます。)。
 裁判官が勾留の必要があると判断した場合には,原則として勾留請求がなされた日から10日間勾留されます(刑事訴訟法208条1項)。

 この期間は拘置所や警察の留置施設に身柄を拘束され,取調べが行われることになります。検察官がこれ以上の身柄拘束は必要ないと判断した場合には,釈放されます。

 10日以内に捜査が終わらない場合には,検察官から勾留延長請求がされ,裁判官が勾留の必要があると判断した場合には,さらに最長で10日間勾留が延長され,取調べが行われることになります(刑事訴訟法208条2項)。検察官がこれ以上の身柄拘束は必要ないと判断した場合には,釈放されます。

 勾留中に起訴された場合,勾留は起訴後も継続するのが一般的です(「起訴後の勾留・被告人の勾留」と呼ばれます。)。
 起訴後の勾留期間は原則として2ヵ月ですが(刑事訴訟法60条2項第1文),その後も逃亡のおそれがあるなど勾留の必要性が認められれば1ヵ月ごとに更新され(刑事訴訟法60条2項第2文),勾留は続くことになります。一方,これ以上の勾留の必要性はないと判断された場合や保釈請求が認められれば、身柄は釈放されます。

在宅事件

 勾留の必要がないと判断された場合には釈放され,普段どおりの自宅での生活にもどることができます。

起訴

 被疑者が勾留されている事件では,通常,被疑者勾留の期間内に,検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするかを決定します(処分保留で釈放してから,起訴・不起訴を決定する場合もあります。)。
 起訴するかどうかを決定する権限は,検察官のみが持っています(刑事訴訟法247条,248条)。

 起訴とは,検察官が裁判所に対し特定の刑事事件について審判を求めることをいいますが,その中には,公判請求および略式命令請求があります。

 公判請求とは,検察官が裁判所に対し,通常の公開の法廷での裁判を求めることをいいます。

 略式命令請求とは,検察官が裁判所に対し,通常の公開の法廷での裁判を経ないで,検察官が提出する証拠のみを審査して百万円以下の罰金又は科料(千円以上一万円未満の金銭的罰則)を科す簡易な裁判を求めることをいいます(刑事訴訟法461条)。この請求をするにはあらかじめ被疑者の同意が必要となります(刑事訴訟法461条の2)。

 一方,不起訴となった場合には釈放されることになります。

裁判

(1)公判請求を受けた裁判所は,期日を指定して(刑事訴訟法273条1項)公開の法廷で(憲法37条1項)裁判を開きます。

  • 裁判では,まず本人確認(人定質問)が行われ(刑事訴訟規則196条),検察官が起訴状を読み上げます(刑事訴訟法291条1項)。その後,裁判官から被告人には黙秘権があることを告げられ(刑事訴訟法291条4項),起訴状に書かれている犯罪事実を認めるかどうかを聞かれます(同)。
  • 次に,検察官が証拠により被告人が有罪であることを立証しようとし,その後弁護人が被告人にとって有利な事情を証拠により立証しようとします。
  • それらが終わったのち,弁護人,検察官,裁判官がそれぞれ被告人に対し尋問を行います。
  • 尋問が終わると,検察官が本事件に対する意見を述べた上で被告人に対する求刑を行い,続いて弁護人が被告人にとっての有利な事情を踏まえながら同じく意見を述べます。
  • 最後に被告人本人が裁判官に対し意見を述べて審理は終わります。
  • 審理を終えてだいたい2,3週間もすれば,判決期日を迎えます。
  • 判決に不服がある場合には,判決を言い渡された日の翌日から14日以内に控訴をすることができます。

(2)略式命令請求を受けた裁判所は,検察官から提出された証拠をもとにその事件が略式命令をするのに相当の事件であるかを考慮し,相当であると判断した場合には,略式命令請求の日から14日以内に百万円以下の罰金又は科料を科します。

 一方,裁判所が略式命令をするのに相当でないと判断した場合は,通常の公開の法廷での裁判手続きに移行させることになります。実際に略式命令を受けた被告人も,これに対して不服がある場合には,その日から14日以内であれば通常の公開の法廷での裁判を請求することができます。

弁護活動の内容

 弁護活動の内容について簡単にご説明します。
 
 弁護活動の内容
 私たちが取り組む主な弁護活動の内容を紹介します。

示談

 弁護人は、被疑者・被告人が犯罪行為自体を争っていない場合(自白している場合)で,被害者がある事件については,被害者との間の示談ができるかを試みることになります。
 示談が成立することには、さまざまなメリットがあります。
 被害者のある事件で、起訴される前に当該事件の被害者(全員)と、示談が成立すれば、不起訴処分となる可能性が高まります。

 親告罪(被害者等からの告訴がないと起訴できない犯罪)では,示談に伴い告訴が取り下げられれば、事件は、不起訴となります。(なお、かつて親告罪であった強制性交等罪,準強制性交等罪、強制わいせつ罪、準強制わいせつ罪は、法改正により、平成29年7月13日から、非親告罪となり、被害者の刑事告訴は起訴の条件ではなくなりました。)

 また,示談した場合は,起訴された場合であっても,被告人にとって有利な事実として扱われ,裁判官に対する印象がよくなり,執行猶予付き判決を得られる可能性が高まります。

 さらに,示談の内容次第では,将来,民事事件において損害賠償請求を受けることを防ぐこともでき,事件に関わった当事者間の紛争を一挙に解決することができます。

執行猶予

 執行猶予とは、判決で刑を言い渡すにあたり、被告人の情状を考慮して、一定期間刑の執行を猶予し、その期間を執行猶予の取消しを受けることなく経過した場合には、刑の言い渡しの効力が失われるという制度です(刑法27条第1項)。
 言い渡される刑は,上限が3年以下の懲役または禁錮,50万円以下の罰金です。これ以上の懲役・禁固・罰金を言い渡そうというときには執行猶予を付することはできません。
 また,執行猶予期間は法律上「1年以上5年以下」と決まっています(刑法25条、27条の2)。
 そこで、懲役3年/執行猶予5年、という組み合わせが法律上もっとも重い執行猶予付判決といえます。
 犯罪の態様や被告人の生活環境などによっては、懲役1年執行猶予4年というのがあったりもします。
 これは裁判所としては執行猶予を付けるかどうかを最後の最後まで決めかねていた場合でしょう。

 一般的には執行猶予がつきそうかどうかは経験によってある程度予測できます。

 例えば傷害事件などでは、

・被害者に被害弁償(治療費・休業損害)をして示談が成立していること、
・前科がない(あっても交通事犯だけであるとか)、
・障害の程度が重くはない(全治1月以内)
だったりすると執行猶予が付く可能性は高いと推測します。

 あるいは

・そもそも身柄事件ではない(在宅事件・逮捕されても警察署などに勾留されなかった)とか、
・容易に保釈がとれた場合

には執行猶予が付く可能性が高いと推測します。

・例えば薬物事犯では、最近は初犯であっても実刑が科せられて執行猶予が付かない場合もあります。
 取り扱った薬物が覚せい剤であって、しかもその量が1g以上になってくると、自己使用だけなのか疑わしくなってきます。
 とくに被告人がその筋の人間と関係があったりすると、裁判所は実刑の言い渡しに傾いてきます。

しかし、微妙な場合というのは少なくありません。

・傷害事件で、被害弁償はしているが示談までは成立していないとか、
・窃盗事件で被害弁償も示談も成立しているが、過去に同種の前科・前歴があるとかになってくると、裁判官のさじ加減で執行猶予が付いたり付かなかったりしてきます。

執行猶予を付けるためには、犯罪の程度や種類、被害の程度や前科などの、弁護人では動かし難い事実も影響しますが、

①被害弁償と示談の成立、
②被告人の今後の監督、
③定職の確保(被告人が無職の場合)、

など、弁護人の努力によって有る程度はなんとかできる事情も影響してきます。特に重要なのは被害者がいる犯罪の場合の示談と、被告人の監督者の確保であり、これは必須の条件と言っていいでしょう

  • 再度の執行猶予

    前に禁錮以上の刑に処せられたことがあった場合でも、その執行を猶予された者が1年以下の懲役または禁錮の言渡しを受け、「情状に特に酌量すべきものがある場合」には、刑の執行が猶予されることがあります。

    これを「再度の執行猶予」と言います。

    ただし、この場合であっても前の執行猶予判決に「保護観察」がついていた場合には再度の執行猶予は許されません。

    この再度の執行猶予が許されるための要件である「情状に特に酌量すべきものがある場合」とは,上記のような通常の「情状」,例えば,被害者と示談できた,といった通常の情状では足りないのです。

    特に同種余罪がある場合,再度の執行猶予判決を取ることは難しいと考えておいた方がいいでしょう。

身柄解放

1.勾留請求を阻止する働きかけ

 これは,弁護人が検察官に対して勾留の理由や必要性がないことを主張し,検察官が裁判所に対して勾留の請求をすることを阻止する働きかけです。

 たとえば,被疑者はすでに罪を認めていて,身体拘束を解いても証拠隠滅のおそれもなく勾留の理由は存在しない,などと主張していくことになります。

2.勾留請求却下の働きかけ

 弁護人が,勾留するかどうかを決定する裁判所に対して,勾留の理由や必要性がないことを主張し,検察官の請求した勾留請求を却下してもらうように働きかける働きかけです。

3.準抗告という手続を利用する方法

 裁判所により許可された勾留の決定に対して不服を申し立てるもので,この場合にも,勾留の理由や必要性がないことを具体的に主張していくことになります。

4.勾留理由開示や勾留の取消しを請求する方法

 勾留理由開示は,勾留されている被疑者・被告人,弁護人その他の一定の利害関係人からの請求に基づいて,公開の法定で,裁判官がいかなる理由で勾留したかを明らかにする手続です。刑事訴訟法82条以下で定められています。
 勾留取消は,もともと,あるいは勾留後の事情の変化により勾留の理由または必要性がなくなった場合や,勾留による身体拘束が不当に長くなった場合に認められるものです。勾留理由開示と勾留取消請求は,これを行う場合には通常セットで,この申立を裁判所に行うことになります。

5.勾留の執行停止の申出を行う方法

 病気の治療のために入院する必要がある場合や,両親や配偶者が死亡または危篤状態となってしまった場合などに,一時的に身柄を解放してもらう手続です。刑事訴訟法95条以下で定められています。

否認事件の弁護活動

 否認事件の場合、弁護人のもっとも基本的な弁護活動は、警察署に足を運び、精神的・肉体的に非常に不安定な立場におかれている被疑者に、接見をして適切な法的なアドバイスをすることです。

 被疑者のご家族の支えも、もちろん重要なサポートになりますが、身柄拘束されている場合、家族でもなかなか面会ができないのが実情です。ほとんどの警察署では、平日の9時30分から16時くらいまでに警察署に出向かなければなりませんし、面会時間も10分程度、また、被疑者一人につき面会できる人数にも限りがあります。また、取り調べをする日には、面会できなかったりします。

 弁護人には、このような制限はなく、夜遅くでも時間制限なしに面会できますので、被疑者の言い分を十分に聴取し、法的なアドバイスをすることができます。

 例えば、被疑者には黙秘権があるということはよく知られていることでしょうが,調書には決して安易に署名捺印してはならないということも重要です。特に自白調書となると,後から自白は嘘だったとひっくり返すことはとても困難です。

 また,取調べの過程に違法な手続がなかったかどうか細めにチェックすることも可能ですし,違法・不当な手段をとらないよう捜査機関に働きかけることも可能です。

 捜査機関は認めれば、罰金で終わりにしてやる、釈放してやると取引を持ちかけてくることもありますが、やっていないことは認める必要はありません。例えば,痴漢事件(迷惑行為防止条例違反)で初犯という場合には、罰金で終わる可能性が高いので、被疑者のおかれた社会的・経済的状況、また、被疑者の精神状態に鑑み、被疑者がどうしても虚偽の自白をしてでも釈放されたいと望まれる場合があります。しかし、被疑事実が真実ではないのなら、心を強く持って否認を続けるべきがやはり原則です。痴漢事件は強制わいせつ罪と境界を接する面があります。逮捕時は、迷惑行為防止条例違反であったとしても、その後の捜査の結果、強制わいせつ罪に公訴事実が変更され、起訴された場合、虚偽の自白によって有罪となる可能性もあるのです。

保釈

    1.  裁判所は,被告人が証拠を隠滅したり,逃亡するおそれがある場合に勾留しますが,勾留はあくまで裁判を進めるための手段ですから,被告人の身体の自由を奪わなくても,他の方法で同じような目的が達せられるのであれば,その方が望ましいわけです。

       そこで刑事訴訟法は,被告人が一定の保証金を納めるのと引換えに,被告人の身柄を釈放し,もし,被告人が裁判中に逃亡したり,裁判所の呼出しに応じなかったり,証拠を隠滅したりした場合には,再びその身柄を拘束するとともに,納められた保証金を取り上げること(没取)ができるように保釈という制度を設けています。

    2.  保釈は,起訴された後に認められるものであるという点に注意が必要です。
    3.  保釈には,請求による場合と裁判所の職権による場合とがあります。 
      (1)権利保釈(刑事訴訟法89条)
    1. 勾留は,被告人の身体の自由に対し大きな制限を加えることになりますから,保釈の請求があれば,裁判所は一定の場合を除いて必ずこれを許さなければならないこととされています。これを権利保釈といいます。
  1.     具体的には,以下の6点のすべてに該当しない場合に当然の権利として認められる保釈のことです。
      1. (a) 死刑

    ,無期又は短期1年以上の懲役,禁錮にあたる罪を犯したものであるとき

    1. (b) 前に死刑,無期又は長期10年を超える懲役,禁錮にあたる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき
    1. (c) 常習として長期3年以上の懲役,禁錮にあたる罪を犯したものであるとき
    1. (d) 罪証隠滅のおそれがあるとき
      (e) 被害者その他事件の関係者やその親族の身体や財産に危害を加えたり,これらの者を畏怖させる行為をするおそれがあるとき
  1.    (f) 被告人の氏名又は住居が分からないとき
  1.  
      (2)裁量保釈(刑事訴訟法90条)
    これらの事由に当たる場合でも,具体的事情によっては,裁判所の判断で保釈を許可することができます。これを裁量保釈といいます。
  1. 保釈の請求は,被告人自身のほか,配偶者,親などの近親者や弁護人からすることができます。
  2. この請求は,起訴があれば,公判が始まる前でも後でも,判決が確定するまではいつでもすることができます。
  3. 保証金の額は,裁判所が,犯罪の軽重,被告人の経済状態,生活環境などの一切の事情を考慮して,その事件で被告人の逃亡や証拠の隠滅を防ぐにはどのくらいの金額を納めさせるのが適当かを判断して決めます。
  4. 保証金は現金で納めるのが原則ですが,裁判所の許可があれば,株券などの有価証券を代わりに納めることもできますし,場合によっては,保証金の一部の納付に代えて,雇い主や親,兄弟などの身元引受人が保証書を差し出すことも認められています。
  5. この保証書を差し出した者は,保釈が取り消されて保証金を没取されることとなった場合には,保証書に記載した金額を納付する義務を負うことになります。
  6. 保証金は,被告人が間違いなく公判に出頭するようにするためのものですから,保釈を取り消されて没取されることがなければ,裁判が終わった後には,その結果が無罪でも有罪でも,納めた人に返還されます。