離婚相談にあたって
離婚相談で最初にお伺いする事項、一番基本となる事項をお話しします。
最初にお伺いする事項
まずお伺いする事項をお話しします。
弁護士は、相談者のお話のさわりを承りつつ、まず<家族関係図>を作成します。
- 相談者の氏名・生年月日、職業、収入 相手方の氏名・生年月日、職業、収入
- 婚姻届出日、お子さんの有無、名前・生年月日、夫婦別居の有無、別居日、離婚届出日
- 相談者、相手方、お子さんの現在の住所
- 相談者、相手方の実家のご両親・ご兄弟について、お住まいとお仕事等について
- 同居者の構成、グループ分け
- 夫婦宅がマイホームか、借家等か。
- マイホームの場合、土地建物の所有者・住宅ローンの有無、
- 借家等の場合、名義人は誰か。
これらを必要に応じてお伺いした後、「今日はどうされましたか。」と、より深く相談者の抱えている相談事項についてお伺いしていきます。
離婚相談の基本
離婚に関する事項の基本をお話しします。
なお、2026年(令和8年)4月1日から、離婚相談でよく問題となる、親権、養育費、親子交流、財産分与などに関する改正法(改正家族法等)が施行されました。本ページは、改正法に対応して2026年10月18日に全面的に更新しています。改正家族法の全体像は、当事務所のこちらのblogをご覧ください。
離婚相談で問題となる事項
離婚相談という場合、基本的には次の8つの点が問題となります。
1 離婚それ自体(民法763条、770条)
2 子どもの親権(民法819条)、監護権(民法766条)
3 子どもの養育費(民法766条)
4 子どもとの親子交流(民法766条)
5 離婚までの生活費(婚姻費用)請求(民法760条)
6 離婚時、離婚後の財産分与請求(民法768条)
7 離婚時、離婚後の慰謝料請求(民法709条)
例:不貞行為の相手方に対する慰謝料請求
8 離婚時、離婚後の年金分割(厚生年金保険法第3章の2 78条の2~78条の12)
弁護士は、離婚相談という場合、初回相談の間に、相談者のご家庭でどこが問題となっているかを把握するよう努め、その問題ごとに、さらに各論を詰めていきます。
最初から、特に上記項目の中のどこが聞きたいということがある方は、それを明示頂き、詳しくお話し頂けると、短時間にその各論的な実務を詳しく聞くことができます。
正確・迅速な相談回答を得るためのこつ
離婚の際に問題となりうる8つの事項ごとに、「例えば、こういう書類を持参頂けると助かるのですが」というものを書き出してみましょう。
〇 8つの事項共通
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- 戸籍謄本(全部事項記載のもの)
- 住民票謄本(世帯全員のもの)(相談者と相手方のもの)
① 離婚それ自体 …
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- 夫婦関係に生じているトラブルを時系列で整理したもの(パソコンでまとめたものがある場合、リムーバブルディスクやSDカードを持参頂くと便利です。)、この整理した事実を裏付ける証拠がある場合にはそれも。
② 子どもの親権、監護権 …
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- 別居のいきさつ、現在の監護者、子どもさんの通学・通園先、相談者と相手方の現在の日常生活の状況(平日及び休日の平均的な過ごし方)、現在及びこれまでの子どもさんの育児・監護への関わり状況、相談者側・相手方側それぞれの監護援助者などを整理したもの(子どもの意思や、育児ネグレクト、その他の特徴的な事項の把握はヒアリングとこれにともなう証拠確認で行われます。)
③ 子どもの養育費 …
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- 相談者・相手方のそれぞれの現在の職業及び年収の分かる書類(源泉徴収票、所得証明書、申告書、通帳等)
④ 子どもとの親子交流 …
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- ②とほぼ同じ。ヒアリングでの事情把握とこれに伴う証拠収集が基本です。
⑤ 離婚までの生活費(婚姻費用)請求 …
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- ③とほぼ同じ。
⑥ 離婚時、離婚後の財産分与請求 …
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- 書類の収集が特に重要となる相談項目です。
- 不動産:登記全部事項証明書、住宅ローン返済予定明細表、預貯金:通帳(写し)、社内積立・財形・共済:給与明細、生命保険・損害保険:証書(写し)・解約返戻金証明書、株式その他の有価証券(証券会社の取引残高報告書)、退職金証明書(退職金規程)、自動車:車検証(写し)など
⑦ 離婚時、離婚後の慰謝料請求 …
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- ①とほぼ同じ。
- 関連:不貞行為の相手方に対する慰謝料請求
⑧ 離婚時、離婚後の年金分割 …
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- 最初の相談時に必要となるわけではありませんが、年金分割を行うためには、「年金分割のための情報提供通知書」が必要です。最寄りの年金事務所で発行請求手続をします。取り寄せに3~4週間かかります。
夫婦、親子の問題でお悩みの方へ
離婚問題として相談される事柄について、よく質問を受ける事柄などを説明します。
離婚の際に決めるべきこと
離婚の際に決めるべきこと
離婚するときには、色々と決めなければいけないことがあります。具体的には、どのようなことを決めていくのでしょうか。
1 別居後、離婚までの生活費のこと
例えば、別居中で、相手方は正社員、自分はパート社員と収入に差があり、しかも自分が未成熟の子と一緒に暮らしているのに、別居後、相手方から応分の生活費を受け取っていない、という場合があります。このような場合には、夫婦の生活を維持するための費用として、婚姻費用の分担を求めることが考えられます。婚姻費用は、原則として請求した時からしか認められないため、早めの請求が大切です(「婚姻費用」の項をご覧ください)。
2 子どものこと
夫婦の間に未成年の子がいる場合、離婚の際には、親権者を決めなければなりません。2026年(令和8年)4月1日からは、父母の双方を親権者とする「共同親権」と、一方を親権者とする「単独親権」のいずれかを選ぶことになりました(なお、親権者の指定を求める調停・審判を申し立てていれば、親権者が決まる前でも協議離婚の届出は受理されます)。
また、子と離れて暮らす親と子との親子交流の内容や、子と離れて暮らす親が負担する養育費についても、決めておくのが一般的です。共同親権を選んだ場合でも、親子交流や養育費の取決めは必要です。
子どもへの愛情が強い分だけ、親権をどうするのか、親子交流をどのような形で実現していくのかは、離婚の際に争いになりやすい点です(「子どものことについて」の各項をご覧ください)。
3 お金や財産に関すること
夫婦が婚姻中に築いてきた財産をどう分けるかという、財産分与の問題があります。夫婦の一方が外で働いて得た給料であっても、夫婦が協力して得たものとして、原則として2分の1ずつ分けることになります。
また、婚姻期間中の厚生年金の記録を夫婦で分け合う、年金分割の制度もあります。夫婦の一方が専業主婦(主夫)だった場合や、夫婦の収入に差があった場合に、将来の年金の格差を調整することができます。
財産分与と年金分割は、2026年4月1日以降に離婚した場合、離婚から5年以内(それより前の離婚は2年以内)に請求する必要があります。
そのほか、相手方の不貞やDVなどが原因で離婚に至った場合には、離婚慰謝料を請求することも考えられます。
婚姻費用
1 婚姻費用とは
夫婦は、婚姻から生じる費用を、その資産や収入などに応じて分担する義務を負います(民法760条)。夫婦は互いに、自分と同程度の生活を相手にも保障する義務(生活保持義務)を負うと考えられており、別居している場合でも、収入の多い側から収入の少ない側へ、生活費を支払う必要があります。これを婚姻費用といいます。
婚姻費用には、受け取る側の配偶者の生活費と、その配偶者と暮らす子の生活費・教育費が含まれます。養育費が離婚後の子の費用であるのに対し、婚姻費用は、離婚前(別居中)の配偶者と子の生活費の分担と考えると分かりやすいと思います。
2 いつからいつまで支払ってもらえるのか
婚姻費用の分担義務は、理屈の上では別居の時から生じていると考えられます。しかし、そう考えると、別居から何年も経ってから、何年分もの婚姻費用をまとめて請求できることになりかねません。そこで、家庭裁判所の実務では、相手方が任意に支払わない場合、請求した時(調停の申立て時、または内容証明郵便などで請求の意思を明確にした時)から支払義務を認める扱いが一般的です。
そのため、別居後、相手方から十分な生活費を受け取れていない場合は、できるだけ早く請求すること、話し合いが難しければ早めに調停を申し立てることが大切です。
婚姻費用の支払いは、離婚が成立するか、夫婦が再び同居するまで続きます。離婚後は、子の分について養育費として取り決めることになります(本ページ「養育費」の項をご覧ください)。
3 金額はどうやって決めるのか
金額は、まず夫婦の話し合いで決めます。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担の調停を申し立て、調停が成立しなければ、審判で裁判所が金額を定めます。
家庭裁判所では、夫婦双方の収入、子の人数と年齢を当てはめて目安の額を出す「算定表」に基づいて、金額を決めています。
- 養育費・婚姻費用算定表(裁判所ホームページ) 令和元年12月23日に公表された改定標準算定表(令和元年版)です。
夫婦双方の収入を把握するため、源泉徴収票や給与明細、確定申告書などの提出を求められます。相手方が収入資料を出さない場合、改正法により、家庭裁判所が当事者に収入や資産の状況に関する情報の開示を命じることができるようになりました(家事事件手続法152条の2)。
算定表により算定された額が基準とされることが多いですが(最高裁平成18年4月26日決定・判例タイムズ1208号90頁は、算定表による婚姻費用の算定を合理的なものとして是認しました)、算定表は便宜的に作成されたものであって、必ず従わなければならない唯一絶対の基準というわけではありません。例えば、次のような事情は、算定表の額から調整されることがあります。
- 支払う側が、受け取る側の住む自宅の住宅ローンを支払っている場合
- 子が私立学校に通っている場合や、持病の治療費がかかる場合
- 婚姻費用を請求する側が、不貞など別居の原因を作った場合(請求する側の生活費部分が制限され、子の生活費部分に限られることがあります)
考慮してもらいたい事情などあれば、打合せ時に、ご相談ください。
4 婚姻費用が支払われない場合
⑴ 調停調書・審判書・公正証書がある場合
婚姻費用の調停調書や審判書、強制執行認諾文言付きの公正証書があれば、相手方の給与や預貯金を差し押さえることができます。養育費と同様、給与は原則として手取額の2分の1まで、将来の分についても継続して差し押さえることができます。
⑵ 当事者間の合意書しかない場合(先取特権)
改正法により、婚姻費用の毎月の支払いについても、養育費と同様に「一般先取特権」が与えられました(民法306条3号、308条の2)。公正証書や調停調書がなくても、夫婦の間の合意書(先取特権の存在を証する文書)に基づいて、子1人につき月額8万円を上限として、差押えの手続をとることができます。合意書の作り方などは、本ページ「養育費」の項の「5 養育費が支払われない場合」をご覧ください。
⑶ 執行手続の負担軽減(ワンストップ化)
相手方の勤務先が分からない場合でも、財産開示手続や給与債権に関する情報取得手続を申し立てると、反対の意思を示さない限り、判明した給与債権の差押えの申立ても同時にしたものとみなされます(民事執行法167条の17)。
⑷ 過去の未払い分と財産分与
請求する前の期間の婚姻費用や、支払われないまま離婚に至った分については、財産分与の額や方法を定める際の一事情として考慮してもらうことができます(最高裁昭和53年11月14日判決・民集32巻8号1529頁。本ページ「財産分与」の項の「7」もご覧ください)。
婚姻費用に関するQ&A
Q1 まだ同居していますが、生活費を渡してもらえません。婚姻費用を請求できますか。
A 請求できます。婚姻費用の分担義務は、別居している場合に限られません。同居中でも、相手方が十分な生活費を渡さない場合は、話し合いや家庭裁判所の調停で分担を求めることができます。
Q2 DVから逃れるために家を出ました。自分から出て行った場合でも請求できますか。
A 請求できます。DVなどやむを得ない理由で別居した場合に、婚姻費用の請求が制限されることはありません。避難後の生活を安定させるためにも、早めに請求することが大切です(本ページ「DV事件」の項もご覧ください)。
Q3 自分の不貞が原因で別居しました。婚姻費用を請求できますか。
A 別居の原因を作った側(有責配偶者)からの請求については、信義則上、請求する側自身の生活費部分は認められず、同居している子の生活費部分(養育費相当分)に限って認められることがあります。具体的な事情によって判断が分かれますので、ご相談ください。
Q4 相手が家を出て行きましたが、私が住む自宅の住宅ローンは相手が払っています。
A 支払う側が、受け取る側の住居費を住宅ローンの形で負担している場合は、その事情を考慮して、算定表の額から一定額を差し引く調整がされることがあります。調整の方法には幅がありますので、ローンの返済額や名義などの資料を用意してご相談ください。
財産分与
離婚はしたいけれど、離婚後の生活を考えると経済的に不安だ、という悩みはよく聞きます。財産分与は、離婚後の生活の基盤にかかわる大切な問題です。
財産分与とは
結婚する前から持っていた財産や、結婚後でも親から相続したり贈与を受けたりした財産は、その人固有の財産(特有財産)です(民法762条1項)。
これに対し、結婚している間に夫婦が協力して築いた財産は、預金や不動産の名義が夫婦のどちらになっていても、実質的には夫婦の共有財産と考えられます。例えば、夫婦の一方が外で働いて得た給料も、他方の家事や育児の支えがあってこそ得られたものといえるからです。夫婦のどちらに属するか明らかでない財産は、夫婦の共有に属するものと推定されます(同条2項)。
離婚に伴ってこうした財産を清算する方法が、財産分与です(民法768条)。
2026年(令和8年)4月1日施行の改正法は、財産分与の目的を「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため」と明示し、家庭裁判所が考慮すべき事情として、次の事項を条文に掲げました(同条3項)。
- 婚姻中に取得し、または維持した財産の額と、その取得・維持についての各当事者の寄与の程度(清算的要素)
- 婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力・扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業、収入(扶養的要素)
- その他一切の事情
財産分与はいつまで請求できるのか(2年から5年に)
財産分与は、離婚の際に取り決めるのが通常ですが、離婚後に請求することもできます。ただし、話し合いがまとまらず家庭裁判所に調停や審判を申し立てる場合には、期限があります。
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離婚した日 |
家庭裁判所に請求できる期限 |
|---|---|
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2026年3月31日以前 |
離婚の時から2年以内 |
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2026年4月1日以降 |
離婚の時から5年以内 |
期限を過ぎると、家庭裁判所に財産分与を求めることができなくなります。施行日前に離婚した方は、従来どおり2年の期限が適用されますので、特にご注意ください。
1 財産の分け方はどうやって決めるのか(原則2分の1)
財産の分け方は、まず夫婦の話し合いで決めます。話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。離婚訴訟の中で、離婚と一緒に財産分与を求めることもできます。
家庭裁判所の実務では、以前から、婚姻中に築いた財産に対する夫婦の寄与は原則として等しいものとして、2分の1ずつ分ける扱いが定着していました。改正法は、このルールを「各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」と明文化しました(民法768条3項後段)。
ここでいう寄与には、収入を得ることだけでなく、家事や育児への従事といった非経済的な寄与も含まれます。逆に、一方の浪費やギャンブルによって財産が減った場合などは、その事情も考慮されます。
2 預貯金はどの時点の残高で分けるのか
夫婦が同居している場合は、原則として離婚時(財産分与を請求する時点)までに築いた財産を分けます。すでに別居している場合は、原則として別居時の残高を基準にします。別居後にそれぞれが得た収入は、夫婦が協力して得たものとはいえないからです。
また、結婚前から持っていた預金は特有財産ですので、分与の対象から除くのが原則です。ただし、結婚後の入出金で特有財産と共有財産が混ざってしまい、区別できない場合もあります。通帳の記録などで区別を説明できるよう、資料を残しておくことが大切です。
3 退職金も財産分与の対象になるのか
すでに支払われた退職金のうち、婚姻期間(同居期間)に対応する部分は、財産分与の対象になります。
まだ支払われていない将来の退職金については、支給までに相当の期間(10年以上)がある場合、特に私企業では支給の蓋然性が低いとして、財産分与の対象としない見解が従前は有力でした。しかし、最近の実務は、退職金が賃金の後払い的な性質を持つことから、支給が相当先であっても、勤務期間に応じて積み上がっていると考え、婚姻期間に対応する部分を対象財産とする傾向にあります。
4 不動産や株式はどの時点の価格で評価するのか
対象となる財産の範囲は別居時を基準に確定しますが、不動産や株式のように価格が変動する財産の評価額は、原則として分与する時点(裁判であれば審理の最終時点)を基準にします。
住宅ローンが残っている不動産は、時価からローン残高を差し引いて評価するのが一般的です。
5 相手方の財産が分からない場合(財産情報の開示命令)
財産分与では、相手方名義の財産を把握できるかどうかが結果を大きく左右します。
改正法により、家庭裁判所は、財産分与の調停・審判や離婚訴訟の中で、当事者に対し、財産の状況に関する情報の開示を命じることができるようになりました(家事事件手続法152条の2、人事訴訟法34条の3)。正当な理由なく開示しなかったり、虚偽の情報を開示したりした場合には、過料の制裁があります。
別居前に、通帳、保険証券、証券会社の取引報告書、給与明細、住宅ローンの返済予定表など、手元にある資料の写しを確保しておくことも有益です(本ページ「正確・迅速な相談回答を得るためのこつ」の⑥もご覧ください)。
6 借金の方が多い場合や、分ける財産がない場合(扶養的財産分与)
財産分与(清算的財産分与)は、存在する財産を分ける制度です。そのため、プラスの財産から住宅ローンなどの夫婦の債務を差し引いた結果がマイナスになる場合は、原則として清算的な財産分与を求めることはできません。
では、分ける財産がない場合、何も受け取れないのでしょうか。婚姻中に家事や育児を主に担い、仕事をしてこなかった方にとっては、酷な結論になることもあります。相手方に有責行為(不貞やDVなど)があれば慰謝料を請求できますが、そうでなければ慰謝料は認められません。
そこで、離婚後に経済的に自立できるまでの一定期間の生活費を、財産分与(扶養的財産分与)として負担してもらうことができる場合があります。具体的には、次のような事情が認められる場合です。
- 夫婦の一方が家事や子育てを担当していたなどの理由で、十分な収入を得られないこと
- 一定期間の生活費をまかなえるだけの清算的財産分与や慰謝料を得られず、自分の財産も持ち合わせていないこと
- 相手方が従前から働いており、離婚後も一定の収入を得られるか、相当額の財産を有していて、離婚後の生活費として一定額を支払っても生活に支障がないこと
改正法は、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、協力・扶助の状況、各当事者の年齢・心身の状況・職業・収入を考慮事情として明記しました(民法768条3項)。もっとも、扶養的財産分与は、清算的財産分与や慰謝料で保護が十分でない場合に補充的に認められるもので、双方の経済状況を比較して許否・額・方法を判断するという枠組みに、実質的な変更はないと考えられています。
7 未払いの婚姻費用(生活費)は財産分与で考慮されるか
別居中に相手方から生活費(婚姻費用)を受け取っておらず、親兄弟から借金をして生活してきたような場合、その分を財産分与で考慮してもらうことができます。
別居中の生活費は、本来、婚姻費用の分担として請求すべきものですが、最高裁は、過去に支払われなかった婚姻費用を、財産分与の額や方法を定める際の一事情として考慮できるとしています(最高裁昭和53年11月14日判決・民集32巻8号1529頁)。ただし、確実を期すためには、別居後できるだけ早く婚姻費用の分担を請求しておくことが大切です(本ページ「婚姻費用」の項もご覧ください)。
8 財産分与に関する近時の重要裁判例
財産分与に関する近時の重要裁判例については、平田元秀blog-家事事件をご覧ください。
財産分与に関するQ&A
Q1 専業主婦(主夫)で収入がありませんでした。それでも2分の1を受け取れますか。
A 原則として受け取れます。改正法は、財産の取得・維持に対する夫婦の寄与は、異なることが明らかでない限り等しいものとすると定めました。家事や育児も寄与として評価されますので、収入がなかったことだけで割合が下がることはありません。
Q2 離婚から1年以上たちましたが、財産分与を決めていません。まだ請求できますか。
A 2026年4月1日以降に離婚した場合は離婚の時から5年以内、それより前に離婚した場合は2年以内であれば、家庭裁判所に請求できます。施行前の離婚は2年の期限が近づいている可能性がありますので、早めにご相談ください。
Q3 相手方名義の預金や保険がどこにあるか分かりません。
A 家庭裁判所の手続の中で、財産の状況に関する情報の開示命令を求めることができます。また、金融機関に対する調査嘱託などの方法もあります。手元にある通帳や郵便物、確定申告書などの写しが、調査の手がかりになります。
Q4 親から相続した財産や、結婚前の貯金も分けなければなりませんか。
A いいえ。相続や贈与で得た財産、結婚前からの財産は、その人固有の財産(特有財産)であり、原則として財産分与の対象になりません。ただし、特有財産であることは、それを主張する側が資料で説明する必要があります。
Q5 住宅ローンが残っている自宅はどうなりますか。
A 時価からローン残高を差し引いた額がプラスであれば、その額が分与の対象になります。ローン残高の方が大きい場合(オーバーローン)は、その不動産の価値はゼロとして扱われることが多いですが、どちらが住み続けるか、ローンを誰が払うかなどは、個別の事情に応じて検討が必要です。金融機関との関係もありますので、取り決める前にご相談ください。
Q6 相手の不貞が原因で離婚します。慰謝料と財産分与は別に請求できますか。
A はい。慰謝料は相手方の有責行為による精神的苦痛の賠償、財産分与は婚姻中の財産の清算等であり、別のものです。ただし、財産分与の中に慰謝料的な要素を含めて解決することもあるため、合意書や調停条項では、何の名目で支払うのかを明確にしておくことが大切です。
年金分割
1 離婚時の年金分割制度とは
年金分割とは、離婚した場合に、婚姻期間中の厚生年金の記録(標準報酬月額・標準賞与額)を夫婦の間で分割する制度です(厚生年金保険法78条の2以下)。婚姻中に夫婦の一方だけが会社員や公務員として働いていた場合や、夫婦の収入に差があった場合でも、婚姻期間中の厚生年金の記録を分け合うことで、将来受け取る年金の格差を調整することができます。
公務員などの共済年金は、2015年(平成27年)10月の被用者年金の一元化により厚生年金に統合されていますので、公務員の方の記録も同じように分割の対象になります。
誤解されやすい点として、次の2つがあります。
- 相手方が受け取る年金の半額が、そのまま自分の口座に振り込まれる制度ではありません。分割された厚生年金の記録をもとに、自分自身の年金額が計算されます。
- 分割の対象は厚生年金(いわゆる2階部分)の記録だけです。国民年金(老齢基礎年金)は対象になりません。
2 年金分割はいつまで請求できるのか(2年から5年に)
年金分割の請求には期限があります。2026年(令和8年)4月1日から、期限が延長されました。
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離婚した日 |
請求期限 |
|---|---|
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2026年3月31日以前 |
離婚した日の翌日から2年以内 |
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2026年4月1日以降 |
離婚した日の翌日から5年以内 |
2026年3月31日以前に離婚した方には、従来どおり2年の期限が適用されますので、ご注意ください。
このほか、次の点にも注意が必要です。
- 期限内に家庭裁判所に審判などを申し立て、本来の期限が過ぎた後(または期限の直前6か月以内)に審判が確定した場合は、確定日の翌日から6か月以内に限り請求できます。
- 離婚後に相手方が亡くなった場合は、亡くなった日から1か月を過ぎると請求できなくなります。
なお、財産分与の請求期限も、同じく2026年4月1日以降の離婚については5年に延長されています(本ページ「財産分与」の項をご覧ください)。
3 分割の割合はどのように決めるのか
年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2つの制度があります。
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合意分割 |
3号分割 |
|---|---|---|
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対象期間 |
婚姻期間全体の厚生年金記録 |
2008年(平成20年)4月1日以後の、国民年金の第3号被保険者(会社員・公務員の被扶養配偶者)であった期間 |
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分割の割合 |
夫婦の合意または裁判所の決定による(上限は2分の1) |
一律2分の1 |
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相手方の合意 |
必要(合意できなければ家庭裁判所の調停・審判) |
不要 |
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請求できる人 |
夫婦の一方または双方 |
第3号被保険者であった人 |
合意分割の割合は、夫婦の話し合いで決めることができます(分割を受ける側の取り分が2分の1を超えることはできません)。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所が割合を定めます。裁判所は、保険料の納付には夫婦が同等に寄与してきたと考え、原則として2分の1と定めています。長期間別居していた場合でも、特段の事情がない限り、2分の1とされるのが実務です。
なお、合意分割の請求があった場合、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれていれば、3号分割の請求も同時にあったものとみなされます。
4 年金分割の手続はどのように進めるのか
⑴ 情報提供通知書の取得
まず、年金事務所に「年金分割のための情報提供通知書」を請求し、婚姻期間中の厚生年金の記録や、分割の対象となる額の目安を確認します。取り寄せには3~4週間程度かかりますので、離婚の話し合いや調停を始める段階で請求しておくと手続がスムーズです。
⑵ 合意分割の請求
原則として、夫婦双方(またはその代理人)が一緒に年金事務所で改定請求をします。ただし、分割の割合を定めた公正証書(または公証人の認証を受けた私署証書)、調停調書、審判書、判決などがある場合は、一方だけで請求することができます。
⑶ 3号分割の請求
第3号被保険者であった方が、一人で年金事務所に請求できます。相手方の合意や、家庭裁判所の手続は必要ありません。
請求に必要な書類(本人確認書類、基礎年金番号やマイナンバーの分かる書類、婚姻期間を確認できる戸籍謄本など)は、日本年金機構「離婚時の年金分割」でご確認ください。
なお、年金手帳は2022年(令和4年)4月に新規発行が廃止され、基礎年金番号通知書に切り替わっています。
年金分割に関するQ&A
Q1 年金分割をすると、相手の年金の半分を毎月受け取れるのですか。
A いいえ。年金分割で分けるのは、婚姻期間中の厚生年金の記録です。分割を受けた記録をもとに、ご自身の年金額が計算され、ご自身が受給年齢に達したときに、ご自身の年金として支給されます。国民年金(老齢基礎年金)は分割の対象になりません。
Q2 2025年に離婚しましたが、年金分割をしていません。5年以内なら間に合いますか。
A 2026年3月31日以前に離婚した場合、請求期限は従来どおり離婚した日の翌日から2年です。5年への延長は、2026年4月1日以降に離婚した場合に限られます。期限が迫っている可能性がありますので、すぐに年金事務所か弁護士にご相談ください。
Q3 相手が年金分割に応じてくれません。
A 合意分割は、話し合いがまとまらなくても、家庭裁判所に調停や審判を申し立てれば、裁判所が割合を定めます。実務では、原則として2分の1とされています。また、2008年4月以後に第3号被保険者(被扶養配偶者)であった期間については、相手方の同意なしに3号分割を請求できます。
Q4 離婚協議書に「年金分割はしない」と書いてしまいました。
A 合意分割は当事者の合意に基づく制度ですので、分割しない旨の合意が有効とされれば、合意分割を求めることは難しくなります。ただし、3号分割は第3号被保険者であった方が単独で請求できる制度ですので、対象期間があれば請求できると考えられます。合意の経緯なども含めて、ご相談ください。
子どものことについて
離婚する際には、夫婦間の子どものことについても決めるべき事柄があります。
親権 ―― 2026年4月から「共同親権」も選べるようになりました
2026年(令和8年)4月1日から、離婚後も父母の双方を親権者とする「共同親権」を選べるようになりました。それまでは、離婚する際に必ず父母のどちらか一方を親権者に決めなければなりませんでした。改正後は、父母の双方を親権者とするか、一方だけを親権者とするかを選ぶことになります(民法819条1項・2項)。
親権とは
親権とは、未成年の子を育て(監護・教育)、子の財産を管理し、子に代わって契約などの法律行為をする親の権利であり、義務です。改正法は、親権は「子の利益のために」行使しなければならないことを明文化しました(民法818条1項)。親権は親のための権利ではなく、子どものための責任であるという考え方が、より明確になっています。
親の責務 ―― 親権があってもなくても
改正法は、親権の有無や婚姻関係の有無にかかわらず、父母が子に対して負う責務を定めました(民法817条の12)。
- 子の人格を尊重し、年齢や発達の程度に配慮して子を養育すること(同条1項)
- 子が親と同程度の生活を維持できるよう扶養すること(同条1項)
- 子の利益のため、父母が互いに人格を尊重し協力すること(同条2項)
親権者とならなかった親も、養育費を負担する義務は変わりません。
また、父母の一方から他方に対し暴力・暴言、誹謗中傷などがあるときは、この協力義務に違反するものと評価されることがあります。
改正前と改正後の違い
| 場面 | 改正前 | 改正後 |
| 協議離婚 | 協議で父母の一方を親権者と定める | 協議で、父母の双方の共同親権とするか、または一方を親権者と定める |
| 調停・裁判離婚 | 家庭裁判所が一方を親権者と定める | 家庭裁判所が、子の利益の観点から、父母双方の共同親権とするか、または一方を親権者と定める |
| DV・虐待のおそれがある場合 | 特別の規定なし | かならず単独親権となる(民法819条7項) |
| 既に離婚している場合 | 親権者変更の申立により、他の一方を親権者と定める申立が可能 | 親権者変更の申立により、共同親権への変更申立も可能 |
改正法の全体像は、平田元秀blog「改正家族法の概要(令和8年4月1日施行)」で解説しています。
親権者はどのように決まるのか
1 まずは父母の話し合い(協議)
協議離婚をするときは、父母の話し合いで、共同親権とするか単独親権とするか、単独親権の場合はどちらを親権者とするかを決めます(民法819条1項)。決めた内容は離婚届に記載します。
離婚については合意していても、親権者について合意していない場合、家庭裁判所に親権者の指定を求める調停(または審判)を申し立てていれば、協議離婚の届を先に出すことができるようになりました(民法765条1項2号)。この場合、親権者の定めは、離婚後に調停や審判の結果を待つことになります。
2 話し合いがまとまらないとき(調停・審判・裁判)
話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の調停で話し合い、それでもまとまらなければ、審判や離婚訴訟の判決で、家庭裁判所が親権者を定めます(民法819条2項・5項)。
3 家庭裁判所の判断の仕方(民法819条7項)
家庭裁判所は、次の二段階で判断します。
⑴ 第1段階:必ず単独親権としなければならない場合に当たるか
次のような場合には、家庭裁判所は必ず父母の一方を親権者と定めなければなりません。
- 父または母が、子の心身に害悪を及ぼすおそれがあるとき(子への虐待のおそれなど)(1号)
- 父母の一方が他方から身体的暴力や、心身に有害な影響を及ぼす言動(精神的・経済的・性的なDVを含みます)を受けるおそれがあることや、話し合いがまとまらない理由などから、父母が共同して親権を行うことが困難であるとき(2号)
- その他、共同親権とすることで子の利益を害すると認められるとき(1号・2号に準ずる程度の重大な事情が必要と解されています)
⑵ 第2段階:上記に当たらない場合
共同親権とするか単独親権とするかは、子の利益のため、①父母と子との関係(これまでの養育への関わり方、養育費の支払状況、子の心情や意向など)、②父と母との関係(親権を共同で行うのに必要な最低限の意思疎通ができるか)、③その他一切の事情を総合的に考慮して判断されます。
ここで大切なのは、共同親権と単独親権の間に「原則と例外」の関係はないということです。個々の家庭の事情に即して、子の利益の観点から判断されます。
第三者を介せば安定したやり取りができる場合など、父母の間に感情的な対立があることだけで直ちに共同親権が否定されるわけではない点にも注意が必要です。どちらの立場であっても、これまでの経過や現在の関係を具体的な事実と資料で示すことが重要になります。
父母のどちらを親権者・監護者とするか ―― 考慮される事情
単独親権とする場合に父母のどちらを親権者とするか、また共同親権の下で子と主に暮らす親(監護者)をどちらにするかは、どちらにすることが子の利益と福祉により適うかという観点から判断されます。考慮される主な事情は、次のとおりです。
⑴ これまでの監護の実績(主たる監護者)
これまで父母のどちらが主に子の世話(食事、入浴、寝かしつけ、通院、園や学校とのやり取りなど)をしてきたかは、重要な事情です。かつては「幼い子には母親が望ましい」と説明されることがありましたが、現在の実務は、父母の性別ではなく、実際に誰が子と深い関わりを持って養育してきたかを重視しています。
⑵ 現状の尊重(監護の継続性)
子が安定した環境で生活している場合、その環境を変えること(転園・転校、住み慣れた地域からの転居など)は、子にとって負担となるため、慎重に考えられます。もっとも、相手方に無断で子を連れ去って作り出した現状が、そのまま尊重されるわけではありません。
⑶ 子の意思
おおむね10歳前後からは、子が自分の意思を表明する能力があると考えられ、家庭裁判所調査官が面接して子の意向や心情を確認することがあります。子が15歳以上の場合には、家庭裁判所は子の陳述を聴かなければならないとされています(家事事件手続法169条2項、152条2項)。他方、幼い子どもは周囲の影響を受けやすいため、その発言だけで判断されるわけではありません。
⑷ 兄弟姉妹の関係
兄弟姉妹が一緒に育つことは子の人格形成にとって大切だと考えられ、特別の事情がない限り、兄弟姉妹を分けないことが望ましいとされています。
⑸ 監護の能力と環境
親の心身の健康、仕事の状況と子の世話をする時間、住居や生活環境、祖父母など監護を助けてくれる人の有無などが考慮されます。昼間働いている場合には、その間の子の世話をどうするのかが問われます。
⑹ 他方の親と子との関係への姿勢
子が他方の親とも適切な関係を保てるよう配慮できるかどうか(親子交流への姿勢など)も、考慮される事情の一つです。改正法が父母相互の人格尊重・協力義務を定めたこと(民法817条の12第2項)からも、この点は今後一層意識されるものと考えられます。
これらの事情は、ひとつひとつが独立した「要件」ではなく、全体として総合的に判断されるものです。
ご相談の際は、別居に至った経緯や、日常の養育への関わりを時系列で整理したメモをお持ちいただくと、短時間で的確な見通しをお伝えできます。
共同親権になったら ―― 親権の行使のルール
父母双方が親権者である場合、親権は父母が共同して行うのが原則です(民法824条の2第1項本文)。これは離婚後に限らず、婚姻中(別居中を含みます)も同じです。ただし、改正法は、一方の親が単独で親権を行使できる場合を明確にしました。
|
区分 |
具体例 |
根拠 |
|---|---|---|
|
単独で行使できる:監護・教育に関する日常の行為 |
日々の食事や服装、子の身の回りの世話など |
民法824条の2第2項 |
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単独で行使できる:子の利益のため急迫の事情があるとき |
DV・虐待からの避難、緊急の医療など |
同条1項ただし書3号 |
|
共同で決める必要がある |
転居、進学先の決定、心身に重大な影響を与える医療行為、子の財産の管理、子に代わってする身分行為など |
同条1項本文 |
共同で決めるべき事項について父母の意見がまとまらないときは、家庭裁判所に申し立てて、その事項について父母の一方が単独で親権を行使できると定めてもらう手続が新設されました(同条3項)。
監護者の指定・監護の分掌
共同親権とする場合でも、父母の協議や家庭裁判所の判断によって、子と主に暮らして世話をする親(監護者)を定めることができます(民法766条)。監護者と定められた親は、子の監護・教育や居所の指定などを単独で行うことができ、もう一方の親はこれを妨げてはならないとされています(民法824条の3)。
また、「平日の監護は母、教育に関することは父」というように、監護の分担(監護の分掌)を定めることも可能になりました。共同親権を選ぶ場合には、日常の役割分担をあらかじめ具体的に決めておくことが、後の紛争の予防につながります。
共同親権と養育費・親子交流
共同親権となっても、子と主に暮らしていない親の養育費の負担がなくなるわけではありません。親子交流の取決めも、親権の形とは別に、子の利益の観点から定める必要があります。養育費と親子交流については、それぞれの項目をご覧ください。
親権に関するQ&A
Q1 改正後は、共同親権が原則になったのですか。
A いいえ。共同親権と単独親権の間に「原則と例外」の関係はありません。父母の話し合いで決まらない場合、家庭裁判所は、DVや虐待のおそれなど必ず単独親権としなければならない事情がないかをまず確認し、そうした事情がなければ、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮して、子の利益の観点から判断します(民法819条7項)。
Q2 相手からDVを受けています。共同親権を強制されることはありませんか。
A 父母の一方が他方から身体的な暴力や、心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれがあり、共同して親権を行うことが困難な場合には、家庭裁判所は必ず単独親権と定めなければなりません。精神的・経済的・性的なDVも考慮の対象です。診断書、写真、録音、メールやLINEの記録、相談機関への相談記録などが重要な資料になりますので、保管しておいてください。身の安全に関わる場合は、まず警察や配偶者暴力相談支援センターにご相談ください(本ページ「DV事件」の項もご覧ください)。
Q3 共同親権になると、子どもを連れて別居や転居をすることはできないのですか。
A 父母双方が親権者である間(婚姻中も含みます)、子の居所の変更は原則として父母が共同で決めるべき事項です。ただし、DVや虐待から避難する場合など「子の利益のため急迫の事情があるとき」は、一方の親が単独で決めることができます(民法824条の2第1項ただし書3号)。急迫の事情がない場合には、相手方と協議するか、家庭裁判所の手続(同条3項の手続や監護者指定)を利用することになります。具体的な事情によって判断が分かれますので、別居前にご相談ください。
Q4 共同親権の場合、学校の手続や病院の受診のたびに相手の同意が必要ですか。
A 日々の食事や服装、子の身の回りの世話などの「監護・教育に関する日常の行為」は、一方の親が単独で行うことができます(民法824条の2第2項)。緊急の医療も単独で行えます。他方、進学先の決定や心身に重大な影響を与える医療行為など重要な事項は、共同で決める必要があります。どの行為がどちらに当たるかは、法務省の解説資料も参考にしつつ、個別に判断する必要があります。
Q5 離婚届を出す前に親権の話し合いがまとまりません。離婚を先にすることはできますか。
A 家庭裁判所に親権者の指定を求める調停(または審判)を申し立てていれば、親権者が決まっていなくても協議離婚の届出ができるようになりました(民法765条1項2号)。ただし、その後の手続や子の生活への影響を考えると、離婚の時期と親権の決め方は一緒に検討することをお勧めします。
Q6 改正前に離婚して単独親権になっています。今から共同親権に変更できますか。
A 改正法の施行前に離婚した方も、子の利益のため必要があるときは、家庭裁判所に親権者変更を申し立て、共同親権への変更を求めることができます(民法819条6項)。親権者の変更は、必ず家庭裁判所の手続(調停・審判)による必要があり、父母の合意だけで戸籍の届出をすることはできません。家庭裁判所は、親権者を定めた当時の協議の経過(DVなどにより対等な話し合いができなかったかどうか等)やその後の事情の変化も考慮して判断します(同条8項)。
Q7 共同親権になったら、養育費は払わなくてよいのですか。
A いいえ。親権の有無や形にかかわらず、父母は子を扶養する義務を負います(民法817条の12第1項)。子と主に暮らしていない親は、共同親権であっても養育費を負担します。
Q8 子どもの意見は聞いてもらえますか。
A 家庭裁判所は、子の年齢や発達の程度に応じて、家庭裁判所調査官による面接などで子の意向や心情を確認します。子が15歳以上の場合には、親権者の指定や変更の際に子の陳述を聴かなければならないとされています。改正法も、父母は子の人格を尊重し、年齢や発達の程度に配慮して養育しなければならないと定めています(民法817条の12第1項)。
養育費
父母は、親権の有無や婚姻関係の有無にかかわらず、子が自分と同程度の生活を維持できるよう扶養する義務を負います(民法817条の12第1項)。そのため、親権者とならなかった親はもちろん、共同親権となった場合でも、子と主に暮らしていない親(非監護親)は養育費を負担します。
2026年(令和8年)4月1日施行の改正法により、養育費については、取決めがないまま離婚した場合の「法定養育費」や、支払われない場合に差押えをしやすくする「先取特権」など、支払いを確保するための制度が新しくなりました。
1 養育費の金額はどのように決めるのか
金額は、まず父母の話し合いで決めます。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判で決めることになります。
家庭裁判所では、支払う側と受け取る側の双方の収入、子の人数と年齢を当てはめて目安の額を出す「算定表」を参考に、金額を決めています。算定表は、裁判所のホームページで公開されています。
- 養育費・婚姻費用算定表(裁判所ホームページ) 令和元年12月23日に公表された改定標準算定表(令和元年版)です。
裁判所では、算定表により算定された額が基準とされることが多いですが(最高裁は、平成18年4月26日の決定で、算定表によって婚姻費用を算定した原審の判断について、その算定方式が合理的なものであって是認することができるとしました。判例タイムズ1208号90頁参照)、算定表は便宜的に作成されたものであって、必ず従わなければならない唯一絶対の基準というわけではありません。私立学校の学費や持病の治療費など、考慮してもらいたい事情があれば、弁護士にご相談ください。
双方の収入を把握するため、源泉徴収票や給与明細、確定申告書などの提出を求められます。
相手方が収入資料を出さない場合、改正法により、家庭裁判所が当事者に収入や資産の状況に関する情報の開示を命じることができるようになりました(家事事件手続法152条の2、人事訴訟法34条の3)。
2 養育費は子どもが何歳になるまで請求できるのか
養育費は、経済的に自立していない子(未成熟子)のための費用です。
2022年(令和4年)4月1日から成年年齢は18歳に引き下げられましたが、それによって養育費の終期が当然に18歳になるわけではありません。裁判所の実務では、現在も原則として20歳までとする取扱いが一般的です(算定表の基礎となった令和元年の司法研究も、成年年齢の引下げが直ちに養育費の終期に影響するものではないとしています)。
また、成年年齢の引下げ前に「子が成年に達するまで」と取り決めた場合は、20歳までの意味と解されています。
大学等への進学が予定されている場合には、話し合いにより、例えば「大学を卒業する月まで」と定めることも可能です。後の争いを避けるため、終期は「○年○月まで」「満22歳に達した後の最初の3月まで」のように、具体的に定めておくことをお勧めします。
なお、後で説明する「法定養育費」の終期は、子が18歳に達する日までとされています。法定養育費はあくまで取決めまでの暫定的な制度ですので、20歳までなど通常の養育費の取決めを別に行うことが大切です。
3 一度決めた養育費は変更できないのか
養育費は、いったん取り決めた後でも、父母の収入の大きな変化、再婚や新たな子の誕生による扶養家族の増加など、取り決めた当時に予測できなかった事情の変更があれば、増額や減額を求めることができます。まずは父母で話し合い、まとまらない場合は、家庭裁判所に養育費の増額(減額)を求める調停・審判を申し立てることができます(民法766条3項)。
変更後の額は、調停の申立てなど請求した時以降の分から適用されることが多いです。事情が変わったと感じたら、早めに相手方に申し入れたり、調停を申し立てたりすることが重要です。
4 養育費を決めないまま離婚した場合(法定養育費)
2026年4月1日以降に、養育費の取決めをしないまま離婚した場合には、離婚の時から引き続き子の監護を主として行っている親は、他方の親に対し、取決めがされるまでの間、法律で定められた一定額の養育費(法定養育費)を請求することができます(民法766条の3)。
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項目 |
内容 |
|---|---|
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金額 |
子1人につき月額2万円(法務省令) |
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対象 |
2026年4月1日以降に、養育費の取決めをしないまま離婚した場合(協議離婚のほか、裁判離婚や認知の場合にも準用) |
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始期 |
離婚の日 |
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終期 |
①父母が養育費を取り決めた日、②養育費の審判が確定した日、③子が18歳に達した日のうち、いずれか早い日 |
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支払期 |
毎月末 |
法定養育費は、取決めがされるまでの暫定的・補充的な制度です。金額は一律で、双方の収入に応じた算定表の額よりも低いことが多いため、法定養育費を受け取れる場合でも、できるだけ早く、算定表に基づく適正な額を話し合いや調停で取り決めることが大切です。
支払う側に支払能力がない場合には、その全部または一部の支払いを拒むことができ、家庭裁判所が養育費の事件の中で支払いの免除や猶予を定めることもあります。
2026年3月31日以前に離婚した場合は、法定養育費の対象になりません。この場合は、従来どおり、話し合いや調停・審判で養育費を取り決める必要があります。
5 養育費が支払われない場合
⑴ 調停調書・審判書・公正証書がある場合
家庭裁判所の調停調書や審判書、強制執行認諾文言付きの公正証書(執行証書)があれば、相手方の給与や預貯金を差し押さえることができます。養育費の場合、給与は原則として手取額の2分の1まで差し押さえることができ、一度の申立てで将来の分についても継続して差し押さえることができます。家庭裁判所の履行勧告の制度もあります。
⑵ 当事者間の合意書しかない場合(先取特権)
改正法により、養育費や婚姻費用(いずれも毎月の定期金)の請求権に、「一般先取特権」という優先権が与えられました(民法306条3号、308条の2)。これにより、公正証書や調停調書がなくても、父母の間で取り決めた合意書(先取特権の存在を証する文書)に基づいて、差押えの手続をとることができるようになりました。
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項目 |
内容 |
|---|---|
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対象 |
養育費(法定養育費を含む)と婚姻費用の、毎月の定期金 |
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上限額 |
子1人につき月額8万円(法務省令) |
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必要な書面 |
父母の間の合意書など、先取特権の存在を証する文書 |
合意書には、当事者と子の氏名、養育費の額、支払期間(始期・終期)、支払時期、支払方法を明確に記載し、本人が作成したことを証明しやすいよう、実印での押印と印鑑登録証明書の添付をしておくことをお勧めします。
また、月額8万円を超える部分を差し押さえるには、従来どおり調停調書や公正証書などが必要です。
2026年4月1日より前に取り決めた養育費についても、同日以後に支払期が来る分には、先取特権が適用されます。
⑶ 執行手続の負担軽減(ワンストップ化)
養育費の差押えの前提として、相手方の勤務先が分からない場合には、財産開示手続や、市町村などから給与の支払元の情報を取得する手続を利用します。
改正法により、財産開示手続や給与債権に関する情報取得手続を申し立てると、反対の意思を示さない限り、判明した給与債権の差押えの申立ても同時にしたものとみなされるようになりました(民事執行法167条の17)。これにより、1回の申立てで、相手方の勤務先の調査から給与の差押えまでを連続して進められます。
なお、この「みなし申立て」の対象は給与債権に限られ、預貯金や不動産は対象外です。
養育費に関するQ&A
Q1 共同親権になれば、養育費は払わなくてよいのですか。
A いいえ。父母は親権の有無や形にかかわらず子を扶養する義務を負いますので、子と主に暮らしていない親は、共同親権であっても養育費を負担します。
Q2 養育費を決めずに離婚してしまいました。今からでも請求できますか。
A 請求できます。話し合いや家庭裁判所の調停・審判で取り決めることができます。2026年4月1日以降の離婚であれば、取決めまでの間、子1人につき月額2万円の法定養育費を請求することもできます。ただし、法定養育費は暫定的な制度で、算定表の額より低いことが多いので、早めに適正な額を取り決めることをお勧めします。
Q3 口約束で養育費を決めましたが、支払いが止まりました。
A 口約束だけでは、強制執行や先取特権に基づく差押えは困難です。改めて、家庭裁判所に養育費の調停を申し立て、調停調書や審判書を得ることをお勧めします。これから取り決める場合は、公正証書(執行証書)にするか、少なくとも先取特権の要件を満たす合意書を作成しておくと安心です。
Q4 相手が勤務先を教えてくれません。差押えはできますか。
A 調停調書・公正証書などの債務名義や、先取特権を証する合意書があれば、財産開示手続や、市町村などから勤務先の情報を取得する手続を利用できます。改正法により、これらの手続から給与の差押えまでを1回の申立てで連続して進められるようになりました。
Q5 養育費を払ってもらえないので、子どもを相手に会わせなくてもよいですか。
A 養育費と親子交流は別の問題と考えられており、養育費の不払いを理由に親子交流を拒むことはできません。逆に、親子交流が実施されないことを理由に、養育費の支払いを拒むこともできません。養育費の不払いには、差押えなどの手続で対応してください。
Q6 相手が再婚しました。養育費は減らされてしまうのですか。
A 支払う側が再婚して扶養家族が増えた場合や、受け取る側の再婚相手が子と養子縁組をした場合などは、事情の変更として減額が認められることがあります。ただし、自動的に減るわけではなく、話し合いか家庭裁判所の調停・審判で変更する必要があります。
具体的な事情によって結論が変わりますので、ご相談ください。
親子交流
1 親子交流とは
子と離れて暮らしている親が、子と会ったり、電話やビデオ通話、手紙などで交流したりすることを「親子交流」といいます(以前は「面会交流」と呼ばれていました)。直接会う方法(直接交流)のほか、手紙や写真、プレゼントのやり取りなどの方法(間接交流)もあります。
父母が離婚する場合、親子交流は、父母の協議で定めることとされ、その際には子の利益を最も優先して考慮しなければならないとされています(民法766条1項)。親子交流は、子が離れて暮らす親とも適切な関係を保ち、健やかに成長するためのものであり、親の立場からではなく、子の立場から考えることが基本です。
親子交流について、夫婦で話し合いをしたり、裁判所の調停や審判を利用したりするときには、あらかじめ、裁判所がWebサイトで公開している動画「子供にとって望ましい話し合いとなるために」(基本説明編/子どもの年代別説明編)を視聴しておくのがセオリーです。家庭の事件に携わる弁護士や調停委員からも高く評価されている、とてもよくできた動画ですので、まずこちらを視聴してから、親子交流の問題を考えるようにすることをお勧めします。
2 親子交流の決め方
親子交流の頻度(月1回など)、方法(直接交流・間接交流)、時間、場所、子の受渡しの方法、連絡の取り方などは、まず父母の話し合いで決めます。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に親子交流の調停を申し立て、調停が成立しなければ、審判で裁判所が定めます。
調停・審判中の試行的実施
改正法により、家庭裁判所は、調停や審判の途中で、事実の調査のために必要があると認めるときは、子の心身の状態に照らして相当でない事情がない限り、親子交流を試行的に実施するよう促すことができるようになりました(家事事件手続法152条の3)。裁判所は、交流の方法、日時・場所、家庭裁判所調査官などの立会いの有無、子の心身に有害な影響を与える言動の禁止などの条件を定めることができ、実施後には結果の報告を求めることができます。
これまで実務で行われてきた「試行的面会交流」に法的な根拠が与えられたものです。試行の様子は、最終的な取決めの内容を考える上での重要な資料になります。
3 離婚前の別居中の親子交流
離婚前に夫婦が別居している場合の親子交流についても、改正法は、父母の協議で定め、協議が調わないときは家庭裁判所が定めること、その際には子の利益を最も優先して考慮することを明文化しました(民法817条の13)。これは、従来から家庭裁判所で行われてきた運用を明確にしたもので、判断の在り方が実質的に変わったわけではありません。
4 祖父母など父母以外の親族と子との交流
改正法により、家庭裁判所は、子の利益のため特に必要があると認めるときは、祖父母など父母以外の親族と子との交流を定めることができるようになりました(民法766条の2)。ただし、家庭裁判所に申し立てることができる人は、次のように限られています。
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申し立てることができる人 |
要件 |
|---|---|
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父または母 |
特になし |
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子の祖父母、兄弟姉妹 |
父母の死亡や行方不明などにより、父母による申立てが期待しにくいこと |
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それ以外の親族 |
上記に加え、過去にその子を監護していたこと |
また、「子の利益のため特に必要がある」といえるためには、その親族と子との間に、親子関係に準じるような親密な関係が形成されていることが必要と考えられています。
5 親子交流が制限される場合
親子交流は子の利益のためのものですので、交流することがかえって子の利益を害する場合には、交流が認められなかったり、方法が制限されたりします。例えば、次のような場合です。
- 子に対する虐待のおそれがある場合
- 父母の間にDVがあり、交流の場面で子や子と暮らす親の安全が確保できない場合
- 子を連れ去るおそれがある場合
- 子が、年齢や発達の程度に照らして、自分の意思として交流を強く拒んでいる場合
このような場合でも、直ちに交流がすべて否定されるとは限らず、手紙や写真の送付などの間接交流に限ったり、第三者機関の支援(付添い型・受渡し型など)を利用したりする方法がとられることがあります。DVがある場合については、本ページ「DV事件」の項もご覧ください。
6 養育費が支払われない場合の親子交流
心情として理解できる部分はあっても、養育費の問題と親子交流の問題は別の問題と考えられています。ですから、養育費が滞っていることを理由に親子交流を拒むことはできず、養育費の支払いを親子交流の条件とすることも認められません。逆に、親子交流が実施されないことを理由に養育費の支払いを拒むこともできません。養育費の不払いには、差押えなどの手続で対応します(本ページ「養育費」の項をご覧ください)。
7 取り決めた親子交流が守られない場合
調停や審判で定めた親子交流が実施されない場合は、家庭裁判所に履行勧告を申し出ることができます。また、交流の日時・頻度、時間、子の引渡しの方法などが具体的に特定されている場合には、実施しない親に対し、不履行1回につき一定額の支払いを命じる「間接強制」が認められることがあります(最高裁平成25年3月28日決定・民集67巻3号864頁)。
後の紛争を防ぐためにも、取決めの際には、頻度や受渡しの方法などをできるだけ具体的に定めておくことが大切です。もっとも、取決めの内容は、子の成長や生活の変化に応じて、話し合いや調停で見直すこともできます。
親子交流に関するQ&A
Q1 相手とは顔も合わせたくありません。子どもを会わせないことはできますか。
A 父母の感情的な対立があることだけで、親子交流を拒むことは難しいと考えた方がよいでしょう。親子交流は子の利益のためのものだからです。ただ、直接顔を合わせずに済むよう、第三者機関に子の受渡しを依頼したり、ビデオ通話などの方法を取り入れたりする工夫ができます。一方、虐待やDVのおそれがある場合は、交流の制限や禁止を求めることができます。
Q2 子どもが「会いたくない」と言っています。
A 子の意思は、その年齢や発達の程度に応じて尊重されます。おおむね10歳前後からは、子の意思が重視される傾向にあり、家庭裁判所調査官が子と面接して意向や心情を確認することもあります。ただし、子の言葉の背景に、一緒に暮らす親への遠慮や影響がないかなども含めて、慎重に判断されます。
Q3 離婚した相手の親(子の祖父母)から、孫に会わせてほしいと言われています。
A 祖父母との交流も、まずは話し合いで決めることになります。改正法により、子の利益のため特に必要がある場合には、家庭裁判所が祖父母と子との交流を定めることができるようになりましたが、祖父母自身が申し立てることができるのは、父母が亡くなっているなど、父母による申立てが期待しにくい場合に限られます。
Q4 別居中ですが、相手が子どもに会わせてくれません。離婚前でも親子交流を求められますか。
A 求められます。離婚前の別居中であっても、父母の協議で定め、まとまらなければ家庭裁判所の調停・審判で定めることができます(民法817条の13)。調停の中で、試行的に交流を実施することもあります。
Q5 調停で決めた親子交流を、相手が守ってくれません。
A まずは家庭裁判所の履行勧告を利用することが考えられます。取決めの内容が具体的に特定されていれば、間接強制を申し立てることもできます。ただし、子の年齢や状況の変化によって、取決めの見直しが必要になっている場合もありますので、ご相談ください。
離婚に関するその他の問題
離婚事件においてよく質問を受ける問題について取り上げます。
離婚事由
民法が規定する裁判上の離婚事由を説明します。
民法770条(裁判上の離婚事由)
民法は、①配偶者の不貞行為、②配偶者の悪意の遺棄、③配偶者の生死が3年以上不明なとき、④その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときに、裁判上の離婚請求を認めています(同条1項1号~4号)。
なお、2026年(令和8年)4月1日施行の改正前は、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」も独立の離婚事由とされていましたが(旧4号)、改正により削除されました。これに伴い、従前の5号(その他婚姻を継続し難い重大な事由)が4号となっています。詳しくは下記「配偶者の精神疾患と離婚(旧4号の削除)」をご覧ください。
また、裁判所は、①~③の事由がある場合でも、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる、とされています(同条2項)。
①不貞行為(1項1号)
1.不貞行為とは
不貞行為とは、配偶者のある者が配偶者外の者と自由な意思のもとに性的関係を結ぶことです(最高裁昭和48年11月15日判決・判例タイムズ303号141頁)。
不貞行為は、不貞行為の相手方と合意の上であったか否かということは関係ありません。相手方と合意があった場合(いわゆる不倫行為や売春行為)も、相手方の同意がない場合(不同意性交等)も、不貞行為といえます。
*また、一時的なものか継続的なものかも問いません。
*もとより、既婚者から不同意性交等の加害行為を受けた被害者は、その既婚者のした不貞行為の共同不法行為者とはなりません。
(注)2023年(令和5年)7月13日施行の刑法改正により、強制性交等罪と準強制性交等罪は統合され、「不同意性交等罪」(刑法177条)に改められました。
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- 同性との性的関係と不貞行為の論点
- 不貞行為における「性的関係」の理解について、「姦通」(性器の挿入を伴う性行為)、あるいは姦通を推測させる性的行為のみを指すという立場があります。
この立場は異性同士の性的行為を民法770条1項1号の「不貞行為」と見る立場です。
この立場でも、同性との性的関係は、1項1号の「不貞行為」にはならないとしても、民法770条1項4号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるものとして解釈運用することにより、離婚や慰謝料請求は認められますので、実務上大差のない結論が得られます。
名古屋地裁昭和47年2月29日判決・判例時報670号77頁はこのような解釈運用がなされた一例です。 - もっとも、不貞行為について、異性と性的関係を持つことだけではなく、同性と性的関係を持つことも含まれると理解する裁判実務は、随分以前から存在しました。東京地裁平成16年4月7日LLI/DB判例秘書登載は、その一例です。この裁判例は、妻が、3人の女性と同性愛の関係にあった事実が認定されている事案で、「民法770条1項1号にいう『不貞』とは、性別の異なる相手方と性的関係を持つことだけではなく、性別の同じ相手方と性的関係を持つことも含まれるというべきであるから、被告の行為は、夫である原告との関係では、上記『不貞』に該当するというべきである。」との解釈が示されています。
- 不貞行為における「性的関係」の理解について、「姦通」(性器の挿入を伴う性行為)、あるいは姦通を推測させる性的行為のみを指すという立場があります。
- 同性との性的関係と不貞行為の論点
2.宥恕(ゆうじょ)
一方が相手方の不貞行為を知ったうえでこれを許したような場合(宥恕)には、離婚原因としての不貞行為にはならないと考えられています。もっとも宥恕がされたかどうかについては、慎重に判断しなければなりません。
【裁判例】東京高裁平成4年12月24日判決・判例時報1446号65頁
【判示事項】 妻に不貞行為があったが、夫がこれを宥恕し、通常の夫婦関係に戻り、その後破綻するに至った場合に、妻の離婚請求が許されるとした事例
3.不貞行為の立証
不貞行為の立証については、相手方が認めている場合や不貞行為の現場の写真・ビデオ等がある場合のほか、メールやSNSの内容等により、性的に密接な交際をしていることが明らかで、性的関係への言及がある様な場合には、立証できる場合が多いと思われます。
仮に、不貞行為の立証まではできない場合であって、そのため民法770条1項1号所定の不貞行為該当性は認められない場合でも、そこで認められる性的に密接な交際関係が、同条1項4号の「婚姻を継続し難い重大な事由」、すなわち婚姻関係の破綻の原因及び事実として認められ、離婚請求が許される例は普通にみられます。
4.不貞行為に基づく慰謝料・離婚慰謝料
不貞行為は、離婚事由となるだけではなく、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害したことになります。したがって、不法行為に基づく損害賠償義務(民法709条)が発生します。
もっとも、不貞行為がされたとしても、その時点において、すでに婚姻関係が破綻していた場合には、婚姻共同生活の平和を破壊したということにはなりません。
したがって、損害賠償義務も負いません。
【判 例】 最高裁(3小)平成8年3月26日判決 最高裁判所民事判例集50巻4号993頁
【判示事項】 婚姻関係が既に破綻している夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の有無
【判決要旨】 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わない。
不貞行為の相手方(第三者)も、不貞行為をした婚姻当事者と共同して不法行為をしたことになりますので、同じく損害賠償義務(民法709条、719条1項)を負います。
不貞行為に基づく慰謝料の遅延損害金の起算点は、不法行為(不貞行為)の時です。
これに対し、不貞行為を離婚理由とする離婚慰謝料の起算点は、離婚の成立した時であり、裁判離婚であれば、離婚判決が確定したときです。
この点については、近時、最高裁判決がでて(最高裁令和4年1月28日判決)、これまでの上記の裁判実務を肯定しました。
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- 離婚に伴う慰謝料請求は、夫婦の一方が、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり、このような損害は、離婚が成立して初めて評価されるものであるから、その請求権は、当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。そして、不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく、遅滞に陥るものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。したがって、離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は、離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
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夫婦の一方が、他方配偶者の不貞行為の相手方(第三者)に対して、離婚慰謝料を請求できるかについては、平田元秀blog-「離婚慰謝料は不貞の相手方に対し請求できない」最高裁平成31年2月19日判決-を参照下さい。
②配偶者の悪意の遺棄(1項2号)
悪意の遺棄とは、婚姻倫理からみて非難される態様で、夫婦の義務である同居、協力、扶助義務に違反する行為をすることです。
配偶者の一方が理由もなく、他方配偶者や子どもを放置して、自宅を出て別居を続けたり、収入がありながら、婚姻費用の分担をしないような場合です。
なお、配偶者が仕事等の都合で、同居することなく別居を続けているような場合には、それだけでは、悪意の遺棄とはいえません。
③3年以上の生死不明(1項3号)
配偶者が3年以上、その生死が不明であるような客観状況が継続する場合です。
実際に生死不明であることは問いません。
こうした場合には、婚姻関係を継続する意味がありませんので、離婚原因とされています。
配偶者の精神疾患と離婚(旧4号の削除)
改正前の民法770条1項4号は、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」を独立の離婚事由としていました。2026年(令和8年)4月1日施行の改正により、この規定は削除されました。
削除の背景には、次の2点があります。
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- 2022年9月、国連の障害者権利委員会が日本政府に対し、この規定は障害者に対する差別的な規定であるとして、削除を勧告したこと
- わが国の裁判実務では、すでに旧4号だけで離婚を認めるのではなく、配偶者の精神疾患の状況を、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(旧5号、現4号)の判断の一事情として考慮する運用がされていたこと
旧4号の下でも、「配偶者に精神疾患があること」だけで離婚が認められるということはありませんでした。改正後は、精神疾患の状況、夫婦間の精神的交流の有無、それまでの看護や療養への協力の状況、別居の期間などの事情を総合的にみて、婚姻関係が破綻し修復が困難であるといえる場合には、新4号の問題として離婚が認められる余地があります。
旧4号の下で、最高裁は、病気の配偶者の今後の療養や生活について、できる限りの具体的な方途を講じ、ある程度その見込みがついた上でなければ、離婚を認めるのは相当でないとしていました(最高裁昭和33年7月25日判決・民集12巻12号1823頁。具体的な方途が講じられているとして離婚を認めた例として、最高裁昭和45年11月24日判決・民集24巻12号1943頁)。病気になったことに責任のない配偶者が、離婚によって療養や生活の支えを失うことのないよう配慮するという考え方は、新4号の判断や、離婚に伴う財産分与(扶養的財産分与)の場面でも参考にされるものと考えられます。
④その他婚姻を継続し難い重大な事由(1項4号)
すべての事情を総合してみても、到底円満な夫婦生活の継続又は回復を期待することができず、婚姻関係が破綻状態になっているといわざるを得ない場合をいいます。
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- 婚姻の当事者双方が婚姻を継続する意思がないことと、
- 婚姻共同生活の修復が著しく困難であること
のいずれかが認められれば、これに該当するといえます。
実際に事由の有無が争われるのは、
ⅰが形式的には認められない(どちらかが離婚に反対している)場合に、
ⅱの婚姻共同生活の修復が客観的に見て著しく困難な状況になっているといえるかどうかをめぐってです。
具体的に問題となるのは、次のとおりです。
ア 長期間の別居
夫婦が長期間別居していれば、婚姻関係が破綻状態にあると考えられます。したがって、別居期間は、重要な要素です(破綻主義的離婚事由)。
法務省では、「夫婦が5年以上継続して婚姻の本旨に反する別居をしているとき」を離婚事由とする、ということが検討されたことがあります(平成8年2月26日法制審議会「民法の一部を改正する法律案要綱」第七の一(エ))。
イ その他の婚姻を継続し難い重大な理由
別居期間のほかに、民法の教科書で「婚姻を継続し難い重大な事由」の要素として例示されるのは、次のような要素です。
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- 暴行・虐待(有責主義的離婚要素)
- 同居に堪えないような重大な侮辱(有責主義的離婚要素)
- 犯罪行為・服役
- 勤労意欲の欠如・浪費癖・借財等
- 性生活の不一致(性的不能、正当な理由のない性行為拒否、異常な性行為の要求など)
- 過度の宗教活動
- 親族との不和
- 性格の不一致
多くは、他の要素とあいまっての総合判断です。
法律上の離婚事由となるためには、婚姻関係が客観的に破たん状態にあることが必要ですから、特段の事情もないまま、一方配偶者が他方との婚姻生活を続けたくないと主張するだけでは、4号の離婚事由があるとはいえません。
4号(旧5号)関連裁判例(大阪高裁平成21年)
【裁判例】大阪高裁平成21年5月26日判決 家裁月報62巻4号85頁
【表 題】別居期間が1年余りの夫婦について婚姻を継続し難い重大な事由があるとされた事例
【要 旨】
| 控訴人(夫)は、被控訴人(妻)と約18年にわたり大きな波風の立たないまま婚姻生活を送ってきていたが、 80歳に達して病気がちとなった控訴人がかつてのような生活力を失って生活費を減じたのと時期を合わせるごとく、 被控訴人が、日常正活の上で控訴人を様々な形で軽んじるようになった上、 長年仏壇に祀っていた控訴人の先妻の位牌を無断で親戚に送り付けたり、 控訴人の青春時代からのかけがえない思い出の品々を勝手に焼却処分したりしたことなどから、 被控訴人と別居するようになったものであるところ、 こうした被控訴人による自制の薄れた行為は、 控訴人の人生に対する配慮を欠いた行為であって、控訴人の人生の中でも大きな屈辱的出来事として心情を深く傷つけるものであったこと、 それにもかかわらず、被控訴人に控訴人が受けた精神的打撃を理解しようとする姿勢に欠けていること などにかんがみると、 控訴人と被控訴人の婚姻関係は修復困難な状態に至っており、 別居期間が1年余りであることなどを考慮しても、 控訴人と被控訴人との間には婚姻を継続し難い重大な事由があると認めるのが相当である。 |
【コメント】
- この裁判例は、民法770条1項4号(判決当時は5号)の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」の解釈としては、別居以外の破綻事情として掲げられることのある「同居に堪えないような重大な侮辱」の一例として整理することも可能ですが、そもそも、4号は、別居開始に至った事情や経過と別居後の経過とがあいまって、婚姻関係が修復困難な状態に至っているかどうかを常識に従って判断することを許す規定です。
- 一般的破綻主義を採用した「4号」にあたる事由として例示される別居及び別居期間やその他の事由は、要件的に捉えるべきものではありません。
それらは「例示」であって、要するに、婚姻関係が修復困難な状態に至っていると判断された裁判例を整理してみると、そのような事由を理由にしている場合が多いというだけのことです。 - 裁判例を整理して参考事情を提供するのは思考経済に資するものですが、もともと参考事情や例示に過ぎなかった「教科書に出てくる破綻類型」を、あたかもいずれかの破綻類型に該当することが離婚の「要件」であるかのように捉える実務家も散見します。しかし、これは教科書の誤読です。両性の平等の本旨に立脚し、一般的破綻主義を採用した民法770条1項4号の立法趣旨に照らし、実際には修復困難な関係にある当事者に、形骸化した婚姻関係の継続を、国家である裁判所が強制するようなことがあってはなりません。
不貞行為について
離婚事件においてよく相談を受けるのが、「夫あるいは妻に不倫された。許せないので離婚したい。」という話や、「不貞行為の慰謝料はいくらぐらい貰えるか。」という話です。
民法の規定する裁判上の離婚事由は4つありますが、そのうちの一つに「配偶者に不貞行為があったとき」というのがあります。
ところが、実際には、配偶者が不貞行為に及んだことで即離婚となるとは限りません。
通常は、全ての事情を総合してみても、到底円満な夫婦生活の継続及び回復が期待できず、婚姻関係が破綻しているといえれば、裁判上の離婚が認められるでしょう。ですから、不貞行為を理由に離婚訴訟を提起するときは、民法の規定する離婚事由として、先ほどの「配偶者に不貞行為があったとき」だけではなく、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」も同時に上げることが多いです。
1 不貞行為の存在はどのように立証するのか
不貞行為の現場を捉えた写真があればかなり強力ですが、相手が用心している場合も多いですから、なかなか証拠を準備することは難しいです。
写真あるいは不貞行為の存在をうかがわせるメールがなければ、不貞行為の立証は難しいといえるかも知れませんが、最終的にはケースバイケースです。
2 不貞行為の証拠が無ければ、離婚も認められないのか
理屈からすればそうなりますが、最終的には証人尋問や原告及び被告の当事者尋問をやって、不貞行為があったかどうかははっきりしないものの、婚姻関係自体は破綻しているとして離婚が認められることもあります。
3 不倫をした側が、配偶者に対して離婚を請求することは認められるか
有責配偶者からの離婚請求が認められるかという問題です。自ら婚姻を破たんさせた者のことを有責配偶者といいます。
判例は、かつては、たとえ婚姻が破たんしていても認めるべきではないとしていましたが、現在では、婚姻が破たんしている以上、離婚を広く認めるべきであるという考え方に変わってきています。
裁判所も、夫婦の別居期間が同居期間に比べてどの程度長期に及んでいるか、未成熟の子どもがいないか、相手方配偶者が離婚により過酷な状態におかれないかなどの事情を、具体的に判断していくことになります。
4 慰謝料の相場はどのくらいなのか
慰謝料の金額については非常によく聞かれますが、これはもうケース・バイ・ケースとしか言いようがありません。通常、慰謝料の請求は離婚訴訟に含めて行うことが多いのですが、その場合は、相手方配偶者の不貞行為によって婚姻関係が破たんした、よって離婚を求めるし、慰謝料も求めるということになります。そうすると、慰謝料の額についても、破たんの原因、破たんの程度・内容、破たんに至る経緯や動機等を元に判断されることになります。
5 不貞行為の相手方への請求も同じ手続の中でできるのか
不貞行為をした配偶者と不貞行為の相手方は共同不法行為をしたものとして、連帯して慰謝料債務を負うことになります。
DV(ドメスティック・バイオレンス)事件
身の危険を感じたら、ためらわずに110番してください。DVは犯罪となり得る重大な人権侵害であり、我慢し続ける必要はありません。
DVとは
DVとは、配偶者や恋人など親密な関係にある(あった)相手から受ける暴力をいいます。殴る・蹴るといった身体的暴力だけでなく、次のような行為もDVに当たります。
- 経済的暴力:生活費を渡さない、働くことを妨げる、借金を強いる
- 性的暴力:望まない性行為の強要、避妊に協力しない
- 子どもを利用した暴力:子どもの前で暴力をふるう、子どもに危害を加えると脅す
- 精神的暴力:人格を否定する暴言、行動の監視や交友関係の制限(なお、怒鳴る・無視する等の行為も態様如何では、精神的暴力に当たることがあります。)
配偶者暴力防止法の対象
DVについては、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(配偶者暴力防止法)があります。この法律でいう「配偶者からの暴力」とは、身体に対する暴力と、これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいいます。
この法律の「配偶者」には、次の相手が含まれます。
- 法律上の配偶者
- 事実婚(内縁)の相手
- 生活の本拠を共にする交際相手(同居している恋人など)
- 上記の関係にあった間に暴力を受け、離婚や別れた後も引き続き暴力を受けている場合の元配偶者・元交際相手
生活の本拠を共にしない交際相手からの付きまといなどは、ストーカー規制法などで対応することになります。
加害者に過ちを気付かせて、DVを止めさせることはできないのか
謝罪して「もう二度と暴力はふるわない」と約束しながら、約束を守らずに暴力を繰り返す人は少なくありません。
DVの加害者は、被害者や子どもに対する支配欲が強く、暴力についての加害意識や責任感が乏しいことが多いといわれます。
暴力の後に反省しているように見せても、実際には変わっていないことも少なくありません。
DVは「繰り返される」「次第にエスカレートする」という特徴があることを、是非、知っておいてください。
どう対応すればよいか
加害者のもとを離れる決意ができたら、まず安全な場所に移り、加害者から何を言われても戻らないことが大切です。
「今度こそ変わってくれるかもしれない」と期待して戻ると、加害者は「この程度の暴力では関係は壊れない」と考え、暴力がさらにエスカレートすることがあります。
被害者が加害者のもとを離れようとする時期は、加害者が必死に引き留めようとするため、最も危険な時期です。
一人で抱え込まず、離れる前の段階から、次の相談先に相談して協力者を確保してください。
誰に相談すればよいか
ご両親やご友人に話すことも大切ですが、DVについての情報や支援の仕組みに詳しいとは限りません。
ぜひDVの専門の相談窓口をご利用ください。
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相談先 |
電話番号 |
受付 |
|---|---|---|
|
警察(緊急時) |
110 |
24時間 |
|
姫路市DV相談支援センター(姫路市配偶者暴力相談支援センター) |
079-221-1532 |
月~金 8:50~17:20(祝日・年末年始を除く) |
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兵庫県女性家庭センター(兵庫県配偶者暴力相談支援センター) |
078-732-7700 |
毎日 9:00~21:00(12:00~13:00を除く。年末年始は17:00まで) |
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DV相談ナビ(最寄りの相談窓口につながります) |
#8008 |
窓口により異なる |
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DV相談+(内閣府) |
0120-279-889 |
24時間(チャット・メール相談もあり) |
(受付時間は、兵庫県「令和8年度 配偶者等からの暴力(DV)相談窓口」によります。変更されることがありますので、各窓口でご確認ください。)
配偶者暴力相談支援センターは、DV被害者支援の中心となる機関です。相談のほか、緊急時の安全確保や一時保護、自立のための情報提供などを行っています。
警察には、今まさに暴力をふるわれているときは迷わず110番してください。差し迫った危険がなくても、警察に相談しておくことで、その後に何かあったときに迅速な対応が期待できます。また、後で述べる保護命令の申立てには、事前に配偶者暴力相談支援センターか警察に相談しておくことが、手続上重要です。
このほか、市区町村の相談窓口も利用できます。
弁護士への相談は、保護命令の申立てや離婚・婚姻費用・親権の手続を見据えた早い段階からお勧めします。
裁判所の保護命令
保護命令とは、被害者の申立てにより、地方裁判所が加害者に対して「被害者に近づくな」「自宅から出ていけ」などの命令を出す制度です。2024年(令和6年)4月1日施行の法改正で、対象が広がり、罰則も重くなりました。
申し立てることができる場合
改正前は、身体に対する暴力や生命・身体に対する脅迫を受けた場合に限られていました。改正後は、自由・名誉・財産に対する脅迫(「外に出られないようにする」「秘密をばらす」「財産を処分する」などと脅す場合)を受けた場合も、接近禁止命令等を申し立てることができます。発令の要件も、更なる暴力や脅迫によって「心身に」重大な危害を受けるおそれが大きいときに広がり、精神的な被害も考慮されるようになりました。
保護命令の種類と期間
|
命令 |
内容 |
期間 |
|---|---|---|
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被害者への接近禁止命令 |
被害者の身辺につきまとったり、住居や勤務先の付近をうろつくことの禁止 |
1年間 |
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被害者への電話等禁止命令 |
面会の要求、無言電話、緊急時以外の連続した電話・文書・メール・SNS送信、深夜早朝の連絡、性的羞恥心を害する画像等の送信、GPS等による位置情報の無断取得などの禁止 |
1年間 |
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子への接近禁止命令・子への電話等禁止命令 |
同居する未成年の子への接近や、子への電話・SNS送信等の禁止 |
1年間 |
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親族等への接近禁止命令 |
被害者の親族や支援者への接近の禁止 |
1年間 |
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退去等命令 |
被害者と共に住む住居から退去し、付近をうろつくことの禁止 |
原則2か月間(住居の所有者・賃借人が被害者のみの場合は6か月間) |
電話等禁止命令、子・親族等への接近禁止命令は、被害者への接近禁止命令と併せて発令されるものです。退去等命令は、身体に対する暴力や生命・身体に対する脅迫を受けた場合に限られます。
命令に違反した場合
保護命令に違反した加害者には、2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金が科されます(改正前は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金でした)。多くの加害者は命令に従うため、被害者の安全確保に大きな効果があります。
申立ての準備と証拠
保護命令の申立てには、事前に配偶者暴力相談支援センターまたは警察に相談しておくこと(相談していない場合は、公証人の面前で宣誓した供述書を添付すること)などの要件があります。申立ての前に、ぜひご相談ください。
DV被害を示す資料としては、次のようなものが有効です。
- けがや、暴力に起因する心身の不調についての医師の診断書
- けがや壊された物の写真
- 怒鳴り声や脅し文句の録音
- メール、LINE、SNSのメッセージの記録(スクリーンショットだけでなく、日時や相手が分かる形で)
- 第三者の目撃証言、相談機関や警察への相談記録
- 加害者と知り合ってから現在までの出来事と、受けた暴力の内容を時系列にまとめたメモ
限られた相談時間の中で、長年の出来事を一から思い出して話すのは大変です。時系列のメモがあると、短時間で的確な見通しをお伝えできます。証拠が十分でなく保護命令が出ない場合でも、配偶者暴力相談支援センターの支援を受けて保護施設に身を寄せるなど、身の安全を確保する方法はあります。
避難先の住所を知られないために
避難した後は、加害者に新しい住所を知られないことが何より重要です。
住民票を移す場合は、市区町村に「DV等支援措置」を申し出ることで、加害者による住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付・閲覧を制限してもらうことができます。申出には、配偶者暴力相談支援センターや警察などの意見が必要となりますので、相談の際にお伝えください。
調停や訴訟などの裁判手続でも、申立書などに記載する住所や氏名を相手方に秘匿する制度があります。手続を始める前に、弁護士にご相談ください。
子どもと一緒に避難する場合
保護施設には、子どもと一緒に入所できます。
また、新しい住所に住民票を移さなくても、教育委員会と相談のうえ、実際に住んでいる地域の学校に子どもを通わせることができる場合があります。保護命令の申立ての際には、加害者が子どもを連れ戻そうとするおそれがあれば、子への接近禁止命令もあわせて求めることができます。
DVと親権・親子交流(2026年4月施行の改正家族法との関係)
2026年4月から離婚後の共同親権が選べるようになりましたが、DVがある場合には次のような手当てがされています。
- 父母の一方が他方から身体的暴力や心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれがあり、共同して親権を行うことが困難な場合、家庭裁判所は必ず単独親権と定めなければなりません(民法819条7項2号)。子への虐待のおそれがある場合も同様です(同項1号)。
- 婚姻中や共同親権の下でも、DVや虐待から避難するなど「子の利益のため急迫の事情があるとき」は、一方の親が単独で子の居所を決めることができます(民法824条の2第1項ただし書3号)。
- 親子交流は子の利益を最優先に考慮して定められ、子や監護する親の安全が確保できない場合には、交流の方法が制限されたり、交流が認められないこともあります。
親権については本ページ「親権」の項もご覧ください。
DVの事実は、親権や親子交流の判断に大きく影響しますので、先に述べた資料をできるだけ残しておくことが重要です。
別居後の生活費(婚姻費用)は、DVを理由に避難した場合でも請求することができます。避難後の生活の見通しを立てるためにも、早めにご相談ください。
DVに関するQ&A
Q1 殴られたことはありませんが、毎日のように暴言を浴びせられ、お金も自由に使わせてもらえません。これもDVですか。
A はい。精神的暴力や経済的暴力もDVです。配偶者暴力相談支援センターに相談できますし、離婚の場面では「婚姻を継続し難い重大な事由」や慰謝料の判断で考慮されます。また、自由・名誉・財産に対する脅迫を受けている場合には、保護命令(接近禁止命令等)の対象になることもあります。
Q2 同居している恋人からの暴力でも、保護命令を申し立てられますか。
A 生活の本拠を共にする交際相手からの暴力は、配偶者暴力防止法の対象になり、保護命令を申し立てることができます。同居していない交際相手からの付きまといなどは、ストーカー規制法に基づく警察の警告や禁止命令などで対応することになります。
Q3 離婚した元夫から、今も暴力や脅しを受けています。
A 婚姻中に暴力を受け、離婚後も引き続き暴力等を受けている場合は、元配偶者に対しても保護命令を申し立てることができます。
Q4 子どもを連れて家を出たいのですが、共同親権になったので、相手の同意がないと出られないのでしょうか。
A DVや虐待から避難する場合は、「子の利益のため急迫の事情があるとき」に当たり、一方の親が単独で子の居所を決めることができると考えられます(民法824条の2第1項ただし書3号)。安全の確保を最優先にしてください。避難の前後で配偶者暴力相談支援センターや警察に相談した記録は、後の手続でも重要になります。
Q5 DVをした相手に、子どもとの親子交流を求められています。応じなければなりませんか。
A 親子交流は、子の利益を最優先に考慮して定められます。子への虐待のおそれがある場合や、交流の場面であなたや子の安全が確保できない場合には、交流が認められなかったり、第三者機関の立会いや手紙・写真の送付などの間接的な方法に限られたりすることがあります。DVの事実を裏付ける資料をもとに、具体的な事情を家庭裁判所に伝えることが重要です。
Q6 保護命令が出たら、それで離婚も成立するのですか。
A いいえ。保護命令は身の安全を守るための命令で、離婚とは別の手続です。離婚、親権、婚姻費用、養育費、財産分与などは、別に協議・調停・訴訟で解決する必要があります。保護命令の申立てと並行して、これらの手続の見通しを立てておくことをお勧めします。
