5大核保有国指導者の共同声明(2022年1月3日)全訳

5大核保有国共同声明(2022年1月3日)

 5大核保有国(ロシア,アメリカ,中国,フランス,イギリス)は,2022年1月3日,「核戦争に勝者はおらず,決して戦ってはならないことを確認する。」旨の共同声明を初めて発出しました。

 以下,米国ホワイトハウスの発表↓をもとに,全文訳をつけます。

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/01/03/p5-statement-on-preventing-nuclear-war-and-avoiding-arms-races/

 この声明を評価するための基本資料として,末尾には,国連の核兵器禁止条約(2021年1月22日発効)の資料を添付します。


Joint Statement of the Leaders of the Five Nuclear-Weapon States on Preventing Nuclear War and Avoiding Arms Races 核戦争の防止と軍拡競争の回避に関する5大核保有国指導者の共同声明

JANUARY 03, 2022 2022年1月3日
STATEMENTS AND RELEASES 声明と発表

The People’s Republic of China, the French Republic, the Russian Federation, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, and the United States of America consider the avoidance of war between Nuclear-Weapon States and the reduction of strategic risks as our foremost responsibilities. 中国,フランス,ロシア,英国,米国は,核保有国間の戦争を回避し,戦略的リスクを低減することが,私たちの最重要な責務だと考えている。

We affirm that a nuclear war cannot be won and must never be fought. 私たちは,核戦争に勝者はないこと,決して核戦争が行われてはならないことを確認する。As nuclear use would have far-reaching consequences, 核の使用は遠大な(広範囲な)結果(影響)をもたらすため,we also affirm that nuclear weapons—for as long as they continue to exist—should serve defensive purposes, deter aggression, and prevent war. 私たちはまた,核兵器について―それが存在し続ける限り―防衛目的,侵略抑止,及び戦争回避のためにあるべきだということを確認する。We believe strongly that the further spread of such weapons must be prevented. 私たちは,このような兵器のさらなる拡散は防がなければならないと強く信じている。

We reaffirm the importance of addressing nuclear threats 私たちは,核の脅威に対処することの重要性を再確認し,
and emphasize the importance of preserving and complying with our bilateral二国間 and multilateral多国間 non-proliferation不拡散, disarmament軍縮, and arms control agreements and commitments. 二国間,多国間の不拡散,軍縮,及び軍備管理についての合意と約束を維持,順守することの重要性を強調する。
We remain committed to our Nuclear Non-Proliferation Treaty (NPT) obligations, 私たちは,核不拡散条約(NPT)の義務を引き続き果たす。including our Article VI obligation “to pursue negotiations in good faith on effective measures relating to cessation停止 of the nuclear arms race核軍備競争 at an early date and to nuclear disarmament核軍縮, and on a treaty on general and complete disarmament軍縮 under strict厳重 and effective international control.”それには第6条の義務,すなわち「核軍備競争の早期の停止及び核軍縮に関する効果的な措置について,並びに厳重かつ効果的な国際管理の下での全面的かつ完全な軍縮に関する条約について,誠実に交渉を進める」との義務も含まれる。

We each intend to maintain and further strengthen our national measures to prevent unauthorized or unintended use of nuclear weapons. 私たちはそれぞれ,未承認の,あるいは意図しない核兵器の使用を防ぐため,国としての措置を維持し,さらに強化するつもりでいる。
We reiterate the validity of our previous statements on de-targeting, 私たちは,以前に出した,非標的化に関する声明が妥当だと繰り返し,reaffirming that none of our nuclear weapons are targeted at each other or at any other State.私たちのいかなる核兵器も,お互いの国,あるいはその他の国を標的としたものではないということを再確認する。

We underline our desire to work with all states to create a security environment 安全環境の創出 more conducive 資する to progress on disarmament with the ultimate goal 究極目標 of a world without nuclear weapons 核なき世界 with undiminished security for all. 私たちは,全ての国の安全が衰えずに核なき世界を実現するという究極目標に向け,軍縮の進展により資する安全環境の創出を,全ての国とともに協力したいという我々の願望を強調する。
We intend to continue seeking bilateral 二国間 and multilateral 多国間 diplomatic approaches 外交的アプローチ to avoid military confrontations 軍事対立, strengthen stability and predictability, increase mutual understanding and confidence, and prevent an arms race that would benefit none and endanger all. 私たちは,軍事対立を避け,安定性と予測可能性を高め,相互の理解と信頼を増大させ,誰の利益にもならず,誰をも危険にさらす軍拡競争を防ぐため,二国間,多国間の外交的アプローチを引き続き模索するつもりでいる。
We are resolved to pursue constructive dialogue with mutual respect and acknowledgment of each other’s security interests and concerns.私たちは,お互いの安全保障上の利害と懸念を相互に尊重,認識しつつ,建設的な対話を追求する決意である。


(参考)核兵器禁止条約の概要(広島市HPより)

https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/atomicbomb-peace/10154.html
https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/150975.pdf

(1)被爆者(ヒバクシャ)に言及(前文)

 条約は、被爆者(ヒバクシャ)の苦しみと被害に触れ、人道の諸原則の推進のために、核兵器廃絶に向けて被爆者などが行ってきた努力にも言及しています。

(2)核兵器の開発、実験、使用、使用の威嚇などを禁止(第1条)

 条約は、核兵器の開発、実験、製造、取得、保有、貯蔵、移譲、使用、使用の威嚇などの活動を、いかなる場合にも禁止しています。

(3)核保有国の加盟についても規定(第4条)

 条約は、定められた期限までに国際機関の検証を受けて核兵器を廃棄する義務を果たすことを前提に、核保有国も条約に加盟できると規定しています。

(4)条約について話し合う会議を開催(第8条)

 条約は、その運用などについて話し合う締約国会議や再検討会議の開催について定めており、いずれの会議にも、条約に加盟していない国やNGOなどをオブザーバーとして招請するとしています。

核兵器禁止条約の英文全文はこちら。

TREATY ON THE PROHIBITION OF NUCLEAR WEAPONS
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000433137.pdf

 外務省(日本)の暫定的な仮訳はこちら。
核兵器の禁止に関する条約(暫定的な仮訳)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000433139.pdf


2022年2月24日追記:
 現在,五大核保有国の共同声明を出した一国であるロシアが,ウクライナに軍事侵攻することを宣言し,行動しています。
 ロシアのプーチン大統領は,表向きの言葉と実際の行動が,あからさまに矛盾しています。こうしたことが核5大国のうちの1国の行動として,現実に行われる。そうした力の行使が行われる中での現実的な国際社会のとるべき方策として,国連の核兵器禁止条約の提起と発効があるというところを,私たちは理解し,日本政府が世界から核兵器を廃絶させるために取るべき方針や行動を考える時の重要な参考資料にしなければならないということかと思います。
 国連の核兵器禁止条約が「『諸国が,国際連合憲章に従い,その国際関係において,武力による威嚇又は武力の行使をいかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも,また,国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎しまなければならないこと』を想起し,協定した」としている点が重要です。