共同親権が選べるようになる法律改正がありました!

共同親権についての法律改正がありました

 令和6年5月17日、民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)が成立し(同月24日公布)、離婚後に共同親権とすることを可能とすることを含む法律改正がありました。

 この法律は、一部の規定を除き、上記公布の日(同月24日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。つまり、実際にいつからこの共同親権の改正法が使えるのかは、まだ決まっていませんが、2026年5月24日までに制度が開始されることとなっています。

 どのような改正があったのか、見ていきましょう。

 

共同親権が選べるようになりました

改正の背景

 これまでは離婚後の親権は父母のどちらか一方しか行使することができず、一切の例外がありませんでした。子にとって、父母は婚姻の有無に関わらず、親であることに変わりなく、単独親権の制度は、子の利益の観点から修正が必要であると考えられてきました。

 一方で、諸外国のような共同親権を原則とする制度の採用については、懸念点が多く指摘されていました。DVや、虐待がある事案では、共同親権を採用するとかえって子の利益を損なうこと、DVや虐待を見逃したときに子に対する重大な権利利益の侵害が発生し得ることといった重大な問題があります。また、離婚後に共同で親権を行使することになると、父母の意見が合わず、親権を円滑に行使できないおそれも考えられます。

 このような懸念点があり、これらについての法整備や制度が不十分であることから、今回の改正では、離婚後も原則として共同親権とするような立法とはなりませんでした。

 

選択制の採用

 この点について、改正後の条文では以下のとおりとなっています。

「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める」(改正後民法819条1項)

 このように、改正後は、父母の協議により、共同親権を選べるようになりました。

 

協議で決められない場合

 裁判上の離婚の場合、協議において合意ができない場合には、家庭裁判所が共同親権とするか、単独親権とするかを定めるとされています(改正後民法819条2項、5項)。

 この際の裁判所の考慮事由については、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない」(改正後民法819条7項柱書)と規定されています。

 そして、DVや子への虐待のおそれがある事案で共同親権を定めることが無いように、

 ①父母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合

 ②父母の一方が他方から暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれや、親権について協議が整わない理由等を考慮して共同親権とすることが困難と認められる場合

には、裁判所は父母の一方の単独親権と定めなければならないとされています。

コメント

 DVや虐待では、どうしても証拠が少ないことが多く、立証や認定が困難であるため家庭裁判所がDVや子の虐待を見逃すおそれがあり、見逃さない体制の整備が必要となっています。

 協議ができない場合、裁判所が共同親権とすることを認めるべきでは無いとも考えられます。家庭裁判所も協議ができない場合の共同親権の採用は、慎重にするのではないかと予想されますが、今後の裁判所の判断を見ていく必要があると思います。

 

親権者の変更についての改正

 改正前

 現在も離婚時に定めた親権を後から家庭裁判所の判断により変更することは可能です(民法819条6項)。

 また、親権者変更の請求権者については、子の親族のみとされていました。

改正後

 改正後は、選択的共同親権となっているため、

 共同親権では子の利益が害されると認められるときは、家庭裁判所は単独親権に変更する判断をしなければならない

 となりました(改正後民法819条7項)。

 この条文の目的は、DVや子への虐待のある事案において、共同親権が強制されないように、もし一度は強制されたとしても修正できるようにすることを目的としています。

 親権者変更の請求権者については、子の親族のみでなく、子自身も請求することができるとされました(改正後民法819条6項、改正後家事法168条8号)。

改正後の親権者変更の判断要素

 改正後民法では、親権者変更の判断要素として、事情の変更のほかに、「当該協議の経過」を考慮する(改正後民法819条8項)とされました。

 そして、具体的には、「当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争手続の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする」(改正後民法819条8項)と条文上に記載されました。

コメント 

 これは、協議離婚において、当事者の協議のみで親権者を定めることができるとの規定を維持したので、DV等があり、父母の力関係の影響を受けて親権者を決めてしまっても、あとから是正できるように定められたと考えられます。一方で、協議結果についての公正証書の作成の有無なども考慮されるとのことで、公正証書が存在し事情変更がない場合には、親権者変更が認められない可能性が高く、注意が必要と考えられます。

 

監護者の指定

 監護者とは、身上監護を行う者(子を引き取って身の回りの世話や教育を行う)ですが、現行法でも親権者の定めとは別に監護者を定めることができます。

 たとえば、父が親権を持ち、母が監護者となって母が子供と一緒に生活をするというようなことになります。

 改正後は、共同親権が可能となったため、子供と一緒に暮らす監護者の指定がより重要な意味を持ってきます。

 そこで、監護者の権利義務に関する規定が新設されました(改正後民法824条の3)。

 具体的には、監護者は、子の監護及び教育、居所の指定と変更、営業の許可及びその制限を監護者が単独で行うことができるとされました(改正民法824条の3第1項)。

 

 また、「子の監護に関する必要な事項」の例示として、監護者の指定以外に、「子の監護の分掌」が定められました(改正民法766条1項)。

 監護の分掌とは、監護を分担し合うことをいい、監護を時間で分担したり、監護に関する一部の事項を父母の一方に委ねるといった分担をすることなどが考えられます。

 監護者指定との違いは、監護者が身上監護全般を担うのに対して、監護の分掌は身上監護を父母で分担しあうという違いがあります。

 

総括コメント

子の利益の確保の等の観点から、親権や監護者に関する規定が大きく改正されました。

施行はまだですが、今後、子どもの最善の利益のために多様な家族のあり方を選べる一方で、DV事案など深刻な被害を生じさせるような慎重な判断が必要な事案において裁判所が果たす役割は大きなものになっていくと考えられます。

裁判所の今後の判断には注目していく必要がありますね。