パナソニックの携帯電話で低温火傷を負った事件で原告が勝訴(確定)
仙台高判平成22年4月22日 判例時報2086号42頁
(最判平成23年10月27日上告棄却決定)
パナソニックモバイルコミュニケーションズ(株)を相手に,パナソニック製の携帯電話が異常発熱したことが原因で太ももを低温火傷したとして損害賠償を求めた事件の高裁判決が,平成23年10月27日最高裁の上告棄却決定で確定し,原告の勝訴が決まりました。
その結果,パナソニックモバイルコミュニケーションズには,
(1) 治療費(含む診断書料) 1万2370円
(2) 調査費用 150万円
仙台高裁は,本件熱傷及び被控訴人の上記対応の結果,原告が,自ら独自に専門家に依頼して調査をすることを余儀なくされたことによる費用として150万円を上回る金額を負担した事実を,弁論の全趣旨から認めました。 認定事実に,本件訴訟の性質,訴訟経過,相手方の応訴態度等を考慮すれば,本件製造物の欠陥により生じた損害として,調査費用のうち150万円を被控訴人に負担させるのが相当であると判断しています。 |
(3) 慰謝料 50万円
(4) 弁護士費用 20万円
の合計221万2370円の支払が命じられます。
パナソニック製の携帯電話について,通常有すべき安全性を欠いていたとして,製造物責任(製造物責任法3条の責任)が認められた画期的判決です。
原審高裁判決の判旨でもっとも重要なところは,上記の損害にかかる判断のほか,次の判示にかかる点です。(ここでは,控訴人を「原告」,被控訴人を「パナソニック側」と表記しました。)
(1)
本件は,原告が,ズボンのポケットに入れていたパナソニック製の携帯電話の異常発熱により,熱傷を負った事案であるところ,
パナソニック側は,原告の熱傷が本件携帯電話から発生したという製品起因性について否認するとともに,本件携帯電話の欠陥の存在についてもこれを否認している。
このような場合には,
① 製造物責任法の趣旨,
② 本件で問題とされる製造物である携帯電話機の特性及び
③ その通常予見される使用形態からして,
製造物責任を追及する原告としては,
本件携帯電話について通常の用法に従って使用していたにもかかわらず,身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したこと
を主張・立証することで,欠陥の主張・立証としては足りるというべきであり,
それ以上に,
具体的欠陥等を特定した上で,欠陥を生じた原因,欠陥の科学的機序まで主張立証責任を負うものではない
と解すべきである。
すなわち,本件では,
ⅰ 欠陥の箇所,ⅱ 欠陥を生じた原因,ⅲ その科学的機序については
いまだ解明されないものであっても,
本件携帯電話が本件熱傷の発生源であり,
本件携帯電話が通常予定される方法により使用されていた間に本件熱傷が生じたこと
さえ,原告が立証すれば,携帯電話機使用中に使用者に熱傷を負わせるような携帯電話機は,通信手段として通常有すべき安全性を欠いており,明らかに欠陥があるということができるから,欠陥に関する具体化の要請も十分に満たすものといえる。
(2)
これを本件についてみるに,
携帯電話は,
前記のとおり,無線通信を利用した電話機端末(携帯電話機)を携帯する形の移動型の電気通信システムのことをいい,
その特性から,携帯電話機を衣服等に収納した上,身辺において所持しつつ移動でき,至る所で,居ながらにして電気通信システムを利用できることにその利便性や利用価値があるのであるから,
これをズボンのポケットに収納することは当然通常の利用方法であるし,
その状態のままコタツで暖を取ることも,その通常予想される使用形態というべきである。
ちなみに,被控訴人も,ズボンのポケットに収納したままコタツで暖を取ることを取扱説明書において禁止したり,危険を警告する表示をしてないところである。
なお,被控訴人は,取扱説明書の本件携帯電話を高温の熱源に近づけないようにという警告表示がこれに当たるかのような主張をするが,コタツがそこにいう「高温の熱源」に当たるとは直ちにはいい難いし,
上記警告表示が,携帯電話機をことさらコタツの熱源に接触させるような行為はともかくとして,これをズボンのポケットに収納した状態のままコタツで暖を取るという日常的行為を対象にしているとは到底解されない
(仮に,そのような日常的行為の禁止をも含む趣旨であるとしたならば,表示内容としては極めて不十分な記載であり,警告表示上の欠陥があるというべきである。)。
(3)
そうすると,
控訴人は,本件携帯電話をズボンのポケット内に収納して携帯するという,
携帯電話機の性質上,通常の方法で使用していたにもかかわらず,
その温度が約44度かそれを上回る程度の温度に達し,それが相当時間持続する事象が発生し,これにより本件熱傷という被害を被ったのであるから,
本件携帯電話は,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いているといわざるを得ず,
本件携帯電話には,携帯使用中に温度が約44度かそれを上回る程度の温度に達し,それが 相当時間持続する(異常発熱する)という設計上又は製造上の欠陥があることが認められる。
<平田元秀2011年10月30日Writing>
<平田元秀2020年9月26日Edit>