小和田恒氏 毎日インタビュー「『二つの戦争』と世界」に学ぶ
ロシアのウクライナ侵略戦争、そしてイスラエルのガザ侵攻。国連を中心とする戦後の国際社会のシステム,国際法のシステムが機能せず、悲惨な結果が発生しています。
こうしたときは「知の力」が常に重要です。
下記の毎日新聞の記事での小和田恒氏の言説のポイントをこのblogで押さえたいと思います。
【言説の表示】
1.典拠 毎日新聞 2024年2月21日(水)「オピニオン論点」欄
2.記事のタイトル 「『二つの戦争』と世界」
3.話者 小和田 恒(おわだ ひさし)
1932年生 元国際司法裁判所所長 二松学舎大名誉教授
【国際社会のシステム小史】
- 今日の国際法秩序の基本
ウエストファリア体制 :「主権国家が国際社会を構成する単位である。」という体制
1546年~宗教戦争/1618年~ 30年戦争/1648年 ウエストファリア条約
①主権国家の独立と平等 ②内政不干渉- 小和田氏:「建前としては『主権平等』という考え方はその通りですが、強い国と弱い国、大国と小国があるのが国際社会の現実です。大国は大国の意思を体して国際社会でふるまう-戦争を行う-世界が続きました。ウエストファリア体制は、その問題を解決したわけではありません。」
- ハーグ国際平和会議 (1899年)
「大国であろうが、小国であろうが、その社会を構成する人間を中心に考えるべきだ」 - 国際社会の組織化
国際連盟、国際労働機関等の創設、国際法(多数国間条約)制定、国際連合の設立、ジェノサイド条約、世界人権宣言、ジュネーブ諸条約 - 主権国家の内部で生ずる間題についても「国際社会の規範から見てどうなのか」が問題となるのが歴史の流れ
- 南アフリカのアパルトヘイト政策
- 冷戦終了後の国際秩序
国際法学者:「世界はこうであるべきだ」という規範的秩序の必要性を説く。
モーゲンソー、キッシンジャーなどの国際政治学者は:「現実の世界はこうである」というパワーバランスによる秩序の維持の必要性を説く。
小和田氏:「現実を正しく認識することは重要ですが、現状をそのまま正当化することでは国際秩序は生まれないと思います。」 - ロシアの国際法を無視したウクライナ侵攻(2022年2月~)について
- 小和田氏
「第二次大戦後の国際秩序を保障する国際組織の創設のために英国のチャーチル首相、米国のルーズベルト大統領、ソ連のスターリン首椙が協議したテヘラン会議で、第一次大戦後の国際連盟は自律的秩序による平和の確保を目指したが、ヒトラーのような悪いやつが出てくれば維持できるわけがない、と主張したスターリンが「この3人が新しい組織の警察官となって秩序を維持することが必要だ」という趣旨の発言を行い、それが国際連合の安全保障理事会の常任理事国制度の始まりとなりました。常任理事国は秩序の維持に責任のある警察官ですから、警察官が強盗することなどは想定していません。プーチン大統領がやったことは「警察官が強盗を働いた」ということです。大国なのだから好きなようにやる、という国が出てくれば、ウェストファリア体制の自律的な国際秩序は簡単に崩壊してしまいます。」
- 小和田氏
- 国際社会のあるべき姿
- 小和田氏
「人聞の安全を保障し、福祉を増進するのが本来の人間社会としての国際社会のあるべき姿でなければなりません。そのためには、国際社会が真に平等な社会にならなければなりません。究極的には、国家を超えた世界政府を作る必要がありますが、主権国家は大国であれ小国であれ、それを受け入れる考えはありません。国際法の限界はそこにあります。」
- 小和田氏
【解決方法】
現実的な方策としては次の二つが考えられる。
- 国連安保理の常任理事国の権利をある程度制限し、自国の利益に関わる時には、常任理事国を含め全ての国が審議・採決に加わらない制度とすること。
- 問題点
・必要となる国連憲章の改正には常任理事国の賛成が不可欠である。
・常任理事国が支持する見通しは、現状ではあまりない。
- 問題点
- 国際世論を最大限に活用していく方法。
- 国際世論を代表する国際組織がもっと強くなる必要がある。
- 国際世論=国際社会の意思を代表するのは、国連総会の決議。その決定は法的には勧告的効力しか持たないものの、国際社会の動向を的確に反映するものである。ロシアのウクライナ侵攻直後、総会は「侵攻は国際法違反であり、ただちに撤兵しなければならない」との内容の決議を、賛成141票、反対5票で採択した。(国連総会の緊急特別会合 ロシアを非難する決議 賛成多数で採択 | NHK | ウクライナ情勢)
- この国際社会の意思を代表し、国際世論を生かして行動する権限と責任を持つのは国際連合の事務総長。
事務総長のパフォーマンス(行動力・実際的振る舞い)は重要。 - ICJ(国際司法裁判所)に、より大きな権限を持たせることも必要。
- 紛争を戦争にさせない、復讐や敵討ちを認めないための仕組みがICJ。
- ICJの裁判に応じる義務が生じる「強制管轄権」を受諾しているのは、国連加盟国193力国中74力国に過ぎない。
- 市民運動を起点として国際世論を背景に物事を動かすアプローチは重要。
- 近年、軍縮分野などで市民運動が大きな役割を果たすようになっている。
- 対人地雷禁止条約(1999年発効)地雷問題・対人地雷禁止条約(オタワ条約)の概要|外務省 (mofa.go.jp)
- 小和田氏:
「当時、防衛庁は「専守防衛の日本にとって一番重要なのは地雷だ」と反対していましたが、地雷でもっとも被害を受けるのは罪のない市民です。各国内で民主主義が存在しなければ、国家の行動は民主的にはなりません。日本は民主的であろうと努力していますが、世界には努力していない国もあります。
主権国家が利己的な利益のために行動するのではなく、国際社会の中でどう振る舞うべきか自覚するようにさせる。それができるのは市民社会です。
市民運動に端を発して国際世論を背景に物事を動かしていくのは、大国と小国という力の差を超えることのできる重要なアプローチです。」
- 近年、軍縮分野などで市民運動が大きな役割を果たすようになっている。