離婚相談にあたって
離婚相談で最初にお伺いする事項,一番基本となる事項をお話しします。
最初にお伺いする事項
まずお伺いする事項をお話しします。
弁護士は,相談者のお話のさわりを承りつつ,まず<家族関係図>を作成します。
- 相談者の氏名・生年月日,職業,収入 相手方の氏名・生年月日,職業,収入
- 婚姻届出日,お子さんの有無,名前・生年月日,夫婦別居の有無,別居日,離婚届出日
- 相談者,相手方,お子さんの現在の住所
- 相談者,相手方の実家のご両親・ご兄弟について,お住まいとお仕事等について
- 同居者の構成,グループ分け
- 夫婦宅がマイホームか,借家等か。
- マイホームの場合,土地建物の所有者・住宅ローンの有無,
- 借家等の場合,名義人は誰か。
これらを必要に応じてお伺いした後,「今日はどうされましたか。」と,より深く相談者の抱えている相談事項についてお伺いしていきます。
離婚相談の基本
離婚に関する事項の基本をお話しします。
離婚相談で問題となる事項
離婚相談という場合,基本的には次の8つの点が問題となります。
1 離婚それ自体(民法763条,770条)
2 子どもの親権(民法819条),監護権(民法766条)
3 子どもの養育費(民法766条)
4 子どもとの面会交流(民法766条)
5 離婚までの生活費(婚姻費用)請求(民法760条)
6 離婚時,離婚後の財産分与請求(民法768条)
7 離婚時,離婚後の慰謝料請求(民法709条)
例:不貞行為の相手方に対する慰謝料請求
8 離婚時,離婚後の年金分割(厚生年金保険法第3章の2 78条の2~78条の12)
弁護士は,離婚相談という場合,初回相談の間に,相談者のご家庭でどこが問題となっているかを把握するよう努め,その問題ごとに,さらに各論を詰めていきます。
最初から,特に上記項目の中のどこが聞きたいということがある方は,それを明示頂き,詳しくお話し頂けると,短時間にその各論的な実務を詳しく聞くことができます。
正確・迅速な相談回答を得るためのこつ
離婚の際に問題となりうる8つの事項ごとに,「例えば,こういう書類を持参頂けると助かるのですが」というものを書き出してみましょう。
〇 8つの事項共通
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- 戸籍謄本(全部事項記載のもの)
- 住民票謄本(世帯全員のもの)(相談者と相手方のもの)
① 離婚それ自体 …
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- 夫婦関係に生じているトラブルを時系列で整理したもの(パソコンでまとめたものがある場合,リムーバブルディスクやSDカードを持参頂くと便利です。),この整理した事実を裏付ける証拠がある場合にはそれも。
② 子どもの親権,監護権 …
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- 別居のいきさつ,現在の監護者,子どもさんの通学・通園先,相談者と相手方の現在の日常生活の状況(平日及び休日の平均的な過ごし方),現在及びこれまでの子どもさんの育児・監護への関わり状況,相談者側・相手方側それぞれの監護援助者などを整理したもの(子どもの意思や,育児ネグレクト,その他の特徴的な事項の把握はヒアリングとこれにともなう証拠確認で行われます。)
③ 子どもの養育費 …
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- 相談者・相手方のそれぞれの現在の職業及び年収の分かる書類(源泉徴収票,所得証明書,申告書,通帳等)
④ 子どもとの面会交流 …
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- ②とほぼ同じ。ヒアリングでの事情把握とこれに伴う証拠収集が基本です。
⑤ 離婚までの生活費(婚姻費用)請求 …
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- ③とほぼ同じ。
⑥ 離婚時,離婚後の財産分与請求 …
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- 書類の収集が特に重要となる相談項目です。
- 不動産:登記全部事項証明書,住宅ローン返済予定明細表,預貯金:通帳(写し),社内積立・財形・共済:給与明細,生命保険・損害保険:証書(写し)・解約返戻金証明書,株式その他の有価証券(証券会社の取引残高報告書),退職金証明書(退職金規程),自動車:車検証(写し)など
⑦ 離婚時,離婚後の慰謝料請求 …
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- ①とほぼ同じ。
- 関連:不貞行為の相手方に対する慰謝料請求
⑧ 離婚時,離婚後の年金分割 …
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- 最初の相談時に必要となるわけではありませんが,年金分割を行うためには,「年金分割のための情報提供通知書」が必要です。最寄りの年金事務所で発行請求手続をします。取り寄せに3~4週間かかります。
夫婦,親子の問題でお悩みの方へ
離婚問題として相談される事柄について,よく質問を受ける事柄などを説明します。
離婚の際に決めるべきこと
離婚の際に決めるべきこと
離婚するときには,色々と決めなければいけない事があります。
具体的には,どういうことを決めていくのでしょうか?
1 別居後離婚までの生活費のこと
夫婦別居中で,相手方は正社員,当方はパート社員で収入に格差があり,また当方は未成熟の子と同居して生活しているのに,別居後,応分の生活費を受け取っていないという場合, 結婚生活を維持する費用として婚姻費用の分担を求めることが考えられます。
2 子どものこと
民法では,夫婦間に未成年の子がいる場合,離婚する際に親権者を決めなければならないことになっています。
また,親権者とならない親が子どもと定期的に会いたいという場合,子どもとの面会交流の内容について決めるのが一般的でしょう。
子どもを養育する費用として,親権者とならない相手方に養育費の分担を求めることもよくあります。
子どもへの愛情が強い分だけ,どちらが子どもの親権を持つのか,子どもとの面会をどういう形で実現していくのか,離婚となると揉めやすいポイントです。
3 お金や財産に関すること
夫婦が婚姻中に築いてきた財産をどう分割するかという財産分与の問題があります。夫が稼いできた給料であっても,夫婦で協力して稼いだものとして分けてもらうことができたりします。
さらに,夫婦の一方のみが働き,厚生年金保険等の被用者年金の被保険者等となっている夫婦が離婚した場合,婚姻中働いていなかった一方配偶者が働いていた他方配偶者の標準報酬等の分割を受けることができるという,離婚時年金分割制度もあります。
その他,相手配偶者が第三者と浮気している場合など,離婚慰謝料を請求することなども考えられます。
婚姻費用
1 婚姻費用とは
夫婦は,自分の生活を維持するのと同程度の生活を維持させる義務を負うものと考えられていて,このような義務から,夫婦双方の収入を考えて,通常は収入の多い夫から収入の少ない妻に金銭を支払うことになります。
養育費は,離婚後に子どもの養育の費用を分担してもらう問題ですが,婚姻費用は,離婚前の別居の段階において,妻の生活費と子どもの養育の費用を分担してもらう問題と考えると分かりやすいかも知れません。
2 いつの時点からの婚姻費用を支払ってもらえるのか
婚姻費用の支払義務は通常は別居時に発生すると考えられます。
しかし,この考え方からすると,別居後何年も経ってから,いきなりまとめて何年分もの婚姻費用を請求できることになりかねません。
そこで,義務者が任意に支払いに応じない場合には,「権利者が請求したとき」から支払義務が生じるとする扱いが多いようです。
もっとも,その場合でも,財産分与において過去の未払いの婚姻費用を考慮してもらうことは可能です。
3 どうやって金額を決めるのか
お互いの話し合いで決まればそれでいいのですが,話し合いがまとまらない場合,家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
家庭裁判所では,算定表というものに基づいて,夫婦双方の収入をあてはめて,婚姻費用の支払額を決定します。この算定表は,次の裁判所のホームページにも掲載されていますので,参照ください。
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- 養育費・婚姻費用算定表(裁判所ホームページ)
令和元年12月23日に公表された改定標準算定表(令和元年版)です。
- 養育費・婚姻費用算定表(裁判所ホームページ)
夫婦双方の収入を把握するために,源泉徴収票や給与明細などの提出を求められることになります。
裁判所では,算定表により算定された額が基準とされることが多いですが,便宜的に作成されたものであって,必ず従わなければならない唯一絶対の基準というわけではありません。
考慮してもらいたい事情などあれば,弁護士にご相談ください。
財産分与
離婚はしたいけど,離婚後の生活を考えると経済的に難しい,という悩みはよく聞きます。
民法は,夫婦の財産関係について,次のように定めています。
結婚する前に一方が取得した財産,たとえば結婚する前に得た収入は,稼いだ人のものです。
一方,結婚した後に一方の名義で取得した財産は,その人の財産となります。たとえば,自分の親から相続した財産であれば,相続は親から子にわたるものですから,一方の名義で取得したといえます。
しかし,結婚して一緒に生活していると,夫婦のどちらに属するか明らかでない財産も出てきます。
ですからその場合,夫婦の共有に属すると推定するというのが民法のルールになっています。
たとえば,結婚してから得られた夫の給料は,確かに夫が働いて稼いだものですが,妻の家事労働があって稼ぐことができたものともいえますので,実質的・潜在的には夫婦の共有財産であると考えられます。
もっとも,離婚しても共有状態で維持していくことは不自然でしょう。
そこで,離婚に伴って夫婦の共有財産を清算する方法として,民法上,財産分与という手段が定められています。
1 財産の分け方はどうやって決めていくのか
基本的に共有財産の分け方は夫婦の話し合いで決めるのですが,まとまらなければ,家庭裁判所に審判や調停を申し立てるということになるでしょう。
裁判所の実務は,夫婦が婚姻中に取得した財産は,原則として夫婦が協力して築いたものであり,互いに2分の1ずつ協力して築いたものとして取り扱われています。
ですから,この実務に基づく限り、夫婦は婚姻後に形成した財産について原則として互いに2分の1ずつ権利を持つということになります。
2 預貯金について,どのように分与するのか
夫と同居しているならば,財産分与を請求した時点までに稼いできた財産を分けることになりますが,別居されているのであれば,別居時の残高を分けることになります。
別居して以降稼いだお金は,夫婦で協力して稼いだお金とは考えられないからです。
また,結婚前の収入は夫のものですから,これは除いて考えることになります。
3 退職金も財産分与の対象になるか
退職金については、支給までに相当の期間(10年以上)がある場合、特に私企業の場合には、支給の蓋然性が低くなるとして、財産分与の対象とできないという見解が従前は有力でした。しかし、最近の実務は、支給が相当先であっても、退職金が賃金の後払的性質を有するものとすれば、勤務期間に応じてその額が累積していると考え、対象財産としています。
4 不動産や株式については,どこを基準に価格を算定するのか
不動産や株式については,評価額が変動するので,分与するときの評価額を基準として計算します。
5 夫婦の一方が債務を負っている場合には,どのように財産分与するのか
財産分与は,存在する財産を分ける制度ですから,財産をトータルでみてマイナスの場合は,財産分与を請求できないことになります。
従って,プラスの財産よりも借金の方が多ければ、財産分与を求めることはできないでしょう。
では,これといって夫婦の共有財産がない場合,何ももらえないということになるのでしょうか。それでは専業主婦をしてきた女性に酷な結論になることもあります。夫から慰謝料を払ってもらえるケースならいいのですが,それには夫が慰謝料を払うだけの責任が認められる必要があります。浮気もDVもない普通の夫では,慰謝料責任とは認められません。
そこで,離婚後経済的に自立できるまでの間の生活費を財産分与として負担してもらうことができる場合があります。
具体的には,①夫婦の一方が家事や子育てを担当して仕事をしていないこと,②一定期間の生活費をまかなえるだけの財産分与や離婚慰謝料を得られず,自分の財産としても持ち合わせていないこと,③相手配偶者が従前から稼働しており,離婚後も一定の収入を得られるか,相当額の自分の財産を有していて,離婚後の生活費として一定額を支払わせても生活に支障がないこと,などが認められる場合には,そのような財産分与が認められる可能性があります。
6 未払いの婚姻費用について
別居中の夫から生活費をもらっておらず,自分で親兄弟から借金をして生計を立てているような場合,財産分与でこれまでの生活費の分までもらうことができるのでしょうか。
別居中の生活費は,婚姻費用の分担として相手方に支払うように請求できますが,これを支払ってもらっていない場合,財産分与において上乗せしてもらうことも可能です。
7 財産分与に関する近時の重要裁判例
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- 財産分与に関する近時の重要裁判例については,
平田元秀blog-家事事件をご覧下さい。
- 財産分与に関する近時の重要裁判例については,
年金分割
1 離婚時年金分割制度とは
分かりやすく説明すると,年金のうち,いわゆる2階部分,つまり厚生年金や共済年金について,夫が被保険者となっていたとしても,夫婦間で分割できるという制度です。
2 分割の割合はどのように決めるのか
夫婦で合意できるのであれば,分ける割合をどう定めても自由です。
しかし,話し合いでまとまらず,審判などによって裁判所に決めてもらう場合,裁判所としては,保険料納付について夫婦は同等に寄与して保険料を納付してきたものと考えており,原則として2分の1ずつ分割すると考えています。
長年別居していたとしても,特段の事情がない限り2分の1の割合で分割されているのが現状です。
3 年金分割はどのように進めていくのか
合意分割と3号分割という2つの制度があります。
合意分割制度は,原則として夫婦双方またはその代理人が年金事務所に行って年金分割の改定請求を行うことになります。しかし,調停や審判により分割する割合を決めた場合には,どちらか一方が年金事務所に行って手続をすることができます。
3号分割制度は,年金手帳と双方の戸籍謄本を持って行けば,自動的に2分の1の按分割合で年金分割を請求できます。裁判所が関与することもありません。ただし,平成20年4月1日以降の国民年金第3号期間のみが対象となります。
子どものことについて
離婚する際には,夫婦間の子どものことについても決めるべき事柄があります。
親権
子どもがいる夫婦が離婚を考えている場合,夫と妻のうち,どちらがその子の親権者になるのかを決めなければなりません。
1 親権者を決める基準,考慮要素
親権の問題で最も重要なことは,父と母のどちらを親権者にすることが,子どもの利益と福祉にとってより望ましいか,ということです。
その際,色々な諸般の事情が判断材料となります。たとえば,父母の年齢・性格・健康状態といった監護能力に関る事情や,資産・収入・職業などの経済的環境もありますし,これまで父と母のどちらが主に監護してきたかや,愛情のかけ方・程度はどのようなものだったか,また子どもの側の事情として,その子の年齢,性別,父母との結びつきも重視されます。
2 どのような点が重視されるか
色々と考慮要素を挙げましたが,具体的にどのような点が重視されるのでしょうか。
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- 現状の尊重
たとえば,子どもが幼稚園や小学校に通っている場合など,転校しなければならないということはマイナスに働きます。 - 子の意思の尊重
おおむね10歳前後から,意思を表明する能力があると考えられ,調査官面接でヒアリングしたりします。 5,6歳の子どもの場合,周囲の影響を受けやすく,空想と現実とが混同される場合も多いので,たとえ一方の親に対する感情や意向を明らかにしても,それを重視するべきでないとされています。 - 母親の優先
特に幼い子どもの場合,母親の役割というものが重視される傾向にあります。 - 兄弟の不分離
兄弟の中で揉まれて人格形成することが重要と考えられるからです。 - 監護能力
例えば,昼間働いているのであれば,その間の養育はどうするのか,住む場所や生活環境なども重要になります。
- 現状の尊重
養育費
民法上,親は子供に対して扶養義務があるので,たとえ親権者でなくとも養育費を負担すべき義務があります。
1 養育費の金額としては,どのくらい請求できるのか
金額については,支払義務のある者の収入とそれを要求する権利のある者の収入を目安とする算定表というものがあり,裁判所ではそれを参考にして金額を決めています。この算定表は,裁判所のホームページにも掲載されていますので,参照ください。
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- 養育費・婚姻費用算定表
令和元年12月23日に公表された改定標準算定表(令和元年版)です
夫婦双方の収入を把握するために,源泉徴収票や給与明細などの提出を求められることになります。
- 養育費・婚姻費用算定表
裁判所では,算定表により算定された額が基準とされることが多いですが(最高裁は,平成18年4月26日に出された決定で,算定表によって婚姻費用を算定した原審の判断について,その算定方式が合理的なものであって,是認することが出来るとしました。判例タイムズ1208号90頁参照),算定表は便宜的に作成されたものであって,必ず従わなければならない唯一絶対の基準というわけではありません。考慮してもらいたい事情などあれば,弁護士にご相談ください。
2 養育費は子どもが何歳になるまで請求できるのか
基本的には,成人になるまで請求できるとされています。成人に達した者は,働いて自分で生計を建てるのが原則だからです。もっとも,夫婦間の話し合いで,例えば子どもが大学卒業までとすることも可能です。
3 一度決めたものは変更できないのか
養育費は,いったん取り決めたとしても,父母の収入の変化や,再婚して扶養家族が増えたときなど,事情の変更があれば,増額や減額について双方が話し合って取り決めなおすことも可能です。
面会交流
親権者とならなかった親や子どもを監護養育していない親が子どもと会うことを面会交流といいます。
面会交流について,夫婦で話し合いをしたり,裁判所の調停や審判を利用するときには,予め,裁判所がWebサイトで公開している動画「子供にとって望ましい話し合いとなるために」を視聴しておくというのがセオリーです。
基本説明編(17分45秒)/子どもの年代別説明編
とてもよくできている動画として,現在の家庭の事件に携わる弁護士や調停委員からも高く評価されている動画ですので,まずこちらを視聴してから,面会交流の問題を考えるようにすることをお薦めします。
1 相手方を子どもに会わせないようにすることができるのか
面会交流は親の法的権利と考えられており,原則として面会交流を拒むことはできないと考えた方がよいでしょう。
もっとも,面会交流は子どもの福祉のために認められるという側面もありますので,明らかに子どもの福祉を害するような場合には,認められないと考えられます。
たとえば,極端な例としては,親が子どもを虐待するなど,面会交流を実施することが子どもの平穏な生活や精神的,情状的安定を揺るがし,子どもの健全な成長を妨げる恐れが強いというような事情がある場合には,面会交流は認められないことになります。
2 養育費を払わない元夫から子どもへの面会を要求されたら,拒否できるのか
よく聞かれることですが,心情として理解できる部分があっても,養育費の問題と面会交流の問題は別問題と考えられています。ですから,たとえ養育費が滞っていたとしても,面会交流を拒絶することはできません。養育費の支払を,面会交流の条件とすることも認められません。
離婚に関するその他の問題
離婚事件においてよく質問を受ける問題について取り上げます。
離婚事由
民法が規定する裁判上の離婚事由を説明します。
民法770条(裁判上の離婚事由)
民法は,①配偶者の不貞行為,②配偶者の悪意の遺棄,③配偶者の生死が3年以上不明なとき,④配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みのないとき,⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるときに,裁判上の離婚請求を認めています。
①不貞行為(1項1号)
1.不貞行為とは
不貞行為とは,配偶者のある者が配偶者外の者と自由な意思のもとに性的関係を結ぶことです(最高裁昭和48年11月15日判決・判例タイムズ303号141頁)。
不貞行為は,不貞行為の相手方と合意の上であったか否かということは関係ありません。
相手方と合意があった場合(いわゆる不倫行為や売春行為)も,相手方と合意がない場合(強制性交行為)も,不貞行為といえます。*また,一時的なものか継続的なものかも問いません。
*もとより,相手方から強制性交の加害行為を受けた被害者は,相手方のした不貞行為の共同不法行為者とはなりません。
-
- 同性との性的関係と不貞行為の論点
- 不貞行為における「性的関係」の理解について「姦通」(性器の挿入を伴う性行為),あるいは姦通を推測させる性的行為のみを指すという立場があります。この立場は異性同士の性的行為を民法770条1項1号の「不貞行為」と見る立場です。この立場でも,同性との性的関係は,1項1号の「不貞行為」にはならないとしても,民法770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるものとして解釈運用することにより,離婚や慰謝料請求は認められますので,実務上大差のない結論が得られます。名古屋地裁昭和47年2月29日判決・判例時報670号77頁はこのような解釈運用がなされた一例です。
- もっとも,不貞行為について,異性と性的関係を持つことだけではなく,同性と性的関係を持つことも含まれると理解する裁判実務は,随分以前から存在しました。東京地裁平成16年4月7日LLI/DB判例秘書登載は,その一例です。この裁判例は,妻が,3人の女性と同性愛の関係にあった事実が認定されている事案で,「民法770条1項1号にいう『不貞』とは,性別の異なる相手方と性的関係を持つことだけではなく,性別の同じ相手方と性的関係を持つことも含まれるというべきであるから,被告の行為は,夫である原告との関係では,上記『不貞』に該当するというべきである。」との解釈が示されています。
- 同性との性的関係と不貞行為の論点
2.宥恕(ゆうじょ)
一方が相手方の不貞行為を知ったうえでこれを許したような場合(宥恕)には,離婚原因としての不貞行為にはならないと考えられています。もっとも宥恕がされたかどうかについては,慎重に判断しなければなりません。
【裁判例】東京高裁平成4年12月24日判決・判例時報1446号65頁
【判示事項】 妻に不貞行為があったが、夫がこれを宥恕し、通常の夫婦関係に戻り、その後破綻するに至った場合に、妻の離婚請求が許されるとした事例
3.不貞行為の立証
不貞行為の立証については,相手方が認めている場合や不貞行為の現場の写真・ビデオ等がある場合のほか,メールやSNSの内容等により,性的に密接な交際をしていることが明らかで,性的関係への言及がある様な場合には,立証できる場合が多いと思われます。
仮に,不貞行為の立証まではできない場合であって,そのため民法770条1項1号所定の不貞行為該当性は認められない場合でも,そこで認められる性的に密接な交際関係が,同条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」,すなわち婚姻関係の破綻の原因及び事実として認められ,離婚請求が許される例は普通にみられます。
4.不貞行為に基づく慰謝料・離婚慰謝料
不貞行為は,離婚事由となるだけではなく,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害したことになります。したがって,不法行為に基づく損害賠償義務(民法709条)が発生します。
もっとも,不貞行為がされたとしても,その時点において,すでに婚姻関係が破綻していた場合には,婚姻共同生活の平和を破壊したということにはなりません。
したがって,損害賠償義務も負いません。
【判 例】 最高裁(3小)平成8年3月26日判決 最高裁判所民事判例集50巻4号993頁
【判示事項】 婚姻関係が既に破綻している夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の有無
【判決要旨】 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において,甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは,特段の事情のない限り,丙は,甲に対して不法行為責任を負わない。
不貞行為の相手方(第三者)も,不貞行為をした婚姻当事者と共同して不法行為をしたことになりますので,同じく損害賠償義務(民法709条,719条1項)を負います。
不貞行為に基づく慰謝料の遅延損害金の起算点は,不法行為(不貞行為)の時です。
これに対し,不貞行為を離婚理由とする離婚慰謝料の起算点は,離婚の成立した時であり,裁判離婚であれば,離婚判決が確定したときです。
この点については,近時,最高裁判決がでて(最高裁令和4年1月28日判決),これまでの上記の裁判実務を肯定しました。
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- 離婚に伴う慰謝料請求は,夫婦の一方が,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり,このような損害は,離婚が成立して初めて評価されるものであるから,その請求権は,当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。そして,不法行為による損害賠償債務は,損害の発生と同時に,何らの催告を要することなく,遅滞に陥るものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。したがって,離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
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夫婦の一方が,他方配偶者の不貞行為の相手方(第三者)に対して,離婚慰謝料を請求できるかについては,平田元秀blog-「離婚慰謝料は不貞の相手方に対し請求できない」最高裁平成31年2月19日判決-を参照下さい。
②配偶者の悪意の遺棄(1項2号)
悪意の遺棄とは,婚姻倫理からみて非難される態様で,夫婦の義務である同居,協力,扶助義務に違反する行為をすることです。
配偶者の一方が理由もなく,他方配偶者や子どもを放置して,自宅を出て別居を続けたり,収入がありながら,婚姻費用の分担をしないような場合です。
なお,配偶者が仕事等の都合で,同居することなく別居を続けているような場合には,それだけでは,悪意の遺棄とはいえません。
③3年以上の生死不明(1項3号)
配偶者が3年以上,その生死が不明であるような客観状況が継続する場合です。
実際に生死不明であることは問いません。
こうした場合には,婚姻関係を継続する意味がありませんので,離婚原因とされています。
④回復の見込みのない強度の精神病(1項4号)
相手方が精神病にかかり,夫婦間に相互に精神的交流が失われ,婚姻関係が形骸化しているような場合に離婚を認めるものです。
夫婦には協力扶助義務があるため,病気になった一方配偶者を他方配偶者は保護すべきであるけれども,当事者の意思を無視し,能力を超えてまで,配偶者をいつまでもこうした婚姻に縛り付けておくのは酷である,という考え方に基づくものです。破綻主義の考えに基づくものといえます。
しかし,これが離婚原因となると,精神病に罹患した配偶者は,自己の責任ではないにもかかわらず離婚され,他方配偶者からの経済的援助(生活費や療養費等)を得られなくなってしまいます。また,精神病に罹患した者に対する公的,社会的支援態勢は必ずしも十分でないというのがわが国の現状です。したがって,離婚により婚姻生活から解放される他方配偶者の利益と,精神病に罹患した本人の保護をどのように調整するかということが問題になります。
こうしたこともあって,1項4号に基づく離婚については,裁判例は,慎重な傾向にあるといえます。
【参照すべき判例】
最高裁昭和33年7月25日判決 民集12巻12号1823頁
最高裁昭和45年11月24日判決 民集24巻12号1943頁,判例タイムズ256号123頁
〔判旨〕妻が強度の精神病にかかり回復の見込みがない場合において、妻の実家が夫の支出をあてにしなければ療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、夫は、妻のため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕がないにもかかわらず、過去の療養費については、妻の後見人である父との間で分割支払の示談をしてこれに従って全部支払を完了し、将来の療養費についても可能な範囲の支払をなす意思のあることを裁判所の試みた和解において表明し、夫婦間の子をその出生当時から引き続き養育している等判示事情のあるときは、民法770条2項により離婚の請求を棄却すべき場合にはあたらない。
⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由(1項5号)
すべての事情を総合してみても,到底円満な夫婦生活の継続又は回復を期待することができず,婚姻関係が破綻状態になっているといわざるを得ない場合をいいます。
-
- 婚姻の当事者双方が婚姻を継続する意思がないことと,
- 婚姻共同生活の修復が著しく困難であること
のいずれかが認められれば,これに該当するといえます。
実際に事由の有無が争われるのは,ⅰが形式的には認められない(どちらかが離婚に反対している)場合に,ⅱの婚姻共同生活の修復が客観的に見て著しく困難な状況になっているといえるかどうかをめぐってです。
具体的に問題となるのは,次のとおりです。
ア 長期間の別居
夫婦が長期間別居していれば,婚姻関係が破綻状態にあると考えられます。したがって,別居期間は,重要な要素です(破綻主義的離婚事由)。
法務省では,「夫婦が5年以上継続して婚姻の本旨に反する別居をしているとき」を離婚事由とする,ということが検討されたことがあります(平成8年2月26日法制審議会「民法の一部を改正する法律案要綱」第七の一(エ))。
イ その他の婚姻を継続し難い重大な理由
別居期間のほかに,民法の教科書で「婚姻を継続し難い重大な事由」の要素として例示されるのは,次のような要素です。
-
- 暴行・虐待(有責主義的離婚要素)
- 同居に堪えないような重大な侮辱(有責主義的離婚要素)
- 犯罪行為・服役
- 勤労意欲の欠如・浪費癖・借財等
- 性生活の不一致(性的不能,正当な理由のない性行為拒否,異常な性行為の要求など)
- 過度の宗教活動
- 親族との不和
- 性格の不一致
多くは,他の要素とあいまっての総合判断です。
法律上の離婚事由となるためには,婚姻関係が客観的に破たん状態にあることが必要ですから,特段の事情もないまま,一方配偶者が他方との婚姻生活を続けたくないと主張するだけでは,5号の離婚事由があるとはいえません。
●最近の5号関連裁判例
【裁判例】大阪高裁平成21年5月26日判決 家裁月報62巻4号85頁
【表 題】別居期間が1年余りの夫婦について婚姻を継続し難い重大な事由があるとされた事例
【要 旨】
控訴人(夫)は,被控訴人(妻)と約18年にわたり大きな波風の立たないまま婚姻生活を送ってきていたが, 80歳に達して病気がちとなった控訴人がかつてのような生活力を失って生活費を減じたのと時期を合わせるごとく, 被控訴人が,日常正活の上で控訴人を様々な形で軽んじるようになった上, 長年仏壇に祀っていた控訴人の先妻の位牌を無断で親戚に送り付けたり, 控訴人の青春時代からのかけがえない思い出の品々を勝手に焼却処分したりしたことなどから, 被控訴人と別居するようになったものであるところ, こうした被控訴人による自制の薄れた行為は, 控訴人の人生に対する配慮を欠いた行為であって,控訴人の人生の中でも大きな屈辱的出来事として心情を深く傷つけるものであったこと, それにもかかわらず,被控訴人に控訴人が受けた精神的打撃を理解しようとする姿勢に欠けていること などにかんがみると, 控訴人と被控訴人の婚姻関係は修復困難な状態に至っており, 別居期間が1年余りであることなどを考慮しても, 控訴人と被控訴人との間には婚姻を継続し難い重大な事由があると認めるのが相当である。 |
【コメント】
- この裁判例は,民法770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」の解釈としては,別居以外の破綻事情として掲げられることのある「同居に堪えないような重大な侮辱」の一例として整理することも可能ですが,そもそも,5号は,別居開始に至った事情や経過と別居後の経過とがあいまって,婚姻関係が修復困難な状態に至っているかどうかを常識に従って判断することを許す規定です。
- 一般的破綻主義を採用した「5号」にあたる事由として例示される別居及び別居期間やその他の事由は,要件的に捉えるべきものではありません。
それらは「例示」であって,要するに,婚姻関係が修復困難な状態に至っていると判断された裁判例を整理してみると,そのような事由を理由にしている場合が多いというだけのことです。 - 裁判例を整理して参考事情を提供するのは思考経済に資するものですが,もともと参考事情や例示に過ぎなかった「教科書に出てくる破綻類型」を,あたかもいずれかの破綻類型に該当することが離婚の「要件」であるかのように捉える実務家も散見します。しかし,これは教科書の誤読です。両性の平等の本旨に立脚し,一般的破綻主義を採用した民法770条1項5号の立法趣旨に照らし,実際には修復困難な関係にある当事者に,形骸化した婚姻関係の継続を,国家である裁判所が強制するようなことがあってはなりません。
(2020年3月8日一部修正)
不貞行為について
離婚事件においてよく相談を受けるのが,「夫あるいは妻に不倫された。許せないので離婚したい。」という話や,「不貞行為の慰謝料はいくらぐらい貰えるか。」という話です。
民法の規定する裁判上の離婚事由は5つありますが,そのうちの一つに「配偶者に不貞行為があったとき」というのがあります。
ところが,実際には,配偶者が不貞行為に及んだことで即離婚となるとは限りません。
通常は,全ての事情を総合してみても,到底円満な夫婦生活の継続及び回復が期待できず,婚姻関係が破綻しているといえれば,裁判上の離婚が認められるでしょう。ですから,不貞行為を理由に離婚訴訟を提起するときは,民法の規定する離婚事由として,先ほどの「配偶者に不貞行為があったとき」だけではなく,「その他婚姻を継続し難い重大な事由」も同時に上げることが多いです。
1 不貞行為の存在はどのように立証するのか
不貞行為の現場を捉えた写真があればかなり強力ですが,相手が用心している場合も多いですから,なかなか証拠を準備することは難しいです。
写真あるいは不貞行為の存在をうかがわせるメールがなければ,不貞行為の立証は難しいといえるかも知れませんが,最終的にはケースバイケースです。
2 不貞行為の証拠が無ければ,離婚も認められないのか
理屈からすればそうなりますが,最終的には証人尋問や原告及び被告の当事者尋問をやって,不貞行為があったかどうかははっきりしないものの,婚姻関係自体は破綻しているとして離婚が認められることもあります。
3 不倫をした側が,配偶者に対して離婚を請求することは認められるか
有責配偶者からの離婚請求が認められるかという問題です。自ら婚姻を破たんさせた者のことを有責配偶者といいます。
判例は,かつては,たとえ婚姻が破たんしていても認めるべきではないとしていましたが,現在では,婚姻が破たんしている以上,離婚を広く認めるべきであるという考え方に変わってきています。
裁判所も,夫婦の別居期間が同居期間に比べてどの程度長期に及んでいるか,未成熟の子どもがいないか,相手方配偶者が離婚により過酷な状態におかれないかなどの事情を,具体的に判断していくことになります。
4 慰謝料の相場はどのくらいなのか
慰謝料の金額については非常によく聞かれますが,これはもうケース・バイ・ケースとしか言いようがありません。通常,慰謝料の請求は離婚訴訟に含めて行うことが多いのですが,その場合は,相手方配偶者の不貞行為によって婚姻関係が破たんした,よって離婚を求めるし,慰謝料も求めるということになります。そうすると,慰謝料の額についても,破たんの原因,破たんの程度・内容,破たんに至る経緯や動機等を元に判断されることになります。
5 不貞行為の相手方への請求も同じ手続の中でできるのか
不貞行為をした配偶者と不貞行為の相手方は共同不法行為をしたものとして,連帯して慰謝料債務を負うことになります。
DV(ドメスティックバイオレンス)事件
DVとは,ドメスティックバイオレンス,つまり家庭内暴力の略ですが,近年,一般的には,家庭内で起きたかを問わず,元夫婦や恋人など親密な関係にある者の間に起こる暴力全般に対してこの言葉が使用されています。
DV事案については,DVを防止するための法律があります。この法律は,「配偶者からの暴力」のみを対象としていますので,単なる交際相手やストーカーからの暴力はまた別の法律で規制されています。暴力の具体的内容については,「被害者に対する身体的暴力のほか,その心身に有害な影響を及ぼす言動」と定められています。つまり,直接体に振るう暴力だけではなく,言葉の暴力や経済的暴力なども含まれます。
1 加害者に自分の過ちに気付かせてDVを止めさせることはできないか
被害者に謝罪して絶対もう暴力は振るわないと約束したのに,約束を守らず暴力を振るい続ける人はたくさんいます。
また,DV加害者は,被害者や子供に対する所有意識・支配欲が強く,暴力についての加害意識・責任感がないので,暴力を振るって気が済んだ後に表面上反省しているように見せても,実際は改心していないことも少なからずあります。
2 対応策
それでは,被害者はどのように対処すればいいのか。
加害者のもとを去る決意ができたのなら,まず加害者のもとを去り,加害者から何を言われても加害者のもとへは帰らない事です。
もしかしたら,こんどこそ改心してくれるかもと期待して戻ると,加害者は,今回の程度暴力では夫婦の絆は切れないと確信し,もう一段エスカレートした暴力を振るいます。
被害者が加害者のもとを去る時,加害者は被害者を引き留めようと必死になるので,もっとも危険な状態になります。そこで,まずは,一人で悩むのではなく周囲に相談して,協力者を探してください。
3 誰に相談すればよいか
まずは,両親や友人でもいいです。ただ,彼らがDVについて多くの情報を持っているとは限りませんから,DV専門の相談窓口に是非行ってください。
一つには配偶者暴力相談支援センターがあります。DV被害者の支援の中心的な機関です。姫路では,姫路市DV相談支援センターで,電話での相談や面接での相談が受けられます。
次に警察です。今まさに暴力を振るわれている時は迷わず110番してください。差し迫った危険がなくても,警察に相談しておくことで,その後,何かあった時に警察がすぐに対処してくれます。
他には,市区町村の相談窓口もあります。
4 裁判所の保護命令について
保護命令とは,簡単に言えば,裁判所が加害者に対して「被害者に近づくな」「自宅から出ていけ」などの命令をしてくれる制度です。この命令に加害者が違反した場合,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられますので,多くの加害者はこの命令に従い,被害者の安全を確保できます。
保護命令は,DVのうち,「身体に対する不法な攻撃であって生命身体に危害を及ぼすもの」,つまり身体に対する直接的な暴力だけが対象になっていて,精神的暴力や経済的暴力は含まれません。このような身体に対する暴力を受けている被害者は,裁判所に保護命令を出してくれという申立てができますが,他にも満たすべき細かい要件がありますので,申立をする前にご相談ください。
相談の際, 暴力の証拠が非常に重要になってきます。一般に身体的暴力の有効な証拠になりえる資料としては,暴力に由来する精神疾患や怪我の診断書,怪我の写真,怒鳴ったり罵り声の録音,メールの記録などです。また,第三者が暴力を見ていればその目撃証言も重要です。
あとは,加害者と知り合ってから現在に至るまでの出来事を時系列にまとめた表や,今まで受けた暴力の詳細について記載した書面を持参されると良いと思います。限られた相談時間の中で,長い夫婦生活や長年の暴力の話を一から思い出して話していると,あっという間に時間が過ぎてしまいますからね。
証拠がない場合でも,保護命令が出なくとも,相手から逃げて,DV被害者を匿う施設に身を寄せるなどして身の安全を確保することはできます。
保護命令が出されるケースで,加害者が子供を連れ戻そうとしている場合,被害者に加えて,子供への接近も禁止してもらえます。 また,保護施設には子供と一緒に入所できますし,新しい住所に住民票を移動させなくても,実際に住んでいるところの学校に子供を通わせることもできますので,加害者の知らない場所で子供と生活できます。