土地売買契約上の債務の履行を求める訴訟で弁護士費用を相手に請求できるか(最判・消極)
最判(3小)令和3年1月22日 判例タイムズ1487号157頁
【要旨】
土地の売買契約の買主は,当該売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行または保全命令もしくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても,売主に対し,これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない。
【コメント】
損害賠償請求に際して,弁護士費用を付加して請求できるかの点については,基本判例(実務)が二つある。
Ⅰ 不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の追行のための弁護士費用は,不法行為と相当因果関係に立つ損害である。
(最判(1小)昭和44年2月27日判タ232号276頁)
実務:認容額の1割程度の弁護士費用を認める運用がなされている。
Ⅱ 債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟の追行のための弁護士費用について
- 労働契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の追行のための弁護士費用は,同義務違反と相当因果関係に立つ損害である。(最判(2小)平成24年2月24日判タ1368号63頁)
- 建築瑕疵が争われる事案では,下級審レベルでは,事案の内容,複雑性,争点の判断に要求される専門性等を総合考慮したうえで,妥当な案件では損害認容額の1割程度の弁護士費用を認める運用がなされている(東京地判令和3年1月13日LLI/DB 判例秘書登載)。
本件の最判は,土地の売買契約上の売主が負う引渡債務及び所有権移転登記手続債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行にかかる弁護士費用について,次の通り述べて,債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないとしたものである。
土地の売買契約の買主は,上記債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した 場合であっても,売主に対し,これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである。 |