相続・不動産の分野で検討されている大改正について

 法務省の法制審議会で,「民法・不動産登記法の改正」に関する検討が,2019年3月から急ピッチで進んでいます。
そこでの検討課題(論点)は,「民法・不動産登記法の改正に当たっての検討課題」の通りであり,
 改正の基本的な視点とスケジュールとしては「近年,土地の所有者が死亡しても相続登記がされないこと等を原因として,不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず,又は判明しても連絡がつかない土地(以下「所有者不明土地」という。)が生じ,その土地の利用等が阻害されるなどの問題が生じている。そのため,政府においては,経済財政運営と改革の基本方針2018等で,相続登記の義務化等を含めて相続等を登記に反映させるための仕組み,登記簿と戸籍等の連携等による所有者情報を円滑に把握する仕組み,土地を手放すための仕組み等について検討し,2020年までに必要な制度改正の実現を目指すとしている。」と紹介されています。
既に2019年12月3日に中間試案が発出されています。
 http://www.moj.go.jp/content/001312343.pdf
 ここに表れているとおり,民法の
 ① 共有制度,
 ② 財産管理制度,
 ③ 相隣関係,
 ④ 遺産の管理と遺産分割,
 ⑤ 土地所有権の放棄,
 ⑥ 相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み,
 ⑦ 登記名義人の氏名又は名称及び住所の情報の更新を図るための仕組み, 
 ⑧ 相続以外の登記原因による所有権の移転の登記の申請の義務付け,
 ⑨ 登記義務者の所在が知れない場合等における登記手続の簡略化,及び
 ⑩ その他
に関する,大変に大規模な改正ないし制度の創設が予定されています。
 いずれも市民生活に大きな影響を与える改正試案なのですが,特に耳目を引くのが,④の「遺産分割」に関する改正試案です。
 当事務所の依頼者からもこの度,この件に関するご連絡(情報提供)がありましたので,特に掲示し,注意喚起をしておきます。


<中間試案>「第4 遺産の管理と遺産分割」
3 遺産分割手続の申立て等がされないまま長期間が経過した場合に遺産を合理的に分割する制度
 遺産分割手続の申立て等がされないまま長期間が経過した場合に遺産を合理的に分割することを可能とするため,次のような規律を設けることについて,引き続き検討する。
(1) 具体的相続分の主張の制限

 遺産分割の合意がされていない場合において,遺産分割手続の申立てがないまま相続開始時から10年を経過したときは,共同相続人は,具体的相続分の主張(具体的相続分の算定の基礎となる特別受益及び寄与分等の主張)をすることができない。
(注)具体的相続分の主張期間については,5年とするとの考え方もある。

(2) 分割方法等

 (1)のとおり具体的相続分の主張をすることに制限を設けることを前提に
 (1)の期間の経過後は
 遺産に属する財産の分割は,各相続人の法定相続分(指定相続分がある場合にあっては,指定相続分。以下同じ。)の割合に応じて
 次の各案のいずれかの手続で行う。

【甲案】
 (1)の期間経過後も,遺産の分割は,遺産分割手続により行う
 ただし,一定の事由があるときは,遺産に属する特定の財産の分割を,共有物分割(準共有物分割)の手続により行うことができる
【乙案】
 (1)の期間経過後は,遺産の分割は,遺産分割手続ではなく,遺産に属する特定の財産ごとに共有物分割(準共有物分割)の手続により行う。

 

  • (注1)
     相続開始から10年を経過した場合には,各相続人は,遺産に属する特定の財産(不動産,動産及び債権等)のそれぞれについて 法定相続分(指定相続分がある場合にあっては,指定相続分)に相当する共有持分(準共有持分)を有していることを前提とする。
     ただし,これとは別に,遺産に属する金銭及び遺産分割手続での分割の対象となっている可分債権(例えば,預貯金債権)については,相続開始から10年を経過したときは,遺産分割手続又は共有物分割(準共有物分割)の手続を経ずに,法定相続分(指定相続分)の割合により当然に分割されるものとし,各相続人が法定相続分(指定相続分)の割合に応じて金銭(金銭を占有しない相続人にあっては,金銭を占有する相続人に対する持分相当額の不当利得返還請求権又は引渡請求権)や債権を取得するとの考え方がある。
  • (注2)
     相続開始から10年を経過する前に遺産の一部が分割されていたとしても,(注1)のとおり,相続開始から10年を経過した場合には,各相続人は,遺産の分割がされていない遺産に属する財産について法定相続分(指定相続分がある場合にあっては,指定相続分)に相当する共有持分(準共有持分)を有し,その財産の分割は,先行する一部分割の結果を考慮せずに,各相続人がその財産について有する法定相続分(指定相続分)によって分割する
  • (注3)
     「遺産に属する特定の財産」とは,遺産分割の対象となる積極財産を意味し,被相続人の財産であっても,遺贈された財産など遺産分割の対象ではない財産や,消極財産は含まれないことを前提とする。
  • (注4)
     遺産分割方法の指定は,遺産分割手続の申立てがないまま相続開始から10年を経過すれば,効力を生じない(ただし,相続開始から10年を経過する前に,遺産分割方法の指定によって相続人が特定の遺産を取得していた場合は除く。)ことを前提とする。
  • (注5)
     【甲案】は,家庭裁判所が遺産分割の審判において相続分の割合の変更をすることができないことを前提としている。
  • (注6)
     【甲案】の「一定の事由」としては,通常の共有と遺産共有(ただし,相続開始から10年を経過しているものに限る。)が併存しており,一括して処理をする必要がある場合と,数次相続(ただし,相続開始からいずれも10年を経過しているものに限る。)が生じており,一括して処理をする必要がある場合を念頭に,引き続き検討する。