日本における司法改革後の法曹人口・法曹養成制度の推移
〔日本における司法改革後の法曹人口・法曹養成制度の推移〕
兵庫県弁護士会と釜山地方弁護士会との交流行事で,このタイトルで報告する機会を頂きました。
この行事に合わせ、日本における司法改革後の法曹人口・法曹養成制度の推移をレジュメ風に整理してみました。(2022年9月19日記)
小史
Ⅰ.制度創設期
1.2001年6月 司法制度改革審議会意見書
(1)法曹の在り方についての考え方
21 世紀の我が国社会にあっては,司法の役割の重要性が飛躍的に増大する。 規制の廃止・緩和等に伴って,国民の間で起きる様々な紛争がルールの下で適正かつ迅速に解決される仕組みが整備されなければならない。このことは我が国の社会の足腰を鍛え,グローバル化への対応力の強化にも通じる。 国民が自律的存在として,社会を発展させていくためには,法曹が「国民の社会生活上の医師」として,各人の具体的な生活ニーズに即した法的サービスを提供することが必要である。 法曹が,個人や企業等の諸活動に関連する個々の問題について,法的助言を含む適切な法的サービスを提供することによりそれらの活動が法的ルールに従って行われるよう助力し,紛争の発生を未然に防止するとともに,更に紛争が発生した場合には,これについて法的ルールの下で適正・迅速かつ実効的な解決・救済を図ってその役割を果たすことへの期待は飛躍的に増大する (要点)法曹が,法の支配の理念を共有しながら,今まで以上に厚い層をなして社会に存在し,相互の信頼と一体感を基礎としつつ,国家社会の様々な分野で幅広く活躍することが,強く求められる。 |
(2)法曹人口と法曹養成制度の改革方向
○ 質量ともに豊かなプロフェッションとしての法曹を確保する。
量 | 法曹人口については, 2004年には現行司法試験合格者数 1,500人を達成した上, 2010年ころには新司法試験の合格者数を年間 3,000 人にまで増加させることを目指す。 |
質 | 法曹養成制度については,21 世紀の司法を担うにふさわしい質の法曹を確保するため,司法試験という「点」ではなく,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を整備することとし,その中核として 法科大学院を設ける。 |
2.その後の諸施策
(1)2002年3月 司法制度改革推進計画(閣議決定)
「2010年ころには司法試験の合格者数を年間3000人程度とすることを目指す」
(2)2004年4月 法科大学院制度が創設(2005年4月第1期生入学)
(3)2004年12月 司法修習生の給費制を廃止する裁判所法改正法が成立
(4)2006年 新司法試験が開始
(5)2011年 旧司法試験が廃止,修習資金の貸与制が開始,新司法試験予備試験が開始
第2 制度見直し期
1.2012年3月 日弁連「法曹人口政策に関する提言」を発表
現状では,法曹養成制度の成熟度,現実の法的需要,司法基盤の整備状況のいずれに対しても,また裁判官・検察官の増員の程度と比べても,弁護士人口増員のペースが急激であり過ぎる。 そのため法曹養成過程における「法曹の質」の維持への懸念,新人弁護士の「就職難」等によるOJT不足から実務経験・能力が不足した弁護士が社会に多数増えていくことへの懸念,法曹志望者の減少などの深刻な問題を引き起こしている。 市民のための司法を実現するためには,これらの問題を解決する必要がある。 そのためには,いまや法曹人口の急増から「状況に応じた漸増」へと,速やかに移行すべきである。 司法制度改革推進計画(2002年3月19日閣議決定)のうち「平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す」との指針を示した部分は,現状ではもはや現実的ではなく,抜本的に見直す必要がある。 司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し,更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきである。 |
2.2013(H25)6月 政府・法曹養成制度検討会議「取りまとめ」
現時点においても司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることを目指すべきとの数値目標を掲げることは,現実性を欠くものと言わざるを得ない。法曹人口についての調査を行うとともにその結果を2年以内に公表するべきである。
3.2015年6月 政府 法曹養成制度改革推進会議 決定
司法試験合格者数でいえば,直近でも1,800人程度が輩出されてきた現状を踏まえ,当面,これより規模が縮小するとしても,1,500人程度は輩出されるよう,必要な取組を進める。
4.2017年4月 司法修習生に修習資金を給付する裁判所法改正法が成立
〔衆議院での法務大臣答弁〕
「法曹人材確保の充実強化の推進等を図るために修習給付金制度を創設することとした。その背景として私が受けとめておりますのは,法曹志望者が大幅に減少しているという現状があろうかと思います。」
5.2019年6月 法科大学院在学中に司法試験を受験できる制度を創設
法務省「司法試験を受験するためには,従来,法科大学院の課程の修了又は司法試験予備試験の合格が必要でしたが,法曹資格取得までの時間的・経済的負担の軽減を図るための方策として,令和5年〔2023年〕司法試験から,新たに,法科大学院の課程に在学する者であって,一定の要件を満たした者についても,司法試験を受験できることになりました。」
第3 見直し後の検証期
1.2022年3月 日弁連 法曹人口政策に関する当面の対処方針
現時点において,司法試験の合格者数に関して,更なる減員を提言しなければならない状況にはない。
もとより,プロセスとしての法曹養成において質を確保するためには,司法試験の合否の判定についても,近年の合格者数の維持を所与の目標とすることなく,司法試験法第1条に基づいて引き続き厳正に実施されるべきである。