「給与ファクタリング」と称する取引は、貸金業法・出資法上の「貸付け」にあたる(最判令和5年2月20日)

【裁判例の表示】 最決(3小)令和5年2月20日刑集77巻2号13頁(本件は刑事判例です。)

【要    旨】 
 事業者が行っていた「給与ファクタリング」と称する取引は、
 債権譲渡の対象が労働者の使用者に対する賃金債権であり、
 譲受人は、自ら使用者に対して支払を求めることは許されず、実際には債権を買い戻させることなどにより労働者から資金を回収するほかなく、
 労働者は、事実上自ら債権を買い戻さざるを得なかったなどの判示の事情(判文参照)の下では、
 譲受人から労働者に対する金銭の交付は、
 形式的には、債権譲渡の対価としてされたものであり、使用者の不払の危険を譲受人が負担するとされていたとしても、
 貸金業法2条1項と出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律5条3項にいう「貸付け」に当たる。

【理    由】

    1.  本件は、東京都内に事務所を設け、株式会社Aの名称で、「給料ファクタリング」と称する取引を行っていた被告人が、
      (1)東京都知事の登録を受けないで、業として、令和2年3月13日から同年7月27日までの間、969回にわたり、合計504名の顧客に対し、口座に振込送金する方法により、貸付名目額合計2790万9500円(実交付額合計2734万2120円)を貸し付け、もって登録を受けないで貸金業を営んだという貸金業法違反(同法47条2号、11条1項、3条1項)、
      (2)業として金銭の貸付けを行うに当たり、同年3月31日から同年8月4日までの間、33回にわたり、前記株式会社A名義の普通預金口座に振込送金で受け取る方法により、前記顧客のうち8名から、法定の1日当たり0.3パーセントの割合による利息合計11万8074円を101万7816円超える合計113万5890円の利息を受領したという出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)違反(同法5条3項後段)から成る事案である。
    2.  原判決の認定及び記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。
       被告人が、「給料ファクタリング」と称して、顧客との間で行っていた取引(以下「本件取引」という。)は、
       被告人が、労働者である顧客から、その使用者に対する賃金債権の一部を、額面額から4割程度割り引いた額で譲り受け
       同額の金銭を顧客に交付するというものであった。
       本件取引では、契約上、使用者の不払の危険は被告人が負担するとされていたが、
       希望する顧客は譲渡した賃金債権を買戻し日に額面額で買い戻すことができること、
       被告人が、使用者に対する債権譲渡通知の委任を受けてその内容と時期を決定すること、
       顧客が買戻しを希望しない場合には使用者に債権譲渡通知をするが、顧客が希望する場合には買戻し日まで債権譲渡通知を留保することが定められていた。
       そして、全ての顧客との間で、買戻し日が定められ、債権譲渡通知が留保されていた。
    3.  所論は、本件取引は債権譲渡であるから、その対価としての金銭の交付は貸金業法2条1項と出資法5条3項にいう「貸付け」に当たらないと主張する。
    4.  そこで検討すると、
       本件取引で譲渡されたのは賃金債権であるところ、労働基準法24条1項の趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同項が適用され、使用者は直接労働者に対して賃金を支払わなければならず、その賃金債権の譲受人は、自ら使用者に対してその支払を求めることは許されない(最高裁昭和40年(オ)第527号同43年3月12日第三小法廷判決・民集22巻3号562頁参照)ことから、
      被告人は、実際には、債権を買い戻させることなどにより顧客から資金を回収するほかなかったものと認められる。
       また、顧客は、賃金債権の譲渡を使用者に知られることのないよう、債権譲渡通知の留保を希望していたものであり、使用者に対する債権譲渡通知を避けるため、事実上、自ら債権を買い戻さざるを得なかったものと認められる。
       そうすると、本件取引に基づく金銭の交付は、それが、形式的には、債権譲渡の対価としてされたものであり、また、使用者の不払の危険は被告人が負担するとされていたとしても、実質的には、被告人と顧客の二者間における、返済合意がある金銭の交付と同様の機能を有するものと認められる。
    5.  このような事情の下では、本件取引に基づく金銭の交付は、貸金業法2条1項と出資法5条3項にいう「貸付け」に当たる。
       したがって、被告人について、(1)貸金業法違反及び(2)出資法違反の各罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の判断は相当である。
       よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
      (裁判長裁判官 宇賀克也 裁判官 林 道晴 裁判官 長嶺安政 裁判官 渡邉惠理子 裁判官 今崎幸彦)