強制不妊手術国賠事件 最高裁判決(R6.7.3)

 強制不妊手術国賠事件に関する最高裁判決が、令和6年7月3日に言い渡されました。

 判決事件と判決結果は、次の通りです。

① 令和5(受)1319(原審大阪高裁 被害者勝訴)国の上告を棄却
② 令和5(受)1323(原審札幌高裁 被害者勝訴)国の上告を棄却
③ 令和4(受)1411(原審東京高裁 被害者勝訴)国の上告を棄却
④ 令和4(受)1050(原審大阪高裁 被害者勝訴)国の上告を棄却
⑤ 令和5(オ)1341(原審仙台高裁 被害者敗訴)被害者の上告を認容。高裁判決破棄差戻

 改正前民法724条は、「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」と定めていました。724条後段(下線部)の規定について、最高裁は、平成元年2月21日判決(「平成元年判決」)で、除斥期間説を採用し、「除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は、主張自体失当である」と判示しました。
 平成元年判決については、その後いくつかの最高裁判決で例外を認める判断がなされましたが、基本的な考え方は残っておりました。そこで、国は、「平成元年判決その他の判例によれば、本件請求権は、改正前民法724条後段の期間の経過により消滅したというべきであり、原審の判断には同条後段の解釈の誤り及び判例違反がある」と主張しました。

 この点について、今回の最高裁判決は、次のように述べて、平成元年判決の上記判示にかかる解釈ルール(不法行為から20年経過後は信義則違反・権利濫用の主張はできず、一律権利は消滅する、というルール)を、廃棄しました。

「平成元年判決は、改正前民法724条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、不法行為に基づく損害賠償を求める訴えが除斥期間の経過後に提起された場合には、裁判所は、当事者からの主張がなくても、除斥期間の経過により同請求権が消滅したものと判断すべきであって、除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は、主張自体失当である旨を判示している。
 しかしながら、本件の事実関係の下において、除斥期間の経過により本件請求権が消滅したものとして上告人が損害賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない。平成元年判決が示した上記の法理をそのまま維持することはできず、除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用となる場合もあり得ると解すべきであって、本件における上告人の除斥期間の主張は、信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。」

 改正前民法724条後段の20年の権利消滅期間は、除斥期間を定めたものであった、とする考え方は改めなかった。除斥期間でも、その主張は信義則違反、権利濫用だという主張は可能だとした。そのような判決です。

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強制不妊手術の国家賠償請求について20年の除斥期間の適用を制限し、又は20年の時効消滅の主張を権利濫用だとした裁判例

 強制不妊手術国賠訴訟は、民法の基本的な判例も、決して金科玉条のものではなく、ぬきさしならぬ事案が提示され、それに正義・公平の理念という秤が突きつけられたとき、裁判所を取り巻く、政治・経済・社会の動向(国内コンセンサスの動向)に強く影響されつつではあれ、動的に発展しうるものだということを示す格好の素材といえます。