相続土地国庫帰属制度――「手放すまでにかかる費用」と法務省・利用者意識調査(令和8年9月)の概要

はじめに

 令和8年9月、法務省民事局が「相続土地国庫帰属制度の運用状況に関する利用者に対する意識調査結果の概要」を公表しました。申請者・相談者・専門資格者の計2,000人超に聞いた、制度開始から約3年半の「利用者の本音」です。
 調査からは、制度そのものの満足度は高い一方で、「負担金が高い」「審査期間が長い」「要件を満たすのが難しい」という声が多いことが見えてきます。とりわけ、国に引き取ってもらうまでに建物の解体や草刈り、境界の明示などで相当の出費を要する例が少なくありません。
 そこでここでは、まず制度の概要と「手放すまでにかかる費用」を、要件とあわせて整理し、そのうえで意識調査の結果をご紹介します。

相続土地国庫帰属制度とは

 相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈で取得した「いらない土地」を、一定の要件を満たせば国に引き取ってもらえる制度です。根拠は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号、以下「相続土地国庫帰属法」)で、令和5年(2023年)4月27日に始まりました。
 申請できるのは、相続または相続人に対する遺贈で土地を取得した人です。売買や贈与で取得した人は申請できません。共有地の場合は共有者全員で申請する必要があり、相続以外の原因で持分を取得した共有者も、相続人と共同であれば申請できます。

 手続の流れは次のとおりです。

1.  土地を管轄する法務局(本局)での事前相談(予約制)
2.  承認申請書の提出と審査手数料の納付
3. 法務局による書面調査・実地調査
 (隣地所有者への通知、関係省庁・自治体への情報提供を含む)
4.  法務大臣(法務局長)による承認・不承認の判断
5.  負担金の納付(通知到達の翌日から30日以内。期限を過ぎると承認は失効)
6.  納付の時点で土地の所有権が国に移転(登記は国が行う)

 法務省の統計によれば、令和8年8月31日現在で、申請は累計5,997件、国庫帰属は累計3,119件です。
 地目別の申請は 田・畑2,335件、宅地2,091件、山林902件、その他669件となっています。

ポイント:国に引き取ってもらうまでにかかる費用

 国庫帰属にかかるお金は、法定の「審査手数料」(上記2)と「負担金」(上記5)だけではありません。要件を満たすために土地を整える「事前整備費用」が、実際には最も大きくなることがあります。

費用  いつ払うか  金額 戻ってくるか
審査手数料  申請時(収入印紙) 土地1筆につき14,000円 却下・不承認・取下げでも返還されない
事前整備費用 申請前〜審査中 土地の状態次第 自己負担
(数万円〜100万円超)
負担金  承認後30日以内 原則20万円。一部の土地は面積に応じて算定 —
専門家報酬 依頼した場合  依頼先・内容による —

 

 事前整備費用とは、建物の解体、工作物・樹木・残置物の撤去、草刈り、境界の目印の設置などに要する費用です。
 どこまでの整備が必要かは、次の「却下要件」「不承認要件」によって決まります。
 意識調査では、申請者の半数超(51.9%)がこの費用に20万円以上を支出していました(後述)。

国が引き取れない土地:却下要件と不承認要件

 国が引き取らない土地は、法律上二段階で定められています。
 「却下要件」は該当すれば申請自体が門前払いになるもの(相続土地国庫帰属法2条3項)、「不承認要件」は審査の結果、管理・処分に過分の費用や労力がかかると判断されれば承認されないもの(同法5条1項)です。
 いずれも、却下・不承認になれば審査手数料は戻りません。

区分   該当する土地 申請前に必要となりうる対応
却下 建物がある土地 建物の解体・滅失登記
却下 抵当権などの担保権や、賃借権・地上権などの使用収益権が設定されている土地   抹消・解除  
却下  通路・墓地・境内地・水道用地・用悪水路(用水路)・ため池など、他人による使用が予定される土地  原則として対象外
却下   基準を超える特定有害物質で土壌汚染されている土地 原則として対象外
却下 境界が明らかでない土地、所有権の存否・帰属・範囲に争いがある土地  境界点の確認・目印の設置、隣地所有者との認識の一致
不承認  一定の勾配・高さの崖があり、管理に過分の費用・労力を要する土地 原則として対象外
 
 不承認 
管理・処分を阻害する工作物、車両、樹木その他の有体物が地上にある土地  工作物・ブロック塀・残置物・支障となる樹木の撤去
不承認  除去しなければならない有体物が地下にある土地  埋設物(廃材・浄化槽・古い基礎など)の撤去
不承認 隣地所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地  不法占拠・通行妨害などの解消
不承認 その他、災害の危険、鳥獣・病害虫の被害、森林の追加整備の必要、土地改良区の賦課金など国が負う金銭債務などで、管理・処分に過分の費用・労力を要する土地 個別に検討

 「不承認」要件の多くは「過分の費用又は労力」を要するかどうかの評価を含むため、土地ごとの判断になります。
 たとえば森林の立木は当然には問題になりませんが、宅地の庭木が管理を妨げる状態であれば撤去を求められることがあります。

費用がかさむ二つの場面:「更地にすること」と「境界を示すこと」

更地にすること

 建物が残っている土地は、それだけで却下されます。
 空き家付きの土地を手放すには、まず解体が必要です。
 木造住宅でも解体費は100万円を超えることが珍しくなく、意識調査で「100万円以上」を支出した申請者が21.2%いたのは、この解体費が大きいと考えられます。
 建物以外でも、ブロック塀、物置、残置物、管理の支障となる樹木、地中の埋設物は不承認要件にかかわります。
 相談者からは、田舎の家屋や塀、庭木を撤去して更地にする費用が高額だという声が寄せられています。

境界を示すこと

 「境界が明らかでない土地」も却下要件です。
 ただし、隣地との筆界を確定させる測量(確定測量)までは求められていません。
 申請者が認識している境界点を示し、隣地所有者との間で境界に争いがないことが求められます。
 実務上は、境界点に杭やプレートなどの目印を設置し、「隣接する土地との境界点を明らかにする写真」を申請書に添付します。
 法務局は実地調査でこれを確認し、隣地所有者には申請があった旨が通知されます。

 意識調査では、この点が大きな負担として繰り返し指摘されています。

• 遠方の山林や原野では境界がはっきりせず、写真撮影が難しいため申請を諦める人がいる(資格者)
• 境界の写真を用意することが現実的に不可能(相談者)
• 申請から実地調査まで時間がかかり、境界杭が草で見えなくなって再度草刈りを求められた(申請者)

 最後の例のように、審査期間が長いと、その間の草刈りや目印の維持にも費用がかかります。申請前の整備費用だけでなく、審査中の維持費用も見込んでおく必要があります。

審査手数料と負担金の実際

審査手数料

 審査手数料は土地1筆につき14,000円で、申請書に収入印紙を貼って納めます。
 却下・不承認・取下げとなっても返還されません。
 筆数が多い山林では、手数料だけでも相応の額になります。

負担金

 負担金は、国が引き取った後の管理費用の一部として、10年分の標準的な管理費用を考慮して算定されます(相続土地国庫帰属法10条1項)。 納付は承認時の1回のみです。

 「原則20万円」とよく紹介されますが、これは面積にかかわらず定額となる土地の話です。
 土地の種目と所在する区域によって、次のとおり面積に応じた算定になります。

種目  20万円(定額)  面積に応じて算定
宅地 右記以外 都市計画法の市街化区域または用途地域内
田・畑  右記以外  市街化区域・用途地域内、農振法の農用地区域内、土地改良事業等の施行区域内
森林   — すべて
その他(雑種地・原野など)   すべて —

 「面積に応じた算定」は単純な比例ではなく、面積が大きいほど1㎡当たりの額は下がります。
 法務省の算定式に当てはめると、たとえば次のようになります。

土地の例 負担金の額
市街化区域内の宅地 100㎡ 約55万円
市街化区域内の宅地 200㎡  約79万円
市街化区域内の宅地 400㎡ 約124万円
 農用地区域内の畑 500㎡ 約72万円
農用地区域内の田 1,000㎡  約113万円
森林 1,500㎡ 約27万円
森林 3,000㎡ 約30万円
森林 10,000㎡  約37万円

 個別の金額は、法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」の算定式と、同ページの自動計算シート(Excel)で確認できます。

 

 

 

隣接地をまとめる特例

 負担金は原則として1筆ごとにかかりますが、同じ種目の土地が隣接している場合は、申出により一つの土地とみなして算定できます(施行令6条)。
 20万円定額の土地なら2筆以上を1筆分で、森林など面積算定の土地なら合算面積で計算します。
 申出ができるのは申請から承認までの間です。
 たとえば隣接する市街化区域外の宅地同士は対象になりますが、宅地と森林が隣接していても対象になりません。

法務省・利用者意識調査(令和8年9月公表)の概要

 調査は、申請者85人、法務局への相談者402人、専門資格者1,670人(弁護士128人、司法書士612人、行政書士405人、土地家屋調査士525人)を対象に、令和7年10月から令和8年2月にかけてWebアンケートで行われました。

審査結果への満足度は高い

 申請者の81%が審査結果に「満足」「やや満足」と答え、不満は7%にとどまりました。 申請者の80%は申請前に法務局の相談制度を利用しています。
 相談者の63%は、相談を受けて「今後制度を利用したい」と回答しました。

申請者が支出した費用:半数超が20万円以上

 建物の解体、草刈り、ゴミ処理、塀の修理など、申請前と審査中に支出した費用(専門家報酬を除く)は次のとおりです。

支出額 割合
100万円以上  21.2%
50万円以上100万円未満  6.0%
20万円以上50万円未満  24.7%
15万円以上20万円未満  8.2%
10万円以上15万円未満  8.2%
5万円以上10万円未満  8.2%
5万円未満  23.5%

 費用が5万円未満で済んだ人が約4分の1いる一方、20万円以上は51.9%、100万円以上も21.2%にのぼります。
 整備が要らない土地と、解体などが必要な土地とで負担が大きく分かれています。
 なお、申請者・相談者が見込む土地の年間維持管理費(1筆当たり、固定資産税を除く)は、2万円未満が45.0%、20万円以上が11.7%でした。

申請に至らない理由は「要件」と「負担金」

 資格者に、相談を受けたのに申請に至らなかった理由を尋ねたところ(複数回答)、「却下・不承認要件に該当する可能性がある」が50.3%、「負担金が高額」が34.9%でした。
 第三者への処分の見込み(5.8%)や共有者全員の同意が得られない(5.7%)は少数です。
 負担金の額については、「高い」と感じる人が資格者57%、相談者53%、申請者50%でした。
 ただし申請者では「妥当」も48%あり、評価は二分しています。

審査期間は「長い」

 標準審査期間とされる8か月について、資格者の71%、相談者の70%が「長い」と回答しました。
 実際に審査を受けた申請者でも44%が「遅い」と感じ、「早い」は22%でした。

自由記述に見る要望

• 要件の緩和:耕作放棄地や遠方の山林・原野でも利用しやすく、共有者の一部からでも手放せる制度にしてほしい
• 負担金の低額化:面積や管理の手間に応じた設定にしてほしい。筆数の多い山林や、面積算定となる農地・市街化区域の宅地では負担が重い
• 手続・期間:審査の迅速化、承認後の登記の迅速化、承認事例の情報提供

他の手放し方との比較

国庫帰属以外に検討した方法(複数回答)は、

・ 親族・近隣への譲渡29.7%、
・ 民間の引取りサービスや不動産業者の仲介25.0%、
・ 相続放棄18.3%、
・ 自治体・国への寄附15.0%、
・ 農地バンク6.6%、
・ 森林経営管理制度2.5%

でした。制度を知ったきっかけ(複数回答)は、法務省・市町村以外のインターネット18.0%、法務省・法務局のWebサイト15.8%、新聞15.0%が上位でした。
 専門資格者からは8.1%にとどまります。

まとめ:申請の前に「総額」を見積もる

 相続土地国庫帰属制度は、実際に利用した人の満足度が高い制度です。
 その一方で、国に引き取ってもらうには、審査手数料(1筆14,000円)と負担金(原則20万円、区域によっては数十万〜100万円超)に加え、更地にする費用や境界を示すための整備費用がかかります。
 申請を検討する際は、次の順で確認することをお勧めします。

1.  建物・工作物・樹木・埋設物など、却下・不承認要件に当たるものがないか
2.  境界点を示せるか、隣地所有者との間に争いがないか
3.  負担金が定額か面積算定か、隣接地の合算特例が使えるか
4. 整備費用・審査期間中の維持費を含めた総額が、持ち続ける場合や他の手放し方と比べて見合うか
 相続放棄や第三者への譲渡など、他の選択肢との比較も欠かせません。

出典・参考資料

• 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」(令和5年2月)
•法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」(令和5年4月)
• 法務省「相続土地国庫帰属制度について」(令和7年10月)
• 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年9月)
• 法務省民事局「相続土地国庫帰属制度の運用状況に関する利用者に対する意識調査結果の概要」(令和8年9月)