改正家族法の概要(令和8年4月1日施行)
2024年(令和6年)改正家族法(令和6年法律第33号)が、2026年(令和8年)4月1日から施行されます。
2026年4月施行の改正家族法は、夫婦関係事件(離婚、財産分与、親権、養育費、親子交流等)の実務に極めて大きな影響を与える改正内容を多く含んでいます。
ここでは、法務省民事局作成の「改正の概要」(令和7年12月)の構成に準拠しつつ、簡単に、かつ、概ね、改正の全体像を紹介します。養子縁組後の親権と夫婦関係役の取消権については、後日補充します。記述にあたっては、家庭の法と裁判58巻から60巻の特集論文(改正家族法の要点と解説)を参照しました。
改正の背景・課題
今回の家族法改正の背景には、
- 父母の離婚が子の養育に与える深刻な影響に関する国民の認識の深まりや、そのことに対する懸念の高まりがありました。
- 具体的には、父母の離婚は、子の生活・心理にしばしば深刻な影響を与えることに鑑みると、離婚後も、父母双方が適切な形で子を養育する責任を果たすことが必要であること、離婚後に支払われるべき養育費や行われるべき親子交流が往々にして不履行となっていること、離婚や養育費や親子交流をめぐる紛争がしばしば長期化すること、夫婦・親子間のDVや虐待が往々にして潜在化し、表に表れないこと)についての認識の深まりや、懸念の高まりがありました。
- 養育費と親子交流については、取決率も履行率も低調という事実があります。(令和3年度全国ひとり親世帯等調査によれば、養育費の取決率は、母子世帯に対しては、46.7%、父子世帯に対しては、28.3%とされており 、養育費の履行率は、母子世帯に対しては、28.1%、父子世帯に対しては、8.7%とされています。)
- そして、子の養育の在り方の多様化(共働き化、父親の育児参加、父母と子との関係に関する国際的潮流、子どもの権利に関する意識の高まり)がありました。
こうした中で、今回の改正の課題・方向性として、次の4点がすえられました。
➀親の責務の明確化、
➁共同親権の選択肢化、
➂養育費の履行確保の強化、
➃DV・逆対当に対する安全確保の徹底、
⑤親子交流の制度化
諮問、答申、閣議決定、成立・交付、施行の経過
- 令和3年2月に法務大臣から法制審議会に諮問され、令和6年2月に、法制審議会から法務大臣に答申されました。
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令和6年3月に、法律案が閣議決定され、令和6年5月に成立し公布されました。
- 改正法の施行日は、令和8年4月1日 です。
第1 親の責務等に関する規律を新設
- 改正法は、婚姻関係の有無にかかわらず、父母が子に対して負う責務を明確化しました(民法817の12)。
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第817条の12(親の責務)【新設】
第1項 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
第2項 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
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- 親権が子の利益のために行使されなければならないことを明確化しました(民法818等)。
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改正民法第818条第3項
第3項 親権は、子の利益のために行使しなければならない。
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第2 親権・監護等に関する規律の見直し
1. 離婚後の親権者に関する規律の見直し(民法819等)
⑴ 選択的共同親権制度の導入
| 論点 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 協議離婚時の親権者 | 必ずどちらか一方を選択(単独親権) | 双方・一方を選択可能(「共同親権」の導入) |
| 裁判離婚時の親権者 | 裁判所が一方を指定 | 裁判所が双方・一方を判断して指定 |
| 単独親権が義務付けられる場合 | 規定なし | DV・虐待のおそれ、共同行使困難で子の利益を害する場合(民法819条7項) |
概要
- 旧法は、離婚後単独親権制を採用していましたが、新法は選択的共同親権制(民法819条)を導入しました。
- 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、父母の双方又は一方を親権者と定めることができます(民法819条1項)。
- 協議が調わない場合、裁判所が子の利益の観点から、父母の双方又は一方を親権者と指定します(同条2項)。
- 選択的共同親権制を導入した趣旨は、「父母の離婚後も、父母双方が適切な形で子の養育に関わりその責任を果たすことが、子の心身の健全な発達のために望ましいとの考え」にあります(「家庭の法と裁判」(以下「FCJ」)58巻4頁)。
- 裁判所が共同親権・単独親権を判断する基準として民法819条7項が新設されました。
改正民法第819条第7項(表形式)
| 区分 | 条文 |
|---|---|
| 柱書(前段) 考慮事項 |
裁判所は、第2項又は前2項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係、その他一切の事情を考慮しなければならない。 |
| 柱書(後段) 単独親権の義務付け |
この場合において、次の各号のいずれかに該当するとき、その他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。 |
| 第1号 子への害悪 |
父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。 |
| 第2号 共同行使困難 |
父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。 |
裁判所による親権者の定めの判断枠組み
- 裁判所は「必要的単独親権事由」がある場合は単独親権とする義務があります(819条7項柱書後段)。
1号は、子への虐待・DVのおそれがある場合です。親権喪失・停止事由に準じる場合も含まれ得ます。
2号は、DVや精神的・経済的・性的DVのおそれによって、共同親権行使の前提となる協議が困難な場合です。虚言・約束違反の反復など将来的な協力関係の構築が全く期待できない場合も含み得ます。
その他、1号・2号に該当しなくても、共同親権が「子の利益を害すると認められるとき」には単独親権とする義務があります。ただし、これには、1号・2号に準ずる程度の重大な事情が必要と解されます。 - 「必要的単独親権」事由がない場合は、単独親権にするか、共同親権にするかは、①父母と子との関係(親の子に対する従前の親権行使の態様、養育費支払等の状況や、子の心情・意向)、②父と母との関係(親権共同行使に必要な最低限の意思疎通関係の有無を検討。第三者介在でも安定的なやり取りが可能なら協力関係を否定すべきでない場合もあります。)、③その他一切の事情を総合考慮して判断されます(同項柱書前段)。
- 共同親権とするか単独親権とするかに、原則と例外の関係は、ありません。
2 婚姻中を含めた親権行使に関する規律の整備(民法824の2等)

父母双方が親権者の場合は共同行使が原則です。
そこで、改正家族法は、単独行使が可能な場合を明確化しました。
➀ 監護・教育に関する日常の行為(子の身の回りの世話等)及び
➁ 子の利益のため急迫の事情があるとき(DV・虐待からの避難、緊急医療等)は、単独行使が可能です。
これに対し、身上監護の重大行為(転居、進学先の決定、重大な医療行為等)、財産管理に関する行為、身分行為の代理については、共同で決定する必要があります。
そこで、父母の意見対立を調整するための裁判手が新設されています(民法766、824の3等)。
第3 養育費の履行確保に向けた見直し(法定養育費制度の新設)
1.養育費債権への先取特権付与(債務名義がなくても差押え可能に)(民法306、308の2等)
- 養育費等の「子の監護の費用」に一般先取特権が付与されました。
- 先取特権の範囲(上限額):子1人につき月額8万円(法務省令による)
- 対象債権:➀夫婦間の婚姻費用、➁養育費(法定養育費を含む)に係る確定期限の定めのある定期金債権の各期分
- 効果:公正証書や調停調書等の債務名義がなくても、当事者間の私的合意書(先取特権の存在を証する文書)に基づき、担保権実行手続(差押え)が可能になりました。
- 実務上の留意点としては次の点が考えられます。
- 合意文書には、債権者・債務者・子の氏名、養育費の額・支払期間(始期・終期)・支払時期・支払方法の定めが必要と考えられます。
- 合意文書の「真正な成立」の立証が必要です(実印使用が有効です)。
- 月額8万円を超える部分については、先取特権の対象ではありません.執行には、従前どおり債務名義(調停調書・公正証書等)が必要です。
2.法定養育費制度の導入(取決めがない場合にも養育費請求が可能に)(民法766の3等)
- 制度の趣旨:父母が養育費の取決めをせずに離婚した場合でも、取決めがなされるまでの暫定的・補充的な制度として法定養育費を請求できるとする制度が導入されました。
- 要件・権利義務者:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 権利者 | 離婚時から引き続き子の監護を主として行う父又は母の一方 |
| 義務者 | 父又は母の他の一方 |
| 発生条件 | 父母が養育費の取決めをすることなく協議上の離婚をした場合 |
| 適用範囲 | 裁判離婚・認知にも準用。施行後の離婚等に限る(附則3条2項) |
- 始期・終期・支払期
- 始期:離婚の日(当日を含む)
- 終期:①父母が協議により養育費の取決めをした日、②養育費の審判確定日、③子が成年(18歳)に達した日――のいずれか早い日
- 支払期:毎月末
- 始期・終期の当月は日割計算(法務省令2条2項)
- 法定養育費の額
- 子1人につき月額2万円(法務省令2条1項)
- 支払拒絶・免除等
- 支払能力を欠く場合:義務者は全部又は一部の支払拒絶が可能(権利消滅事由ではなく権利行使阻止事由)
- 家庭裁判所による免除等(減免・支払猶予):民法766条2項・3項の養育費事件の中で判断可能(別途申立て不要)
3.執行手続の負担軽減(ワンストップ化)
- 従来は別事件として申立てが必要だった下記の手続を、1回の申立てで連続的に実施可能にしました。
➀財産開示手続
➁給与債権に係る第三者からの情報取得手続
➂判明した給与債権の差押命令申立て
(反対の意思を表示しない限り、③の差押命令申立てをしたものとみなされる(みなし申立て))
収入情報の開示命令(家手法152条の2・人訴法34条の3)
- 婚姻費用・養育費・財産分与等の事件において、裁判所が当事者に対し収入・資産状況の情報開示を命令可能となりました。
第4 安全・安心な親子交流の実現に向けた見直し
1 審判・調停前等における親子交流の試行的実施に関する規律の整備(人訴法34の4、家手法152の3等)
趣旨:従前の「試行的面会交流」の実務運用を明文化し、法的根拠を付与。
要件(新家手法152条の3第1項)
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 積極的要件 | 事実の調査のため必要があると認めるとき(合意形成・審判判断に必要な場合を広く含む) |
| 消極的要件 | 子の心身の状態に照らして相当でないと認める事情がないこと |
裁判所が定める事項(同条2項)
- 交流の方法(直接交流・間接交流)
- 日時・場所
- 調査官その他の者の立会いの有無
- 子の心身に有害な影響を及ぼす言動の禁止等の条件
結果の報告(同条3項):裁判所は当事者に試行的実施の結果報告(未実施の場合は理由説明)を求めることが可能。
なお、人事訴訟では調査官の期日立会いを認める規定がないため、親子交流の調整が必要な場合は、従前どおり離婚訴訟と並行して別途親子交流の調停申立てが基本となります。
2 婚姻中別居の場面における親子交流に関する規律の整備(民法817の13等)
趣旨:婚姻中別居における親子交流について明文規定がなかったことを解消。従前の類推適用の実務を明文化。
規定内容
- 父母の協議により定める
- 協議が調わない場合は、家庭裁判所の調停・審判により定める
- 協議・調停・審判において子の利益を最優先に考慮することが明文化
- この改正により、婚姻中別居の場面での家庭裁判所の調整・判断の在り方に実質的な変更はなく、従前の運用を明確化したもの。
3 父母以外の親族(祖父母等)と子との交流に関する規律の整備(民法766の2等)
趣旨:令和3年最決(父母以外の第三者の申立権を否定)を受け、立法的に解決。
裁判所による交流の定め(新民法766条の2第1項)
- 「子の利益のため特に必要があると認めるとき」に限り、家庭裁判所が父母以外の親族と子との交流を定めることが可能
申立権者(同条2項)
| 申立権者 | 要件 |
|---|---|
| 父又は母 | 原則として申立権者(要件なし) |
| 子の直系尊属・兄弟姉妹 | ①補充性の要件(父母の死亡・行方不明等により父母間の協議や父母による申立てが期待し難い場合) |
| 上記以外の親族 | ①補充性の要件+②監護実績の要件(「過去に当該子を監護していた者」) |
実体的要件:「子の利益のため特に必要があること」=子と当該親族との間に親子関係に準じた親密な関係(深い愛着関係) が形成されていることが必要。
第5 その他の見直し
養子縁組後の親権者に関する規律の明確化(民法797、818等)
工事中とします。この点については、条文を参照ください。
財産分与の請求期間を2年から5年に伸長、考慮要素を明確化(民法768等)
①請求期間の伸長(2年→5年)
-
- 現行:離婚の時から2年以内に家庭裁判所へ財産分与を請求しなければならない
- 改正後:5年以内に伸長(新民法768条2項ただし書)
- 経過措置:施行日前に離婚した場合は2年。施行日以後の離婚に限り5年が適用(新民法附則4条)
考慮要素の明確化(新民法768条3項)
| 改正前 | 改正後 |
|---|---|
| 「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情」のみ | 財産分与の目的・考慮要素を明示 |
新たに明示された事項:
-
-
- 目的:「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため」
- 清算的要素の考慮要素:婚姻中に取得・維持した財産の額、各当事者の寄与の程度
- 扶養的要素の考慮要素:婚姻期間、婚姻中の生活水準、協力及び扶助の状況、各当事者の年齢・心身の状況・職業・収入
- 清算的財産分与・慰謝料給付では保護が十分でない場合に補充的に認められるもの。
新民法下でも、双方の経済的状況を比較しながら、許否・額・方法を判断する枠組みに実質的変更なし。
扶養的財産分与は離婚時(口頭弁論終結時)を基準として、特有財産も含めた資産・負債・収入等を考慮します。
- 清算的財産分与・慰謝料給付では保護が十分でない場合に補充的に認められるもの。
-
婚姻中の財産取得・維持に対する寄与割合を原則2分の1に
- 「各当事者の寄与の程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」(新民法768条3項後段)
- 家庭裁判所実務で広く定着していたルールを明文化したもの。
非経済的寄与(家事労働への従事等)や消極的寄与(一方の浪費による財産減少等)も寄与の対象です。
- 家庭裁判所実務で広く定着していたルールを明文化したもの。
夫婦間契約の取消権、裁判離婚の原因等の見直し(民法754、770)
- 改正法は、離婚原因に関する民法第770条第1項第4号(配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき)を削除しました。

