ヘイトスピーチ解消法成立後初のヘイトデモ禁止仮処分(横浜地裁川崎支部平成28年6月2日決定)
横浜地裁川崎支部平成28年6月2日決定判例時報2296号14頁
川崎市ヘイトデモ禁止仮処分命令申立事件決定
主 文
債務者は,債権者に対し,自ら別紙行為目録記載の行為をしてはならず,または第三者をして同行為を行わせてはならない。
事実及び理由
第1 申立ての趣旨及び理由
本件申立ての趣旨は,平成28年6月2日受付「ヘイトデモ禁止仮処分命令申立書訂正申立書」,本件申立ての理由は,同年5月30日受付「ヘイトデモ禁止仮処分命令申立書」及び同年6月2日受付準備書面各記載のとおりであるから,これらを引用する。
第2 本件に関係する条約及び法令の定め
1 あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「人種差別撤廃条約」という。)(平成7年条約第26号)
(1) 1条1項
この条約において,「人種差別」とは,人種,皮膚の色,世系または民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別,排除,制限または優先であって,政治的,経済的,社会的,文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し,享有しまたは行使することを妨げまたは害する目的または効果を有するものをいう。
(2) 2条1項柱書
締約国は,人種差別を非難し,また,あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。
(3) 6条
締約国は,自国の管轄の下にあるすべての者に対し,権限のある自国の裁判所及び他の国家機関を通じて,この条約に反して人権及び基本的自由を侵害するあらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護及び救済措置を確保し,並びにその差別の結果として被ったあらゆる損害に対し,公正かつ適正な賠償または救済を当該裁判所に求める権利を確保する。
2 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(以下「差別的言動解消法」という。)(平成28年6月3日施行予定)
(1) 前文
我が国においては,近年,本邦の域外にある国または地域の出身であることを理由として,適法に居住するその出身者またはその子孫を,我が国の地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動が行われ,その出身者またはその子孫が多大な苦痛を強いられるとともに,当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせている。
もとより,このような不当な差別的言動はあってはならず,こうした事態をこのまま看過することは,国際社会において我が国の占める地位に照らしても,ふさわしいものではない。
ここに,このような不当な差別的言動は許されないことを宣言するとともに,更なる人権教育と人権啓発などを通じて,国民に周知を図り,その理解と協力を得つつ,不当な差別的言動の解消に向けた取組を推進すべく,この法律を制定する。
(2) 1条(目的)
この法律は,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消が喫緊の課題であることに鑑み,その解消に向けた取組について,基本理念を定め,及び国等の責務を明らかにするとともに,基本的施策を定め,これを推進することを目的とする。
(3) 2条(定義)
この法律において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは,専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者またはその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長しまたは誘発する目的で公然とその生命,身体,自由,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知しまたは本邦外出身者を著しく侮蔑するなど,本邦の域外にある国または地域の出身であることを理由として,本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。
(4) 3条(基本理念)
国民は,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性に対する理解を深めるとともに,本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない。
3 社会福祉法(昭和26年法律第45号)
(1) 1条(目的)
この法律は,社会福祉を目的とする事業の全分野における共通的基本事項を定め,社会福祉を目的とする他の法律と相まつて,福祉サービスの利用者の利益の保護及び地域における社会福祉(以下「地域福祉」という。)の推進を図るとともに,社会福祉事業の公明かつ適正な実施の確保及び社会福祉を目的とする事業の健全な発達を図り,もつて社会福祉の増進に資することを目的とする。
(2) 3条(福祉サービスの基本的理念)
福祉サービスは,個人の尊厳の保持を旨とし,その内容は,福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され,またはその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして,良質かつ適切なものでなければならない。
(3) 4条(地域福祉の増進)
地域住民,社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者は,相互に協力し,福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み,社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられるように,地域福祉の推進に努めなければならない。
(4) 22条(定義)
この法律において「社会福祉法人」とは,社会福祉事業を行うことを目的として,この法律の定めるところにより設立された法人をいう。
(5) 24条(経営の原則等)2項
社会福祉法人は,社会福祉事業及び第26条第1項に規定する公益事業を行うに当たっては,日常生活または社会生活上の支援を必要とする者に対して,無料または低額な料金で,福祉サービスを積極的に提供するよう努めなければならない。
(6) 26条(公益事業及び収益事業)1項
社会福祉法人は,その経営する社会福祉事業に支障がない限り,公益を目的とする事業またはその収益を社会福祉事業若しくは公益事業(第2条第4項第4号に掲げる事業その他の政令で定めるものに限る。第57条第2号において同じ。)の経営に充てることを目的とする事業を行うことができる。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
掲記の疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が一応認められる。
(1) 債権者は,昭和48年,○○教会を母体として社会福祉法人の認可を受けた(甲1,7)。
債権者は,その目的として,人種・国籍・宗教のいかんを問わず,福祉サービスを必要とする者が,心身ともに健やかに育成され,または社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられることを目指し,個人の尊厳を保持しつつ,自立した生活を地域社会において営むことができるよう支援し,共生社会を実現することを掲げている(債権者履歴事項全部証明書)。
(2) 川崎市臨海部は,戦前から,在日コリアンと呼称される在日韓国・朝鮮人(その子孫らを含む。以下同じ。)が多数居住する地域であり,特に債権者の事務所が所在する川崎市川崎区桜本地区はその集住地域であり,そのことは広く知られている。
債権者は,同地区において,民族を理由に入園を断られた子供を受け入れる保育園を設立する,学校で孤立する在日コリアンの居場所を作る,在日1世の高齢者の福祉も手掛けるなど,民族差別解消・撤廃に向けて取り組み,社会福祉事業を行ってきたものであり,現在,同地区内ないしその周辺において,計9か所の拠点で,保育所,児童館,高齢者・障害者交流施設,通所介護施設等の施設を運営している。債権者の事業所及び施設は,債権者の主たる事務所の入口から半径500m以内(別紙図面の円内)に所在している。(甲1,2,9)
(3) 債権者の代表者理事(理事長)は,川崎市出身で大韓民国籍を有し,他の理事及び監事合計11名のうち4名が同国籍を有している。また,債権者の職員は,231名おり,うち100名近くが在日韓国・朝鮮人である。さらに,多数の住民が上記の各施設を利用しているところ,その施設利用者のうち在日韓国・朝鮮人の占める割合は,他の川崎市の地域に比較して多い。
(4) 債務者は,「○○運動」と称する運動体ないし団体(以下「本件運動体」という。)に参画する活動家であり,平成25年5月12日から平成28年1月31日にかけて,計12回にわたり,JR川崎駅前の繁華街を中心とする川崎市内において,在日韓国・朝鮮人の排斥を訴える内容のデモを主催し,またはその中心メンバーとして参加した(甲4,9)。
(5) その中でも,平成27年11月8日及び平成28年1月31日に行われた債務者が主催したデモは,それぞれ,「川崎発!日本浄化デモ」,「川崎発!日本浄化デモ第二弾!」などと銘打ち,桜本地区を含む川崎市臨海部方面に進行する計画であったところ,抗議する地域住民等が集まり,デモ隊の前に立ち塞がったことなどにより,ルートが変更され,デモ隊が桜本地区内の在日コリアンの集住地域にまで進行することはなかった。
上記のデモの際,債務者ないしデモへの参加者は,在日韓国・朝鮮人を対象として,「在日は大嘘つき」,「帰れ,半島へ」などと記載したプラカードを掲げ,また,「帰ればいいんだよ,おまえら。一匹残らずたたき出してやるからよ,日本からよ。」,「朝鮮人をたたき出せ。」,「川崎に住むごみ,ウジ虫,ダニを駆逐するデモを行うことになりました。」,「半島に帰れ。」,「韓国,北朝鮮は我が国にとって敵国だ。その敵国人に対して死ね,殺せというのは当たり前だ。ゴキブリ朝鮮人は出て行け。」,「桜本は日本なんだ。日本人がデモをやっても問題ねえんだ。これから,存分に発狂するまで焦ればいい。じわじわ真綿で首を絞めてやるからよ。一人残らず日本から出てくまでな。」などの文言を発した。このデモは,ワゴン車のスピーカーや拡声器を用いるなどして,騒々しくされたものである。(甲4,8,9)
(6) 債務者は,本件運動体のホームページにて,「6月5日【午前】に川崎発!日本浄化デモ第三弾!を実施します。」,「反日汚染の酷いからこそ【川崎を攻撃拠点】に,自国を貶め,嘘,捏造を垂れ流す日本の敵を駆逐しましょう!」などと掲載し,債務者が平成28年6月5日に実施する予定のデモへの参加や運動への賛同を呼び掛けている(甲5,6,9,10)。
2 被保全権利としての差別的言動に対する差止請求権の存否について
(1) 何人も,生活の基盤としての住居において平穏に生活して人格を形成しつつ,自由に活動することによって,その品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から評価を獲得するのであり,これらの住居において平穏に生活する権利,自由に活動する権利,名誉,信用を保有する権利は,憲法13条に由来する人格権として,強く保護され,また,本邦に適法に居住する者に等しく保障されるものである。
そして,本件に関係する在日韓国・朝鮮人など,本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者またはその子孫であって適法に本邦に居住するもの(以下「本邦外出身者」という。)が,専ら本邦の域外にある国または地域の出身であることを理由として差別され,本邦の地域社会から排除されることのない権利は,本邦の地域社会内の生活の基盤である住居において平穏に生活し,人格を形成しつつ,自由に活動し,名誉,信用を獲得し,これを保持するのに必要となる基礎を成すものであり,上記の人格権を享有するための前提になるものとして,強く保護されるべきである。
殊に,我が国が批准する人権差別撤廃条約の前記の各規定及び憲法14条が人種などによる差別を禁止していること,さらに近年の社会情勢の必要に応じて差別的言動解消法が制定され,施行を迎えることに鑑みると,その保護は極めて重要であるというべきである。
また,本邦外出身者が抱く自らの民族や出身国・地域に係る感情,心情や信念は,それらの者の人格形成の礎を成し,個人の尊厳の最も根源的なものとなるのであって,本邦における他の者もこれを違法に侵害してはならず,相互にこれを尊重すべきものであると考える。
そこで,専ら本邦外出身者に対する差別的意識を助長しまたは誘発する目的で,公然とその生命,身体,自由,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し,または本邦外出身者の名誉を毀損し,若しくは著しく侮辱するなどして,本邦の域外にある国または地域の出身であることを理由に本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する,差別的言動解消法2条に該当する差別的言動は,上記の住居において平穏に生活する人格権に対する違法な侵害行為に当たるものとして不法行為を構成すると解される。
そして,その差別的言動をする侵害者において,当該権利者が住居において平穏に生活しているにもかかわらず,そのことを認識し,または容易に認識し得るのに,その住居の近隣において,デモをし,あるいははいかいし,かつ,街宣車やスピーカーを使用し,あるいは大声を張り上げるという,上記の住居において平穏に生活する人格権を侵害する程度が顕著な場合には,当該権利者は,住居において平穏に生活する人格権に基づく妨害排除請求権として,その差別的言動の差止めを求める権利を有するものと解するのが相当である。
もっとも,その人格権の侵害行為が,侵害者らによる集会や集団による示威行動などとしてされる場合には,憲法21条が定める集会の自由,表現の自由との調整を配慮する必要があることから,その侵害行為を事前に差し止めるためには,その被侵害権利の種類・性質と侵害行為の態様・侵害の程度との相関関係において,違法性の程度を検討するのが相当である。
しかるところ,その被侵害権利である人格権は,憲法及び法律によって保障されて保護される強固な権利であり,他方,その侵害行為である差別的言動は,上記のとおり,故意または重大な過失によって人格権を侵害するものであり,かつ,専ら本邦外出身者に対する差別的意識を助長しまたは誘発する目的で,公然とその生命,身体,自由,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し,または本邦外出身者の名誉を毀損し,若しくは著しく侮辱するものであることに加え,街宣車やスピーカーの使用等の上記の行為の態様も併せて考慮すれば,その違法性は顕著であるといえるものであり,もはや憲法の定める集会や表現の自由の保障の範囲外であることは明らかであって,私法上も権利の濫用といえるものである。これらのことに加え,この人格権の侵害に対する事後的な権利の回復は著しく困難であることを考慮すると,その事前の差止めは許容されると解するのが相当であり,人格権に基づく妨害予防請求権も肯定される。
(2) また,上記の人格権は,憲法によって保障される基本的人権に由来するものであり,自然人と同様に社会的実体をもって活動する本邦内の法人においても,同じく保有するものと解される(最高裁昭和45年6月24日大法廷判決・民集24巻6号625頁参照)。
すなわち,法人においても,定款に事業の目的を定め,法人を構成する役員及び従業員・職員の人的結合によって,社会活動の基盤としての事業所(その運営する施設を含む。以下同じ。)において,平穏,かつ自由にその目的とする事業を行うことによって,その名声,信用等の人格的価値について社会から評価を獲得するのであり,これらの事業所において平穏に事業を行う権利,自由に事業の活動をする権利,名誉,信用を保有する権利は,憲法13条に由来する人格権として,強く保護されるものである。
そして,法人の定款の定める目的及び事業内容・活動実績や,その役員及び従業員・職員並びにその事業の顧客ないし施設利用者の各構成において上記の本邦外出身者の占める割合などによって,当該法人が上記の違法な差別的言動の対象とされ,当該法人が事業所において平穏に事業を行っているにもかかわらず,そのことを認識し,または容易に認識し得るのに,その事業所の近隣において,デモをしたり,あるいははいかいし,かつ,街宣車やスピーカーを使用したり,あるいは大声を張り上げて,専ら本邦外出身者に対する差別的意識を助長しまたは誘発する目的で,公然とその生命,身体,自由,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し,または本邦外出身者の名誉を毀損し,若しくは著しく侮辱するなど,当該法人の事業所において平穏に事業を行う人格権を侵害する違法性が顕著な場合には,当該法人は,自然人の場合と同様に,人格権に基づく妨害予防請求権として,その差別的言動の事前の差止めを求める権利を有するものと解するのが相当である。
3 債権者の被保全権利の存在及び保全の必要性について
(1) 債権者は,認定事実(1)及び(2)のとおり,在日韓国・朝鮮人を主たる対象と見据え,社会福祉法が目的として定める福祉サービスの利用者の利益の保護及び地域における社会福祉に尽力しつつ,民族差別解消・撤廃のために実績を積み上げ,社会的な評価としての名誉,信用を獲得してきたものと認められる。
このような社会福祉事業を行ってきた社会福祉法人である債権者は,上記説示のとおり,その事業の基盤である事業所において平穏に福祉サービスを含む社会福祉事業を行う人格権を保有するものと解される。
(2) 次に,認定事実(6)のとおり,平成28年6月5日に実施が予定されている債務者が主催するデモについて検討すると,同デモにおいて,債務者並びに同デモへの参加者及び賛同者らが,認定事実(5)で挙げる内容の言動を行う高い蓋然性があると認められるところ,このような差別的言動は,上記の債権者の目的や理念及びこれまでの活動内容を真っ向から否定するものであり,債権者が存立する基盤を揺るがすとすらいえるものである。
(3) そして,認定事実(3)のとおり,債権者の代表者理事は韓国籍を有する者であり,その他の理事及び監事も同国籍を有する者がおり,かつ,債権者の職員や施設利用者の内訳としては在日韓国・朝鮮人が比較的高い割合を占めているところ,債権者の事業所や債権者が運営する各施設の近隣において,これらの者を対象として,差別的言動解消法が定める差別的言動に該当することが明らかな認定事実(5)で挙げる言動及びこれらに類する言動,すなわち,在日韓国・朝鮮人の生命,身体,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知したり,名誉を毀損し,著しく侮辱したりする差別的言動が,街宣車やスピーカーを使用したり,あるいは大声を張り上げるなどして行われれば,債権者の役員,職員及び施設利用者のうちの在日韓国・朝鮮人の個人の尊厳をないがしろにし,耐え難い苦痛を与え,ひいては,債権者の職員の業務に従事する士気の著しい低下や,債権者の施設利用者による利用の回避・躊躇を招くことを容易に推測することができる。
また,債権者の上記認定の活動の実績及びその社会的評価,認定事実(2)の在日コリアンが集住する桜本地区の特殊性の周知の状況,認定事実(4)及び(5)のこれまでの債務者の活動内容並びに審尋の全趣旨によれば,債務者が債権者の事業活動やその人的構成並びに債権者の事務所及び施設の所在地を知っており,その近隣で上記の差別的言動をすれば,債権者の事業所において平穏に事業を行う人格権を侵害することを認識し,または容易に認識し得ると認められる。
(4) 以上によれば,債務者の行うとみられる差別的言動により,債権者の社会福祉事業の基盤である事業所において平穏に事業を行う人格権が侵害されることによって著しい損害が生じる現実的な危険性があると認められ,また,債務者が行うとみられる差別的言動の内容の看過することのできない悪質性に鑑みれば,債務者に対し,債権者の事業所及び施設が所在する債権者の主たる事務所の入口から半径500m以内(別紙図面の円内)において,別紙行為目録記載の差別的言動をすることを事前に差し止めるべき必要性は極めて高いということができるから,債権者の被保全権利の存在は優に認められる。
また,債務者による差別的言動による債権者の人格権の侵害に対する事後的な権利の回復は極めて困難であると認められ,これを事前に差し止める緊急性は顕著であるといえるから,保全の必要性も認められる。
4 結論
よって,本件申立ては理由があるから,主文のとおり決定する。
平成28年6月2日
横浜地方裁判所川崎支部民事部
裁判長裁判官 橋本英史
裁判官 尾立美子
裁判官 山下智史
(別紙)
行為目録
債権者の主たる事務所(川崎市川崎区桜本《以下省略》)の入口から半径500m以内(別紙図面の円内)を
デモしたりあるいははいかいしたりし,
その際に街宣車やスピーカーを使用したりあるいは大声を張り上げたりして,
「死ね,殺せ。」,「半島に帰れ。」,「一匹残らずたたき出してやる。」,「真綿で首絞めてやる。」,「ゴキブリ朝鮮人は出て行け。」等の文言を用いて,
在日韓国・朝鮮人及びその子孫らに対する差別的意識を助長しまたは誘発する目的で
公然と
その生命,身体,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し,または名誉を毀損し,若しくは著しく侮辱するなどし,
もって債権者の事業を妨害する一切の行為
《別紙図面省略》
2016年8月14日wrote
2020年9月13日更新