性同一性障害と 夫婦・親子に関する最高裁平成25年12月10日決定について

 昨年,夫婦同氏を定める民法750条を合憲とし,待婚期間を6ヶ月と定める民法733条1項を違憲とした最大判平成27年12月16日が出たのを受け,性同一性障害と夫婦,親子に関する最高裁平成25年12月10日決定を読み返してみる必要が出てきました。

 この判例についても,平成26年に姫路のラジオ番組で,私の方からコメントしています。この時の脚本原稿を掲示し,再整理の材料にしておきたいと思います。

                                                             

ひめじFM-GENKI 憲法Ⅳ 弁護士平田元秀

- FMゲンキをお聞きの皆さん、こんにちは。
今日は,兵庫県弁護士会姫路支部 平田弁護士にお話をお伺いします。
平田先生,よろしくお願いします。

はい。よろしく,お願いします。

- 今回は,前回に引き続き,憲法をテーマとしたお話を伺います。

 今日は,「性同一性障害と夫婦,親子をめぐる問題」についてお話したいと思います。
 昨年12月に,最高裁が,性同一性障害で女性から男性に性別を変更した夫とその妻との夫婦で,妻が,第三者からの人工授精でもうけた子どもを,夫の子どもと認めたというのが報道されていましたね。

-ええ

 夫婦が兵庫県宍粟市の方だということで,地元でも結構注目されたかなと思うんですが。

-はい

 この「性同一性障害」というのは,体は女性なんだけども,心は男性,逆に体は男性なんだけども,心は女性という障害で,「トランスジェンダー」とも呼ばれているんです。
 これは,いわゆる 同性愛の嗜好とか,男装趣味,女装趣味というものとは全く違っていて,どうも,生まれつき,性別が分化する時の何らかの要因で発生する障害だと考えられているようなんです。
 この障害を持った方が社会で生きていこうとすると,いろんな大変な困難が待ち受けています。たとえば,今こうしていかにも男性として話している私が,生まれた時の体が女性であったとしましょう。

-はいはい。

まず,親はもちろん赤ちゃんを女の子として届を出しますから,住民票でも戸籍でも女性だと書かれますね。そうすると,心は男なのに,中学や高校でも女性ということになります。大学に入る頃から,男性として振る舞うようになっても,公式にはやはり,女性。就職してもやはり女性。女の人と交際しても,女性同士の結婚は認められないので,正式の結婚はできないと,そういうことになりますね。

-ええわかります。

 ここで突然ですが問題です。
「こうした性同一性障害者の苦労を和らげるため,国は,現在,性同一性障害を抱えている人が性転換手術をするなど一定の要件を満たした場合には,性別を女から男に,あるいは男から女に,かわったと認める制度を用意している。
〇でしょうか×でしょうか。

-〇でしょうか。

 ご明察のとおり,正解は〇です。平成15年に,性別の取扱変更を認める特例法ができているんです。今回の最高裁判決で勝訴した男性は,平成20年にこの特例法に基づいて性別の取扱変更が認められた方なんです。

-性転換手術など,一定の要件を満たしたとき,ということなんですが,具体的にはどういう要件が必要とされているんでしょうか。

はい。5つあります。
 1つめは,20歳以上の大人であることです。これは,性別変更は大人になってから判断しましょうと言うことですね。
 2つめは,独身であることです。これは,性別転換の時に結婚していると,女性なら女性として結婚しているので,その方が男性となると,男性同士の結婚という,社会が受け入れられない現象が起きるからです。
 3つめは,未成年の子どもがいないことです。これも,性別転換の時に,現に母親である方が,子どもが小さいうちに男性に変わるということになると,母親が男性であるということになり,子どもの周囲の社会が受け止められない状態になるということを危惧してのことです。
 4つめは,生殖機能がないことです。これはどうしてそれが求められるかというと,体が女性であり,女性として子どもを産める状態で,男性に変わるということになると,これもまた,男性の母親を持つ子どもという,社会が受け入れられない現象が起きるからです。
 5つめが,先ほど申し上げた,性別転換手術を済ませていることです。これも,社会が,性別変更希望者を性別が変わった方として公式に受け入れるための,要件として定められているものといえます。
 さて,最高裁判決の話題に戻ります。
 今回の夫婦は,奥さんが,他人の精子で人工授精を受けて,赤ちゃんを産んでいるんですね。そこで,そのお子さんは,奥さんの子どもではあっても,性別変更をしたご主人と血のつながった子どもではない訳です。
最高裁のすごいのは,この度,この子どもを,夫の法律上の子どもと認める判断をしたことです。

血がつながっていないのが分かっているのに,法律上の子どもとしたんですね。

そうです。最高裁は,子どもの戸籍に,性別転換をしたご主人を父親であると書き込みなさいと命じました。

-それは,何か問題が出てきそうな気もしますが,それでいいんでしょうか。

そうですね。千葉さんは,例えば,どんな問題があると,思われますか。

-お子さんができないご夫婦のために,妻の人工授精で,赤ちゃんを作るという例があると思うんですが,この場合,赤ちゃんは夫の子ということになるんでしょうか。

 いい質問です。
 一般の人工授精をされる夫婦の場合,これまで,正式には赤ちゃんは父親の子ではありませんので,赤ちゃんが生まれた後,特別養子縁組という手続きをして,戸籍上の子にするという制度があります。
 ただし,民法は,結婚後200日以降,離婚後300日までの間に母親から生まれた子どもを,夫の子と推定するという規定を置いています。この規定があるので,出生届けを出す時に,戸籍の窓口に,人工授精で生まれた子であることを黙って,届けを出すと,赤ちゃんの戸籍には,自動的に,夫が父親だと記載されることになります。多くの,人工授精で赤ちゃんを産んでいる夫婦は,こういう風にして事実上,夫婦の子として戸籍を整えていると思います。
 でも,今回の夫婦の場合には,夫の戸籍に,夫が特例法によって性別を変更した方であることが明記されているんですね。そのため,戸籍の窓口では,このご主人が,赤ちゃんの血のつながった父でないことが,はっきり分かるわけです。それで,最高裁の事案では,戸籍の窓口の方が,赤ちゃんの父親をこのご主人だと認めるのに躊躇して,法務省にも確認をしたうえで,父親欄を空欄にした戸籍を作ったんです。
 それで,ご夫婦がこの取扱はおかしいといって,国を訴えたのがこの裁判です。

裁判所は,赤ちゃんの血のつながった父ではないということを分かったうえで,このご主人を赤ちゃんの父親としてよいという判断を正面からしたということですか。

 そうです。
 この度,正面からそれを認める判断をしました。
 この立場をとると,今後,人工授精で赤ちゃんを産んでいる夫婦は,その赤ちゃんを,特別養子縁組といった回りくどいことをするまでもなく,堂々と,夫の子だということができるようになります。
 ただ,こういうことを認めると,今度は,父親が別の女性を代理母として,産ませた子どもを,妻の子として取り扱うことは認められるのか,認められないのか,といったことがでてきますね。
 これは今は認められていません。
 その延長線上で,親子は血がつながっていなくてもいいのか,血のつながっていない親子というのは養子縁組による場合以外でも広く認めていいのかという問題がでてきますね。

-そうですね。

さらに,子どもの権利という立場に立つと,最高裁の判例の考え方に従えば,将来,お子さんが,この戸籍上の父は実際の自分の父ではないということを訴えようと思っても,それは許されないということになってしまうんです。

-そうなんですか。

 そうなんです。
 今回の判断は,最高裁でも,3対2という微妙な判断で,裁判長の大谷さんともう一人の女性の裁判官は,今回の判断には反対しています。
 この大谷さんというのは,ジャーナリストの大谷昭宏さんのお兄さんなんですけどね。
 憲法は,24条2項で家族に関する事項に関して,法律は,個人の尊厳に照らして定められなければならないとされているのですが,家族の中でも子どもの権利というところに光を当てると,今回の最高裁の判断には,疑問もあるということになります。
 今後の議論の展開を見守っていきたいですね。