リボ貸付における17条書面不交付と最判平成17年以前の「悪意の受益者」性(最判平23年12月1日)

最高裁第1小法廷平成23年12月1日
判例タイムズ1364号72頁
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=81798

【判旨】

リボ貸付について,
貸金業者が貸金業法17条1項に規定する書面として交付する書面に,
個々の貸付の時点での残元利金につき 最低返済額を毎月の返済期日に返済する場合の
返済期間、返済金額等の記載 をしない場合は,
当該貸金業者は,
同項に規定する書面には上記記載を要する旨を判示した 最高裁平成17年12月15日第一小法廷判決(民集59巻10号2899頁)言渡日以前であっても、
利息制限法所定の制限を超えて利息として支払われた部分の受領につき
貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有することについて
やむを得ないといえる特段の事情があるとはいえず,
過払金の取得につき民法704条の「悪意の受益者」であると推定される。


 上記最判の問題の所在と判旨の結論に至る理由については,判決は概ね次のように判示しています。

● 原審は,次のとおり判断し,貸金業者は民法704条の「悪意の受益者」であると認めることができないとして,過払金債権者の請求のうち貸金業者の控訴に係る部分を棄却した。

(1) 貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情(以下「平成19年判決の判示する特段の事情」という。)があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を受領した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される(最高裁平成19年7月13日第二小法廷判決)。
(2) リボルビング方式による貸付けについては,貸金業者において,個々の貸付けの際に,17条書面として借主に交付する書面に,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をすべき義務があり,基本契約書の記載と各貸付けの都度借主に交付された書面の記載とを併せても,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がないときは,17条書面の交付があったということはできない旨を判示した最高裁平成17年12月15日第一小法廷判決(以下「平成17年判決」という。)が言い渡されるまでは,17条書面に記載すべき事項について下級審の裁判例が分かれており,次回の最低返済額とその返済期日が記載されていれば足りるとする裁判例も相当程度存在し,監督官庁が貸金業法17条1項各号に掲げる事項のうち特定し得る事項のみ記載すれば足りると読むこともできる通達を出していた。
 上記事情の下では,平成17年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,リボルビング方式の貸付けにつき借主に17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がないことから直ちに貸金業法43条1項の要件が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,被上告人及びAが上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。
(3) そして,本件各弁済のうち制限超過部分の支払について,貸金業法43条1項のその余の要件との関係でも,被上告人を悪意の受益者であると推定することはできず,ほかに被上告人が悪意の受益者であると認めるに足りる証拠はない。なお,被上告人とBとの間で前記の債権譲渡がされた時点では,第2取引につき過払金は発生しておらず,Bの認識等は,本件各取引における過払金の発生とは関係がない。

● しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。
  その理由は,次のとおりである。

(1) 貸金業法17条1項6号及び貸金業法施行規則13条1項1号チが17条書面に返済期間,返済金額等の記載をすることを求めた趣旨・目的は,これらの記載により,借主が自己の債務の状況を認識し,返済計画を立てることを容易にすることにあると解される。
 リボルビング方式の貸付けがされた場合において,個々の貸付けの時点で,上記の記載に代えて次回の最低返済額及びその返済期日のみが記載された書面が17条書面として交付されても,上記の趣旨・目的が十全に果たされるものではないことは明らかである反面,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をすることは可能であり,かつ,その記載があれば,借主は,個々の借入れの都度,今後,追加借入れをしないで,最低返済額を毎月の返済期日に返済していった場合,いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ,完済までの期間の長さ等によって,自己の負担している債務の重さを認識し,漫然と借入れを繰り返すことを避けることができるのであるから,これを記載することが上記の趣旨・目的に沿うものであることは,平成17年判決の言渡し日以前であっても貸金業者において認識し得たというべきである。
 そして,平成17年判決が言い渡される前に,下級審の裁判例や学説において,リボルビング方式の貸付けについては,17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用があるとの見解を採用するものが多数を占めていたとはいえないこと,上記の見解が貸金業法の立法に関与した者によって明確に示されていたわけでもないことは,当裁判所に顕著である。
 上記事情の下では,監督官庁による通達や事務ガイドラインにおいて,リボルビング方式の貸付けについては,必ずしも貸金業法17条1項各号に掲げる事項全てを17条書面として交付する書面に記載しなくてもよいと理解し得ないではない記載があったとしても,貸金業者が,リボルビング方式の貸付けにつき,17条書面として交付する書面には,次回の最低返済額とその返済期日の記載があれば足り,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用が否定されるものではないとの認識を有するに至ったことがやむを得ないということはできない。
 そうすると,リボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をしない場合は,平成17年判決の言渡し日以前であっても,当該貸金業者が制限超過部分の受領につき貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有することに平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,当該貸金業者は,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件各取引において17条書面として上告人に交付された各書面には,平成16年9月までは,次回の最低返済額とその返済期日の記載があったにとどまり,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなかったというのであるから,被上告人又はAにおいて平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,被上告人及びAは,この時期までに本件各取引から発生した過払金の取得につき悪意の受益者であると推定されるものというべきであり,この推定を覆すべき事情は見当たらない。
 そして,同年10月以降は,本件各取引において17条書面として上告人に交付された各書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がされるようになったが,それより前から本件各取引は継続して過払の状態となり貸金債務は存在していなかったというのであるから,同月以降は,利息が発生する余地はなく,この時期にされた制限超過部分の支払につき貸金業法43条1項を適用してこれを有効な利息の支払とみなすことができないことは明らかである。そうすると,本件各取引につき,同月以降,17条書面として交付された書面に上記の記載があったとしても,被上告人がそれまでに発生した過払金の取得につき悪意の受益者である以上,この時期に発生した過払金の取得についても悪意の受益者であることを否定することはできない。
 よって,被上告人は,本件各取引における過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であるというべきである。