販売契約の無効に伴いクレジット契約が失効するための要件(最判三小平成23年10月25日)
最高裁第三小法廷平成23年10月25日判決
債務不存在確認等請求及び当事者参加事件
原審:名古屋高裁平成21年2月19日判決(平成20年(ネ)747号)
(1)
個品割賦購入あっせんは,法的には,別個の契約関係である購入者と割賦購入あっせん業者(以下「あっせん業者」という。)との間の立替払契約と,購入者と販売業者との間の売買契約を前提とするものであるから,両契約が経済的,実質的に密接な関係にあることは否定し得ないとしても,購入者が売買契約上生じている事由をもって当然にあっせん業者に対抗することはできないというべきであり,割賦販売法30条の4第1項の規定は,法が,購入者保護の観点から,購入者において売買契約上生じている事由をあっせん業者に対抗し得ることを新たに認めたものにほかならない(最高裁昭和59年(オ)第1088号平成2年2月20日第三小法廷判決・裁判集民事159号151頁参照)。
そうすると,
個品割賦購入あっせんにおいて,
購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても,
① 販売業者とあっせん業者との関係,
② 販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容及び程度,
③ 販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無及び程度
④ 等
に照らし(-番号筆者-),
販売業者による公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ,
売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,
売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契約
が無効となる余地はないと解するのが相当である。
(2)
これを本件についてみると,
① 本件販売業者は,本件あっせん業者の加盟店の一つにすぎず,本件販売業者と本件あっせん業者との間に,資本関係その他の密接な関係があることはうかがわれない。
② そして,本件あっせん業者は,本件立替払契約の締結の手続を全て本件販売業者に委ねていたわけではなく,自ら被上告人に本件立替払契約の申込みの意思,内容等を確認して,本件立替払契約を締結している。
③ また,被上告人が本件立替払契約に基づく割賦金の支払につき異議等を述べ出したのは,長期間にわたり約定どおり割賦金の支払を続けた後になってからのことであり,本件あっせん業者は,本件立替払契約の締結前に,本件販売業者の販売行為につき,他の購入者から苦情の申出を受けたことや公的機関から問題とされたこともなかったというのである。
これらの事実によれば,上記特段の事情があるということはできず,
他に上記特段の事情に当たるような事実もうかがわれない。
したがって,本件売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,本件立替払契約が無効になると解すべきものではなく,被上告人は,本件あっせん業者の承継人である上告人に対し,本件立替払契約の無効を理由として,本件既払金の返還を求めることはできない。
以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中被上告人の請求に関する上告人敗訴部分は破棄を免れない。
(中略)
なお,上告人は,原判決中上告人の本件未払金の支払請求に関する上告人敗訴部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)
<最判三小平成23年10月25日の射程と問題点>
以下,上記最判を「本件最判」といいます。
本件最判について,当座コメントすべき点は次の点です。
- クレジット会社の過失(信義則上の加盟店調査義務)を問うため,不法行為構成を採ることについて障害になる判例ではないこと(不法行為の過失について柔軟な立場を取る判例の立場は揺るぎないものです。)
- 割販法上の抗弁対抗(30条の4)はもちろんできること
- 民法上の抗弁対抗に関し,
最判(3小)平成2年2月20日は,
個別クレジット取引における売買契約とクレジット契約とが別個の契約であること(債権の相対効)を(ことさら)強調して,
① 購入者が業者の履行請求を拒みうる旨の特別の合意があるとき 又は
② あっせん業者において販売業者の右不履行に至るべき事情を知り若しくは知り得べきでありながら立替払を実行したなど右不履行の結果をあっせん業者に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,抗弁対抗できないとしていたこと - 割販法は,個別クレジット契約について,過量販売解除権,不適正勧誘取消権を創設したこと
- 本件最判は,
上記の最判(3小)平成2年2月20日の判例のスタンスのうち,
特に,個別クレジット取引といえども売買契約とクレジット契約とが別個の契約であること(債権の相対効)
を(ことさら)強調する立場を,意識的に踏襲していること。** この点,契約が別個であるからといって,民法上は,複数契約相互の密接関連性に鑑み,その一つが無効になった場合に,その契約が無効であったとすれば他の契約をしなかったと合理的に考えられるときは,当該他の契約も無効になると考えることが可能であり,かつ有力であるのに(法制審議会民法部会資料379頁),このような考え方を一顧だにせずに,「契約が別個である」ことのみを理由に,売買契約が無効となる場合に立替払契約が無効となるための特段の事情を極めて限定的に表現しており,そのことから,「契約別個」というそれ自体形式的で空疎というほかない理由をことさら強調する立場を踏襲したことが分かります。 - そのうえで,本件最判の規範について述べると,
Ⅰ)まず,全く無効となる余地はないと述べている訳ではなく,
一応,信義則上相当な特段の事情があれば,売買契約と一体的に立替払契約
についてもその効力を否定することができると述べています。
Ⅱ)その事情について判決は,
① 販売業者とあっせん業者との関係と,
② 販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容及び程度と,
③ 販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無及び程度
④ 等
があると述べています。
この本件最判の考え方については,個別クレジット契約を締結するクレジット業者に対して明定された加盟店調査義務の考え方(そこには,交渉補助者・媒介委託者の法理という民事的な基礎があります。)を無視している点で,割販法の趣旨目的・この改正を行った立法者が民事的に拠ってたつ立場を害したという問題点を指摘することが出来ると思います。
認識の有無・程度ではなく,認識すべきであったかどうかが,問われるべきであったと考えます。
また「勧誘一体」を民事的基礎に,過量販売解除,不適正勧誘取消を認めた改正割販法(2008年(平成20年)改正)の立法者の民事的立場も害したといえるように思います。
つまりは,国会で示された立法者意思に抵触することをした。しかもそれは販売信用取引の公正と購入者の損害防止という当たり前の方向性とは逆の時代錯誤的な方向性に向かって。しかも理由を付さず「契約が別個だから」というだけの理由で。
こういう最高裁判所の向かい方には,問題があると言わざるを得ません。
複合契約に関する民事ルールの定立によって立法者の民事的見解を立法者が明示的に示し,最判を乗り越えてしまう必要があると思います。
民法(債権関係)改正のステージでこれを行うのが一番良いと思います。*
* 民法(債権関係)改正(2017年(平成29年)5月26日民法改正法が成立。2020年4月1日施行。)の検討過程においては,「複数の法律行為の無効及び複数の契約の解除」論として取り上げられ,検討されたが,立法には至らなかった。 |
<平田元秀2011年11月7日Writing>
<平田元秀2020年9月26日Edit>