30年拘束リスクのある為替連動型仕組債の勧誘について錯誤無効が認められた事例

大阪地裁第24民事部平成22年3月30日判決 消費者法ニュース84号280頁

  1. 30年拘束リスクのある為替連動型仕組債の勧誘・販売について、説明義務違反を認めた初めての判決。
       野村證券に対する勝訴判決であり、
    また、仕組債について錯誤による売買契約の無効を認めた初めての判決でもあり、
    画期的な判決だということができます。
    裁判長裁判官村岡寛、裁判官窪田俊秀、裁判官石島大輔 という構成です。
    現在控訴審に事件が係属しています。
  2. この判決で対象となった仕組債は

・利子は 
 当初1年間は 年率15.30%
 2年目以降は米ドルと豪ドルの2通貨に連動し、利払日の10日前の為替レートが基準値よりいずれも円安である場合に、その差の小さい方を基準に利子が支払われる。
・利子の累積額が額面の29%を超える場合に、超えることとなる利払日に元本5千万円で円で早期償還される。
・早期償還の条件を満たさないまま30年目の利払日を迎える場合には、発行体の選択により、62万5千ドル(米ドル)または100万ドル(豪ドル)が償還される
というものです。

  この形の仕組債を持っておられて円高で困ったなと思っておられる方はとても多いはずです。以下、判決の要旨を引用します。


<説明義務について>
 本件仕組債については、上記(略)のとおり、5000万円もの資金を最長30年拘束され、途中売却しても大幅に元本を毀損するなどのリスクが存する。
 このリスクは、5000万円という元本額の大きさや30年間という期間の長さに照らし、通常の個人の一般投資家にとっては極めて重大なリスクであるといえる。
 他方、上記(略)のとおり、原告は、被告野村證券において口座を解説する前には、投資信託に対する投資経験があるに過ぎず、他の金融商品に対する投資経験はなかったのであり、
 上記認定事実(略)のとおり、このような原告の投資経験については、被告水科らもお客様カード(証拠、略)の記載によって認識していたのであるから、
 本件仕組債が、投資信託とは異なって、資金を長期間拘束される可能性があり、途中売却をしても大幅に元本を毀損するなどのリスクが存することを十分に説明すべきであったというべきである。

<錯誤無効について>
 上記認定事実に加え、上記(略)で認定説示したところを総合すれば、
 原告は、本件仕組債の売買契約成立時点においては、
 本件仕組債には元本を最長30年拘束される可能性があり、途中売却しても大幅に元本を毀損するというリスクが存するという原告の投資判断にとって決定的に重要な事実を認識せず、
 かえって、被告中川による「年15%、10年で150%で回る。」、「株式は上がったり下がったりするので一つくらいこういうものももっておくのもいいのではないか。」などといった誤導的な言辞により、
 本件仕組債は元本毀損リスクなしに年15%の利回りを相当程度の確実さを持って期待することができるものと誤信していたことが認められる。
 そして、原告による本件仕組債を購入する旨の意思表示は、被告中川らによる勧誘に応じてされたものであること、
 勧誘から購入意思の表明までの間に本件仕組債の内容やリスクを理解する十分な時間的余裕が与えられなかったこと、
 原告の上記誤認は、被告中川らの不十分な説明と被告中川の不適切な言辞によって惹起されたものであり、単なる内心の動機にとどまるものとはいえないことからすると、
 原告が本件仕組債の性質を上記のように誤信していたことは、原告による本件仕組債を購入する旨の意思表示の内容になっているものと認められる。
 また、上記リスクの存否は、
 原告の投資判断にとって重要であるのみならず、
 本件仕組債を購入しようとする個人の一般投資家の投資判断にとって一般的に重要性の高いものであるといえるから、
 原告が本件仕組債の性質を上記のように誤信していたことは、民法95条にいう要素の錯誤にあたるというべきである。
 したがって、原告による本件仕組債を買う旨の意思表示は、要素の錯誤により無効である。