劇場型未公開株商法被害での被害者勝訴判決(東京地判平成22年6月28日判時2088-97)

 未公開株商法被害においては,上場予定もない未公開株式を近日中に上場予定と偽り,上場すれば購入時の時価を数段上回る値段で転売できるものと誤信させて,素人に未公開株を掴ませるわけです。
 このうち,いわゆる,振り込め詐欺の劇場型の手口では,キャスティング(配役)が行われます。
 すなわち,Aさんは会社役,Bさんは買取役とキャスティングをし,Aさんは被害者に会社の立場で株式購入者を募集するパンフレットを送付します。Bさんは被害者に電話を掛けて,その会社から株主募集の案内が来ていませんか。それは特別な人だけに送られてくるのです。その会社の株式を購入して当社に譲って欲しい。倍額で買い取るから。等と言います。そうして買わせてドロンする。こういうキャスティングがなされるのは,弁護士が裁判をする際に,立証が難しくなるのを利用しているのです。つまり,株式を売った人(発行会社)と買いなさいと進めた人(買取保証会社)が違うので,売った人は,「そんな話は知らない。」と言い逃れることが考えられるからです。
 見出しの裁判例は,この立証を成功させ,「発行会社」及びその会社の取締役らに対する損害賠償請求が認容されたケースです。発行会社の取締役らと,勧誘者との共謀が認定されています。

 共謀の事実を認定した事情は,裁判所により,劇場型一般に応用が利く可能性があります。
 代表取締役の共謀について例示すると,次の通りです。

  1.  当面上場する予定のない被告会社において
  2.  上場に向けた部門である株式公開準備室を設置したり
    ましてや株式公開準備室名義の銀行口座を開設したり
    印鑑を作成する必要はないのに
    被告会社代表取締役丙川はこれらに承認を与えていること
  3.  当面上場の予定がないのに被告会社の株式が上場間近であるとして販売されていることを認識していながら,
    勧誘者に株式の販売状況について説明を求める等したものの,それ以上格別の対策をとっていないこと

等からすると,
被告丙川は,
少なくとも勧誘者が当面上場予定もない被告会社の株式を上場予定と告げて販売することを認めていたものと言わざるを得ない。