無免許業者が宅建業者に名義を借りて不動産取引。業者間の利益分配合意は無効(最判R3.6.29)

最判(3小)令和3年6月29日・判例タイムズ1493号17頁

【判決の要旨】

 宅地建物取引業法3条1項の免許を受けない者が宅地建物取引業を営むために免許を受けて宅地建物取引業を営む者からその名義を借り,当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は,同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして,公序良俗に反し,無効である。

【参照条文】

  1. 宅地建物取引業法12条1項:
     第3条第1項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。
    *第3条第1項:
     宅地建物取引業を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に事務所(本店、支店その他の政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置してその事業を営もうとする場合にあつては国土交通大臣の、一の都道府県の区域内にのみ事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては当該事務所の所在地を管轄する都道府県知事の免許を受けなければならない。
  2. 宅地建物取引業法13条1項:
     宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
  3. 民法90条(2017年債権法改正前のもの)
    公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
    *2017年債権法改正後のもの:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

理由

 1 事実関係等の概要

  1.  Xは,平成28年10月頃,Aと共に,不動産取引に係る事業を行う旨の計画を立てた。
     上記計画においては,Xは,自らを専任の宅地建物取引士とする会社での勤務を続けつつ,その人脈等を活用して,新たに設立する会社において不動産取引を継続的に行うことが予定されていた。
  2.  その後,宅地建物取引士の資格を有するyが上記計画に加わり,同人を新たに設立する会社の専任の宅地建物取引士とすることになった。
  3.  yは,平成29年1月,上記計画に従ってY会社を設立してその代表取締役に就任し,Y会社は,同年2月,yを専任の宅地建物取引士として宅地建物取引業の免許を受けた。
  4.  Xは,平成29年2月頃までに,不動産仲介業者であるB会社から,C会社の所有する土地建物(以下「本件不動産」という。)の紹介を受けた。Xは,上記計画に基づく事業の一環として本件不動産に係る取引を行うことにしたが,yに対する不信感から,本件不動産に係る取引に限ってY会社の名義を使用し,その後はY会社及びyを上記事業に関与させないことにしようと考え,Aを通じてyと協議した。その結果,同年3月7日,XとY会社との間で,要旨次のとおりの合意(以下「本件合意」という。)が成立した。

     ア 本件不動産の購入及び売却については上告人の名義を用いるが,被上告人が売却先を選定した上で売買に必要な一切の事務を行い,本  件不動産の売却に伴って生ずる責任も被上告人が負う。
     イ 本件不動産の売却代金は被上告人が取得し,その中から,本件不動産の購入代金及び費用等を賄い,上告人に対して名義貸し料として300万円を分配する。上告人は,本件不動産の売却先から売却代金の送金を受け,同売却代金から上記購入代金,費用等及び名義貸し料を控除した残額を被上告人に対して支払う。
     ウ 本件不動産に係る取引の終了後,被上告人と上告人は共同して不動産取引を行わない。

  5.  本件不動産については,平成29年3月,Cを売主,上告人を買主とし,代金を1億3000万円とする売買契約が締結され,同年4月,Y会社を売主,Dを買主とし,代金を1億6200万円とする売買契約が締結された。これらの売買契約については,Xが売却先の選定,Bとのやり取り,契約書案及び重要事項説明書案の作成等を行った。
  6.  Xは,平成29年4月26日,Y会社に対し,本件不動産の売却代金からその購入代金,費用等及び名義貸し料を控除した残額が2319万円余りとなるとして,同売却代金の送金を受け次第,本件合意に基づき同額を支払うよう求めた。
  7.  Y会社は,平成29年4月27日,上記売却代金の送金を受けたが,自らの取り分が300万円とされたことなどに納得していないとして上記の求めに応じず,上記計画に基づく事業への関与の継続を希望するなどしたものの,同年5月,被上告人に対し,本件合意に基づく支払の一部として1000万円を支払った。

 2 本件請求

 本訴:Xが,Y会社に対し,本件合意に基づいて被上告人に支払われるべき金員の残額として1319万円余りの支払を求めるなどするもの。
 反訴:Y会社が,Xに対する1000万円の支払は法律上の原因のないものであったと主張して,不当利得返還請求権に基づき,その返還等を求めるもの。

 3 原審

 前記事実関係等の下において,本件合意の効力を否定すべき事情はなく,本件合意の効力が認められると判断して,被上告人の本訴請求を認容し,上告人の反訴請求を棄却すべきものとした。

 4 最高裁の判断

 原審の上記判断は是認することができない。(結論:破棄差し戻し)
 その理由は,次のとおり。

  1.  宅建業法は,第2章において,宅地建物取引業を営む者について免許制度を採用して,欠格要件に該当する者には免許を付与しないものとし,第6章において,免許を受けて宅地建物取引業を営む者(以下「宅建業者」という。)に対する知事等の監督処分を定めている。
     そして,同法は,免許を受けない者(以下「無免許者」という。)が宅地建物取引業を営むことを禁じた上で(12条1項),宅建業者が自己の名義をもって他人に宅地建物取引業を営ませることを禁止しており(13条1項),
     これらの違反について刑事罰を定めている(79条2号,3号)。
     同法が宅地建物取引業を営む者について上記のような免許制度を採用しているのは,その者の業務の適正な運営と宅地建物取引の公正とを確保するとともに,宅地建物取引業の健全な発達を促進し,これにより購入者等の利益の保護等を図ることを目的とするものと解される(同法1条参照)。
     以上に鑑みると,宅建業者が無免許者にその名義を貸し,無免許者が当該名義を用いて宅地建物取引業を営む行為は,同法12条1項及び13条1項に違反し,同法の採用する免許制度を潜脱するものであって,反社会性の強いものというべきである。
     そうすると,無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者との間でするその名義を借りる旨の合意は,同法12条1項及び13条1項の趣旨に反し,公序良俗に反するものであり,
     これと併せて,宅建業者の名義を借りてされた取引による利益を分配する旨の合意がされた場合,当該合意は,名義を借りる旨の合意と一体のものとみるべきである。
     したがって,無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り,当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は,同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして,公序良俗に反し,無効であるというべきである。
  2.  前記事実関係等によれば,本件合意は,無免許者である被上告人が宅建業者である上告人からその名義を借りて本件不動産に係る取引を行い,これによる利益を被上告人と上告人で分配する旨を含むものである。
     そして,被上告人は本件合意の前後を通じて宅地建物取引業を営むことを計画していたことがうかがわれる。
     これらの事情によれば,本件合意は上記計画の一環としてされたものとして宅地建物取引業法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものである疑いがある。
     上告人は,原審において,本件合意の内容は同法に違反する旨を主張していたものであるところ,
     原審は,上記事情を十分考慮せず,同主張について審理判断することなく本件合意の効力を認めたものであり,
     この判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある
     論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。

    (裁判長裁判官 戸倉三郎 裁判官 宮崎裕子 裁判官 宇賀克也 裁判官 林 道晴)