「トランプ関税」と「動乱期を生きる」ということ

 「Make America Great Again!」黄金色の2期目トランプ政権の「関税ディール」が始まったのが2月。そして、6月には、イスラエル・アメリカがイランに対し国際法を無視した戦争行為を行いました。*。そしてわが国は7月20日に参議院選挙をする。これが今年の上半期です。

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 折しも、内田樹・山崎雅弘著「動乱期を生きる」(2025年3月/祥伝社新書)は、「プーチンは偉大なるロシア帝国の再建を夢見ているし、習近平は偉大なる清帝国の版図の復活を目指しているし」「もう未来を指向するだけの政治的構想力を失った人たちが、『かつて一度も現実になったことのない過去』に向かって退行する。」と書きました(269頁)。
 同書のキーワードは「退行」です。
 同書は、わが国の「退行」現象について、国民も企業も、現状の構造を批判的な眼で見ようとせず、「システムはもう変えられないのだから、そこに適応して自分の損得だけを考えて動けばいい」という打算的な思考に流れているのではないか。今あるシステムはろくなものではないけれども、システムの欠陥を修正することには関心がなく、むしろその欠陥を活用して私利私欲を満たす人たち(広告収入を得るためにYouTubeなどで、とにかく動画の再生回数を稼げればよしとする人たち)をメディアが持ち上げ、若い人たちは彼らを模倣して自分もシステムの欠陥を悪用する手立てを探そうとする。これによって受益する人たちの数が増えれば増えるほど、わが国の既存のシステムは機能不全に陥る。これが今日本で起きていることだ、と指摘しています(283頁)。

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 ただ、世界の「退行」現象と、日本の上述の「退行」現象とは、少し違う分析が可能かと思います。日本の政治・社会の中で、「倫理的に底が抜けてきている」「知性尊重が崩れてきている」「司法も機能していない」という感じがする現象の背景には、Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftといった世界で圧倒的な存在感を見せる巨大テックの行うデジタル広告営業に対する包括的な法規制の不在、SNS登録時の本人確認義務に対する厳しい法規制の不在があります。
 日本ではSNS投資詐欺で昨年度1000億円を超える個人資産が奪われました。こんな犯罪天国現象は、かつてなかったことです。現に行われたデジタル詐欺に対する司法部門(裁判所、捜査機関、弁護士)の追及を可能とするため、通信機関に、その特定を可能とするインフラを整備させたり、情報開示を義務づける法制の整備はできますし、「再生回数が多ければ多く金を払う」という巨大ITテックの馬鹿げたやり方を、それが、民主主義の基盤や子育ての基盤を破壊する危険性等が高いことを理由に包括的に規制することも可能です。こうしたデジタル法の整備に、最先端で対応しているのは、残念ながら法域の異なる中国ですが、EUも2022年になりDSA法で包括対応を始めました。確かに日本はかなり遅れています。その背景には「外国から越境侵略を受けた経験が余りなかった」ことが挙げられますが、「デジタルに国境はない」ことを、今、社会が身に染みて理解しつつあり、遅ればせながら、このパラダイムシフトを日本はきっと乗り越える(「GAFAM」の思うようにはさせない)と思います。
 さて、黄金色の「トランプ合衆国」の方はといえば、関税(Tariff )男(Man)トランプは、関税を打ち出の小槌にして、外国の政府・企業に、国内に投資させ、国内製品を輸入させて、金銀財宝を獲得しようというのです。でも、他方でトランプは、富裕層への減税を実施し、大企業への競争制限、金融規制を次々撤廃し、規制を担当する政府職員を大量に解雇しています。このやり方だと、外国から得た金銀財宝は、労働者や中小自営業者にはあたらず、超富裕層と大企業に集中するでしょう。黄金色の共同幻想をいつまでも中西部の労働者が維持するとは思えません。
 トランプ政権の関税ディール諸施策には、誠に、「1つ残らず」未来はありません。
 「真面目に働く国民が馬鹿を見て、汚い手を使う者ばかりが巨万の富を得るような、社会の嫌な流れを減速させ、やがて逆転させる」(前掲書310頁)政治は、日本でも実現できるし、必ず、そうしなければなりません。

      • * 情勢の変転に併せ、「6月13日には、イスラエルのイラン戦争も始まりました。」の原文を同月26日に改訂。
      • 本稿は、弊所事務所報「市民法律だより」31号(2025年夏号)用に書き下ろしたものですが、先行してblogに掲載します。