借賃増減請求権はゴルフ場の借賃に類推適用されるか(消極)最判平成25年1月22日

最高裁第三小法廷平成23年1月22日判決
平成23年(受)第2229号 賃料減額請求本訴,地代等支払請求反訴事件


【要旨】
 この判決は,借地借家法11条の規定(地代等増減額請求権の規定)は,長期にわたる土地の利用関係における事情の変更に対応することを可能にする一般的な法理を明らかにした規定ではない,と述べています。


【事案】
 本訴請求は,上告人から賃借等した本件土地を利用してゴルフ場を経営している被上告人が,上告人に対し,

  1. 当初に合意された地代等がその後の事情により不相当に高額となっているとして,減額された地代等の額の確認
  2. 支払済みの地代等のうち正当とされる額を超える部分の返還とこれに対する借地借家法11条3項ただし書所定の年1割の割合による利息の支払

をそれぞれ求めるものです。
 反訴請求は,上告人が被上告人に対し,

  1.  当初に合意された地代等を前提に,平成21年から平成23年までの地代等の未払分とこれに対する年6分の割合による遅延損害金の支払,
  2.  本件土地の固定資産税の一部を被上告人が負担する旨の合意に基づき,その未払分とこれに対する年6分の割合による遅延損害金の支払

をそれぞれ求めるものです。
 本件においては,上記の地上権及び土地賃借権につき,借地借家法11条の類推適用が認められるか否かが主な争点となっています。

借地借家法11条(地代等増減請求権)

第11条
  1. 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
  2. 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
  3. 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

【原審の判断】
 原審は,借地借家法11条の立法趣旨の基礎にある事情変更の原則や
 契約当事者間における公平の理念に照らせば,
 建物の所有を目的としない本件契約においても同条1項及び3項ただし書の類推適用を認めるのが相当である
としました。
【最高裁の判断】
 これに対して,最高裁は,
 原審の借地借家法11条の類推適用に関する上記判断は是認することができないとし,その理由として,次の説示をしています。
「借地借家法は,建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権に関し特別の定めをするものであり(同法1条),
 借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しており(同法2条1号),
 同法の借地に関する規定は,建物の保護に配慮して,建物の所有を目的とする土地の利用関係を長期にわたって安定的に維持するために設けられたものと解される。
 同法11条の規定も,単に長期にわたる土地の利用関係における事情の変更に対応することを可能にするというものではなく,
 上記の趣旨により土地の利用に制約を受ける借地権設定者に地代等を変更する権利を与え,また,これに対応した権利を借地権者に与えるとともに,裁判確定までの当事者間の権利関係の安定を図ろうとするもので,
 これを建物の所有を目的としない地上権設定契約又は賃貸借契約について安易に類推適用すべきものではない
 本件契約においては,ゴルフ場経営を目的とすることが定められているにすぎないし,また,本件土地が建物の所有と関連するような態様で使用されていることもうかがわれないから,本件契約につき借地借家法11条の類推適用をする余地はないというべきである。
 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。
 論旨は理由があり,原判決中,本訴請求①及び②並びに反訴請求①の上告人敗訴部分は,いずれも破棄を免れない。
 そして,本件において事情変更の原則により地代等の減額がされるべき事情はうかがえず,本訴請求を全部棄却し,反訴請求を全部認容すべきであるから,これに従って原判決を変更することとする。」