非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする民法規定を憲法14条違反とした判例(最判平25年9月4日)
非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定を憲法14条違反とした最判平成25年9月4日については,既に裁判例watchingでも紹介したことがあります。
ところで昨年,夫婦同氏を定める民法750条を合憲とした最判平成27年12月16日が出たのを受け,改めて上記最判を読み返してみる必要が出てきました。
この判例については,平成26年に姫路のラジオ番組で,私の方からコメントしたことがあります。
この時の脚本原稿を掲示し,再整理材料にしたいと思います。
姫路FM-GENKI 2014年 憲法Ⅰ 弁護士平田元秀
(ラジオトークの脚本原稿より)
- FMゲンキをお聞きの皆さん、こんにちは。
今日は,兵庫県弁護士会姫路支部 平田弁護士にお話をお伺いします。
今回からは,4回にわたり,憲法をテーマとしたお話を伺います。
平田先生,よろしくお願いします。
はい。よろしく,お願いします。で,憲法といいますとね,憲法9条を思い起こす方が多いと思うんです。
- ええ,そうですね。
なので,ちょっと試しにそらんじてみましょうか。
- あら
「♪日本国民は,正義と秩序を基調とする 国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は 国際紛争を解決する手段としては 永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため 陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。」
- すごーい!弁護士さんは,みんな9条を暗記しているんですか?
いや,最近これを歌詞にした歌を個人的に練習しておりまして,はははははは…。
- では,今日のテーマは9条でしょうか。
いやいや,それだと集団的自衛権とか,ちょっと生(なま)ぐさい話になるので,今日はやめておきましょう。
- あら,そうですか。
ええ,なので,今日は憲法14条の平等原則のお話をしたいと思います。
- はい。
憲法14条は,すべて国民は,法の下(もと)に平等で,人種や性別や生まれなどでは,差別されないと謳っています。
昨年,最高裁が,相続に関する問題で,夫婦ではない男女の間に生まれた子どもが,夫婦の間に生まれた子どもと比べて,相続分が差別されているのは,憲法違反だという決定を出したというのは,聞いたことがありますか。
- それ聞いたことありますね。テレビでもずいぶん話題になりましたね。
ええ,平成25年9月に決定が出ました(最決(大)平25.9.4民集67.6.1320)。具体例でお話ししますね。
- はい。
夫妻の間に子どもが一人いて,それとは別に,夫には,妻以外の女性との間にもう一人子どもがいるとしましょう。
この場合,これまで,民法という法律では,夫が亡くなった時に,同じ子どもでも,女性側の子どもの相続分は,妻側の子どもの半分とされていたんです。これに対して,最高裁は,父親が母親と結婚していたか,いなかったか,という事情で 父親からもらえる相続分が変わってしまうのは 不合理な差別だと,こう判断して,これまでの民法の規定を憲法違反としたんです。
これを受けて,国会が動きまして,昨年12月には,民法が改正され,女性側の子ども,夫婦の子どもも,相続分は平等となったんですよ。
ところで,これについてはどういう感想を持たれますか?
- これって,夫が勝手に浮気をしてよそで子どもを作っても,夫婦の子と,よその子とが,相続では平等ということでしょうか。
そのとおりです。
- 夫が認知している子どもだけですよね。
そうですね。それが原則なんですが,夫が認知していなくても,女性が子どもの代理人として認知の請求ができますし,夫が死亡した後でも死後認知という制度で,親子関係が認められる場合もあるんですよ。
- えー,そうだとすると,ちょっと妻の立場からはどうかな?という気持ちもでてきますね。
そうですね。国会では,こんな判断が正しいということになると,夫の浮気を助長することになるという議論もでましたね。それから,残された妻と子の立場に立つと,夫と別の女性との間の子どもは,これまで,夫のために何もしてこなかったのに,夫が死んだ後,突然,対等平等の相続権を主張できるというのは,どうなんだろうという議論もありましたね。
- そういうのは,どう考えたらよいのでしょうか。
ええ,実は最高裁も,平成7年の段階では,この規定について一旦合憲の判断を下しているんです。
その理由は,法律上正式に結婚して夫婦となっている家族を保護すべきだから,というもので,法律婚を尊重するかぎり,夫婦の子と,女性の子との間で,相続分が違うのは仕方がないという判断だったんです。
ただ,今回,最高裁は,夫婦の問題とか,夫が浮気するのはダメなことだと言ったことと,子どもの権利とはきちんと区別すべきであると。妻と女性とでは法律上の立場は違って当たり前だとしても,子どもの立場は,それとは別に考えなければならない。そういう視点に立ちました。
そして,子どもの立場に立つと,どちらもお父さんの子だという点では同じであり,生まれた時に,その子のお母さんがお父さんと結婚していたかどうかというのは,自分ではどうすることもできない問題なので,それで,お父さんからもらえる相続分に違いが出るというのは,これはおかしいのではないか。そういう立場から,この結論に決めたようです。
- 先生,でも,これまで父親のために 亡くなるまで 介護や世話をあれこれとしてきたお子さんの立場に立つと,親の面倒を全然みてこなかった,母親の違う兄弟が,同じ相続分を主張してくるというのは,納得いかないという気持ちを持つような気もしますが。
いい質問だと思います。
でもそういう問題は,先妻の子ども,つまり異母兄弟との関係や,自分のところの兄弟との関係でも起きてきますね。
弟は東京で就職してずっと東京で暮らしていて,姫路ではおれ一人が両親の世話をしてきたのに,とかね。
ただ,それは自分の,父親に対する「寄与分」を実質的にちゃんと評価して欲しいという問題です。これは形式的な相続分とは別の話です。
今の裁判所の考え方では,父母の介護に関する介護者の「寄与分」が,いろいろと実際の介護の苦労を裁判所に説明しても,<同居している以上そんな苦労は当たり前だ>などと言われて,なかなか充分には認められないという実情にあり,そこは,実務の改善や場合によって法律の改正が求められるところだと私などは思います。
でも,そのこととは別に,父親に貢献した寄与分がお互いにないという場合に,子ども同士の関係は,父親の前では平等だという,今回の最高裁の決定は,やはり正しいかもしれませんね。
- なるほど。いろいろあっても,子ども目線では,夫婦の子か,夫婦以外の子かで,夫婦以外の子に罪はないから,親からもらえるものは,平等でなければならないということですね。
そのとおり。親に罪はあっても,子どもには罪はないはずだという,子どもの人権の考え方ですね。
多数の人が大したことじゃない,仕方ないと思うようなところを,しっかり切り分けて人権の観点から判断する。そこが憲法のすごいところです。
- それで,具体的にはいつから,このルールが適用されるということでしょうか。
はい。民法が国会で改正されましたので,平成25年9月5日以後の相続では,間違いなく,平等の相続分となります。
ただ,それ以前であっても,最高裁の判断では,平成13年7月1日以後の相続で,まだ,遺産分割が終了していないものがあれば,それについては,2対1ではなく,1対1の相続分として取り扱われることになります。
ただ,具体的に,自分の場合にはどうなりますかという点については,遺産分割がもう終わっているといえるかどうかなどの点で,専門的な判断が必要な点がありますので,やはり,個別に,地域の弁護士にご相談頂くことをお勧め致します。