法曹人口問題全国会議の意見書(2015年7月17日)

「弁護士過剰により職業的魅力を低下させながら,志望者を減少させずに優秀な人材を多く獲得しようとすることは矛盾であり不可能である。」
 法曹養成制度改革推進会議の平成27年6月30日付提言「法曹養成制度改革の更なる推進について」に対し,弁護士有志で構成される『法曹人口問題全国会議』(代表 井澤正之(栃木),小出重義(埼玉),纐纈和義(愛知),立松彰(千葉),辻公夫(大阪))は,同年7月17日付で意見書を公表しました。

上記推進会議の提言は次のとおり。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hoso/kettei_siryou04.pdf

これに対する全国会議の意見書を下記に掲示致します。


                                           2015年7月17日

法曹養成制度改革推進会議の本年6月30日の提言に対する意見書

 当会は,本日,法曹養成制度改革推進会議の提言に対する意見書を採択し,関係先に送付することにしました。
 弁護士人口及び法曹養成制度について関心を寄せ,私どもの研究と活動にご理解とご協力をお願いします。
  法曹人ロ問題全国会議
 代表 伊澤正之(栃木) 小出重義(埼玉) 纐纈和義(愛知) 立松彰(千葉) 辻公雄(大阪) 
 事務局長 武本夕香子(兵庫)次長 及川智志(千葉)

意見の趣旨

 当会は,法曹養成制度改革推進会議が本年6月30日に決定した提言「法曹養成制度改革の更なる推進について」と,この会議で承認された「法曹人口の在り方について(検討結果取りまとめ)」似下,本提言,本取りまとめと言う)に反対し,次のことを求める。
(1)直ちに1000人以下に減員する。
(2)予備試験の受験制限と合格者制限を設けず,更には,法科大学院修了を司法試験受験資格要件から撤廃し,法科大学院制度を中核とする法曹養成制度を抜本的に見直す。

意見の理由

第1 法曹人口について

  1.  本提言の根拠とされた法曹人口調査にもとづく本取りまとめは,「法曹人口は,全体として今後も増加させていくことが相当」とする。しかしながら,現在の約3万6500人でも弁護士数は過剰である。今回の法曹人口調査からは,法曹需要はむしろ減少するとの結論が導かれる。
     弁護士人口は,合格者1500人で6万3000人,1000人でも4万7000人まで増加する。よって,可及的速やかに司法試験合格者数を1000人以下にすべきである。
  2.  本取りまとめは,「毎年1800人ないし2100人程度の規模の数」について「現状」「社会における法的需要に対応した活動の場を得ている」としている。
     しかしながら,司法修習を経た人が希望する進路に進んでいるわけではない。即時独立開業する場合や給与が保証されないノキ弁も増えている。また一旦法律事務所に就職しても,数ヶ月で独立開業したり,登録換えをする場合も多い。請求による弁護士登録抹消をする事例も増えている(2004年91名から2013年345名に増加)。
     司法改革後,法曹になる人は,法科大学院修了時までに奨学金や生活費,更には司法修習時の貸与制により多額の借金を抱えている。そのため,不本意ではあっても何らかの職に就かざるを得ない。実際,司法修習を経ても法曹三者以外の道に進む者が急増している。
     公務員や会社員等法曹以外の道に進みたいのであればわざわざ時間を掛け,多額の学費や生活費等借金を抱えて法科大学院に行く必要はない。「法的需要に対応した活動の場を得ている」というのは,司法試験合格者数を増やし過ぎた失敗を認めたくないための誰弁に過ぎない。
  3.  本取りまとめは「このまま何らの措置も講じなければ,司法試験合格者数が1500人程度の規模を下回ることになりかねない。」との危機感をあらわにしている。しかし,需要が減っている以上,供給を減らすのは当然のことである。
     本当の危機は,法曹志望者が減少しているのに,合格者を減員せずに,弁護士過剰を拡大していることである。平成15年のピーク時と平成25年を比較して民事事件・行政事件の新受事件数は43%に、刑事事件は64%に,少年事件は44%に減少するなど法的需要ぱ激減し,企業と自治体の多くが法曹有資格者雇用の予定も希望もしない。
     短期に弁護士が倍増したのに対し,弁護士の所得は半減し就職難も年々厳しくなっている。弁護士過剰により職業的魅力を低下させながら,志望者を減少させずに優秀な人材を多く獲得しようとすることは矛盾であり不可能である。
  4.  本提言と本取りまとめは,自らが行った法曹需要の統計結果を無視しているだけではなく,弁護士増加による質の低下とOJT不足による弊害,弁護士過剰による経済的基盤の弱体化と弁護士の倫理感欠如,公益的活動・人権活動の衰退,法曹有資格者増加による弁護士自治の崩壊,非弁活動などの重大な社会的弊害を全く考慮していない。
     この誤りは,弁護士業界に過当競争を強いるため,司法試験合格者数を減少させないという法科大学院の都合を中心に法曹人口問題を捉えているからである。しかし,司法制度は,法科大学院制度のためにあるのではない。

第2 法科大学院を中核とする法曹養成制度の誤り

  1.  本取りまとめは,あくまでも法科大学院を中核とする法曹養成制度ありきの法曹人口の提言になっている。
     法科大学院を司法試験受験資格要件とすることは,時間と費用がかかる上,学歴差別である。事実,非法学部出身者や社会人経験者の割合は,旧司法試験時よりも少なくなっており,給源は狭小化している。法科大学院修了を司法試験受験資格要件とする必然性もメリットもない。法科大学院修了を司法試験受験要件から撤廃すべきである。
  2.  予備試験合格者の司法試験合格率は法科大学院修了者の3倍以上である。これは,法科大学院存続のために予備試験の合格者数を350人程度に不当に抑制しているからである。この不平等な制限を直ちに是正すべきである。
  3.  企業内弁護士等や「法曹有資格者」の活動領域の拡大等で法曹人口政策の失敗を糊塗することは止めるべきである。

第3 司法改革の見直しの必要性

 以上から,速やかに司法試験合格者数を1000人以下にし,予備試験を公正に行い,更には法科大学院修了を司法試験受験資格から撤廃し,給費制を復活するなど司法改革を抜本的に見直す以外に,司法制度を立て直す道はない。

 よって,当会は,政府に対し本提言と本取りまとめを早期に見直すことを,日弁連には司法改革の総括と見直しを求める。