裁判員裁判担当弁護士の実感-公設事務所弁護士の言葉は重い。
弁護士会姫路支部で刑事公設事務所担当弁護士の任を勤められている大岩和紀弁護士が,姫路支部の裁判員裁判で,弁護人として,担当事件(強姦被告事件)の認定落ちの判決を得られました。
その裁判を経験した雑感をMLへ投稿されているのを読み,わが国の刑事裁判の現状について,ポイントを押さえていて,分かりやすいと感じました。
そこで,大岩弁護士の了解を得て,掲載いたします。
(2012/10/23大岩弁護士がMLに投稿した同弁護士の「雑感」)
簡単に言いますと、判決の結論は、
被害者の供述は具体的迫真性にとみ、信用できる。
被告人の供述は不自然、信用できない。
しかし強姦の犯意を認めるだけの証拠がない。
というものです。
以下、雑感です。
民事であれば、立証責任は被害を受けた側にあり、供述が対立して決め手に欠く場合、被告が勝つところ、
刑事では、被害者供述はよほど客観証拠に反しない限り、信用される。
立証責任で逃げてはおそらく勝てない。
合理的な理由の説明が十分なされない限り、おそらく負ける。
立証責任は被告人側にあると思って立証していかないと、おそらく負ける。
100%の立証をする気持ちでいてもミスはするし、判決でもだいぶん寄りきられる。
保釈が通っていなければ、十分な打ち合わせもできないし、本人にも余裕はない。
被告人の表現、叙述能力はとても大切。
被告人の性格を語れる身近な存在は不可欠。
検察官の反対尋問に耐えただけでは勝てない。
裁判官の補充尋問、疑問に応えてはじめて勝てる。
裁判員裁判においては、評価型なので、主張しておかない事実はスルーされる。
基本は検察側の主張、立証が正しいか、という評価を行う。
そして、それぞれのパーツを一つずつ検討するので、検察の言い分は通りやすい。
(全体でみればおかしいところでも、パーツでみると正しく見えてしまう。これは評議方法にも問題があるように思える。)
何か心に響くものがなければ、理屈だけでは勝てない。
結局、職業裁判官をどこかで説得しなければ、裁判員裁判は負ける。
以上、思いつくままに書きました。
(以上 引用終わり)
上記の言葉は,感情を込めずに,淡々と語られていますが,言葉は選ばれています。
それだけに,その言葉は重い。