労働契約上の安全配慮義務違反による損害と弁護士費用(最判平成24年2月14日)

最判(2小)平成24年2月24日 判例時報1368号63頁
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82024


【要旨】
 労働者が、
 使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、
 その弁護士費用は、
 事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、
 上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである。


<判示抜粋>
 原審は,1876万5436円及び遅延損害金の限度で債務不履行に基づく損害賠償請求を認容したものの,弁護士費用の請求については,失当であると判断して,これを棄却した。
 しかしながら,弁護士費用の請求を棄却した原審の上記判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様
 その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって(最高裁昭和54年(オ)第903号同56年2月16日第二小法廷判決・民集35巻1号56頁参照),
 労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。
 そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる
 したがって,
 労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである(最高裁昭和41年(オ)第280号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。