同性婚を認めていない婚姻関係規定は憲法14条1項に違反しないとした裁判例(大阪地裁令和4年6月20日判決)

続いて、同性婚を認めない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定が憲法14条1項に違反しないとした、大阪地裁令和4年6月20日判決のうち、上記の諸規定が憲法14条1項に違反するかについての、裁判所の判断の箇所を紹介します。


【判決の表示】大阪地判令和4年6月20日判例時報2537号40頁
【要   旨】
 1.同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の規定(本件諸規定)は、憲法24条、13条、14条1項に違反するものとは認められない。
 2.本件諸規定を改廃しないことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとは認められない。


 本件諸規定が憲法14条1項に違反するかについて(争点(1)関係)
 

(1) 
 本件諸規定は、異性間の婚姻のみを定め、同性間の婚姻は定めていないものである。
 そこで、原告らは、本件諸規定により、異性愛者は婚姻をすることができるのに対して同性愛者はこれをすることができず、婚姻の効果を享受できないという別異の取扱い(以下「本件区別取扱い」という。)が生じているとして、このことが憲法14条1項に違反する旨主張する。
 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁、最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁等)。
 前記2(3)アのとおり、同法24条2項は、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきとの要請、指針を示すことによって裁量の限界を画したものであるから、婚姻制度に関わる本件諸規定が、国会に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合に、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当であるというべきである(最高裁平成24年(ク)第984号、第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁参照)。
(2)
   このような観点から、本件諸規定が憲法14条1項に違反するかを検討する。
 ア
 この点について、被告は、本件諸規定は、客観的に同性愛者であるか異性愛者であるかによって婚姻制度の利用の可否について取扱いを区別するものではないから、同性愛者がその性的指向に合致する者と婚姻をすることができない結果が生じているのは、本件諸規定から生ずる事実上の結果にすぎないとし、それゆえ立法裁量がより広範になる旨主張する。
 確かに、本件諸規定は、その文言上、婚姻の成立要件として当事者に特定の性的指向を有することを求めるものではなく、当事者が特定の性的指向を有することを理由に婚姻を禁止するものでもないから、その趣旨、内容や在り方自体が性的指向に応じて婚姻制度の利用の可否を定めているものとはいえない。
 しかし、婚姻の本質は、自分の望む相手と永続的に人的結合関係を結び共同生活を営むことにある以上、同性愛者にとっては、異性との婚姻制度を形式的には利用することができたとしても、それはもはや婚姻の本質を伴ったものではないのであるから、実質的には婚姻をすることができないのと同じであり、本件諸規定はなお、同性愛者か異性愛者かによって、婚姻の可否について区別取扱いをしているというべきであって、これを単なる事実上の結果ということはできない。
 かえって、本件区別取扱いは、上記のとおり、性的指向という本人の意思や努力によっては変えることのできない事柄によって、婚姻という個人の尊厳に関わる制度を実質的に利用できるか否かについて区別取扱いをするものであることからすると、本件区別取扱いの憲法適合性については、このような事柄の性質を考慮して、より慎重に検討される必要がある
 イ
 そこで検討すると、本件諸規定は、憲法24条2項が、異性間の婚姻についてのみ明文で婚姻制度を立法化するよう要請していることに応じ、個人の尊厳や両性の本質的平等に配慮した異性間の婚姻制度を構築したものと認められ、その趣旨目的は、憲法の予定する秩序に沿うもので、合理性を有していることは既に述べたとおりである。
 そして、本件諸規定が同性間の婚姻制度については何ら定めていないために本件区別取扱いが生じているものの、このことも、同条1項は、異性間の婚姻については明文で婚姻をするについての自由を定めている一方、同性間の婚姻については、これを禁止するものではないとはいえ、何らの定めもしていない以上異性間の婚姻と同程度に保障しているとまではいえないことからすると、上記立法目的との関連において合理性を欠くとはいえない。
 したがって、本件諸規定に同性間の婚姻制度が規定されていないこと自体が立法裁量の範囲を超えるものとして憲法14条1項に違反するとはいえない。
 ウ 
 確かに、現時点の我が国においては、同性愛者には、同性間の婚姻制度どころか、これに類似した法制度さえ存しないのが現実であり、その結果、同性愛者は、前記のとおり、婚姻によって異性愛者が享受している種々の法的保護、特に公認に係る利益のような重要な人格的利益を享受することができない状況にある。
 したがって、このような同性愛者と異性愛者との間に存在する、自らが望む相手との人格的結合関係について享受し得る利益の差異の程度が、憲法14条1項の許容する合理的な立法裁量の範囲を超えるものではないかについてはなお慎重に検討すべきということができる。
 しかし、前記2(3)イのとおり、異性間の婚姻は、男女が子を産み育てる関係を社会が保護するという合理的な目的により歴史的、伝統的に完全に社会に定着した制度であるのに対し、同性間の人的結合関係にどのような保護を与えるかについては前記のとおりなお議論の過程にあること、
 同性愛者であっても望む相手と親密な関係を築く自由は何ら制約されておらず、それ以外の不利益も、民法上の他の制度(契約、遺言等)を用いることによって相当程度解消ないし軽減されていること、
 法制度としては存在しないものの、多くの地方公共団体において登録パートナーシップ制度を創設する動きが広がっており、国民の理解も進んでいるなど上記の差異は一定の範囲では緩和されつつあるといえること
等(前記2(3)イ(イ))からすると、
 現状の差異が、憲法14条1項の許容する国会の合理的な立法裁量の範囲を超えたものであるとは直ちにはいい難い。
 また、仮に上記の差異の程度が小さいとはいえないとしても、
 その差異は、既に述べたように、本件諸規定の下においても、婚姻類似の制度やその他の個別的な立法上の手当てをすることによって更に緩和することも可能であるから、
 国会に与えられた裁量権に照らし、そのような区別に直ちに合理的な根拠が認められないことにはならない。
 以上のとおりであるから、
   本件区別取扱いが憲法14条1項に違反すると認めることはできない。 

 


【コメント】

 札幌地裁令和3年3月17日判決と比べて、人権規定違反の法的判断に関し、どちらに説得力があるかは、かなり明らかなように思われます。