新型コロナ禍と未来予想図
2020年7月掲載予定の「ひめじ市民法律だより」の「弁護士の小話」の原稿となりますが,トピックな話題で,掲載されたときには賞味期限が切れてしまっている可能性もあるので,blogにあげてしまいますね。
今号の小話〔ひめじ市民法律だより2020年7月号「弁護士の小話」〕は,もちろん「新型コロナ」問題を避けるわけにはいかない。2020年前半期は,まさに環球の人類社会がCOVID-19のパンデミックに対する対処に覆われた(ている)非常に珍しい,特筆するべき時期だからである。
私の問題意識は,こうだ。「コロナ禍2020」は,「この世界規模の不幸を共通体験として私たちの社会の『同時代』を形成する」「そのような意味で繋がる」「そのことによって何か良いことが起こる」,そういうイメージを持つことができるか,である。
日本の私たちは,「3.11」を忘れない。兵庫に住む私たちにとって,そのことは「1.17」と固く結びつく。そして,その二つを結びつけるとき,私たちは,「誰も一人にはしない」。そう思う。共助の熱い心が深いところから湧き上がってくるものを感じる。震災も津波も土砂災害も不条理の塊だが,私たちの社会の繋がりはバージョンを更新してきた。
こうした体験は,災害問題から温暖化(気候危機)問題へ,そしてSDGsの地球市民的活動へと広がり,未来へ繋がるプラスの面をもイメージさせる。
しかし,「新型コロナ」はどうだろう。三密回避,マスク,ステイホーム,ソーシャルディスタンス,不要不急,長距離移動・帰省・外出の自粛,行動変容,新生活習慣,入国拒否,感染者・濃厚接触者の隔離…。これらは,人が人と触れあい,明るく楽しく親密に接することを戒めるそれ自体「非人間的」な警告に満ちている。
COVID-19は,接触感染と飛沫感染をする。それ自体は,風邪と同様だが風邪くらい感染力が強いともいえる。それでもって,致死率が異常に高い。本日(6月14日)現在,フランスで19%,イタリアで15%,イギリスで14%,オランダで12%である。米国で6%,日本で5%である。潜伏期間が長く,発症しない人が多く,不顕性感染の人からも感染する。まだ,予防法(ワクチン)・治療法(抗ウイルス薬)が研究途上である。①感染力,②潜伏性,③致死率,④予防治療法の欠如の4点が恐ろしさの原因である。
COVID-19は,人に,自分が感染していることを知られないという技により,普段通りに人と親密に接するよう行動させることによって,自分を爆発的に増やす能力を持っている。人は文字通り支え合う生物であり,人と親密に接することを通常行動とする動物である。COVID-19はこの特性にとても適応した「狡猾」なウイルスだ。
だから,今,専門家チームが政府を通じて高唱しているのは,もっぱら,このウイルスの「狡猾」な特徴に鑑みた,現在の取るべき科学的・合理的な戦術である。もちろん,そこには,将来の人のあるべき姿に関する徳目は,まったくもって含まれていない。人は,マスクをして,ビニール越しに,2メートルも離れた人と,あらたに,友情を培ったり愛を芽生えさせたりすることは,無理だ。「あつまれどうぶつの森」でバーチャルな友情・恋愛を培い,体外受精で子どもを作る人類の未来を口にすることはできるが,ディストピア以外の何物でもない。まっぴらごめんだ。どのような信仰の教えも,そうしたものを智惠として示唆していない。
人が人である以上,「三密回避」以下の非人間的な警告などは,一時の暫定的な性質のものだと断定できる。COVID-19の予防薬や治療薬が実用化されれば,躊躇なく,元に戻してよい。「パンデミックはこれからも必ず起きるから」といって,「三密回避」を続けようという訴えは,「将来必ず津波は来るから」というので,列島の東と南の全海岸線に高さ40mの防潮堤を造ろうという訴えと同じで,そのようなことにはならない(実用化後の新型コロナは,BCGと治療薬で対処している結核と同様のイメージでよい。)
そう見極めると,論点の方向性は明確となる。
各国政府と市民社会は,SDGsの取り組みと同様に互いに連携して,COVID-19の予防薬や治療薬の開発と実用化,PCR検査キット,抗体検査キットの低価格普及とこの病気の予防・治療に全力を挙げるべきである。企業間・政府間の開発競争はあるとしても,それらは秩序のあるものであるべきだ。
今回の新型コロナで,「同時代を形成する」ような「何か良いことが起こる」とすれば,三密回避それ自体によるものではないだろう(今それは大事なことであるが「共通体験」として人類史的に世代間共有されることはないと思われる。)。
三密回避それ自体には,献身,情熱,連帯,祭典の要素が欠けるから,パンデミックは再び,忘れられるかもしれない。人類の基本は変わりようがない。
三密回避がもたらした新しいツールは,「オンラインでみんなが大量につながるようになったこと」である。コロナ後の世界は,オンライン行動がバージョンアップするだろうとはいえる。それが新しい社会の革新を生み出す可能性は十分ある。
私の予想はこの位である。
(平田元秀 2020年6月14日 記)