民事判決の初歩
今年の夏 初心に返って 吉谷弁護士と2人で司法研修所編「10訂民事判決起案の手引き」を読み合わせしました。
実に雑学的にメモしておきます。
事件の表示欄
判決では冒頭の事件番号・事件名の次に「口頭弁論終結の日」を記載するが これはなぜか。
民事訴訟法253条1項4号には,判決書の必要的記載事項として,「口頭弁論の終結の日」が規定されているから。
その趣旨は,判決の既判力は事実審の口頭弁論終結時を基準として発生するので,判決が確定した場合の既判力の基準時を明確にする点にある。
既判力とは確定判決の判断に与えられる通用性ないし拘束力を指す。すなわち終局判決が確定すると,その判決における請求についての判断は,以後当事者間で同一事項が再び問題になったときには,当事者はこれに矛盾する主張をしてその判断を争うことは許されないし,裁判所もその判断と矛盾抵触する判断をすることが許されなくなる。
- 民事執行法35条2項は,債務名義による強制執行の不許を求めるためにする「請求異議の訴え」について,「確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。」としている。これは既判力が口頭弁論終結時を基準として生じることの表れといえる。
- 現在,事実審の判決の通常様式では,冒頭の1行目には「令和○年○月○日判決言渡 同日原本交付(領収) 裁判所書記官」と記載される。判決言渡の日及び判決書の原本交付(領収)の日は,書記官の職権記入事項である。すなわち,民事訴訟規則158条は,「裁判所書記官への交付等」と表題して,「判決書は、言渡し後遅滞なく、裁判所書記官に交付し、裁判所書記官は、これに言渡し及び交付の日を付記して押印しなければならない。」と規定している。
当事者欄
人事訴訟の判決では住所のほか本籍をも記載するが これはなぜか。
判決に従って戸籍の記載の変更をする際の便宜のため。
・ 同様の配慮として 登記に関する判決では,登記された住所と現住所が異なっているときは,登記された住所も併記するのが実務。
住所は道府県から書くのか市町村からでもよいのか。
都道府県から書くのが原則であるが,実務上,東京都を除き,政令指定都市,地裁本庁所在地の市については道府県名を省略する例が多いとされている。
法人の代表取締役を表記するときにどうして「代表者代表取締役」と表記するのか。
民事訴訟法253条は,「判決書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。」とし,その5号に「当事者及び法定代理人」を掲げている。民事訴訟法では,法定代理人に関する規定は,法人の代表者にも準用される(法37条)。
法定代理人又は法人の代表者を判決に表示する趣旨は,その訴訟が,表示された法定代理人または代表者によって有効に追行されたことを表す趣旨である。
法定代理人については,その法定代理人である旨及び代理資格を記載する。例えば「同法定代理人後見人A」と記載する。そこで,法人の代表者についても代表者である旨及び代表資格を記載する。例えば「同代表者代表取締役B」と記載する。
訴訟代理人が多数のときや交代があったときはどう表記するのか。
訴訟代理人は民事訴訟法で,必要的記載事項とされていない。
表示する趣旨は,訴訟の追行者を明らかにすること及び送達の便宜のためである。
訴訟代理人に交代があったときは,最終の口頭弁論終結日を基準として,その期日に代理人であった者のみを表示する。
訴訟代理人が多数の場合,訴訟活動を全くしなかった者の記載を省略する例があるが,上記の表示の趣旨に基づくものである。
主文欄
主文の種類は4つ。
① 訴訟物についての裁判
② 訴訟費用についての裁判
③ 必要に応じて仮執行宣言又は仮執行免脱宣言
④ 職権による付随的裁判
請求棄却の主文の書き方
- 単に主たる請求と附帯請求(利息・損害金等)を棄却する場合 「原告の請求を棄却する。」
- 予備的・選択的併合の場合 「原告の請求をいずれも棄却する。」
- 請求の一部のみが理由がある場合,理由がないとして棄却される部分につき「原告のその余の請求を棄却する。」と明示する。
- 主位的請求を全部認容するときは「予備的請求を棄却する」との記載は不要である。
- 予備的請求を認容するときは,「主位的請求を棄却する」旨の記載が必要である。
給付判決請求認容の主文の書き方に関するいくつかの点
- 訴状の請求の趣旨欄では,「訴状送達の日の翌日から支払済みまで年○分の割合による金員を支払え」というように記載するが,判決では,訴状送達日の翌日が判明しているので,「令和○年○月○日から」と具体的な日を記載する。
- 認容すべき金額に計算上円未満の端数が出た場合,実務では円未満は四捨五入ではなく,切り捨てて記載する。
- 連帯債務の場合,「被告らは原告に対し,各自○○円を支払え。」という書き方と「被告らは,原告に対し,連帯して○○円を支払え」という書き方があり,どちらかが間違いということはないものの,当事者の誤解をさけるため,また判決を執行したり弁済を受ける場合,主文でも連帯関係が明らかになっていた方がよいという実際的な考慮のため,「連帯して」と書くのが相当とされている。
- 原告の単純な給付請求に対して被告の同時履行の抗弁が認められるときは,引換給付の判決をする。
その場合「原告のその余の請求を棄却する」と,一部棄却であることを主文に表しておく必要がある。
主文の「別紙図面」と基点・方角・距離等
一筆の土地の一部を特定するような場合,図面に示された土地の範囲が現地で明らかになるよう,基点を明確にした上,それから各地点への方角,距離等を示すようにすべきである。
訴訟費用に関する裁判は裁判所の義務であること
訴訟費用の裁判は,裁判所が義務的にしなければならない職権の裁判である。
民事訴訟法67条は,第1項で「裁判所は、事件を完結する裁判において、職権で、その審級における訴訟費用の全部について、その負担の裁判をしなければならない。」と定め,第2項で「上級の裁判所が本案の裁判を変更する場合には、訴訟の総費用について、その負担の裁判をしなければならない。事件の差戻し又は移送を受けた裁判所がその事件を完結する裁判をする場合も、同様とする。」と定めている。
事実欄(「当事者の求めた裁判」及び「当事者の主張」欄)
在来様式の判決書でのお話しである。
・「よって書き」は,法律上の主張の要約であるから,認否の対象ではない(認否を記載してはいけない)。
・時機に遅れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条1項)であるとの申立てがあったことは「事実」欄に記載すべきである。記載の位置については,当該主張に対する認否の始めか末尾に書く方法などが考えられる。
理由欄
理由の構成
在来様式の判決書でのお話しである。
訴訟上主張されているすべての請求及びすべての請求原因事実について,漏らさず判断する必要がある。
損害金の請求があるときは,その原因となる要件事実についても判断することが必要だから,例えば,期限の定めのない債務が催告によって遅滞となり,その結果損害金が発生したものと判断される場合には,必ず催告の日を判示しなければならない。
請求や請求原因事実に対する判断に漏れがあると,理由不備となる(民事訴訟法312条2項6号-上告理由)。
事実の確定
証拠を要しない場合
- 自白した事実
当事者に争いのない主要事実は,そのまま判断の基礎としなければならない(弁論主義の第2テーゼ)(民事訴訟法179条「裁判所において当事者が自白した事実…は、証明することを要しない。」)。
争いのないことを無視して証拠で認定することは,違法なことである。
ただし,弁論主義が制限され,自白法則の適用されない離婚事件等の人事訴訟事件などでは,自白がされたとしても,必ず証拠による認定を要するし,自白と異なる事実を認定しても違法にならない。
- 顕著な事実
顕著な事実は証拠によって認定する必要がない(民事訴訟法179条「裁判所において…顕著な事実は、証明することを要しない。」)。「…の事実は,当裁判所に顕著である。」
例1:平均余命の年数,労働者の平均賃金の額など
例2:訴訟上の出来事 (訴状の送達,準備書面の送付,訴訟における形成権の行使など)
証拠によるべき場合
ア 事実認定
- 民事訴訟においては一般に証拠能力について制限はない。
- ただし
民事訴訟法188条 「疎明は、即時に取り調べることができる証拠によってしなければならない。」
民事訴訟法352条 「手形訴訟においては、証拠調べは、書証に限りすることができる。」
- ただし
- 証拠の証明力の評価については,裁判官の自由な判断に委ねられている。
民事訴訟法247条。
ただし 自由心証主義は,①経験則,②論理法則によって規制される。 - 経験則,論理法則にかなった誤りのない事実認定をする際の心構えとして基本的なことは次の3つ。
① 当事者間に争いのない事実及び客観的な証拠によって確実に認定しうる事実から事件の大きな枠組みを把握すること。 ② その枠組みの中に 個々の争点を位置づけること。 ③ これを下地に,各争点についての証拠を吟味すること。 |
4.自由心証主義の下では,証明力について,書証と人証との間に定型的な差はない。
5.書証に関し処分証書について。
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- 証人が直接にその事象を認識したか。
それとも,他人の伝聞によって,あるいは他人の伝聞を交えて,その事象を認識したか。 - 証言の内容の検討のポイント
次の点などについて,証言に誤謬の生ずる可能性を逐一確かめる心構えが必要である。- 証人が真実を述べようとする主観的な誠実さを有しているか。
- 証人が証言の対象である事象をどのような状況のもとで認識したか。または,これを認識する能力を備えていたか。
- 証人の記憶能力,記憶時の状況,記憶の対象の性質はどうか。
- 記憶を正しく再生し,裁判所に対し正確にこれを伝える能力があり,かつ実際に伝達したか。
- 証言の信用性確認のポイント
- 証人が直接にその事象を認識したか。
① 証人の年齢,職業,教養,社会的地位などが重要な参考となる。
② 主観的な誠実性判定資料:事件について有する利害関係,当事者との関係(友人,親族,職業上の従属関係)
予め何らかの不当な暗示又は誘導を受けた疑いがないか。
その供述が不当な誘導尋問によって引き出されたものではないか。
③ その証言の内容が,他の証拠や間接事実などと符合し,又は首尾一貫しているか否か。
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- まとめ
結局,証言の内容自体からみても,他の証拠と対比してみても,健全な良識を持つ一般人の経験則に照らして合理的にうなずける内容のものであるか否かが,証言を評価するためのもっとも重要な基準といえる。
証言や供述の評価については,経験の集積によって正しい評価ができるよう努めるほかないが,
同時に,①従来の裁判例の理由中に示されたそれらに対する評価についての経験則や②供述心理学の成果などにも注意を怠らない心構えが必要である。
- まとめ
イ 説示の方法
(ア)原則
- 事実を認定できるか否かの説示は,いやしくも争点についての判断を遺脱するようなことがあってはならない。
- 証拠→事実→法律効果という段階を踏んだ判断をすべきである。
- 事実認定の説示をするに当たって,
その当事者が立証責任を負う事実については,
それが証拠によって認められるか,又は認めるに足りる証拠がないかの説示をすれば十分である。
要証事実が不存在であることや,反対事実が存在することは,立証命題ではないので,そのようなことが認められる場合でも,その存否が不明な場合と同一の表現で判示するのが相当である。
もっとも,判示するのが相当な場合もある。そういうときは,「…を認めるに足りる証拠はない。」の次に,例えば,「かえって,証人Aの証言によれば,原告主張のような契約は締結されなかったことが認められる。」とする。 - 裁判官は証拠の取捨についていちいちその理由を判決に示す必要はない。
裁判所は,証拠の内容をいかなる事由によって真実と認めたかを理由で判断することは訴訟法上要請されていない。 - 裁判所は,採用しなかった証拠について採用しない理由をいちいち判示することも必要ではない。
例えば証言の場合についていえば,一切の資料を総合考慮して,信用性を判定しなければならないため,このような複雑微妙な心証形成過程の内容を具体的に判示するよう要求することは不可能を強いることになるからである。
事案によっては,証拠の取捨の争点が重要な争点である場合には,その理由を明示することが妥当な場合もある。その場合には,「上記認定に反するAの証言は,あいまいな点が多く,首尾一貫しないので信用することができない。」とか
「証人Bは,…である旨を証言するが,証人Cの証言から認定できる…の事実に照らすと,これを信用することができない。」のように判示する。
要証事実に符合する証拠があるけれども,それを信用することができず,他にその事実を認めることができる証拠がない場合には,
「この点に関する証人Aの証言は,にわかに信用することができず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。」とか,
「証人Aは,この点について…と証言するが,この証言は,先に認定した…の事実に照らし(証人Bの反対趣旨の証言に照らし),たやすく信用することができず,他に抗弁1の事実を認めるに足りる証拠はない。」のように判示する。
(イ)証拠の挙示の仕方
- 法廷外において証拠調べが行われた場合には,その結果が口頭弁論に上程されることが必要である。
上程の方法は,当事者がその証拠調べの結果を証拠資料とする旨を陳述することを要するとする説と,裁判長がその証拠調べの結果を口頭弁論に顕出すれば足りるとする説があり,実務は前者で動いている。 - ある事実の認定について説示するに当たっては,証拠は,認定すべき事実との関係において,個別的具体的に摘示する。漠然とした概括的な記載をしてはならない。もっともその証拠の標目を示せば足りる。
- 挙示すべき証拠が複数のときは,原則として,①書証,②人証(ⅰ証人,ⅱ本人〔代表者,法定代理人〕),③鑑定,④検証,⑤調査嘱託,⑥鑑定嘱託の順に記載する。例えば,「成立に争いのない甲第1号証,証人Aの証言により真正に成立したものと認められる(又は「成立の認められる」)乙第1号証,同証言及び原被告各本人尋問の結果を総合すれば」のように記載するのが一般である。
- 証拠の挙示の仕方は,概ね次の通りである。
- 書証
「甲第1号証」
「甲第1ないし第5号証」
「甲第1号証,第2号証の1,2,第3,第4号証,第5号証の1ないし3」
* 枝番号がどの書証についているのか分かるように記載する。
書証の成立に争いがないときは,
「成立に争いのない甲第1号証」又は「甲第1号証(成立に争いがない。)」というように記載する。
書証の成立に争いがあるときは,若干の推定規定がある(民事訴訟法228条以下)。
・ 公文書:
228条2項 「その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。」
→「その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第1号証」と記載する。
・ 私文書
→「証人Aの証言により真正に成立したものと認められる甲第1号証」
「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第1号証」
228条4項 「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」→「甲第1号証の被告の氏名については,被告本人尋問の結果によって,これが被告の自署によるものであることを認めることができるから,真正に成立したものと推定すべき甲第1号証」「甲第1号証の被告名下の印影が被告の印章によるものであることは当事者間に争いがないので,その印影は被告の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから,真正に成立したものと推定すべき甲第1号証」
- 人証
証人
「証人Aの証言によれば,…の事実を認めることができる。」
証拠となるのは証人の証言そのものであって,証人調書ではない。当事者本人,代表者
「原告本人尋問の結果によれば,…の事実が認められる。」 - 鑑定:「鑑定の結果によれば」
- 検証:「検証の結果によれば」
- 調査嘱託,鑑定嘱託:「調査嘱託の結果によれば」「鑑定嘱託の結果によれば」
- 書証
(ウ)説示の要領
〔事実を認定することができる場合〕
「(証拠)によれば…の事実が認められる。」とする。
認定事実が簡単なときは,「…の事実は,(証拠)により認められる。」としてもよい。
- 直接証拠により主要事実を認定できる場合(直接認定型)
「証人Aの証言により真正に成立したものと認められる甲第1号証及び証人Bの証言によれば,請求原因1項記載の売買契約が締結されたことが認められる。」 * 直接証拠のほかに間接証拠によって認定された間接事実から主要事実を推認できる場合でも,これらを示す必要はない。もっとも間接証拠によって認定される間接事実(補助事実)が直接証拠の証拠価値を高め,その結果要証事実を認めるに足りるものとなるときは,間接証拠や間接事実(補助事実)をも示すのが妥当である。
* 事実認定をした後に,「上記認定を覆すに足りる証拠はない。」と記載する例もある。
* 反証としての証言はあるが,それを信用することができないというときは,通常,事実認定の後に,
「上記認定に反する証人Aの証言は信用(採用)することができない。」などと記載する。信用できない(不採用)の理由は原則判示しないが,その争点が重要な争点であるときは,判示することが妥当である。この場合には,
「上記認定に反するAの証言は,あいまいな点が多く,首尾一貫しないので信用することができない。」とか
「証人Bは,…である旨を証言するが,証人Cの証言から認定できる…の事実に照らすと,これを信用することができない。」のように判示する。
* 反証としての書証があるが,その記載内容が信用できない場合には,成立についての判断を示すまでもなく例えば
「上記認定に反する乙第1号証は採用することができない。」と記載する。
* 書証については,「書証の記載及びその体裁から,特段の事情のない限り,その記載通りの事実を認めるべきである場合に,何ら首肯するに足りる理由を示すことなくその書証を排斥するのは,理由不備の違法を免れない」とされている(最判昭和32年10月31日民集11-10-1779)。 - 間接事実から主要事実を推認できる場合
証拠と事実との関係を密接にしなければ,説得力の欠けた判示となる。
次のように段階的に判断するのがよい。
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〔事実を認定することができない場合〕
要証事実について,事実を認定することができないときは,その事件の全証拠によっても事実を認定することができないことを明確に判示する。
<具体的な説示方法>
- 証拠不十分型
事実の存否が不明なときは,立証責任のある当事者に不利益な結論を下す。
①立証活動がないとき
「請求原因事実については,証拠がまったくない。」
②立証活動はされているが,証拠調べの結果を総合しても事実を認めることができず,各別言及すべき証拠もないとき
「請求原因事実は,これを認めるに足りる証拠がない。」「請求原因事実は,本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。」
③要証事実に符合する証拠があるけれども,それを信用することができず,他にその事実を認めることができる証拠がないとき
「この点に関する証人Aの証言はにわかに信用することができず,他にその事実を認めるに足りる証拠はない。」「証人Aは,この点について…と証言するが,この証言は,先に認定した…の事実に照らし(証人Bの反対趣旨の証言に照らし),たやすく信用することができず,他に抗弁1の事実を認めるに足りる証拠はない。」 - 推認不十分型(間接事実は認定できるが,それから主要事実を推認することができない場合)
①1個ないし数個の間接事実が認められるが,それだけでは要証事実を推認するのに不十分な場合
「(証拠)によれば,…の事実が認められるけれども,上記認定の事実によっては,被告主張の事実を推認するに足りず,他に被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。」
②1個ないし数個の間接事実が認められ,その限りでは要証事実を推認するのに十分であるけれども,他方においてその推認を動揺させる別個の間接事実が認められ(この間接事実の証明活動は本証活動である。すなわち,推認を動揺させる間接事実は,主張責任を負う側が,完全に証明しなくてはならない。),それを併せて考えると,結局上記推認は妨げられ,要証事実を認定することができない場合がある(間接反証の成功)という場合
「証人Aの証言によれば,aの事実を認めることができる。しかし,他方証人Bの証言によればbの事実も認めることができ,このbの事実に照らして考えると,前記aの事実から原告主張のcの事実を推認することはできず,他にcの事実を認めるに足りる証拠はない。」
新様式の判決書でのお話し
・在来様式と新様式とは,事件の表示,口頭弁論終結の日,表題,当事者,代理人等の表示について,違いはない。
・主文についても,違いはない。
新様式の事実及び理由欄について
- 新様式では,「事実及び理由」欄は
1 原告の請求/事案の概要
2 前提事実/争いのない事実等
3 争点及び争点に関する当事者の主張
4 当裁判所の判断
といった構成で論述されることが多い。 - 「原告の請求」欄/「事案の概要」欄について
- 「前提事実」「争いのない事実等」欄
- 主文を導くために必要となる「争いのない事実」及び中心的争点ではないが自白が成立していないため証拠によって認定する必要のある事実で,主文を導くために判断の必要なものを記載する。
- 「争点」欄
- 主文を導く上で重要な事実上又は法律上の争点のことである。
- 裁判官は審理の過程で適切な訴訟指揮を行い,要件事実の理論に裏付けられた事実主張が尽くさせ,その上に立って,主文を導く上で重要な事実上又は法律上の争点を,当事者と裁判所とが共通の認識を有していることを前提として,これを摘示すべきものである。
- 「当裁判所の判断」欄
① 最初に認定事実を一括して記載し,次にこれを引きながら争点の判断をする方法と,
② 争点ごとに,関係する認定事実とこれに基づく判断とをまとめて記載する方法
とがある。- 証拠を採用する理由又は排斥する理由は,証拠の評価が訴訟の勝敗を決するような場合には,分かりやすく丁寧に説示する。
例:
<認定事実に関する補足説明>
(1)前記のとおりの事実が認められるところ、そのうち、被控訴人が取引の仕組みを理解していないかった事実(前記…),被控訴人が自分の判断で取引の注文をすることができず、被控訴人の注文は全てDやGの指示に従って行われた事実(前記…),Dが 店内のパソコンを操作して被控訴人に代わって注文を入力したり、DやGが電話で指示してパソコン操作をさせて取引の注文をさせていた事実(前記…)は、被控訴人及びAの陳述書(甲…)の記載並びに被控訴人の原審本人尋問における供述に信用性を認めてこれらを認定したものである。
ところが、Dの陳述書(乙…)の記載及び原審証人尋問におけるDの証言中には前記認定と異なる部分があるので、当該部分の採否について検討する。 - 法律上の争点については,在来様式と同様に,裁判所が採用する見解とその論拠とを簡潔に示せば足りる。
例:
<被告の損害賠償責任に関する当裁判所の判断>
1 容姿を撮影されない人格的利益の侵害が違法となる場合人は,不特定多数人の目に付きやすい開けた場所にいる場合であっても,みだりに自己の容姿を撮影されないということについて法律上保護される人格的利益(以下「肖像に関する人格的利益」という。)を有する。
しかし、容姿の撮影が正当な業務行為として許される場合もあるので,ある者の容姿をその者の承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影場所,撮影の目的,撮影の対象,撮影の必要性等の諸事情を総合考慮して,被撮影者の肖像に関する人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである(平成17年最高裁判決)。
- 証拠を採用する理由又は排斥する理由は,証拠の評価が訴訟の勝敗を決するような場合には,分かりやすく丁寧に説示する。