権利として保釈が認められる場合(必要的保釈-刑訴法89条)

 姫路で弁護士をしていると,かなりの頻度で国選弁護を引き受けることになります。
 そして,しばしば,被疑者(被告人)本人や家族から保釈について質問されます。
 そこで,被疑者(被告人)の権利として保釈が認められる場合(権利保釈・必要的保釈-刑訴法89条)を,整理しておきましょう。


  1.  まず,わが国では,起訴される前の被疑者段階では保釈を認めない制度になっています。
  2.  次に,起訴された後の被告人段階では,保釈の請求があつたときは,次の場合を除いては,これを許さなければならないものとされています(刑訴法89条)。

①号 <今回,一定の重大な罪を犯したものか>
 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。

    •  刑法上,現住建造物放火,非現住他人所有物放火,公文書偽造,強姦,準強姦,強制わいせつ致死傷,加重収賄,事後収賄,殺人,傷害致死,危険運転致死傷,営利目的,身代金目的,or国外移送目的略取・誘拐,強盗,強盗致死傷,強盗強姦,強盗強姦致死などがこれにあたります。

  ②号 <前に一定の重大な罪で有罪の宣告を受けたか>
   被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。

    •  刑法上,現住建造物等放火,殺人,身代金目的略取等,強盗致死傷,強盗強姦及び同致死,強制わいせつ等致死傷,特別公務員職権濫用等致死傷,傷害,危険運転致死傷,逮捕等致死傷等がこれにあたります。

  ③号  <常習として一定の重大な罪を犯したものか>
   被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。

    •  「常習」というのは,現に起訴されている罪について,常習性があることを意味します。
       この「常習性」とは,罪質を同じくする犯罪が一種の習癖として反復して行われたと認められる場合を意味します。
       同種前科があるとか,常習性が犯罪の構成要件になっていることなどは,必要とはされていません。
    •  長期3年以上の懲役又は禁固に当たる罪としては,刑法上は,現住建造物放火,強姦,準強制わいせつ及び準強姦,集団強姦,強制わいせつ致死傷,殺人,傷害致死,身代金目的略取等,強盗,強盗致死傷,強盗強姦及び同致死などがこれにあたります。
       この他,特別刑法の中で特に注意しなければならないものとして覚せい剤取締法違反があります。
       覚せい剤の使用の罪は,「十年以下の懲役」にあたる罪であり,長期3年以上の懲役にあたる罪ですので,これを常習として犯したといえる場合には,権利保釈の適用は困難となります。

④号 <罪証隠滅を疑われる状態か>
 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

    •  この4号の事由は,罪種に限定はなく,実務で最も拡張的に解釈されていた事由です。
       裁判所の解釈運用の現状は,国際的に見ても問題があるものです。
       具体的には,
       ① 被告人が否認している事案
       ② 共犯者がいるとして検察官が保釈に同意しない事案
       ③ 保釈すれば関係者に働きかける恐れがあるとして検察官が同意しない事案
      では,まず結審まで保釈が認められないというのが実務の現状です。
       また,第1回公判期日前だと,「起訴事実を認めるかどうか分からない」ということで,検察官の同意が得られず,その結果,保釈が認められない場合も多いものです。

 【2020年10月8日追記】
 平成26年(2014年)11月18日の最高裁決定以降,この4号の「罪証隠滅のおそれ」該当性に関する裁判所の解釈運用の実務に顕著な変化がみられるようになりましたので,ここに加筆して特記します。
 → 平田弁護士のblog「裁量保釈に関する最高裁平成26年11月18日決定について」参照

   https://himejishimin.com/wp-admin/post.php?post=1395&action=edit

⑤号 <事件関係者に害を加えるおそれを疑われる状態か>
 被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者,若しくはその親族の,身体若しくは財産に害を加え,又はこれらの者を畏怖させる行為をする,と疑うに足りる相当な理由があるとき。

    •  いわゆる「お礼参り」を予防する趣旨ですが,4号同様,拡張的に運用される場合があります。

⑥号 <氏名・住所が分からないことはないか>
 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
 住所不定の場合には,この事由にあたります。


 被告人は,有罪が確定するまでは無罪推定の原則の適用を受けます。
 また,勾留は,人身の自由を制約し,被告人の訴訟手続における防御権の行使も制約する処分です。
 そこで,89条1号から6号の列挙事由に該当しない場合には,必ず保釈を許さなければならないことになっています(権利保釈)。
 ただし,一審又は二審で禁固以上の刑に処する旨の判決の宣告がなされた場合には,この権利保釈の適用はなくなります(刑訴344条,刑訴404条)。
 また,権利保釈にはあたらない場合でも裁量保釈(刑訴法90条)が別途認められることがあります。

※ 以上の記述については,「新・コンメンタール刑事訴訟法」(日本評論社)も参考にしました。

  <平田元秀2012年7月11日Writing>
<平田元秀2020年9月30日Edit>