日立キャピタルに海苔業者が逆転勝訴!

 先月5月21日,日立キャピタル(株)から起こされていた裁判で,地元海苔業者が逆転勝訴する判決をもらいました(高松高裁)。この判決は最高裁に上告されず,確定しました。

1.提携ローン型クレジット(抗弁対抗)の事案です。
2.要旨は,海苔業者が海苔養殖機を販売店から提携ローン型クレジットで購入したが,販売店が商品を納入しないまま倒産したため,クレジット会社に抗弁を対抗した事案において,購入者は商品受領書に認印を押印しているが,それだけでは支払い停止が信義に反すると認めることができないことは明らかだとして,契約書裏面条項による抗弁対抗を認めた事例ということになります。
  原審では購入者側がなんだこれはと言わざるを得ないような事実認定を受けて敗訴したのですが,控訴審判決は,原審判決を全て書き換えて,商品受領書の作成経過や電話確認の内容について,丁寧な事実の摘示に基づく信用性の評価によって,クレジット会社側の主張を排斥し,購入者側の主張を認めました。
 事実認定に関する事例追加型。

3.以下は,簡単な解説です。
(1)一審原告であるクレジット会社(日立キャピタル)は,自社と提携する海苔養殖加工用機械の販売店から海苔の機械を購入した2名の購入者(海苔業者)が,第1回支払期日に割賦金の支払をしなかったため,各別に提訴。
   2件はその後併合されました。
   一審(徳島地裁)で敗訴した被告らが控訴。
   本件はその控訴審判決です。
(2)本件でのクレジットの形態は,いわゆる提携ローンで,割賦方法は,漁期払い(年1回ずつの2年払い)でした。購入商品は,それぞれ,海苔熟成機1台,海苔タンク1台でした。
   裏面の契約条項には,割販法30条の4同様の支払い停止の抗弁権規定がありましたので,購入者らは,販売店による商品の納入が未了であり,同時履行の抗弁及び売買契約の解除を事由として裏面約款規定に基づく抗弁対抗を主張しました。
   これに対して,クレジット会社は,購入者らが商品を受領した旨不実の告知をしたとして信義則違反を再抗弁とするとともに,かかる不実の告知は販売店と共謀してなされたものだとして,予備的に不法行為も主張しました。
(3)この事案で一審は,
   商品受領書に顕出された購入者の認印に二段の推定(民訴法228条4項)が働く結果「本件受領書をその意思に基づいて作成した」と評し得るとか述べて,この点をも積極的な根拠の一つとして,購入者がクレジット会社の電話での意思確認の際,商品を受領した旨虚偽の返答をしたものと認めたうえで,このような表示は,信義に反するうえ,さらに,クレジット会社に対する不法行為法上の過失も構成する(!)として,クレジット会社の請求をほぼ全て認容しました。
(4)これに対し,控訴審は,商品受領書に購入者の認印があるものの,この受領書の趣旨や意義について具体的な説明を受けた形跡は証拠上全くうかがわれず,クレジット会社担当者からの確認の電話に,受領している旨の虚偽の返答を行ったことも認められないとして,一審判決の事実認定を完全に覆し,その結果,購入者らの抗弁対抗権を認めて,クレジット会社の本訴請求を全て棄却しました。
(5)判断のポイントは,クレジット会社担当者の供述の信用性の判断にあり,高松高裁は詳細にその供述を疎信できない理由を判示したのですが,その点は消費者法ニュースに解説記事を投稿致しましたのでそちらをご参照ください。
   裏面約款に基づく抗弁対抗で,信義則に違反する特段の事情が伺えない事案であるため,高裁判決は実に当然の結論を導いたものといえますが,
   クレジット取引被害の分野では,このような簡明な事案であっても,一審判決のように,あたかもクレジット会社の与信審査に「善意の推定」を効かせているかのような判決も残念ながらいまだに散見されます。
   一審判決を書いた徳島の若い女性の裁判官に対しては,「今回は実に初歩的な部分での誤判でしたよ。どうしてあのような木で鼻をくくったような判決を?」とお伺いしたい気持ちが残ってしまいます。
   それでも,民事裁判に対するまっとうな信頼(わが国では民事裁判の実務においてはまじめに訴訟活動を行えば,その時々の解釈論のゆるす範囲で,民事的正義がおおよそ実現されていくのだという信頼)を蘇らせ,再確認させてくれた控訴審裁判所には,あらためて深く感謝しています。