特商法・割販法における「営業のために若しくは営業として」の意味内容

購入者保護規定の適用除外事由としての「営業のため若しくは営業として」

 特定商取引に関する法律(特商法)、割賦販売法(割販法)における購入者保護のための規定は、購入者が、「営業のために若しくは営業として」締結する契約に関するものについては基本的に適用されないことになっています。特商法では第26条第1項第1号(訪問販売、通信販売、電話勧誘販売に関する適用除外規定です。)、割販法では第35条の3の60第1項第1号、第8条第1号などを参照ください。
 そこで、どのような場合が「営業のために若しくは営業として」に該当し、あるいは該当しないのかの判断がとても重要です。
 主務省の考え方(公権的解釈といいます。)を引用しておきます。

「営業のために若しくは営業として」の意味内容について

この点については、特商法第26条第1項第1号の「営業のために若しくは営業として」に関し、令和6年11月19日付け主務省(消費者庁・経済産業省)通達が次のように述べています。

第5節(雑則)関係
1 法第26条(適用除外)関係
(1) 法第26条第1項第1号の解釈について

 法第26条第1項第1号の趣旨は、契約の目的・内容が営業のためのものである場合に第2章の規定が適用されないという趣旨であって、契約の相手方の属性が事業者や法人である場合を一律に適用除外とするものではない。
 例えば、一見事業者名で契約を行っていても、購入商品や役務が、事業用というよりも主として個人用・家庭用に使用するためのものであった場合は、原則として第2章の規定が適用される。特に実質的に廃業していたり、事業実態がほとんどない零細事業者の場合には、第2章の規定が適用される可能性が高い。
 また、法の趣旨に照らせば、仮に、契約の相手方となる消費者に金銭を稼ぐなどの利益活動を行う意思があったとしても、そのことのみをもって「営業のために若しくは営業として締結するもの」に直ちに該当すると解されるものではない。
 「営業のために若しくは営業として締結するもの」に該当するかは、契約の対象となる商品又は役務に関する取引の種類消費者が行おうとする利益活動との関連性や目的消費者が契約の対象となる商品又は役務を利用した利益活動に必要な設備等を準備しているかなどの事情を踏まえて、当該消費者が当該取引に習熟していると認められるかどうかを総合的に検討する必要がある。
 例えば、利益活動を行う意思のある消費者が情報商材を購入した場合において、
 ・消費者の購入しようとする情報商材の内容が一般的なものではない、
 ・消費者が行おうとする利益活動が社会通念上事業の遂行とみられる程度の社会的地位を形成していない、
 ・消費者が契約の対象となる商品を利用した利益活動に必要な設備等を準備していない
といった事情を踏まえて、
 当該消費者は当該取引に習熟しているとは認められない
のであれば、「営業のために若しくは営業として締結するもの」に該当せず、適用除外に当たらないと考えられる。

過去の主務省解説について

 なお、平成20年版「割賦販売法の解説」経済産業省商務情報政策局取引信用課 83頁以下では、次のように解説されていました。これは割賦販売法8条の解説箇所です。割賦販売法35条の3の60第1号の解説欄を見ますと、「第1号…については、第8条1号…と同様の趣旨であるため、同条の解説を参照のこと。」とありました。
 しかし、これらの従来解釈と比較すると、現在の主務省通達はその解釈内容に一定の変化が認められます。この点については、次項で詳述します。

<割賦販売法8条第1号の解説箇所>
 第1号は、本法が一般消費者を保護するための法律であるので、購入者等が営業のために又は営業として締結する契約に係るものには適用しない旨の規定である。本号は、適用対象を商行為に限定するものではなく、事業・職務の用に供するために購入し、又は役務の提供を受ける場合は基本的に本号に該当する。
 「営業のために若しくは営業として」とは
 割賦販売が、その相手方にとって、営利の目的をもって、かつ事業のために又は事業の一環として行われることを意味すると解される。
 営利の目的は、株式会社等における株主・持分権者への利益や残余財産の分配が可能であることを意味するものではなく、
 利益をあげる目的を有するかにより判断され、
 内心の意図によってではなく、客観的に判断されるべき性質のものである。
 また、事業性については、反復・継続して行う意思をもって行為が行われるかにより判断されるものであって、こちらも内心の意図によってではなく、客観的に判断されるべき性質のものである。
 たとえば、株式会社が事業のためにする行為又は事業として行う行為については「営業のために若しくは営業として」に該当するものと考えられる(会社法5条参照)。
 また、個人であっても、個人事業主の立場で、商品を購入し又は役務の提供を受ける場合には、「営業のために若しくは営業として」に該当するものと考えられる。
 個人事業主への該当性の判断にあたっては、個人事業主としての確定申告の有無も重要な判断材料の一つとなるであろう。
 一方、個人が、営利の目的以外の目的(例えばボランティア事業・学術事業等)で、事業を継続的に行っているような場合において、商品を購入し又は役務の提供をするときは、事業性の要件は満たしていたとしても、営利性の要件は満たさないと解されるので、「営業のために若しくは営業として」に該当しないと解される。
 また、個人事業主としてではなく、消費者として、自家消費等の目的で、商品を購入したり,役務の提供を受ける場合には、「営業のために若しくは営業として」に該当しないであろう。
 なお、公益法人などの非営利法人については、基本的に「営業のために若しくは営業として」には該当しないものと考えられるが、いわゆる収益事業のために又は収益事業の一環としてなされる場合は、例外的に「営業のために若しくは営業として」に該当する場合もあり得るであろう。
 業務性・営利性の判断は、取引毎になされることとなり、
 該当する取引と該当しない取引とを区別できない場合には、基本的に、割賦販売法の規定の適用のあるものとして取り扱うことが期待される。

令和6年通達で何が変わったのか

 特商法・割販法では、購入者保護規定の適用除外として 「営業のために若しくは営業として」 締結される契約が位置づけられています。しかし、この文言の解釈は、上記の通り、令和6年11月19日付主務省通達 により、従来の理解から大きく変化しました。以下では、旧解説(平成20年版「割賦販売法の解説」)と比較しながら、 どこがどのように変わったのかを整理します。

令和6年通達のポイント

 令和6年通達は、次のような考え方を明確に示しました。

事業者名義=適用除外、ではない

 契約の相手方が法人・個人事業主であっても、 実質が個人用・家庭用であれば保護対象 とされます。特に、
 ・廃業状態
 ・事業実態がほとんどない零細事業者
は、保護される可能性が高いと明言されました。

利益活動の意思だけでは「営業」にならない

 副業目的であっても、 利益を得たいという意思だけでは適用除外にならない と明確化されました。

取引への習熟性の総合判断へ

 情報商材の例を挙げつつ、
 ・取引の特殊性
 ・利益活動の社会的地位
 ・必要設備の準備状況
といった事情を踏まえて、当該取引への習熟性を総合的に判断するとしています。
 これは、従来の「営利性+事業性」中心の枠組みからの大きな転換であるといえます。

従来の考え方

 平成20年版「割賦販売法の解説」では、 「営業のために若しくは営業として」を次のように説明していました。
・営利性(利益をあげる目的)
・事業性(反復継続の意思) の二要素で判断するという整理です。
 法人や個人事業主は、 原則として「営業のため」と扱われる傾向が強く、
確定申告の有無
など形式的要素も重視されていました
 これらの判断枠組みが、その後の裁判例の形成にかなりの影響を与えてきました。

「形式より実質」、「属性より目的」、「営利性より習熟性」

 令和6年通達は、旧解説に比べて 「形式より実質」「属性より目的」「営利性より習熟性」 を重視する方向に明確にシフトしています。特に、
  副業・情報商材
 ・ 零細事業者
 ・ 名義だけ事業者

のケース など、近年のトラブル類型を踏まえた実務的な判断枠組みが示されたものといえます。

2026年4月21日update